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14巻

14-2

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 自分の質問を聞いた占い師は、別段あわてた様子も見せず、こう返答してきた。

「私は占い師です、それ以上でもそれ以下でもなく。ただし少々、その人の先にある可能性や道が見えるときがあります。そういった人を見かけた場合は、お呼び止めして助言を与えているのです。大半の方は怪しいものを見るような眼で私を見るようになりますけれど……私の助言を聞いて地道に修練を積んだ方は、この国の中でもそれなりの成功を収めておられるようです」

 その言葉が真であると裏付けるものは何もない。だがその反面、嘘であると言い切る証拠もまた何一つとしてないのも事実か。

「私の言葉を信じる必要はありませんが……先ほども申しましたように、『痛風の洞窟』はこの街を出て北東にございます。修練を積むための当てが特にないのであれば、一度行ってみられるとよろしいでしょう。ただし、そこには貴方一人で入るべきです。貴方の頭に乗っている妖精国のシンボルの力を借りていては修練になりません」

 妖精国のシンボル――つまりピカーシャのアクアのことまでしっかりと見通したか……世間によくいる「かたり」ではないようだな。

「──分かりました、助言に従い『痛風の洞窟』に行ってみることにします」

 そう告げてから立ち上がり、占い師に会釈する。

「貴方が続ける旅の先に、良き出会いがあることをお祈りいたします」


 この後は色々な買い出しを済ませて、「痛風の洞窟」に行く態勢を整えた。
 道具屋で「痛風の洞窟」に行くと告げると、体を温める道具を幾分か安く売ってくれたのはありがたかった。これは筒状になっていて、手で握り潰すと自分の周囲の空気をわずかな時間ながら温めてくれるという代物。これで暖を取り、体の調子を取り戻せということらしい。
「痛風の洞窟」に吹く風によって冷えた体は、こういった道具を使うとか温かい食事をとるなどの方法で一定の体温まで上げないと、ポーションにせよ魔法にせよ回復を一切受け付けてくれないのだそうだ。

「いいか、決して無茶はすんなよ? やばいと思ったり道具が少なくなったりしたら、絶対にすぐ引き上げるんだぞ!」

 熱心に警告をしてくれた店主に感謝の意を示してから道具屋を後にして宿屋に戻り、ログアウト……の前に、義賊小人のリーダーを呼ぶ。

「親分、如何いかがいたしやした? 何か問題が?」

 そう尋ねてきたリーダーに、先ほどの占い師の身辺を洗うように頼む。白ならそれでよし、黒だったら……

「分かりやした、お任せくだせえ」

 そう言い残してリーダーは部屋から消えた。さて、今度こそ自分はログアウトだな。


     ◆ ◆ ◆


 翌日。ログインして宿の部屋で起床し、装備を整えたところで義賊小人のリーダーがやってきた。アクアはまだベッドでお休み中か。

「親分、先日調査要望されていた件の結果が纏まりやした。今からお伝えしてよろしいですかい?」

 ああ、やってくれと告げると、リーダーはあの占い師について報告を始めた。

「結論から言えば、あの占い師はシロですぜ。過去も含めて色々探ってみやしたが、黒いことは一切なし。伝手つてを辿って占い師から指導を受けた存在を探しやしたが、そのどれもがなかなかの立場に収まっているのも事実のようでさあ。ちょいと前の話になりやすが、南街の一件で協力したあの影働きのチームのトップも、指導を受けたようですぜ」

 ふむ。こいつらの調査能力は一級品だし、こいつらが白と言えばまず間違いなく白だろう。

「そうか、それだけ分かれば十分だ。よくやってくれたな。これは活動の資金にててくれ」

 自分は一五万グローを取り出して、リーダーに手渡す。何をするにもお金ってのは必要だからな。あって困るものでもないだろう。

「ありがとうごぜえやす、有意義に使わせていただきやす。それから、南街の一件で怪我をした者達は、親分が譲って下さったお金のおかげで十分な治療ができやして……全員が無事に再起しておりやす。皆親分に感謝してやして、これからの仕事をより頑張ることで恩返しをしたいと誓ってまさ」

