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9巻

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「いやいやいやいや、それは無茶でしょう」

 シルバーのおじいちゃんからの要請に、自分は激しく首を横に振った。

「ダメかの?」

 シルバーさんはそう言ってくるが……

「自分はシルバーさんとはお知り合いですが、他の人とはおそらく初対面になります。それ自体はいいのですが、慣れない人間がいるとPTの連携精度に乱れが生じ、結果として余計な危険を招きませんか?」

 一番怖いのはそこだ。敵が強くなればなるほどPT内での連携、協力が重要になってくる。通常時に安定した連携を行うことはもちろん、不意打ちを受けて隊列が崩れたときなどにお互いをカバーできる能力も要求される。気心の知れたメンバーならば、ここで守ってくれる、こう動いてくれるという信頼関係があるだろうが、初対面の自分とはそうもいかない。
 一応言っておくと、この前の街襲撃イベントでグラッドたちとPTを組んだときのことはまた別だ。イベントという緊急事態であったから他に選択肢はなかったし、メンバー一人一人の強さが突出していたからこそ、連携が最低限のレベルでも何とかなったのだ。

「ふむう、お主の意見は、確かに一理あるのう」

 白い髭をなでながら、シルバーさんも自分の意見に理解を示してくれている。

「欠席の方がどんなレベルか分かりませんが、オーガ一匹との戦闘でもかなり時間をかけないと倒せない自分では、足を引っ張る可能性が高いかと」

 火力、という問題もある。自分の使っている弓は現時点では間違いなく一級品だが、肝心の自分自身の武器スキルLvがまだ低い。もう一段階上なら問題なかったかもしれないけど、それは今すぐどうにかなる問題ではない──そう自分は考えていたのだが、シルバーさんは同意見ではなかったようだ。

「オーガを……一人で倒せるのか? 時間がかかってもそれだけ戦えるというのであれば、実力は特に問題はないと思うがのう。実際にPT戦闘となればワシやタンカー役という前衛がおるし、魔法使いの支援もある。それに契約妖精がいないというお主のハンデを考えれば、一人でオーガの相手をできるのはすごいことじゃぞ?」

 シルバーさんいわく、一人で戦うソロプレイヤーは自分以外にもいて、彼らの基本戦術は、まず初歩のアーツなどを使ってモンスターの体勢を崩して契約妖精に攻撃を指示。妖精の攻撃を受けてモンスターの防御力が大きく落ちたところに大技を入れて倒す、というものだそうだ。

「あのとき見せてもろうた腕は未だ健在ということか、重畳ちょうじょう重畳。とりあえず、メンバーに会うだけ会ってもらえんか? その上で無理だとなった場合は、仕方がないと諦めるからの。どうじゃ?」

 こうまで言われてしまっては、特に急いでやるべきこともない自分に、この申し出を強く断る理由はなかったのだった。


「という成り行きがありまして、ここに来ることになりました。名前はアースと言います」

 ファストの宿屋の一室に集合したPTメンバーの前で、自分は頭を下げる。この場に集まったのは、重鎧で盾持ちの黒髪男性、魔法使いが三人、そしてシルバーのおじいちゃんの合計五人だ。

「おう、あんたがフェアリークィーンを射殺したこともある、あのアースさんか! 俺はロック、見ての通りタンカーだ。名前は岩のように強大で硬くありたいと……安直かもしれんが、笑わないでくれよ?」

 黒髪の男性はこう名乗り、自分に右手を差し出してきたので、握手を交わす。彼の契約妖精は土妖精か。

「私はレインです。水、風、闇の属性魔法を使います。どうぞお見知りおきを」

 次に自己紹介をしてくれたのは金髪の男性魔法使いだ。三種類の属性を操るとなれば、なかなかの使い手なのだろう。スキル構成上、自分は取ることができない上位風魔法を見る機会があるかもしれない。風魔法を取っている人はあんまりいないし、そうなったらありがたい。そんな彼の妖精は水妖精だな。

