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中学三年生の二月のある朝、川奈莉子の両親は消えた。叔母の曜子に引き取られて、大切に育てられるが、心に刻まれた深い傷は癒えない。そればかりか両親失踪事件をあざ笑う同級生によって、ネットに残酷な書きこみが連鎖し、対人恐怖症になって引きこもる。
やがて自分のなかに芽生える〝なにか〟に気づく莉子。かつては気持ちを満たす幸せの象徴だったそれが、不穏な負の象徴に変化しているのを自覚する。同時に両親が大好きだったビートルズの名曲『Something』を聴くことすらできなくなる。
春が訪れる。曜子の勧めで、独自の教育方針の私立高校に入学。修と咲南に出会い、音楽を通じてどこかに生きているはずの両親に想いを届けようと考えはじめる。
大学一年の夏、莉子は修と再会する。特別な歌声と特異の音域を持つ莉子の才能に気づいていた修の熱心な説得により、ふたたび歌うようになる。その後、修はネットの音楽配信サービスに楽曲をアップロードする。間もなく、二人の世界が動きはじめた。
大手レコード会社の新人発掘プロデューサー澤と出会い、修とともにライブに出演する。しかし、両親の失踪以来、莉子のなかに巣食う不穏な〝なにか〟が膨張し、大勢の観客を前にしてパニックに陥り、倒れてしまう。それでも奮起し、ぎりぎりのメンタルで歌いつづけるものの、さらに難題がのしかかる。音楽フェスのオープニングアクトの出演が決定した。直後、おぼろげに悟る両親の死によって希望を失いつつあった莉子は、プレッシャーからついに心が折れ、プロデビューを辞退するも、曜子から耳を疑う内容の電話を受ける。それは、両親が生きている、という信じがたい話だった。
歌えなくなった莉子は、葛藤や混乱と闘いながら――。
文字数 156,285
最終更新日 2024.04.01
登録日 2024.04.01
桐谷春陽は新卒の編集者。父は地元の老舗町中華を営んでいる。海のそばで生まれ育ちながらも、亡くなった母のことを思い出す海に近寄れない。かつて栄えた地元商店街は、高齢化と老朽化によって、閑古鳥が鳴いていた。そんな廃れかけた町に大手企業の再開発計画が進行中だと知る春陽。時を同じくして、地元の海にイルカの母子は住みつき、にわかに観光客で賑わっていく。遠き昔にも家のすぐそばの海にイルカの母子が住んでいた。春陽は幼少期を思い出しつつ、仕事に恋にと社会人の新生活に頑張りながら、いつしか地元の町と父の中華料理店を守りたいという想いが芽生える。幼なじみや地元の仲間に支えられ、失われた過去を取り戻そうと奮闘する春陽は、新しい季節を迎えるなか――。
文字数 159,976
最終更新日 2024.03.31
登録日 2024.03.31
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