ビジネス書業界の裏話

本のタイトルは、正確さよりもイメージが湧くことが肝心

2017.08.10 公式 ビジネス書業界の裏話 第37回
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本のタイトルは誰が決めるのか

本のタイトルは、売れ行きを左右する重要なポイントだ。そのため、作家にとってもタイトルは大いに気になるところである。しかし、作家が本のタイトルに注文をつけて、よい結果が出る確率は、経験的に言うと1%もない。といって出版社がつけるタイトルも成功率は10%程度だろう。

作家が自分の本のタイトルにこだわるのは当然のことなので、編集者は最大限耳を傾ける。ところが、作家の想いと本のマーケティングプランは、往々にして一致しない。そういうとき、本のプロデューサーである私は、作家に「本のタイトルと値段は、最も市場に近く、最も売れてもらわないと困る人間の意見を重視すべき」と言っている。本の市場とは書店である。書店に一番近いのは、一般的には出版社の販売担当だ。そして最も本が売れてもらわないと困るのは、一番本づくりにお金を使っている出版社である。

本を1冊つくるには、昔より安くなったとはいえ150万円から200万円くらいの投資を要する。編集者の給料や営業マンの給料など、諸々含めると250万円くらいかかるかもしれない。売らねばならぬ強い動機と市場の情報を持っているという、この2つの条件を満たすのは出版社であるから、パッケージと値段に関しては出版社の意見を重視すべきだというのが私の意見だ。無論、異論はあろうが相当な大物作家でも、私のこのアドバイスには案外頷いてくれている。

作家にとってタイトルとは

出版社にとって売れなくていい本はない。だからと言って、出版社がつけたタイトルがよくて、よい結果が出たというケースは少ない。大体「よせばいいのに」というタイトルをつけて失敗している。それでも出版社の意見を尊重することを勧めるのは、「間違いなく売れるタイトル」というのは誰にもわからないからだ。出版社もわからないし、作家もわからない。もちろん出版プロデューサーもわからない。だったら、上記2条件を満たす人が決めるのが一番合理性の高い判断だろう、という消去法が私の考えだ。

本が売れる要素でタイトルは大きなウエイトを占めるが、タイトルで全てが決まるわけではない。タイトルはよくても中身が悪ければ読者はつかめないし、タイトルも中味もよかったとしても、タイミングを逸していれば、やはり読者はついてきてくれない。と、タイトルの話を始めると、結局、不可知論の迷宮に入り込んでしまうので、話を本筋へ戻そう。

作家にとって出来上がった本に匹敵するくらい重要なのが、企画段階の仮タイトルである。作家から出版社へ企画を提案する場合、何らかの仮タイトルが必要だ。企画書のタイトルの話は以前に本ブログで書いているが、編集者は必ずまず仮タイトルを見る。そのタイトルを見て食いつくか、スルーするかが決まると言ってもいい。仮タイトルが本タイトルになることは稀だが、それでも企画がオーソライズされるか否かのクロスロードの行き先は、仮タイトル次第である。仮タイトルがよいに越したことはない。したがって作家も、少々はタイトル技術について知っておくほうが得することがあるだろう。そこで今回のテーマとなったのである。

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プロフィール

ミスターX
ミスターX

ビジネス雑誌出版社、および大手ビジネス書出版社での編集者を経て、現在はフリーの出版プロデューサー。出版社在職中の25年間で500人以上の新人作家を発掘し、800人を超える企業経営者と人脈をつくった実績を持つ。発掘した新人作家のうち、デビュー作が5万部を超えた著者は30人以上、10万部を超えた著者は10人以上、そのほかにも発掘した多くの著者が、現在でもビジネス書籍の第一線で活躍中である。
ビジネス書出版界の全盛期となった時代から現在に至るまで、長くビジネス書づくりに携わってきた経験から、「ビジネス書とは不変の法則を、その時代時代の衣装でくるんで表現するもの」という鉄則が身に染みている。
出版プロデューサーとして独立後は、ビジネス書以外にもジャンルを広げ文芸書、学習参考書を除く多種多様な分野で書籍の出版を手がけ、新人作家のデビュー作、過去に出版実績のある作家の再デビュー作などをプロデュースしている。
また独立後、数10社の大手・中堅出版社からの仕事の依頼を受ける過程で、各社で微妙に異なる企画オーソライズのプロセスや制作スタイル、営業手法などに触れ、改めて出版界の奥の深さを知る。そして、それとともに作家と出版社の相性を考慮したプロデュースを心がけるようになった経緯も。
出版プロデューサーとしての企画の実現率は3割を超え、重版率に至っては5割をキープしているという、伝説のビジネス書編集者である。

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