「次は私かな。ミカよ、よろしくね! 魔法は火と光を選んでいるわ。あと、杖を使った接近戦もできるからね」

 元気いっぱいに名乗った赤い髪の女性魔法使いはミカさんというのか。連れている妖精は火妖精で、こちらも活発そうだ。
 彼女は属性を二つに絞って接近戦能力を得たタイプのようだ。メインの火力はあくまで魔法による攻撃ながら、接近されても〈杖術〉スキルで防御と反撃が可能なのだろう。
 〈杖術〉は直接的な火力が優れるというより、突く、叩く、払うといった攻撃で状態異常を与えるアーツが揃っていて、相手を転倒させる《足払い》や[スタン]を引き起こす《芯打ち》なんかが代表的だ。相手の動きを止めて距離をとるには非常に優秀なので、力の弱い魔法使いでも取る人が結構いる。

「私はアイスと申します。水、土、闇魔法を扱っております」

 最後に、アイスブルーの髪の毛を持つ女性が自己紹介をした。水、土、闇というと……足止め、状態異常にノックバック能力か。魔法に対する抵抗手段が少ない相手だと一方的な戦いを繰り広げられそうだな。彼女が連れているのは闇妖精か。

「そして、風邪をこじらせたらしくての、ここにはおらんがザリという両手剣使いの男がおる。普段はその六人で攻略をしておるのじゃ」

 ここにいないメンバーを、シルバーさんが教えてくれる。そうなると前衛三人、後衛三人の面子か。バランスがいい組み合わせだ。それに水魔法持ち二人に光魔法持ち一人と、回復能力も十分に高い。

「では早速ですけれど……アース様には悪いのですが、私はアース様を臨時とはいえPTに入れるべきではないと申し上げます。もちろんアース様が頼りないというわけではありません。今まで私たちは前衛三人、後衛三人という編成で戦ってきました。それを崩すと不安定さが露呈する恐れがあります。もし臨時でメンバーを入れるのであれば、今までと同じバランスになるよう前衛の人にすべきです」

 こう切り出したのはアイスさんだ。彼女の意見は実に真っ当なものであり、自分も頷いていた。自分が入ったら、間違いなくこれまでの感覚が崩れるだろう。不安定さが露呈するという彼女の言葉には説得力がある。

「俺は逆に、そういう普段とは違う状況に慣れておくべきだと思うけどな。いつもベストメンバーで戦えるわけじゃないんだ。今回みたいに誰かが病気になることは今後ももちろんあるだろうし、ベストメンバーじゃないと戦えないというもろさは克服しないと、今後に響くと思うぞ?」

 アイスさんに反対したのはロックさんだ。そうだな、常時ベストメンバーで戦えるわけではないというのは、スポーツの世界などでも十分ありうることだ。明らかなお荷物になるのであれば話は別かもしれないが、ベストメンバーだけのプレイに慣れきってしまうと、それはそれで融通ゆうずうが利かなくなる。

「私はアイスさんに一票ですね。申し訳ないですが今のアースさんの実力も分かりませんし、不安要素が大きいとなると、山道ダンジョンで一緒に戦うには危険過ぎます」

 レインさんはアイスさんの意見を支持したか。確かに自分が直接戦うところをまったく見せていないわけだし、不安要素が大きいという意見は筋が通っている。

「うーん、私も悪いけどアイスおねーちゃんの意見に賛成かな。レイン君の言う通り、今のアース君の実力が完全に未知数だし、やっぱり臨時で入れるなら前衛の人の方がいいと思う~」

 ミカさんもそういう意見か。無理もない話だな……ぽっと出の人間をいきなり信用しろというのは無理がある。いくらPTリーダーが連れてきたからって、それを何も考えずに受け入れるよりよっぽどいい。
 じっと話の成り行きを聞いていた自分は、ここで口を開くことにした。

