【円安抑止へ2つの処方箋】レパトリ減税案とNISA国内投資枠、その役割と効果を徹底検証

2024.05.10 Wedge ONLINE

 ドル/円相場は160円付近からピークアウトしているが155円で高止まりしている。2022年3月初頭の113円近辺と比較すれば「随分遠いところに連れて来られてしまった」との思いを禁じ得ない。常々、述べてきたことではあるが、日本経済は円安を所与の条件としつつ、その有効利用策を検討する段階に入っているように思う。

円安は常態化したと言え、それに応じた経済運営が求められている(AP/アフロ)

 現状、円安抑止の処方箋は為替介入や利上げといった裁量的なマクロ経済政策を脇に置けば①対内直接投資促進、②インバウンド奨励の2点が注目されやすいが、今回の本欄ではこれらとは異なる視点を提供してみたい。それはレパトリ減税とNISA国内投資枠という考え方である。

 このまま円安相場が解消されずに持続した場合、いずれの政策も耳目を引く可能性が大きく、実態経済やビジネスにも影響し得る。簡単に紹介し、その政策意義を見ておきたい。

過去最大を更新する日本企業保有の外貨

 まずは前者のレパトリ減税案とは「日本企業が保有する外貨を国内へ送金する際の法人税を減免する」という政策である。これにより一時的に日本企業の保有する外貨が国内へ還流し、円買い圧力を高めることが企図されている。

 対症療法には違いないが、円安抑止策としては分かりやすいがゆえに、金融市場では断続的に注目されてきた経緯がある。一部報道によれば、政府・与党が6月にまとめる経済・財政政策の基本方針「骨太の方針」に盛り込まれる可能性があるという。

 確かに、円相場の需給改善を志向するにあたって企業部門が保有する外貨は政府の抱える外貨(≒外貨準備)と並んで使える「最後の砦」であり、為政者の目に留まるのは自然な展開である。21年度の「海外事業活動基本調査」によれば日本企業の海外内部留保利益は約48.3兆円と過去最大を更新している(図表①)。

 その後の円安を踏まえれば、現時点ではさらに大きな額になっているだろう。また、図表②に示すように、日本企業が海外で稼ぎ、そのまま外貨として再投資(≒内部留保)してしまう傾向は年々強まっており、「日本国内では期待収益率が高い投資機会に乏しい」と考える経営上の思惑が透ける。

 元々、日本経済にアップサイドを感じないがゆえに対外直接投資(海外企業買収や生産施設の移管など)を進めてきた日本企業が多いのだとすれば、必然の帰結とも言える。ちなみに筆者試算のキャッシュフロー(CF)ベース経常収支(統計上の黒字・赤字ではなく実際の為替需給に近い数字)は22年に約▲10兆円、23年に約▲1.3兆円だった。レパトリ減税政策が奏功して、例えば海外内部留保残高の20%でも還流すれば、安定的にCFベース経常収支を黒字圏に引き上げられる可能性はある。

 財務省による円買い・ドル売り為替介入や日銀の利上げといった裁量的なマクロ経済政策は当然、通貨防衛の一環として用いられるとしても、今後、通貨防衛戦が長期化すると考えた場合、動員できる手段のラインナップは入念に把握しておく必要がある。円安狂騒曲の最中に公表される「骨太の方針」でレパトリ減税が取り上げられる公算は確かに小さくないだろう。支持率低迷に苦しむ政府・与党の立場に照らしても「分かりやすい円安対策」は求められるところである。

「5%の摩擦」でも効果はあるか

 もちろん、09年度税制改正を経て「外国子会社配当益金不算入制度」が導入されており、既に保有割合25%以上の海外子会社から受けとる配当益金の95%相当額が非課税所得とされている。それゆえ、残り5%部分を非課税にしても大きな効果は期待できないという声があることも承知している。