 そうか、全員無事に復帰できたのか。それは何よりの朗報だな。

「分かった、これからもよろしく頼むと皆に伝えておいてくれ」

 自分の言葉に、リーダーは頷く。

「へい、ではあっしはこれにて失礼しやす。また何かありやしたら呼んでくだせえ」

 そう言い残し、リーダーは目の前から消えた。これで「痛風の洞窟」に何者かの企みがある可能性はぐっと減ったわけで、行っても問題ないだろう。

「アクア」
「ぴゅい?」

 寝ていたアクアを起こして、これからの予定を伝える。

「しばらく一人で訓練してきたい。申し訳ないんだが、その間アクアはアクアで独自に行動していてもらえないだろうか?」

 自分の言葉を聞いたアクアは「ぴゅ~……」と悩むような鳴き声を出していたが、やがてこっくりと頷いた。

「わがままを言ってすまないね。でも、お前に頼りっきりではいざというとき困るからね……」

 何度かアクアの頭をでながらびておく。さて、これで準備は本当の意味で完了だな。早速「痛風の洞窟」に向かおうか。


 ──そして街の外に出て、〈百里眼〉と《気配察知》を併用しながら歩くことしばし。自分は「痛風の洞窟」入口前に到着していた。ここに到着するまでに行った戦闘の回数はゼロ。初めて入る場所なので、挑む前に消耗することは避けたかったからである。
 洞窟の中から、ヒュウウウ……と冷たそうな風の音が僅かながら耳に届く。外套を羽織はおり直してから、洞窟の中に足を踏み入れた。
 それから数分後、自分は今までで一番、外套を着ていてよかったと痛感していた。事前に風が冷たいという情報は得ていたが、この洞窟の中は風が吹いていようがいまいが、かなり寒い。
 一度試しにフードを脱いで顔を覆っている【フェンリルの頬当て】も外してみたところ、それだけでチクチクとこちらの生命力を削るような冷たさが襲ってきた。もちろん慌てて頬当てを装着し、フードをかぶり直す。この外套を装備していなかったらより簡単に熱が逃げていくだろうから、あっという間に凍死しそうだ。

(おそらく、自分が外套を纏っていなければ、道具屋のおっちゃんは外套を買っていくように勧めたんだろうな)

 昨日熱心に必要な道具と注意すべきことを教えてくれた、道具屋のおっちゃんの顔が浮かぶ。北街で道具を買うのはあのお店にしよう、値段も適正だったしな。
 そんなことを考えつつ、ゆっくりと歩を進めて洞窟内を探検する。幸いにして足元が滑りやすいということはなく、転倒する心配はいらない。また、昨日の占い師から提供された情報の通り、罠もない。さらに一本道だから迷いもしない。
 だが……罠なんかよりも厄介なのが、洞窟内の特定場所にて吹く冷気の風であった。周辺に近寄るだけでぐんと温度が下がるだけでなく、先に進みたいのであればその風の中に突っ込まないといけない構造になっている。スキルで見てみると、洞窟の壁に穴や隙間があり、そこから風が吹いている様子である。

(……他に道はないし、風の向こう側に道があるのも見えているから、行くしかないな。いち、にの、さん!)

 覚悟を決めて右から左に吹いている横風の中に突っ込み、そのまま駆け抜ける。途中で止まったら、そのまま全身が動かなくなって凍死してしまう未来しか見えないからな。
 幸いにして横風が吹いている幅はそんな広くなかったようで、ある程度あおられはしたが、勢いを保ったまま走り抜けることに成功した。

(さ、さささ寒い!! 早く買ってきたアレを……)

 そのまま風が吹いている場所から距離をとり、道具屋で買ってきた筒を急いで取り出して握り潰す。すると筒からは強烈な熱風が吹き出し、周辺の温度を上げてくれた。そのまま一分ぐらい同じ格好で固まっているとようやく体の緊張が解けてきて、はぁ~と口からため息のようなものが出た。

(道具屋のおっちゃんがこれを買って行けというわけだ。この道具がなかったら、ここの洞窟を攻略することは不可能だわ。下手なモンスターと戦うより、あの風の中を一回抜けることのほうがはるかにキツいな)