「今回はご縁がなかったということでよろしいでしょうか?」

 自分がそう言いながら様子を窺うと、シルバーさんは仕方ないのう、という表情をしていた。

「わざわざ来てもらったのに、申し訳なかったの」

 頭を下げるシルバーさんに、気にしないでくださいと答える。

「頭ごなしではなく、皆さんきちんと理由を添えて話してくれましたし、その理由にもしっかりと筋が通っていましたから。こちらとしても納得がいく話です」

 それでは失礼しました、と言い残して宿屋の個室を出ようとした自分だったが、今度はロックさんに呼び止められた。

「じゃあ、今日だけ俺とペアを組まないか? どうせ今日は山道ダンジョンの奥に行くなんて無理なんだ。ふもとで遊ぶ分には問題ないだろう?」

 反対する理由もないし、弓スキルのLv上げにもなるなと考え、自分はこの申し出を受けることにした。


「先ほどはすまなかったな」

 山道ダンジョンへと向かう途中、ロックさんが謝ってきた。

「何の話です?」

 自分がそう返すと、ロックさんは頭をぼりぼりとかきながら話を続けた。

「いや、あいつら三人の対応についてな……実はあのとき話してる裏でPTチャットを開いていたんだが、シルバーのおやっさんが『お主ら、これからもバランスが悪ければ、PTを組まないと言い続けるのかの?』とかなり困っていたな。こういう言い方をするのもよくはねえんだろうが、バランスだけを見て考えるようではこれからやって行けるかが不安だぜ。大喧嘩おおげんかに発展したとしても、こちらから文句は言えない状況だったからなぁ」

 ああ、うん。バランスの良さは大切だが、それだけではないかな。

「あの三人が安定にこだわる、というか固執する理由は……以前臨時でPTを組んだときに何かあったと考えられそうですからね。たとえば、口は上手いが肝心の戦闘能力はそれほどでもない人たちに引っかかった、とか」

 あの三人の魔法使いが言ったことの筋は通っていたが、ほんの少し、他の感情があるように感じられた。それは自分に対する嫌悪感や見下しではなく、恐怖心といった方が近そうな感情。かなりひどい目にあったことがあるのかもしれない。

「ぐっ……あんな短い時間でそこまで予想できてしまうのか。実は以前は、あの三人もああじゃなかったんだがなぁ」

 ロックさんが言うには、少し前に前衛の三人とも用事が重なり、ログインできない時期があったらしい。そこで後衛の三人が臨時PTを募集した結果、ある程度名が売れていたことに加えて女性プレイヤーが二人いるという点もあって多数の応募があったそうだ。そしていざ山道ダンジョンをはじめ色々な場所に出向いたところ……

「そのな、アースさんが想像した通りだったらしくてな」

 そいつらは、後衛三人の補助があってもどうにも危なっかしい。臨時PTゆえ、いきなり阿吽あうんの呼吸で戦うなんてのは無理だし、シルバーさんのような一級品を希望したわけでもない。だが、山道ダンジョンで戦うには、もう少ししっかりとした経験が必要なのではないか、と思わせる人ばかりだったらしい。
 それだけに留まらず、休憩時間にナンパはするわ、必要以上に女性陣のプライベートな話を聞きたがるわとさんざんな調子で……どうにも不運と言うかなんと言うか……

「偶然なんだろうが、そういう連中ばかりを次々と引いてしまって疲れ果てていたところに、トドメを刺されたらしいんだ」

 その日は前衛二人、後衛四人という編成で山道ダンジョンに行き、途中までは問題なかったらしい。だが、進んでいった先で、巨人系モンスターのエティン三匹がPTの前に立ちふさがった。そこでタンカー役がエティンを引き受けてミカとアイスが支援に回り、残りが攻撃という態勢をとったところ……

「そのときのタンカー役があっさりと潰されちまったらしい。俺から言わせれば、エティン三匹なら防御に専念して丁寧に受け流せば十分に耐えられる範囲なんだがな」

 当然アイスは闇魔法でエティンのAtkを下げ、ミカは光魔法でタンカー役の守備力Defを上げていたにもかかわらず、だ。
 PTは一気に厳しい状況に追い込まれてしまった。三人は魔法を駆使して、残った前衛の人と一緒に状況を立て直そうとしたらしいが、結局は全滅。その件以降、もう臨時でPTを組むのは控えようと考えるようになったらしい。

「おまけに、後衛の一人はタンカーが潰れた途端に回れ右して一目散に逃げ出したらしいんだわ、これが。そのこともあって後衛に臨時メンバーを入れるのが特に嫌らしくてな。それでも、シルバーのおやっさんが連れてきたことに加え、過去のイベントで活躍した実績があるアースさんをあそこまではっきりと拒絶するとは思わなかった」

