〈アメリカは戦々恐々〉南米進出を強める中国のグリーン・テクノロジー戦略で揺れる自動車産業の主導権

2024.05.14 Wedge ONLINE

 中国によるグリーン・テクノロジー分野におけるラテンアメリカ向けの製品の輸出や投資の急増に対し、米国は安全保障、政治的影響力、不公正な競争の3つの面で懸念を深めているが、有効な対策が打てていない旨、2024年4月10日付の英Economist誌が解説している。

(Fahroni/gettyimages)

 米国は、電動バスから太陽光パネルまで、南米が中国のグリーン・テクノロジーに依存しつつあることを懸念している。中国からの輸出は、3つの技術、すなわち電気自動車(EV)、リチウムイオン電池、太陽光パネルに集中し、21年に南米へのこれらの製品の輸出総額はすでに50億ドルに達し、その後ほぼ倍増している。昨年、南米に輸入された太陽光パネルの99%、EVの約70%、リチウム電池の90%以上が、また、風力発電設備の60%以上が中国製だった。

 また、南米におけるグリーン・テクノロジー分野への中国の直接投資が急増している。配電と送電への関心も高まり、チリやペルーを中心に過去5年間の中国の南米におけるM&Aの75%を電力供給事業が占めている。

 更に、中国企業は22年EV産業に22億ドルを投資し、同年の南米における中国の直接投資額の35%を占めた。その大部分は、ブラジル、メキシコ、アルゼンチンでのEVおよびバッテリー製造であった。ブラジルではBYDがアジア以外で最大の拠点として当初は年間15万台を生産するが、30万台まで拡大する可能性があり、メキシコでもBYDは同規模の工場を計画している。

 南米の多くの人々は、これらを朗報ととらえ、中国からの投資によって雇用と成長が促進されるということを期待している。昨年訪中したチリ大統領は、中国企業がチリのリチウム工場に2億3300万ドル投資すると発表し、風力タービンのチリでの生産も示唆した。

 米国にとっては、3つの懸念がある。第一は、中国のグリーン・テクノロジーが安全保障上の脅威をもたらす可能性である。中国のEVが「遠隔操作でアクセスされ、あるいは無効にされる」可能性について、バイデン大統領は最近調査を命じた。

 二つ目の懸念は、南米が中国のグリーン技術に依存することにより、台湾問題や資源採掘に至るまで中国が影響力を行使することである。

 米国の最後の心配は、世界を形作るグリーン・テクノロジー産業で、南米や米国の企業や労働者が、政府に支援される中国企業に負けていることだ。3月、イエレン米財務長官は、グリーン・テクノロジー分野における中国の過剰生産は、「世界中の企業や労働者にも打撃を与える」と述べた。

 いずれにせよ欧米に中国に対抗する良い代替策はほとんどない。もし中国の投資拡大が続き現地生産が中国からの輸入を押さえれば不安は和らぐだろうが、グリーン技術における米国の弱点に対する懸念は残るだろう。米国企業が安価で効果的で大量の製品を提供できるようになるまでは、南米の指導者たちに注意を促しても、あまり効果はないだけでなく、むしろ反感を買うだろう。

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不公正な競争は世界的な問題

 この記事は、中国が南米地域に対して太陽光パネル、リチウム電池、EV、風力発電用タービン等を安価で大量に輸出し、また、配電・送電事業やEV生産の投資を拡大している事実を紹介し、米国政府が、(1)安全保障上の脅威、(2)中国の影響力の拡大、(3)不公正な競争による国内産業への打撃の3つの懸念を深めているが、有効な対策が取られていない状況について解説している。

 3つの懸念の内、特に3つ目の不公正な競争による国内産業への打撃についての米国の懸念は、米国や南米に限られず全世界的な問題で、かつ、最も切迫しているといえる。イエレン財務長官は4月上旬に訪中し、中国によるグリーン・テクノロジー分野での中国政府の補助金による過剰投資、過剰生産が米国のみならず世界の企業や労働者に打撃を与えているとの懸念を直接伝え、是正措置を求めた。この種の中国問題は、グリーン・テクノロジー問題に限られないが、米国政府は、関税上の措置等何らかの対策を打ち出すものとみられている。