素材採取家の異世界旅行記

木乃子増緒

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16巻

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 皆さんこんにちは、素材採取家のタケルです。
 この自己紹介をするのに違和感を覚えなくなってきた今日この頃。朝起きて鏡を見ても、鏡に映る己の顔に驚くことはなくなりました。
 前世の己は少々天パ気味だったのですが、今世の俺は言うことを素直に聞いてくれる真っすぐな髪なのです。
 天パ民は真っすぐな髪にあこがれ、直毛民はゆる毛パーマに憧れると言います。
 隣の芝生は青く見えるものですね。だがしかし、真っすぐな髪のほうが髪巻いたりして楽しめるじゃないか、天パは何をやってもくるくるで、梅雨つゆの時期なんかくるくる頭で言うこと聞いてくれない髪にジェル塗ったくってハードスプレーぶちまけてなんとか髪型を保っていたものだ。営業は身だしなみ大事。
 いや、天パの苦労を語りたいわけではない。
 俺がマデウスに転生して日々を過ごし、なんやかんやと色々な経験を経て、やっとこさ慣れてきましたよ、という話をしたいわけだよ。
 いやいや、慣れたといっても平和な日常が続く日だけのことだけども。
 空から子供が落っこちてきたり、謎のウーパールーパーみたいなしゃべる聖獣が俺の顔面に取りついたりといった突発的騒動は次から次へといてくるが、それも慣れてしまった。
 採取家としての仕事も今までの経験と本などの知識を取り入れ、自身の目を鍛えるために魔法を使わないようにしている。
 採取依頼の多い薬草やハンマーアリクイのうんこなどの素材は、なんとなくここらへんにあるだろう、という勘で探すことができるようになった。勘というか経験則だな。動物の習性や植物の植生、そんな基礎的知識は本に掲載されている。あとは経験を重ねた結果、マニュアル通りに自生している薬草や野草くらいならば見つけられるようになる。慣れってやつ。
 これもまた何かしらの異能やら技能やらが関係しているのかもしれないが、使えるものは使う。
 朝起きたら急に魔法が全て使えなくなったらどうしよう、という不安もあるのだ。
 あの「青年」、俺にたくさんの技能を与えてくれたが、気まぐれに「やっぱやーめよ、魔法の力を取り上げよう」となってもおかしくはない。なんせ気まぐれに俺をぶち殺して転生させたヤツだからな。
 神ってのは基本的に自己中で自分勝手なので、いや特定の誰とは言わないが、プニさんとかリベルアリナとか言わないが、いつ何時なんどき俺の日常が崩壊するかもしれない可能性を考えておかねばならない。
 ある日突然魔法が使えなくとも、ある程度の知識と経験で採取家を続けたいからだ。
 何事にも絶対はないし、永遠もない。永遠に近いものはあるかもしれないが、それでも絶対はない。
 俺の根幹はビビリだからな。
 最悪なことをまず考え、最善になるようコツコツと経験を積み重ねていく性格だ。
 俺が所属する蒼黒そうこくだんの団員は、人外――読んで字の如く人外しか所属していないので、俺が魔法を使えなくなったとしてもチームの存続が危ぶまれることはないだろう。個々の能力が突出しているからな。仲間の邪魔にならない程度には頑張りたい所存。ご飯たくさん作ります。
 北の大陸に拉致らちられた時、魔素の少なさのせいで俺は魔法が満足に使えなかった。あの時のような思いはできればしたくない。
 清潔魔法が使えなくなったのが何より苦しかった。食後に歯を磨けない、汗をかいたのに風呂に入れない、体臭ふんわりの服を着替えたくても替えがないから汚れた服をそのまま着ていたあの苦行。元日本人にとっては何よりの苦行。
 転移門ゲートが使えなくなるのもきついな。
 プニさんに頼んでの馬車移動に頼り切りになってしまう。プニさんのご機嫌を伺いつつ、プニさんの好物を大量に用意しないといけないわけだ。ぶっちゃけめんど……
 マジックバッグが使えなくなるのも困る。
