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1巻
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幸せな結婚がしたい。
ただそれだけを望んでいるのに、どうしてこうも上手くいかないのだろう?
今年、二十代最後の年を迎えた賀上愛菜は鏡を見つめながら大きくため息をついた。
「真面目だし、性格だってそこそこいいはず。スキンケアやボディメイクにもそれなりに手をかけてるのに、どうして良縁に恵まれないの」
愛菜は顔全体に基礎化粧品を丁寧に塗り込んだあと、細心の注意を払いながらメイクアップをしていく。
時計代わりにつけているテレビから、午前七時の時報が聞こえてきた。気象予報士が、今週末に秋雨前線が近づいてくると予想する。それに続いたのは、奇しくも婚活アプリに関する話題だった。
(そんなもの、とっくに試したわよ。だけど、時間を浪費しただけだったな)
ほかにも、婚活パーティや婚活イベント、街コンにも参加した。しかし、気になる男性はいても、交際には至らず、付き合えても長続きせずにお別れする事になった。
別に、分不相応な高望みをしているわけではない。
望むのは浮気をしない誠実さと、向上心を持って仕事に取り組む姿勢のみ。
経済力はあるに越した事はないが、生活のレベルは夫婦二人で保つものだ。
もともと人に頼るよりも頼られるほうが好きだし、結婚したからといって専業主婦となり夫の収入に依存する気などさらさらない。現に、大学卒業後、新卒で大手企業の「新田証券」の本社に入社し、順調にキャリアアップして現在はマーケティング部で活躍中だ。結婚願望は強いが、それと同じくらいの熱量で仕事にも取り組んでいる。
それに、入社当初から会社の制限下できちんと資産運用をしてきたおかげで、数年くらいなら無職でも生活していけるだけの貯蓄もある。
だから、あとはパートナーを見つけるだけなのだが――
ここまできたら、いよいよ結婚相談所の利用を考えたほうがいいのかもしれない。
「でも、それなりに費用がかかるし、もうちょっと自力で頑張ってみるかな。……あ~、恋人がほしい! 私と心底愛し合える人、どこにいるの?」
鏡に向かって問いかけても、答えが返ってくるはずもない。
愛菜はフンと鼻を鳴らしながら、先日デパートの化粧品コーナーで買ったフェイスパウダーでメイクの仕上げをした。
「これでよし、と」
愛菜の顔の輪郭は卵型で、各パーツのサイズが若干大きい。そのせいか、すっぴんだと実年齢よりも若く見られがちだ。そのため、メイクはいつも年相応に見えるよう人一倍気を遣っていた。
百六十五センチある身長は、ハイヒールを履けば百七十センチを超える。メイク同様、服装も意識的に大人っぽく見えるものを着るよう心掛けていた。
会社までドアツードアで約四十分の距離にあるマンションを出て、最寄り駅に向かう。通りすがりにある商店街のショーウィンドウに映る自分をチラリと見て、黒のパンツスーツの襟を正す。
今日のコーディネートのメインカラーは黒だが、スカーフとバッグは少し明るめのボルドーだ。
肩より少し長い髪はひとつ括りにしてあり、前髪はサイドにきちんと撫でつけている。
テーマは、仕事のできるキャリアウーマンといったところだろうか。身長があるので、我ながら結構様になっていると思う。
出社の際、ここまで外見に気を配るのには、理由がある。
愛菜は仕事に関して常にストイックなモチベーションを保ってきたし、与えられた業務にいつも全力で取り組んでいるおかげもあって、これまでにいくつもの実績を上げてきた。
けれど、社内には未だに脳味噌が昭和仕様になっている上司もいる。
入社して最初に配属された業務統括部で、上司の田代という男性から、女性という理由だけで不当な扱いを受けた。部内会議で発言しても軽く受け流されたり、そうかと思えば出したアイデアをまるまる横取りされたりした。
年々企業に対するコンプライアンスがうるさくなっているし、社内にも専門の部署がある中で、よもや堂々とそういった事をする上司がいるとは思ってもみなかった。
