——その仕草を、見てはいけなかった。
雨の降る葬儀の日。
ひとりの男が、耳のあたりを何度も払っていた。
祖父が死の間際に語った“昔話”は、まるで物語のように淡々としていた。
だが、話を聞いたあの日から、なにかがおかしい。
誰も疑わなかった記憶の中に、ひとつだけ、ひどく異質なものがある。
——払っても、払っても、それはそこにいる。
音もなく忍び寄る、静かな狂気。
忘れ去られた村の底に、何が眠っていたのか。
最後の一文を読んだとき、あなたも“耳元”に、何かを感じるかもしれない。
文字数 8,908
最終更新日 2025.03.31
登録日 2025.03.31