 トルミ村産の魔法の巾着きんちゃく袋、トグルバッグが流行しつつあるが、あれは無制限に何でもかんでも詰め込めるわけではないし、時間停止の機能もない。バッグの中に入れたものを維持する魔法はあるが、定期的に魔力を注がなくてはならないし、魔力を注げるほどの魔力の持ち主は限られている。最近ではトグルバッグに魔力を注ぐだけのお仕事もあるのだとか。主に魔導士や魔力が多い人の副業らしい。
 俺が魔法を使えなくなった日を考えて各種魔道具作りは考えている。
「青年」よ。俺はマデウスを大いに満喫しているのだから、今更妙な茶々を入れて魔法を取り上げたりしないでください。
 このありがたい魔法があるからこそ、トルミ村に落っこちてきた有翼人の子供、ルカルゥとその守護聖獣チャルタラのザバが恐れていた謎の白いイソギンチャク――正式名をポンポンジャクの正体がこんにゃくだとわかったのだから。こんにゃくの食感によく似たイソギンチャクなのだけども。
 俺たち蒼黒の団はプニさんが引く空飛ぶ馬車に乗り、エステヴァン子爵に借りた導きの羅針盤を頼りに有翼人が暮らす国、空飛ぶ島のキヴォトス・デルブロン王国へと到着した。
 ルカルゥとザバを故郷に戻すことができたのだけども。
 有翼人が住まう空飛ぶ島、キヴォトス・デルブロン王国は王国ではあるが王政ではない。有翼人があがめる尊い神がてっぺんにいて、神の代弁者であり神の子と呼ばれるルカルゥが最高指導者。だがしかしルカルゥはまだまだお子さんなので、巫女みこパオネが実質の指導者として存在している。
 だが国を支配していたのはパジェイリーアという家であり、純白の翼を持つ白装束の者たちを「ル・ナーガ」と呼称するのだが、そのル・ナーガの筆頭であるパジェイリーア家が白い翼ではなかったという事実を暴露してしまった――のは、俺です。また陰謀やらにぶち当たって俺のサスペンス劇場マニア知識がフル回転してしまい、伝統ある有翼人のおうちが一つ消えました。
 パジェイリーアとその取り巻きのル・ナーガたちは、ルカルゥが地上にいたからってけがれがどうたらこうたらと難癖なんくせをつけ、とげだらけのポンポンジャク(棘イソギンチャク)でルカルゥをたたいたのだ。
 ザバが顔面を涙と鼻水にまみれさせて俺たちに助けを求めてくれたおかげで、俺たちはルカルゥを助けることができたのだけど。
 ポンポンジャクで叩かれたルカルゥのあざ、思い出すと腹が立つ。あんなに幼い子供にムチを打つだなんて。
 穢れをはらうためだとか言って、最低な悪習だよな。
 それは有翼人が崇める神が望んだことではない個人の鬱憤うっぷん晴らしだったことがわかり、神に仕える巫女パオネによって今後ポンポンジャクを用いての折檻せっかんは禁止された。
 そうそう、巫女パオネの頑張れダイエット作戦は順調。
 ルカルゥが慕うパオネによって俺たちは信用してもらい、国の中央にそびえ立つ真っ赤な珊瑚さんごの聖なる塔に上る許可を得た。
 数百年間閉ざされていた塔だが、導きの羅針盤が鍵となって入り口の扉が開いてしまいましてね。これはもう入れってことでしてね。
 導きの羅針盤は塔のてっぺんを目指せと言った。
 なぜわざわざ塔のてっぺんまで案内するんだ。有翼人ではない俺たちに何を求めているのか。それとも、これも「青年」からのちょっかい?
 塔の中は数百年閉鎖されていたせいか、エルフのさとの近くにあるキエトのほらと同じ、濃い魔素まみれでモンスターが狂暴化していた。
 そんなモンスターと戦いながら、俺たち蒼黒の団は一段一段階段を上り……
 いや、スッスに至っては飛び跳ねていたな。クレイは大ジャンプして階段を数十段飛ばししていた。ブロライトはモンスターからモンスターへと殺しながら飛び移るという軽業かるわざを披露。俺は殿しんがりで結界魔法を展開しつつ素材を採取し、ルカルゥとザバを守るお仕事です。
 そうして見つけたこんにゃく。
 いや、白いポンポンジャクの亜種がこんにゃくの食感と味に似ていたのだ。
 これは大発見。こんにゃく欲しかった。
 塔のてっぺんに何が待ち受けているのか。
 もしかして味噌みそとかあったりしちゃう? えっ、どうしよう味噌欲しい。めっちゃ欲しい。味噌味にそっくりな海鮮モンスター生息していないかな。むしろいろ。存在しろ。蔓延はびこっていろ。
 味噌寄越せ。