もともと曲がった事が嫌いな愛菜は、そのまま黙っていられるはずもなく、人事部の相談窓口にアポイントを取って事実関係を説明した。
結果、愛菜の主張は正当なものだと認められ、田代はコンプライアンス部から注意勧告を受けたが、おそらくそういった行動が煙たがられたのだろう。
『賀上愛菜はクソ生意気』
『ペーペーのくせに上司にたてつく厚顔無恥女』
誰が言い出したのか、そんな噂が瞬く間に広がり、愛菜は本社で一番有名な新入社員になった。
噂を全面的に否定するつもりはないし、言わせたい奴には言わせておけばいい。そんなスタンスで日々真面目に勤務してきたし、くだらない噂を跳ね返すべく人一倍仕事に打ち込んできた。
愛菜が常にメイクとファッションに注力しているのは、周囲に舐められないためのセルフコーディネートであり自己防衛の手段だった。
最寄り駅に到着し、会社に続く通路を大股で歩く。
新田証券の本社は東京でも一、二を争うビジネスの中心街にある。駅に直結している建物は、地下四階、地上四十二階の高層ビルだ。中は地上七階までのショッピング&レストランエリアと、それより上階のオフィスエリアに分かれており、新田証券は二十二階から三十階に入居している。
(今日の会議のプレゼンは、ぜったいに成功させなきゃ。それが顧客のため、ひいては会社での自分の将来に繋がるんだもの)
オフィスエリア専用のエレベーターで二十六階に向かい、居合わせた同僚たちと挨拶を交わしながら、まっすぐ自分のデスクに向かった。着席してすぐにパソコンを立ち上げ、やりかけの顧客データの集計と分析に取り掛かる。
愛菜は入社後、およそ二年ごとのジョブローテーションでいくつかの部署を経験し、六年目に今の部署であるマーケティング部に配属された。
現在はウェブ広告やキャンペーンの企画・実行を担当しており、新規顧客の獲得と既存顧客の取引量増加を目標に業務にいそしんでいる。
作業に没頭し思いついた事をメモ書きしていると、愛菜宛に内線電話がかかってきた。
かけてきたのは、社長担当の秘書課長で、これからすぐに三十階にある役員会議室に来るように言われた。
(え? 役員会議室って……。私、何かしでかした?)
入社して以来、役員会議室に呼び出された事など一度もない。念のため、マーケティング部部長の馬場に確認してみたが、思い当たる節はないと言う。
「まあ、気軽な感じで行ってみたら?」
笑顔の馬場に見送られ、愛菜は内心ドキドキしながら役員会議室に向かった。
(週明け早々、いったいなんなの?)
三十階は役員専用エリアになっており、通常のフロアとは雰囲気からして違っている。
指定された会議室の前に立ち、軽く深呼吸をしてからドアをノックした。許可を得てドアを開け、中にいる人が誰であるか理解するなり目を剥いて固まる。
「やあ、来たね」
愛菜に声を掛けてきたのは、新田証券代表取締役社長の新田健一郎だ。それだけでも驚くのに、会議室用の長テーブルの一番奥には親会社である新田グルーブ株式会社代表取締役会長の新田幸三までいる。日本屈指のグループ会社の会長だけあって、威風堂々としていて、ものすごいオーラを感じる。
幸三は新田グループの創業者一族の直系であり、健一郎は彼の甥だ。自社の社長なら、これまでに何度も見かけた事があったけれど、直接話す機会などなかったし、ましてや親会社の会長ともなると遥か雲の上の人だ。
「まあ、こっちへきて掛けたまえ」
健一郎に促され、愛菜は顔にビジネススマイルを貼りつけながら彼の左隣の席に腰を下ろした。
長身で穏やかそうな風貌をしている健一郎は、現在四十代後半。大学卒業後いくつかの企業に勤務したのち、幸三の兄である健一郎の父親が社長を務める新田証券に入社し、数年間社長秘書をしていた。
社長が亡くなったあと、幸三の意向で親族ではない役員が一度社長に就任したが、今から二年前の春、健一郎がそのあとを継いだのだ。
「さっそくだが、賀上くん。君には今、結婚を前提にお付き合いをしている男性はいるかな?」
唐突にプライベートな質問をされて、愛菜は微かに表情を強張らせた。いくら社長とはいえ、いったいなんの目的があって、そんな事を聞くのだろう?