 また冷え始めた周囲の空気を感じながら、そんなことを考える。最初っからこんなレベルだとすると、この先にいるモンスターはどんな奴なのやら……あまり考えたくないが、先に進まないと修練にならないからなぁ。
 周囲の空気が完全に冷えてしまう前に、温かいミルクティーを口に運んで体を温める。これでようやく先に進む気分になった。大きく深呼吸をしてから、前進を再開する。
 それからもう一回冷た過ぎる横風を突破し、休憩を挟んで前進すること数分。いよいよこの洞窟に棲息するモンスターが姿を現した。しかし、その姿は今まで見てきたものとは大きく違っていた。

(アレは雪の結晶か? 群れを成して一定距離を漂っているみたいだな。《危険察知》にはオブジェクトではなくモンスターだという反応が出ているから、モンスターで間違いないんだろうが……あの見た目からすると、点での攻撃しかできない弓矢はダメだな。ぎ払ったり切り付けたりして攻撃範囲を少しでも広げないと、かすりもしないぞ。今までにはなかったパターンだな……)

〈百里眼〉のおかげでモンスターの詳細な姿を遠くから観察できるのは、実にありがたい。特に今回のような異質な姿をしたモンスターは、戦う前に少しでも情報を仕入れたい。
 そのまま数分モンスターを眺め続けたが、氷の結晶は大体二〇個前後で一つの団体になっているようだ。そして前から見ると楕円だえん形の膜を張っており、その中で活動している。あいつらを倒すためには、その膜を貫いて攻撃する必要があると予測できる。

(そうなると、ここはスネークソードの【惑】の出番だな。蹴りではちょっと不安がある)

 静かに腰から抜いた【惑】を右手に持ち、適度にはぐれた団体が出るのを待つ。集団意識が強くてリンク――一体を攻撃すると、その周辺にいる同族のモンスターまでが一斉に反応して襲ってくる現象――を引き起こしてくる可能性も否定できないからな。
 それにしてもきらきらと少々まぶしい。ダイヤモンドダストを見ているような気分だ……ってか、それそのものか? いや違うか。
 なかなか丁度いい状況にならなかったが、ようやくはぐれの一団が現れた。その団体目がけて【惑】を振るい、攻撃を仕掛ける。
【惑】の先端が膜を突き破って結晶の一つを貫き、そこでこちらに気が付いた氷の団体は自分のほうへやってくる。これに勝てないようでは先に進むことは不可能。さて、行きますか。


 そして、戦うこと数分。

「ちっ!」

 つい、普段はあまりやらない舌打ちをしてしまった。戦ってみて分かったことがいくつかある。まず一つ目は、氷の結晶一つ一つの耐久性は非常に低いことだ。【惑】の刀身が当たれば、それであっさりと崩れ去る。しかし、だからといって弱いわけではない。
 二つ目に分かったことは、結晶達は膜の中においてはそこそこのスピードで動き回るので、捉えることがなかなか難しい。それでも数が多いときは適当に剣を振るだけでそれなりに当たるのだが、数が減ってくると移動スピードが大幅に増す上に回避行動を重視してくるので、なかなか当てることができなくなる。
 その一方で、向こうが行ってくる攻撃は、本当に初級の水属性魔法だけ。こう言うと攻撃面が弱いように思えるのだが……それはとんでもない誤解である。というのも、この洞窟の中が寒いということを最大限に生かす攻撃だったりするのだ……
 具体的には、こっちに水を掛けて洞窟の冷気で一気に冷やすことによって、瞬間的な凍結を狙ってくる。そして一番弱い初級の魔法ということは、言い換えれば反動が少なく連射が利くということである。しかも氷の結晶の一つ一つが撃ってくるため、魔法の水礫みずつぶてが途切れなく飛んでくる恐ろしい攻撃になっている。

「うおあ!?」

 回避し損ねて、左手の盾で水礫を受け止める。その盾からは、ピキピキッという音が聞こえてきた。間違いなく水礫が盾の表面で凍った音だ。
 盾を軽く振ることで、その氷を地面に落とす。危なかった、直撃を受けたらあっという間に氷像になって凍死する。こんな寒い場所でなければ弱い存在なのかもしれないが……いや違うな。彼らは理解しているんだ、最小の力で最大の効果を出すにはどうすればいいのかを。

