ミドルマネジメントの立場にあるリーダーが、決してやってはいけないことがあります。それは、「自分はいいと思ったのだけれど、上がダメだと言うんだよ」という言い訳をすることです。「社長がやれと言っているから仕方がない。とにかくやってくれ」というのも同様です。どちらも、リーダーにあるまじき卑怯な態度です。
この言葉を聞いたスタッフはガッカリします。自分がやりたいと思うことをリーダーに提案したのに、「上に却下されたから仕方がない」と、あっさり結論づけられたら大きなショックを受けるはずです。ミドルマネジャーは、メンバーの気持ちをくんで上司に伝え、上司や会社の意向を部下に分かりやすく説明する役割を持っています。
単なるメッセンジャーではいけません。提案が受け入れられなかった理由を、リーダーがいったん咀嚼(そしゃく)し、自分の言葉でメンバーに伝えることが大切です。
どうしても通したい提案だと思ったら、会議の前に関係者に説明し、「イエス」の感触を得るまで会議に提出しないという方法もあります。それでも却下された場合には、その理由を納得できるまで聞き、メンバーにきちんとフィードバックすべきです。
メンバーにしてみれば、却下されたという結論は同じでも、リーダーが自分のために努力してくれたことで納得し、リーダーに対する信頼が生まれます。リーダーは決して逃げてはいけないのです。
どうすれば、早く、経営者になることができますか? 本当に幸運なことに、40代から3つの会社の経営者を務めさせていただいた私には、そんな問いが投げかけられることが少なくありません。そんなとき、私はシンプルにこう答えることにしています。
「早く社長をやりなさい!」
もちろん今、勤めている会社の社長にすぐに就任したり、転職して社長になることが、簡単でないことはよくわかっています。ならば、勤めている会社の小さな子会社ならどうでしょうか。子会社の社長をやってみたいと手を挙げて、社長に就くのです。
これは実感として、社長の仕事というのは、本当に厳しく大変な仕事です。一番の大きな差は、責任範囲が一気に広がることです。それまで大体は何らかの部署の責任者から社長になるケースが多いと思います、しかし、社長になれば商品開発、マーケティング、製造、営業、人事、経理など広範な知識が必要になります。山登りをしていて頂上に立つと一気に視界が広がる、そんな感じです。
会社の将来にかかわることは、すべて決めなければいけない。もう自分の後には、誰もいないのです。うまく引っ張って行かなければ社員全員の将来を台無しにしかねません。一挙手一投足がチェックされ、全社員が自分の姿を凝視することになります。
こういう環境に身を置かれるとどうなるか。圧倒的に鍛えられるのです。そしてこうした厳しい環境の中で、もし結果を出すことができたらどうか。社員みんなに慕われ、「ついていきたい」と言ってもらえたらどうか。それはもう、途方もないやりがいです。
自分がこの会社を動かしているんだ、という自負と充実感は、何物にも代え難いものがあります。すばらしい経験です。
だからこそ、多くの人に、なるべく早く社長をやってほしい。私はそう思っています。そしてそのためにも重要なのが、ひとつでも多くのリーダーを経験することです。できれば、会社でも、会社の外でも、リーダーになるチャンスがあれば、手を挙げてみてほしいのです。
それこそ昔は、大きな会社の子会社といえば、本社からの天下りポストのイメージが強い時代がありました。最近ある大企業の子会社の社員から、本社から天下ってくる社長は、リスクを取らず何も新しいチャレンジをしない、と。新しい社長が「上がりのポスト」と思っている会社の社員は、たまったものではありません。しかし、これからはそうではありません。若手の幹部を育成するために、子会社の社長に抜擢するケースは増えてきているのです。
実際、子会社の経営で実績を出して、もっと大きな子会社の経営を任され、40代の若さで上場会社の経営者に抜擢された人もいます。今、好調な業績を出している会社です。
もしそのようなチャンスがめぐってきたときに、自分はそのような器ではないと尻込みをする人もいるでしょう。そんな人には、幕末に山岡鉄舟が、博徒の清水次郎長と会ったときのエピソードを聞くと勇気づけられると思います。
鉄舟が「おまえの子分で、おまえのために、命を捨てる人は何人いるかい」。
次郎長はこのように答えた。
「イヤー、あっしのために命を捨てるような子分は一人もおりません。あっしは、子分のためにいつでも命を捨てる覚悟をしております」。
そうです、会社のため、部下のために自分を捨てる覚悟を持つだけでよいのです。
チャンスがあると思うなら、手を挙げてみる。それこそ私は、いくつもの子会社で若いリーダーが社長を務め、そこで実績を出し、這い上がってきたリーダーこそ、本社の社長に就任させるべきだと思います。まさに、学校エリートではなく、実践で鍛えられた、たたき上げの社長になれるからです。これからは、そういう会社が増えていくのではないでしょうか。