 1 こんにゃくを食べよう


 俺が開発をした「なんちゃってめんつゆ」という調味料が存在する。
 前世の日本で食べていためんつゆとは若干味が違うのだが、日本の調味料がマデウスに存在しないなか、それでも似たような味を作り出せたのは大成功だと言えよう。
 マデウスには――少なくとも東の大陸グラン・リオ内には存在していない調味料、みりん。
 俺はみりんが必要な簡単なめんつゆの作り方を覚えていた。出汁だしとみりんと醤油で作るやつ。
 原材料はよくわかっていないが、みりんに含まれるアルコール成分のせいで、未成年はみりんが購入できないとかなんとかかんとか? それを知ったのは十八歳で一人暮らしをした時だった。
 大体、みりんそのものの味すらわからないからな。みりんって飲んだ人いる? 味見くらいはするもの? 酒に砂糖を入れたらみりんになるという話も聞いたことがあるが、マデウスには日本酒がないわけで。
 発酵させたり米こうじが必要だったりと、知識としてはうっすら覚えているが、いざみりんを作ろうとしたら無理でした。
 みりんも欲しいが味噌のほうがもっと欲しい。味噌汁飲みたい。豚汁飲みたい。
 前世の同僚が自家製味噌を手作りしていて、大豆を蒸して麹がどうので塩でふたをして発酵させてどうのこうのと。
 作り方を教えてもらったのだが、自分では作らなかったため、詳しいことはこれまたぼんやりとしている。マデウスにコウジカビって存在するのだろうか。
 何はともあれ、この「なんちゃってめんつゆ」。正式名はそのまま「めんつゆ」としてベルカイムで好評発売中。
 ルセウヴァッハ領主ベルミナントに差し入れをしためんつゆがとてもお気に召されたようで、ベルミナントはめんつゆをベルカイムの名産品としたいと相談してきた。よしきた領主公認めんつゆ大量生産さーせよ。
 ということで、俺はベルカイムの料理人を一堂に集め、めんつゆ開発に着手した。俺は主に味見をする係だったのだが、俺の記憶を頼りに俺の故郷の特殊調味料を料理人は懸命に作ってくれた。
 俺が持ち込む食材=美味うまい。
 という謎の方程式はスッスが広めたらしく、俺の記憶にある調味料が不味まずいわけがないというプレッシャーのもと、俺も採取家としての仕事の合間にめんつゆ研究会(いつの間にか命名されていた)に通っては協力をした。大判焼き研究会というのも発足していたっけ。今では大判焼きもベルカイム名物です。
 そうして試行錯誤の結果、めんつゆは爆誕した。味見をした俺がつい涙をこぼしたのは言うまでもない。これで料理がもっと美味くなると思った瞬間だった。
 めんつゆは商人を介してアルツェリオ王国内にも広まりつつある。
 王都の握り飯専門店では全店舗にめんつゆが常備されているそうだ。
 めんつゆに各種調味料を追加すれば、牛丼や豚丼ができる。
 餅に絡めればみたらしっぽくなるし、うどんと絡めて野菜といためれば焼きうどんにもなっちゃう優れもの。
 野菜炒めにも使えるこの素晴らしい調味料めんつゆ。
 蒼黒の団はベルカイムで仕入れているが、トルミ村と王都でも好評発売中。エルフの郷とドワーフの国でも作っている。
 それぞれの地や種族が作ることによって、それぞれ若干の味の違いが出てくるのが面白い。
 ただいま、俺、クレイ、ブロライト、スッス、ルカルゥ、ザバは空飛ぶ島の中央に聳え立つ真っ赤な巨大珊瑚を攻略中。
 まだまだてっぺんが見えない暗闇の天井を目指し、濃い魔素の影響で荒れ狂ったモンスターたちを倒しながら階段を上り……鋭意休憩中でございます。
 俺がちょっと休みましょうと声をかけなければ、戦闘狂……いや、頼もしい仲間たちは百階、二百階と平気で階段を飛び跳ねるからな。俺の身体というか精神力が持たない。各種耐性がある俺だが、心が疲れれば身体も疲れるものだ。
 全員が螺旋階段を三百段上ったところで無理やり休憩を挟んだ。
 毎度お馴染み、結界魔法の外には凶悪なモンスターがみっちりとひしめき合っている。おぞましいはずのこの光景にも慣れたものだ。
 ついでに結界バリアの外でへばりついていた白ポンポンジャクを捕獲してしまう。