「いや、これはセクハラではなく、必要な質疑応答のひとつだ。このあとも、いくつか質問をさせてもらうが、すべて我が社の将来に関わってくるものだと思って正直に答えてもらいたい」
「はい、わかりました」
これがセクハラでなく、なんだと言うのか。そう思いつつも、会社の将来のためと言われたら応じないわけにはいかない。
愛菜は感情を抑え、質問に答えた。
「今現在、結婚を前提にお付き合いしている男性はいません」
「では、それ以外に特別親しくしている男性はいるかね?」
健一郎の視線が、愛菜の顔から彼が持っている薄い資料に移った。彼は何かしらそこに書き込みをして、再度顔を上げて愛菜を見る。
「いえ、おりません」
「よろしい。君の健康状態についてもデータを閲覧させてもらったが、特に持病もなく極めて健康で身体的にも申し分ない。
仕事もできるし、人事関係の評価も上々だ。自己表現能力も高くリーダーシップもある。総合的に見て、私たち二人は君になら安心して任せられると判断した」
健一郎が同意を求めるように、幸三のほうに顔を向ける。それまでひと言も発しなかった幸三が、低い声で「うむ」と言った。
来年古希を迎える彼は、彫りの深い顔立ちをしており、白くなった髪は綺麗にうしろに撫でつけられている。それきりまた口を噤んだ幸三が、愛菜の顔をまっすぐに見つめてきた。
穏やかではあるが、その目力は強く圧倒的なパワーがある。
愛菜が瞬きもできずにいると、幸三がふと目を細め、ゆっくりと口を開いた。
「時に賀上くん。副社長の新田雄大と直接会って、話をした事はあるかね?」
「いいえ。何度かお見掛けした事はありますが、すれ違いざまにご挨拶させていただいただけで話した事はありません」
新田雄大は幸三の一人息子であり、二十七歳にして新田証券株式会社の取締役副社長兼戦略企画部長の職に就いている。聞くところによると、幼い頃から頭脳明晰だった彼は、小学校卒業と同時に渡英し、現地に古くからあるエリート校に入学した。卒業後も引き続きイギリスで学び、五年前に帰国しないまま新田証券に入社。新たに設立されたロンドン支局長として数々の実績を上げ、今年の春に帰国すると同時に現在の役職に就任した。
リモートではあるが、雄大はロンドンにいる時から本社の業務に深く関わっており、ここ四、五年の新田証券の業績が好調なのは社長ではなく副社長の辣腕のおかげなのではないかという噂もある。
その上、超がつくほどの美形で、知らない人が見たらトップモデルと勘違いするほどスタイルがいい。もっとも、同じ会社ではパートナーを探さない主義の愛菜にとって、彼はあくまでも勤務先の極めて優秀な副社長にすぎないのだが。
「そうか。あれは昔から努力家で、とても賢い男だ。将来は日本屈指のビジネスパーソンになる資質を十分に持っている」
そう話す幸三は強面だが、気のせいかほんの少し表情が和らいで見える。一方、健一郎はといえば、さっきからずっと薄い笑みを顔に貼りつけたまま微動だにしない。
「雄大はまだ二十七だ。人生における経験も浅く、学ぶべき事は山ほどある。仕事に関しては、さほど心配していない。だが、今後も引き続きビジネスの高みを目指そうとするなら、もっと世の中を学び、私生活も充実させるべきだ。そうは思わないかね?」
幸三の話を聞きながら、愛菜は適切なタイミングで相槌を打った。
確かに、人は仕事のためにだけ生きているわけではないし、プライベートがビジネスに影響を及ぼす事がないとも限らない。
雄大の私生活については知る由もないが、彼が有能で抜群のビジネスセンスを持っている事は社内の誰もが認めている。存在感もあるし、グローバルな経歴についても周知の事実だ。
彼ほどハイスペックで容姿端麗な男性なら、きっと華やかな私生活を謳歌している事だろう。
幸三はいったい雄大の何を心配しているのだろうか?