 ふうむ、そういう事情があるのか……とはいえ今後のことを考えると、そのうち苦手意識を克服しないといけないのではなかろうか。

「シルバーのおやっさんもこのままじゃマズいと思ったんだろうがなぁ。結局アースさんに対して失礼なことをするだけになっちまった。あいつらが考えを改めないとなると、うちのPTの寿命もそう長くはないだろうな」

 トラウマになるくらい不運が続いたことは可哀想かわいそうだと思うが、乗り越えなければならない壁でもある。でなければ……ステータス的には成長できても、プレイヤーとしての先がないな。

「事情は分かりましたけど、自分にはどうしようもないですね」

 これは自分が首を突っ込むことじゃあない。彼ら自身で何とかすべきことだ。

「だな。俺もあれこれ三人に言ってるんだが、最終的にどうするかは本人が自分で決めることだからなぁ」

 などと話しながら歩いているうちに、徐々に山が見えてきた。あの山のふもとに山道ダンジョンの入り口がある。

「まあ話はこれぐらいにして、戦いの段取りを決めておこうか」

 ロックさんの意見に自分も頷く。とはいっても二人だけなので別段難しい手順はない。自分が矢を当ててオーガを単独で引っ張ってきて、ロックさんに盾になってもらう。あとはお互いに攻撃を入れながら戦いを進めて、ロックさんがチャンスを見つけ次第、オーガの体勢を崩せるアーツを入れて隙を作る。ロックさんの土妖精である小人が攻撃を入れて防御力が下がったら、自分が弓のアーツを放つ、という流れだ。

「では、頑張りましょう」

 山道ダンジョンに到着したところで《危険察知》を発動し、モンスターの位置を把握する。よし、近くにはいないな。

「おう、弓技を見せてもらうぜ!」

 自分が相棒である【双咆そうほう】を構えると、ロックさんも大きな盾と片手剣を構えて戦闘態勢に入る。では早速狩りを始めようか。

「早速、オーガを一匹連れてきますので、ある程度近づいてきたら引きつけをお願いします」

 自分はいつも通りに孤立しているオーガを見つけて、遠くから矢を射かける。矢を受けたオーガは自分に気がついて、こちらへと向かってきた。よしよし、そのまま来い。ロックさんが待つ場所まで誘導してやる。

「おし、見えたぞ! 任せろ、《タウント》だ! こっちにきやがれ!」

 ロックさんの挑発系アーツの強烈なオーラを受けたオーガは、ターゲットを自分からロックさんに移す。ロックさんはオーガのターゲットを引き受けたまま、盾で棍棒の攻撃を受け流し、生まれた隙に片手剣で反撃を加えていく。

(見とれてちゃダメだ、こっちからも攻撃を入れないと)

 ロックさんよりこちらの与えるダメージの方が大きくなると、オーガの狙いがこちらに向いてしまうので、アーツは使用せずに普通の矢による攻撃でヒットポイントHPを削る。そうして少しの間戦っていると、ロックさんの盾で攻撃をいなされたオーガが大きくよろけた。HPが減ってきたためか、足の踏ん張りが利かなくなっているのかもしれない。

「頃合だ、仕掛けるぞ!」

 ロックさんがオーガの腹に盾系アーツ《フルスイングバッシュ》を仕掛けた。これは《バッシュ》の強化版で、重量のある大盾を振りかぶって殴りつけるという打撃技である。体勢が崩れていたオーガは見事に直撃をもらい、二歩ほど後ずさる。その隙を見逃すことなくロックさんの土妖精が、土で作った槍を次々と投げつけてオーガの体を突き刺す。

「仕上げは任せてもらう!」

 お膳立ぜんだてが整ったところで、弓にMPを注ぎ込んでから七割ほど弦を引き、〈風震狩弓ふうしんかりゆみ〉のアーツ《ソニックハウンドアロー》を放つ。
 ガッキューン! と音を立てながら撃ち出された矢は、命中したオーガの頭そのものを完全に削り取ってしまった……

「……え?」
「な、なんだと!?」

 首なしになったオーガは倒れ、消え去っていく。あとに残されたのは、あっけに取られて間抜けな顔を晒す男二人ばかり。

「──よし、次のオーガを探してきます」

 あえて空気を読まずにそうロックさんに告げて、再びオーガのいる場所まで進もうとした自分だったが、当然……

「まてまてまてぃ! さすがに今の現象をスルーはできないだろう!? モンスターの首をねるぐらいは今まで何度も見てきたが、体の一部が完全に消滅するとか聞いたことがないぞ!?」