「きんぴらごぼうに千切りしたこんにゃくを追加で炒める。それだけできんぴらごぼうの食感が更に面白くなるし、美味おいしくなる」


 足を切ったのにまだグネグネとグネる白いポンポンジャクを片手に、胡散臭うさんくさそうに俺を見つめる皆に言った。

「これは、俺の故郷でよく食べられていた『こんにゃく』という食材に似ているんだ。いいや、食感と味はこんにゃくとしか思えない」
「……カニといいごぼうといい、お前の故郷ではよほどひもじい思いをしたのだな」

 違うから。
 先人の知恵と言いなさいクレイさん。
 そんなクレイの頭上にはほのかに光る頭虫あたまむし(ハムズ)たち。クレイがあれだけ素早く動いて激しく戦闘を繰り広げていたというのに、五匹のハムズらは相変わらずのんびりとふわふわしている。でたい。触りたいけど触らせてくれないから悲しい。
 地球のこんにゃくは芋から加工するものであり、凝固剤を投入やらすりつぶし作業やらと手間暇かけて作られているものだ。
 それがマデウスではイソギンチャクの一種。足? を切ってしまえばでて食べられる優れもの。素晴らしい。
 俺は全員が食べられるだけのポンポンジャクをかばんから取り出し、さくさくと茹でる。
 一足歩行をしているように見えて、内臓は一切ない。頭から根本近くまで全てがこんにゃくでできている不思議生態ポンポンジャク。面白い。

「疑い深いなあ。カニだってごぼうだって美味かったじゃないか。見た目がアレでこんなでも、調理次第で恐ろしく美味くなるんだぞ」

 グネるポンポンジャクの根っこを再度ハサミで切り落とすと、ポンポンジャクは大人しくなった。ポンポンジャクよ。この尊い命は皆の血となり骨となるのだ。こんにゃくって低カロリーのダイエット食だけども。
 ポンポンジャクはルカルゥやザバにとっては嫌な思い出しかないむち
 だがしかし、その正体はとても美味いこんにゃくだと知れば、今後ポンポンジャクを見つけても恐怖を覚える前に食材として見てくれるかもしれない。
 恐怖を食欲で上塗りしてやれば良い。
 俺は手早くポンポンジャクを湯通しして棘を落とすと、まな板の上でさくっと千切り。湯通しの湯に塩を入れているので、同時にアク抜きもできる。ポンポンジャクにアクがあるのかはわからないが、これはもうこんにゃくにしか見えないのでこんにゃくとして扱わせてもらう。
 作り置きしていたきんぴらごぼうを鞄から取り出し、熱したフライパンに投じて再度加熱。刻んだこんにゃくを入れてめんつゆと各種調味料で味を調整。めんつゆはきんぴらごぼうにも使えるよ。
 ここに刻んだ油揚げを入れても美味いのだが、まだ豆腐は発見していない。
 豆腐は俺のうっすら知識で作れそうな気もするのだが、にがりの作り方がぼんやりしている。にがりは海水を煮詰めた苦い汁だっけ。マデウスにプディングは存在しているから、それの応用でなんとかなるかなとも思っているが、豆腐は豆腐で独特の作り方をするからな。いつか豆腐研究会も発足したい。
 調査スキャン先生は素材の調理法をお勧めしてはくれるが、地球の調理法レシピは教えてくれない。あくまでもマデウス内での情報に限られているのだ。

