アトラスの社長演説で、カッコいい経営用語を並べたてても、社員の心には届かなかったことを反省した私は、ザ・ボディショップの社長就任演説では、「社長就任挨拶 七つのお願い」と題して、自分の気持ちを素直に次のように伝えました。
何人かの女性社員は、涙を流しながら聞いてくれました。強い手応えを感じました。私が心から発した一所懸命な言葉が、会社を変えるきっかけになったのだと思います。
日本の職場では、ほめることが少ないような気がします。自身がほめられて発奮した経験のない上司は、ほめるのが下手です。
スターバックスには、ほめ合う文化が根づいていました。「GAB(Green Apron Book)カード」という仕組みがあり、誰かがよいことをしたと思ったときに、メッセージを書いてその人に渡すというものです。GABカードには、「何がよかったのか」を具体的に書くので、生のメッセージが相手に伝わります。
リーダーがスタッフをほめるときも、具体的な言葉を選び、「多少大げさかな」と思うくらいほめてあげるのがコツです。「成功すればほめてもらえる」という認識が本人だけでなく、職場全体に浸透し、信頼関係と笑顔を生み出します。何をほめるかによって、会社が何を大切しているかも、メッセージとして社員みんなに伝えることができます。
最初は簡単な課題を与え、うまくいったらほめる。そして、少しずつハードルを上げていけば、メンバーは確実に成長していきます。
スターバックスでは、社員、アルバイトを問わず、全てのパートナーが多くの時間の教育トレーニングを受講します。社長として入社した私も、アルバイトと一緒にこの研修を受けました。一週間は座学で、次の一週間は店舗での実地研修です。
私が意外に感じたのは、講師が教育担当者や店舗責任者ではなく、店で二番手、三番手のパートナーだったことです。正直、最初は「大丈夫かな」と思いました。しかし、後から、この研修は新入社員のためだけのものではなく、半分は「教える人を教育する」ためのものだということに気づきました。
教育担当に選ばれたパートナーは、教えるために必死に勉強します。質問があったときにしっかり答えられるように、猛勉強をして研修に臨みます。
実は、教える人のほうが、たくさん学んでいるのです。できる人が教えるのではなく、教えるからできるようになる。これは、リーダーにとっても絶好のヒントです。メンバーに教えることは、自分にとっても学びの場になるのです。
(次回に続く)