 と、ロックさんに肩を掴まれて前進を止められる。

「アースさんは、あんなバカみたいな威力を普段から振り回しているのか!?」

 ロックさんからの問いかけを、自分は首を横に振って否定する。あんな火力を普段からポンポン振るえるならば、今まで苦労なんかしていない。

「じゃあなぜ、あんな現象が起こったんだ?」

 ロックさんは首をかしげる。

「ちょっと装備を確認していいですか? 実は、自分の使っている装備の大半は能力を未鑑定状態でして」

 オイオイ、とあきれ気味のロックさんをよそに、装備品の確認をする。今の効果は、【双咆】ではないし、【ドラゴンスケイルライトアーマー一式】でもない。【ピカーシャの心羽根こころばね】でもない……あ、あった。



【アミュレット・オブ・フェアリーズ】

 妖精の加護が込められたアミュレット。あらゆる災難を軽減する妖精国の国宝なのだが……
 効果:他者が契約している妖精と連携して攻撃を行うと、Atkが一回だけ大幅に上昇する。
 多くの妖精に慕われているほど効果は上がる。
 一度発動させると再発動まで一〇分おく必要がある。
 種類:ユニークアクセサリー



 他の人の契約妖精と連携を取ることが効果の発動条件なのか。だから今まで何も起きてくれなかったと。一〇分ごとにさっきの威力が出せるようになるとか、さすがはユニークアイテム。クィーンも、説明せずにこんなとんでもない物を渡さないでくれよ……

「何か分かったのか?」

 ロックさんの声で我に返る。いけない、ここは街の中じゃないんだからほうけていてはいけない。とりあえずアミュレットを取り出してロックさんに見せつつ、説明を始める。

「え、ええ。このアミュレットの効果のようですね」

 自分の説明を聞いたロックさんは「何だその無茶苦茶な能力は……」と言いながら右手を顔に当てている。そうは言っても、普段はソロ行動をしている自分にはまったく恩恵がないんですけどね。

「ま、まあ、とにかくそういうことならそれでいい。狩りを再開しようか」

 ロックさんの言葉に自分も同意して、狩りを再開。うろついているオーガだったり、たまにエティンだったりを次々と引っ張ってくる。
 基本的に単体でいる奴を狙っているのだが、前衛が敵の前進を止めてくれるだけで、非常に戦い易くなる。だから自分も相手の腕に攻撃を仕掛けて、更に支援できるという相乗効果。やはり前衛が一人いるだけで、戦いは大きく変わるな。

「吹き飛ばしてくれ!」

 ロックさんがそう言いながらエティンの体勢を崩して、契約している土妖精に攻撃させる。

「任された!」

 土妖精の攻撃が命中したことを確認してから、六割ほど【双咆】の弦を引いた状態でアーツ《風塵ふうじんの矢》を放つ。矢はギャリィィィィッ!! と耳障みみざわりな音を出しながら、エティンの左胸に小さな穴を空けて空に消え去った。
 その一撃が決め手となって、エティンは地面に崩れ落ち、消滅する。
【アミュレット・オブ・フェアリーズ】の効果が乗った一撃ならば、このぐらいの攻撃で巨人系のモンスター相手にも十分に致命傷を与えることができる。最初のオーガに放ったようなオーバーキルは必要ない。何かの特典があるわけでもなし、MPの無駄である。
 エティンがドロップしたアイテムを回収した後、自分とロックさんは座り込んで休憩する。空腹度も四〇%を割り込んだし、そろそろ食事をするべき頃合だった。モンスターの反応も遠いから、ここで休憩しても大丈夫だろう。