「【惑】、頼む!」

 なので、こちらも【惑】をウィップモードで振るって、中距離から氷の団体に攻撃を加える。近距離では撃ってくる水礫に反応できないからだ。
 しかし、ある一定のところまでは相手の数を減らせるのだが、そうなると奴らは回避を最重視し始め、粘られているうちにやられた奴も再生してしまう。なのでこいつらとの戦いは、すでに一〇分続いている。

(まずい、集中力が少しずつ切れてきてる。何とかいったん離れて仕切り直したいが、それを許してくれるだろうか?)

 何の策もなく背中を向ければ、間違いなく水礫のまとにされてやられる。倒すにしても、自分に使えるのは大抵が点か線での攻撃方法であり、面の攻撃ができる【強化オイル】は手持ちがないし、修練という意味でもあまりこれに頼ってはいけない。〈風魔術〉も、氷の結晶の素早さは《ウィンドニードル》のホーミング性をたやすく振りきれるくらいで、《ウィンドカッター》もやはり線での攻撃だ。つまり使ってもただMPを無駄にすることになる。
 それから更に数分後。激しく動く的を狙って【惑】を振り続けつつ、飛んでくる水礫の回避に追われた結果、自分の集中力はもうガタガタになってきていた。自分でもはっきり分かるレベルで精彩を欠いている。

(ダメだ、このままでは倒せない。効くかどうかは分からないが、あの道具に頼るしかないか……効かなければお終いだな)

 覚悟を決めて、【惑】をやや乱暴に大薙ぎする。あまり狙いを定めず大雑把に振るっただけだったが、幸いにして氷の結晶はそれなりに減った。すると回避行動重視に切り替わる氷の結晶達。
 そのタイミングで《ウィンドブースター》を発動して至近距離まで間合いを詰めながら、自分はあるアイテムを取り出す。

「頼むから効いてくれよっ!」

 洞窟の中に、そんな自分の声がこだまする。そして自分は、暖を取るための道具である筒を取り出して、回避行動を取り続ける結晶達の目の前で握り潰した。
 この洞窟の中では自然に起きるはずのない温度の上昇によって、氷の結晶達の動きは大きく鈍り、一部が融け始める。

「そりゃあ!」

 反射的に、動きが鈍った結晶達に蹴りを放つ。動きが鈍っている結晶達はその蹴りを避けることができず、まともに食らう。そうしてやっと相手の残りがゼロになると、膜がポン♪ と音を立てて破裂し消滅したのだった。
 ドロップアイテムは、【使い物にならなくなった氷の核】というものが出てきた。おそらく周囲の気温を上げたから、溶けてしまったのだろう。だが、そんなことはどうでもいい……

「よかった、通じた……」

 倒せたことを理解した直後、ドサッと音を立てながら、地面に倒れ込む自分。集中し続けなければならない状況からやっと解放されたために、力があまり入らない。この姿は無防備にも程があるのだが、今はとりあえず解放されたということだけで頭の中がいっぱいだった。ぜえぜえと荒い呼吸を繰り返すうち、ようやく頭が動くようになってくる。

(これは、ただ固いだけの相手の何十倍も厄介だ。再生能力があるだけではなく、回避能力も高い。その上、やってくる攻撃はこの場所を最大限に生かした殺し技。確かに修練になることは認めるが、本気でキツいぞ……特に、膜の中にある結晶の数が五つを切った後が非常に厄介だ。あれだけ【惑】を振り回したのに当たらないとは……逆に、あれに当てられるようになれば、そのときは確かに腕が上がっているだろうがな)

 ちらりと自分のスキルを確認すると、やっぱりというか上がっていないとおかしいというか……〈ダーク・チェイン〉のスキルが2ほど上昇していた。結晶の集団一つでモンスター一匹とカウントすると、ものすごい上昇率である。それは事実なのだが、今すぐ次の奴と戦おうという気分にはならない。