愛菜が密かに首を捻っていると、幸三が軽く咳払いをして目の前のお茶をひと口飲んだ。
「知ってのとおり、雄大は人生のほとんどをイギリスで過ごしてきた。当然、日本の文化にはなじみが薄く、ビジネスシーンにおいて多少戸惑う事があるようだ。まあ、それはおいおいクリアできるだろう。しかし、女性に関しては、そうはいかん」
幸三が難しい顔をして、言葉を切る。彼はチラリと健一郎を見たあと、テーブルに肘をついて愛菜のほうにほんの少し身を乗り出してきた。
「雄大は、ああ見えて恋愛経験が極端に少ないんだ。別に女性が苦手とか嫌いなわけではないようだが、自分から女性と関わろうという気がないようでね。そこで――賀上くん。君をここに呼んだのは、ほかでもない君に、雄大と付き合ってもらいたいからだ」
「はあ?」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまい、ハッとして口を閉じる。しかし、驚いて見開いた目は、まん丸になったままだ。
「し、失礼しました」
突然の事に、愛菜は頭が混乱して何をどう答えていいのかわからずにいる。
「いや、驚くのは無理もない。雄大は将来、新田証券のみならずグループ全体のトップに立つ男だ。そうだね、新田社長?」
問われた健一郎が、にこやかに頷く。
「これはある意味、新田グループの社運がかかっている一大プロジェクトだ。新田社長から君を推薦されてから、私も自分なりに君の事を調べさせてもらった。その結果、君になら大事な雄大を任せられる――そう判断したんだ」
こちらを見る幸三の視線から、彼の強い意気込みが感じられる。しかし、幸三の申し出は愛菜の理解の範疇を超えすぎていた。
「で、ですが、なぜ私に――」
「君は熱心に婚活をしているようだし、雄大なら相手として悪くないと思うが?」
確かに、そのとおりだ。けれど、降って湧いたような上手い話に、愛菜は未だ戸惑いを拭い去れずにいる。
「とにかく一度、見合いという形で雄大と顔合わせをしてほしい。ただし、これはここにいる三人と雄大だけが知る極秘事項だ」
幸三曰く、雄大は事情があって女性との付き合いをほぼしないまま成人し、今に至ったらしい。
恋愛経験はほぼないに等しい上に、本人は仕事一筋で今のところ恋愛や女性に時間を費やす気はないようだ。
ゆくゆくは結婚して家庭を持ちたいという気持ちはあるらしいが、今のままでは、あらゆる面で先行きが不安なのだという。
そこでお節介とは思いつつ、どうにかして雄大に女性と付き合う経験を積ませてやりたい――
そんな親心から、今回のプロジェクトを思いついたとの事だ。
「つまり、副社長に私との恋愛を通して、女性との付き合い方を学んでもらいたいと?」
愛菜が問うと、幸三が深く頷きながら席を立った。そして、神妙な面持ちで愛菜の左隣の椅子に腰を下ろした。
「さすが、理解力が高い。どうだろう、引き受けてくれないかね? むろん、お見合いをするからには正式な婚約者候補として扱わせてもらうし、付き合ってみて気に入らなかったら断ってくれても構わない。つまり、相手が雄大だからといって無理や遠慮はしなくていいという事だ。だが、断るにしても、せめて数回はデートしてからにしてもらいたい」
幸三の目は真剣そのもので、嘘や冗談で言っているわけではなさそうだ。
けれど、あまりに突飛すぎるし、普通に考えたら引き受けるべきではない。しかし、幸三から期待を込めた視線を送られている今、どう断ればいいものやら――
返事を躊躇していると、幸三が眉尻を下げて困ったような表情を浮かべた。
「無茶な事を言っているのは重々承知している。だが、このまま何もしなければ、雄大は自分にふさわしくない女性をパートナーに選んでしまうかもしれない。あれの母親は病気で亡くなってしまったんだが、最後まで雄大の行く末を気に病んでいてね」
静かな声でそう話す幸三が、過去を振り返るように空を見つめた。その顔を見れば、彼がいかに亡妻を大切に想っていたかが容易に想像できる。
「私は妻に代わって、雄大を幸せにする義務がある。親バカと思われるかもしれないが、それだけは、どうしても果たさなければならないんだ」
訥々とそう語る幸三は、大企業のトップというよりは息子を深く思う父親の顔をしている。
我が子の行く末を心配する親の気持ちは、わからないでもない。けれど、さすがにやり方が突飛だし、普通に見合いをして納得のいく相手を探したほうがいいような気がするが……
愛菜がそんなふうに思っていると、幸三のポケットからスマートフォンの着信音が聞こえてきた。
彼は「ちょっと失礼」と言い、受電するために部屋を出ていった。そのタイミングを見計らったかのように、健一郎が声を低くして話し始めた。
「賀上くん。君が躊躇するのも当然だ。だが、先ほど会長がおっしゃったとおり、この話には我が新田グループの社運がかかっている。引き受けてくれたら、君には相応の報酬を支給するつもりだ。むろん、雄大を振ったとしても、社内での立場は十分考慮させてもらう」
要は、引き受けるならそれなりの対価を支払うし、今後の人事考課も大いに期待できるという事であるらしい。
「どうかな、悪い話ではないだろう?」
健一郎がうっすらと微笑みながら、愛菜を見る。口元は綻んでいるが、目はまったく笑っていない。
同じ話をしているはずなのに、会長と社長ではなんとなくニュアンスが違うような気がするのは気のせいだろうか?