「なんというか、さすがだな。ソロでやってきたというだけあって、頼りになるな」

 ロックさんが自分に賛辞を述べながら、サンドイッチを取り出す。

「いえいえ、ロックさんもオーガやエティン相手に殆ど無傷じゃないですか。防具の性能ではなく、本人の腕で戦っているというのがよく分かりますよ」

 自分も【ドラゴン丼】を取り出しながらロックさんに賛辞を返す。実際ロックさんが受け流しに失敗してダメージを受けたのは、ここまで三〇分ほど戦って二回ぐらいしかなく、その二回とも軽傷だった。そのため自然回復で十分間に合ってしまい、ポーションの出番は一回もなかったのだ。こんな腕を持つ人が普段から仲間にいたら、臨時の人は頼りなく見えてしまうだろうな。

「そりゃまあ、単体相手ばっかりだしな。もちろん慢心まんしんしちゃいけないが、普段行く場所と比べれば余裕があり過ぎた。それにアースさんが的確にモンスターの腕に攻撃を当ててくれるから、なおさら余裕だった」

[ブレイクアーム]までは引き起こせなくても、腕に攻撃を食らえばモンスターも攻撃速度が鈍ったりするから、狙えるのならば有用な前衛への支援になる。

「いやいや、すばらしい腕前ですね」

 自分は【ドラゴン丼】を食べながら相槌あいづちを打つ。

「ところで……丼飯なんて、この世界にあったのか?」

 サンドイッチを食べ終えたロックさんとロックさんの契約土妖精が、こちらの手元を見てくる。

「これは自作です」

 そう返して食事を続ける。作り置いたものを味が落ちずに食べられるっていうのは、ゲームの強みだよなぁ。

「八〇〇グロー出すから、売ってもらえないか? サンドイッチもいいんだが、たまにはガッツリと食いたいんだよ」

 そう言いながらロックさんが八〇〇グローを差し出してきたので、【ドラゴン丼】を一つ手渡す。

「これはサービスです」

 ついでに、ロックさんの契約妖精には【狼肉味噌絡めおにぎり】を手渡す。主人だけが新しいものを食うと妖精がねるかもしれないから、先手を打っておいた。

「いいのか? すまねえな……って、【ドラゴン丼】!? ドラゴンの肉って、ステーキにするもんだと思ってたぜ……」

 実際、灰色ドラゴンから取れたお肉は、ステーキ用などの大きな塊で売り出されることが大半だった。牛肉とはまた違う味でとても美味しいと評判で、こちらの世界ならばいくら食べても太る心配がないから、随分散財してドラゴンのお肉を買い漁り、食いまくった猛者もさもいると聞く。
 ロックさんは【ドラゴン丼】を無言でかきこみ、完食した後に、ふうぅーーーっと満足そうに息を吐いた。

美味うまかった。やっぱり丼物はいいねえ。食った! っていう満足感がある!」

 腹をさするロックさんの脇では、土妖精がぱくぱくぱくぱくとおにぎりを一心不乱にほお張っている。こちらも気に入ってもらえたようで何よりである。

「戦える上に美味い飯が食えて……今日はペアを組んでよかったぜ~」

 そう言ってもらえるのならば何よりだ。やっぱりゲームは楽しまないと勿体ないからね。



【スキル一覧】

 〈風迅狩弓〉Lv‌12(←2UP) 〈剛蹴〉Lv‌23 〈百里眼〉Lv‌24(←1UP) 
 〈技量の指〉Lv6(←1UP) 〈小盾〉Lv‌23(←1UP) 〈武術身体能力強化〉Lv‌38(←1UP)  
 〈スネークソード〉Lv‌40 〈義賊頭〉Lv‌18‌ 〈隠蔽・改〉Lv3 
 〈妖精招来〉Lv2 (強制習得・昇格・控えスキルへの移動不可能)
 追加能力スキル
 〈黄龍変身〉Lv3
 控えスキル
 〈上級木工〉Lv‌30 〈上級薬剤〉Lv‌21 〈人魚泳法〉Lv8 〈釣り〉Lv2 
 〈料理の経験者〉Lv8 〈鍛冶の経験者〉Lv‌21 
 ExP29
 称号:妖精女王の意見者 一人で強者を討伐した者 ドラゴンと龍に関わった者 
    妖精に祝福を受けた者 ドラゴンを調理した者 雲獣セラピスト 人災の相
    託された者 龍の盟友 ドラゴンスレイヤー(胃袋限定)  義賊 人魚を釣った人間
 プレイヤーからの二つ名:妖精王候補(妬) 戦場の料理人

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