(無理無理、ここでしばらく休憩しよう。集中力ががったがたに落ちたから、じっくり休憩したほうがいい。それにしても、いつかあいつらをスパスパッとあっさり切り裂いて倒せようになる日が来るのかねえ。いや、むしろそうならないと、ここから先へは進めないんだろうけど……先が見えないな)

 こういうときは、火の魔法がうらやましくなる。《エクスプロージョン》などの広範囲魔法をブッぱなせば、あっさりと纏めて消し飛ばすことができそうだからだ――と考えて、ちょっと待てよと首をかしげる。

(待て待て、そんなに単純に事が進むか? 奴らだって自分の弱点は十分承知だろう? あの膜は魔法があまり通じないとか、最悪の場合は反射してくるとかの仕組みになっているって可能性もあるだろう。いや、そうなると温度を上げる道具がなぜ通用したのかって話になるが……ダメだ、これはちょっと分からない。火の魔法が使える人に実際に撃ってもらって、直接その結果を見たほうが早いわ……)

 少しして倒れ込んだ状態から復活し、胡坐あぐらをかく体勢に移行していた自分は、頭を振って考えを中断する。壁に寄りかからないのは、そっちのほうが地面よりも冷たいからである。

(道具屋のおっちゃんが、周囲の気温を高める筒をいっぱい持っていけと言ったのは、こういう緊急的な手段にも使えるからだったのかもしれないな。とにかく、この筒のおかげで命拾いしたことは間違いないわけで……とりあえず、【惑】で限界ぎりぎりまで戦い、もう無理だと思ったら筒を使ってやり過ごして、経験を積んでいく。今はそれしかない、か)

 とりあえずそれでいこう、と考えを纏めて立ち上がる。
 筒の数を確認すると、まだ二〇本ほどあった。もうしばらくはここで修練を積んでもいいだろう。というより、ここで修練を積まないとどうしようもなくなる、と言ったほうが正しいな。あの占い師も、ここで魔剣と蹴りを鍛えろと言っていたわけで。
 そうしてしばらくの間、戦う→厳しくなったら筒を使って終わらせる→休息をとる、という行動を繰り返した。そのおかげで〈ダーク・チェイン〉のスキルレベルが大幅に上昇したのはよかったのだが……結晶を【惑】だけで全滅させることに成功した回数は結局ゼロ。一番減らせたときで残り三体まではいけたが、そこ止まり。そこから粘られて回復され、飛んできた水礫を慌てて回避して冷や汗をかいた。
 そうして何度も戦っているうちに時間もかなり経過して、筒の残りも少なくなってきたところで素直に撤収。
 街に戻ったら道具屋のおっちゃんの所に行き、無事帰ってきたことと洞窟の中でのことを報告する。

「無事に戻ってきたか。な? あの筒を多く持っていってよかっただろ?」

 とのおっちゃんの言葉には、頷くことしかできなかった。
 また明日もあの洞窟に行くために、その場で道具を補充する。

「では、失礼します」
「おう、また来いよ。きちんと生きて帰ってくるんだぜ」

 おっちゃんに見送られて店を出たら宿屋に戻り、ログアウト。
 しばらくこんな感じで修練だな……大きなイベントが来ないことを祈ろう。


【スキル一覧】

〈風迅狩弓〉Lv40 〈剛蹴(エルフ流・一人前)〉Lv38 〈百里眼〉Lv32
〈技量の指〉Lv42(←1UP) 〈小盾〉Lv29(←1UP) 〈隠蔽・改〉Lv3
〈武術身体能力強化〉Lv75(←2UP) 〈ダーク・チェイン〉Lv14(←11UP)
〈義賊頭〉Lv27 〈妖精招来〉Lv13(強制習得・昇格・控えスキルへの移動不可能)
 追加能力スキル
〈黄龍変身〉Lv6
 控えスキル
〈木工の経験者〉Lv8 〈上級薬剤〉Lv26 〈釣り〉(LOST!) 〈料理の経験者〉Lv17
〈鍛冶の経験者〉Lv28 〈人魚泳法〉Lv9
 ExP42
 称号:妖精女王の意見者 一人で強者を討伐した者 ドラゴンと龍に関わった者 
    妖精に祝福を受けた者 ドラゴンを調理した者 雲獣セラピスト 人災の相 
    託された者 龍の盟友 ドラゴンスレイヤー(胃袋限定) 義賊 人魚を釣った人
    妖精国の隠れアイドル 悲しみの激情を知る者 メイドのご主人様(仮) 呪具の恋人
 プレイヤーからの二つ名:妖精王候補(妬) 戦場の料理人



