トップの力 ジョンソン・エンド・ジョンソンで学んだ経営の極意
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「優良継栄」企業には黄金のサイクルがある

企業で生じるすべての淵源(えんげん)はトップにある。昨今、不祥事の目立つ我が国のメーカーだが、現場が起こした不正も、その不正が日常化していった過程をたどれば、必ずトップに遡る。一方、逆もまた真なりで、その会社や組織が持っている美点や強みの原点も、やはりトップに源流を発する。

日頃からトップが自らを律する言動をとって、社員がそれに倣っている企業には「黄金のサイクル」がある。反対にトップが自身に甘えを許し、怠惰、堕落に陥れば、企業には「没落のサイクル」しかあり得ない。

「黄金のサイクル」は、私の著書『自分と会社を成長させる7つの力』でも詳しく述べているが、構成要件は「6つの品質」である。6つの品質とは、「経営者品質」「社員品質」「商品・サービス品質」「顧客・社会満足品質」「業績品質」「株主満足品質」のことだ。6つの品質にはそれぞれに関係性があり、すべての品質の大もとには経営者品質、すなわち「トップの力」がある。 

東芝が史上最悪といわれる赤字を出した原因もトップにあれば、かつて史上最大の赤字額を計上した日立製作所をⅤ字回復させたのも、またトップの手腕である。したがって、黄金のサイクルは「トップの力」、すなわち経営者品質からスタートする。経営者品質が上がれば、時間の経過とともに必ず社員品質が上がる。

「モノづくりの前にヒトづくり」といわれる。しかし、ヒトづくりには必ず一定の時間がかかる。ヒトづくりの最大の援軍は時間である。企業の中で、時間配分を決定できるのはトップだけだ。商品づくりやサービスを現場で担っているのは社員である。したがって、社員品質が上がれば、その結果として、我が社が提供する商品・サービス品質も上がる。商品・サービス品質が上がれば、それに呼応して購買客とリピーターが増え、社会からもよい評価を得ることができる。すなわち顧客・社会満足品質も上がるのだ。

顧客満足品質が上がれば、至極当然のことながら、企業の業績品質も上がることとなる。業績品質が上がれば、当然、会社の決算数字はよくなる。決算がよければ配当が増える。株価も高くなる。その結果、株主の資産価値が高まる。資産価値が高まれば、株主の満足度は高くなる。同時に株主の経営者に対する評価も上がる。

100年を超えて継続的に繁栄を続けている企業の経営(継栄)には、例外なくこの「黄金のサイクル」が意識的に行われているか、または無意識のうちに習慣となって受け継がれている。社訓や理念として成文化され、伝統として守られている。

成功をつかむ「あきらめない力」

自分を律する力とは、情動に流されない強い心のことである。自分を律する力のある人は、一度や二度の失敗で絶望することもないし、一時の感情で自暴自棄に陥ることもない。自分を律する力、自制する力とは容易にあきらめない力である。トップの「自らを律する力」の効果は、組織の堕落を防ぐだけではない。困難な局面にあっても容易な妥協をしない、負けない力の源泉でもある。

トップやリーダーが勝利をあきらめない、希望を失わない心の強さを持っていれば、後に続く社員や部下も目標に向かって歩みを止めず、何とか障害を乗り越えようと努力を続けるものだ。トップやリーダーの言動は組織全員が注目している。「ネバーギブアップ」は組織の力となるのである。

15世紀のヨーロッパでは、すでに東回りでインドに行く航路は開拓されていた。その当時、西周りでインド、そしてその先にあるという「黄金の国」を目指そうとしたのがコロンブスである。未知の大海原(大西洋)を西へ西へと進んでいったコロンブスの船団だが、一向に陸地の見える気配さえない。行けども、行けども海ばかり。出発前の計画ではすでにインドに着いているはずの日を超えても、まったく島影さえ見えない。船員の間には次第に不安が広がった。

無論、コロンブス自身も不安だった。当時の大西洋は未知の大海原である。しかも、太平洋に比べても島の数が少ない。不安が募れば、やがて失望、挫折、絶望に至る。コロンブスは自身の挫けそうな気持を抑え、船員に対して努めて平静を装っていたが、航海が出向前の計画を越える日数となったことで、船員たちは動揺し船内で暴動が起きた。航海に不安を覚えている船員たちは、コロンブスに航海の中止と帰国を求める。

そこで、コロンブスは船員たちを説得したが、ついに「あと3日のうちに陸地が見つからなかったら引き返す」と約束させられることになった。コロンブスにとって事態は絶望的である。しかし、コロンブスはまず自分自身に、「あきらめ」という心休まる場所へ退避することを許さなかった。次に船員たちの暴動に対する恐れを態度に表すことも許さなかった。そして希望を失うことを許さなかった。

コロンブスは、海に流木を見つけては「これは近くに陸がある証拠だ」と船員を説得し、鼓舞し続けた。そうして数日間、航海を続けていった結果、西インド諸島のサン・サルバドルを発見。ここから「新大陸(アメリカ大陸)」の発見につながることとなる。

挫折や失望は何も生まない。絶望に陥りそうになった時には〝あきらめない“という妙薬がある。自らを律してあきらめない力を発揮した者が、最後に勝利をつかむ。トップにとって「自らを律する力」は、成功をつかむための最も重要な鍵のひとつである。自律できる者だけが自立できるのだ。

次回に続く

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プロフィール

新 将命
新 将命

株式会社国際ビジネスブレイン代表取締役社長。
1936年東京生まれ。早稲田大学卒。シェル石油、日本コカ・コーラ、ジョンソン・エンド・ジョンソン、フィリップスなどグローバル・エクセレント・カンパニー6社で社長職を3社、副社長職を1社経験。2003年から2011年7月まで住友商事株式会社のアドバイザリー・ボード・メンバー。2014年7月より株式会社ティーガイアの社外勤取締役を務める。
現在は長年の豊富な経験と実績をベースに、国内外で「リーダー人材育成」を使命に取り組んでいる、まさに「伝説の外資系トップ」と称される日本のビジネスリーダー。
代表的な著書に『他人力のリーダーシップ論』『仕事と人生を劇的に変える100の言葉』『経営者が絶対に「するべきこと」「してはいけないこと』(いずれもアルファポリス)などがある。

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