「確かにタケルの見つける食材に間違いはないのだが……それは、アレだぞ?」

 クレイがきんぴらごぼうを炒める俺に言った。
 視線の先には俺のローブを掴んで興味深げにフライパンを見つめるルカルゥ。
 ザバは俺の頭にへばりついてビーと小競こぜり合い中。俺の頭は誰かの縄張りではないぞ。

「恐怖の対象を食ってしまえばいいんだ。俺は初め黒豚のことが少し怖かったが、食ってみたら美味いことがわかって今では食材としか思えなくなっている」
「それはお前の非常識な考え方であろう。ルカルゥはまだ幼き子供であるぞ」

 失礼だな。
 俺の考え方は非常識なのか? いや違うはずだ。水族館の巨大水槽で悠々と泳ぐマグロを見て美味そうと思う感覚と同じはず。サンマだって美味そうだと思うだろう? いやまあ、悠々と泳ぐ姿綺麗だなーって思う感情もありますとも。
 蒼黒の団にとってとんでもなく獰猛どうもうなモンスターが相手でも、その血肉が美味いとわかれば恐れなど吹き飛ぶだろう。恐怖より食欲が勝つんだよな、俺たち。
 クレイが心配する気持ちもわかる。だから強制は決してしない。
 だがなあ。
 ルカルゥとザバ、完全にこんにゃく入りきんぴらごぼうに興味を示しているのだ。恐怖を興味が上回る瞬間に俺は今立ち会っている。

「兄貴が美味いっていうものに嘘はないし、兄貴が作る料理に不味いものはないっす。おいらは食いたいっす」

 スッスが両手に皿とフォークを持って待機中。
 ブロライトもスッスと同じ体勢で深くうなずいた。

「クレイストン、案ずるな。どれだけ恐ろしい存在であろうと、食うてみればとてつもなく美味かったカニがおるのじゃ。わたしは蛇だろうと百足むかでだろうと美味ければ食うぞ」

 百足は食ってはいけません。虫はやめてお願いだから。
 きんぴらごぼうを炒め終わると、最後にゴマを振りかける。ゴマは何かしらの穀物の種なのだが、味がゴマなので俺はゴマと呼んでいる。
 一口味見をして俺は頷く。
 これは、完全にこんにゃくの入ったきんぴらごぼうだ。あとで刻んだたかの爪を入れても良いな。トルミ村の飲兵衛のんべえたちは味がより濃いほうが好きだろう。
 ポンポンジャクはただの食材。こんにゃく。
 食べるのは本人の意思。
 円座していた中央のちゃぶ台にフライパンごと置いてしまうと、スッスは我先にときんぴらごぼうをトングで掴んで用意していたそれぞれの皿に入れていた。
 結界バリアの外に桃色のポンポンジャクがうごめくのを見つけてしまい、あれもすぐに採取してやると誓う。ルカルゥの視界に動くポンポンジャクが入らないように体をずらし、俺はお箸できんぴらごぼうをつまむ。

「どうする? 食べてみる?」

 無理強いをしないようにこんにゃくを咀嚼そしゃくしながら問う。
 こんにゃく美味い。
 味もちょうどいいな。
 これは煮物に入れても良いし、鍋に入れても良いな。てりやきソースをかけてこんにゃく玉を串で食べても美味いだろう。ベルカイムの屋台村に新しいメニューが加わりそうだ。
 これは米を食わねばな。
 俺は鞄の中から巨大な飯櫃めしびつとしゃもじを取り出し、きんぴらごぼうの入った皿にほかほかご飯をよそった。
 この巨大な飯櫃はほかほかご飯を入れた状態であと十個は鞄に入っている。いつどんな状況でも腹を満たせるよう、トルミ村の食堂に頼んで作ってもらったのだ。
 大体飯櫃一つに対して一袋いったいおよそ三十キロの米が一回の食事で消え去る蒼黒の団。恐ろしい子。
 俺の真似をして皆もご飯をよそう。
 クレイがきんぴらごぼうを口に運び、苦虫でも噛んだような咀嚼を繰り返していたが、次第に顔は柔和になりぽつりとつぶやいた。


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