ビジネス書業界の裏話

作家に必要な「頭の中を一行にまとめる」技術

2017.11.23 公式 ビジネス書業界の裏話 第44回
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頭の中を一行にまとめるための3つのステップ

作家にとっても企画内容を一行にまとめる技術は、自身のデビューにとって大きな力となる。では、どうすればうまく一行にまとめることができるのか。せっかくなので、すこしだけ私自身のやっている一行にまとめるための作業をご紹介しよう。

まず、企画内容、すなわちその本で書くべき項目をリストアップする。私はこの作業をエクセルでやっている。そのほうが後で編集(重複のチェック、小テーマごとの並び替え等)するときに便利だからだ。リストアップ項目は多ければ100本以上になるが、少ないときは10~20本程度だ。

第1ステップは、リストアップした項目をながめて、この本は「結局、何を言いたいのか」と考えることだ。項目が少なければ、この段階で概ね一行の文言が見えてくる。たとえばトランプ大統領の数々の発言をリストアップしたとして、それらを改めてながめて結局、彼は何を言いたいのかと考えてみれば、やはり「アメリカ第一主義」という一行が見えてくるはずだ。

わたしは、ながめているうちに、何となく浮かんでくるものを優先的に採用している。考えに考えて捻出した一行は、概してできが悪いからだ。

第2ステップは、上記の段階ではいくら項目のリストを眺めても何にも見えてこない(リストアップした項目の数が多い時はたいていそうだ)時に行う方法である。ビジネス書や実用書は、概ね次の3つのいずれかに該当する。

Aできるようになることが目的の本
B全体像をわかることが目的の本
C知っておくことが目的の本

まず、自分が書こうとしている本が、上記のいずれに該当するものなのを決断する。できるようになることが目的の本とは、スマホの使い方とか文章の書き方などの本である。全体像をわかることが目的の本とは、自分でやるわけではないが、人事制度や給与制度がどういう仕組みで動いているのかなど、仕組みのアウトラインを理解するための本だ。知っておくための本とは、相続税改正や民法改正などについての知識を得るための本ということである。

本の性格をA、B、Cいずれかに決めたら、リストアップした項目から該当しないものを排除してリストを整理する。そして、整理されたリストをながめて、結局、何を言いたいのかを改めて考えてみるのだ。

最後の手段は読者目線

それでもまだ何も見えてこない、あるいは一行ではまとまらないというときには第3ステップとなる。

第3ステップでは読者を設定する。自分の書こうとしている本の読者はだれか。具体的な読者像を想定するのである。できれば身近から想定読者のモデルとなる人物を見つけたい。その身近にいる彼、ないし彼女にとってリストにある項目のうち、どれが必要で、どれが不必要か。必要であっても、彼、または彼女が求めているものか。求めていたとして、彼(彼女)に理解可能かを考える。

そして、最後に項目全体を見て、彼(彼女)にとって受け入れることのできる量か(オーバーフローしていないか)をチェックする。読者目線で項目リストを洗い直してみるのである。不必要なもの、求めていないもの、理解不能なもの、そして過剰なものを整理(排除)して、残った項目を見渡して「結局、何を言いたいのか」を考えてみる。ここまでやれば、どんなに散らかっていたものでも、だいたい一行に収まってくるはずだ。

要は過剰なもの、不必要なものを捨てること。これが一行化のためのコツである。

次回に続く

 

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プロフィール

ミスターX
ミスターX

ビジネス雑誌出版社、および大手ビジネス書出版社での編集者を経て、現在はフリーの出版プロデューサー。出版社在職中の25年間で500人以上の新人作家を発掘し、800人を超える企業経営者と人脈をつくった実績を持つ。発掘した新人作家のうち、デビュー作が5万部を超えた著者は30人以上、10万部を超えた著者は10人以上、そのほかにも発掘した多くの著者が、現在でもビジネス書籍の第一線で活躍中である。
ビジネス書出版界の全盛期となった時代から現在に至るまで、長くビジネス書づくりに携わってきた経験から、「ビジネス書とは不変の法則を、その時代時代の衣装でくるんで表現するもの」という鉄則が身に染みている。
出版プロデューサーとして独立後は、ビジネス書以外にもジャンルを広げ文芸書、学習参考書を除く多種多様な分野で書籍の出版を手がけ、新人作家のデビュー作、過去に出版実績のある作家の再デビュー作などをプロデュースしている。
また独立後、数10社の大手・中堅出版社からの仕事の依頼を受ける過程で、各社で微妙に異なる企画オーソライズのプロセスや制作スタイル、営業手法などに触れ、改めて出版界の奥の深さを知る。そして、それとともに作家と出版社の相性を考慮したプロデュースを心がけるようになった経緯も。
出版プロデューサーとしての企画の実現率は3割を超え、重版率に至っては5割をキープしているという、伝説のビジネス書編集者である。

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