 3


 それから一週間ほどは、ほぼ毎日「痛風の洞窟」に挑む日々だった。ドジって何度かやられたりもした……が、頑張がんばった甲斐かいあって〈ダーク・チェイン〉はレベル30を突破し、新しいアーツを二つほど獲得できた。
 まず一つ目は、レベル15で覚えた《トレーサークロウ》。ONとOFFを任意に切り替えることが可能なスイッチ系アーツで、ONにしている間はMPを持続的に消耗する。効果は、スネークソードの後ろに闇で出来た三本の爪が生まれ、その爪が刀身の動きをトレースしてくるというもの。つまりは一回スネークソードを振るだけで二回攻撃になるということである。
 そしてもう一つが、レベル30で覚えた《サドンデス》。突然の死、という名前が表すように、相手を一撃で倒せる可能性があるアーツである。だが、どこに攻撃を当ててもいいというわけではなく……
 一、即死を発動させるためには、相手の弱点部分を正確に捉えなくてはいけない。弱点部分以外に攻撃を当てた場合は、逆にほとんどダメージが発生しない。
 二、発動するためにはマジックパワー MP の「最大値の二五%」を消費する必要がある。たとえどんなにスキルレベルが上がっても、この消費量が軽減されることはない。
 三、条件を満たしても、必ず即死させるわけではない。弱点を捉えたのに即死させなかった場合は、コストに見合ったそれなりの重いダメージを与える。
 四、発動するときは、スネークソードをさやに納めている状態でなければならない。なので、弱点に当たる直前に発動、といった手段は使えない。
 五、一定以上の力を持つ相手――具体的にはボスだと、即死の確率が下がる。
 このように制約が多いアーツでもある。一回発動するだけでMPが四分の一も減るわけだから、ホイホイと気軽には使えない。とりあえず、物は試しとばかりに、アクアの協力を得て北街の周辺に住むバッファロー相手に一日かけて何度も使ってみた。
 その結果、弱点を捉えることに成功した回数は一一回ほど。そして即死したのはうち六回、大ダメージが五回と、当たりさえすればかなり即死確率は高い。
 念押ししておくと、これは「敵の弱点にきちんと当たれば」だ。弱点に当てるためにはかなり神経を使う。アクアにお願いして気を引いてもらわないと、今の自分の腕では当てることができなかった。
 とまあ、順調に自分は成長していたわけだが、ここでメールのやり取りをしていたツヴァイ達からちょいとお声がかかった。その内容は――

「アースが今行っているダンジョン、一度行ってみたい!」

 このひと言に纏められる。要は新しい場所に行ってみたいのだろう。そして今は、北街のある場所で待ち合わせ中である。

「ようアース、済まねえ、遅れた!」

 待ち合わせ時間を一分ほど過ぎたところで、ギルド『ブルーカラー』の面々がやってきた。こいつらが遅刻とは珍しいな。ちなみに今回の参加者は、ツヴァイ、レイジ、ミリー、エリザ、ノーラとなっている。

「ああいや、一分ぐらいなら問題はないよ。んで、もう一回確認したいのだが……本当に『痛風の洞窟』に挑みたいというのか?」

 こう念押ししておく。あそこは軽い気持ちで行くと、あっさり死ねるからなぁ。前もって準備をしっかりしておかないと、寒さで行動することすらままならない。

「ああ、行きたいんだ。どういったモンスターがいるのか気になるし、いろんな所を見て回りたいからな」

 と、レイジが答える。ふむ、他のメンバーからも異論は出ないし、本当に行く方向で意見が纏まっているようだな……では早速、最初に行かないといけない場所がある。

「了解した、じゃあ『痛風の洞窟』に向かうことにしようか……と言いたいのだが、その前に絶対行かなきゃいけない場所がある。自分について来てくれ」
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