どこか爬虫類を思わせる健一郎の表情に、愛菜はビジネススマイルで応戦する。
「それは、会長も了承していらっしゃる話でしょうか」
「もちろんだ。私と会長の意見は一致しているし、今後も私の言葉は会長の言葉と思ってくれていい」
健一郎が自信たっぷりにそう言って、鷹揚に咳払いをする。
「付き合うといっても、そう難しく考える必要はない。君も副社長もいい大人だ。それに、日頃からプライベートを満喫している君なら、さほど難しくない依頼だと思うが?」
健一郎が、いかにも意味ありげな表情を浮かべながらにんまりと笑った。
その顔を見て、愛菜は心の中で拳を握りしめる。
(ああ、なるほど……。社長は、私に関する噂を知った上で、会長に推薦したのね)
入社一年目にして上司に物申した一件以来、生意気で厚顔無恥な女だと噂されている愛菜だが、現在はそれに謂れのない尾ひれがついている。
それは、愛菜が男好きでしょっちゅう相手を変えて遊び歩いているというものであり、端的に言えば「賀上愛菜はビッチだ」という根も葉もないものだった。
出所は定かではない。けれど、社内の事情通で人事部にいる同期社員の増田智花曰く、発信元は元上司の田代やその一派である可能性が高いようだ。
さらに言えば、田代は健一郎の腰巾着だ。健一郎が田代をどう思っているかはさておき、自分の噂は彼を介して社長の耳に入ったに違いない。そうなると、健一郎が幸三に愛菜を推薦した理由は、さっき幸三が話していた内容とは違ってくるはずだ。
「それと、これは私からの個人的な補足事項なんだが、君には後々私が責任をもって、結婚するには申し分のない相手を紹介すると約束しよう。どうかな?」
言い終えた健一郎の顔には、依然として上辺だけの笑みが浮かんでいる。彼は、愛菜が断るとは微塵も思っていない様子だ。
(ビッチならハイスペックなイケメンとの出会いは断らないだろうし、婚活をしているなら鼻先に結婚という美味しい餌をぶら下げておけば、なんでもすると思ってるんでしょうね)
社長の話で、自分がここに呼ばれた本当の理由を察する事ができた。
つまり、見合いというのは建前で、適当に付き合える相手を宛がおうとしているという事だ。
男慣れした打算的な女――
健一郎は愛菜をそんなふうに思って、白羽の矢を立てたに違いない。
見合いだなどと言われて驚いたが、そもそも一般社員の自分が、大企業の御曹司の婚約者になどなれるはずがないではないか。
そう思うなり、これまで受けてきた理不尽な誹謗中傷や、嫌がらせの記憶が胸に押し寄せてきた。
むかっ腹が立ち、微笑んでいる顔が引きつりそうになる。
この話を自分にしたのが健一郎だけなら、今頃きっぱりと断っていただろう。しかし、少なくとも幸三は、健一郎と違って会社での愛菜を正しく評価してくれているし、本気で雄大の事を考えているのが伝わってきた。
その気持ちを無碍に扱うのは忍びない。
もとより、会長直々の依頼だし、ここまで詳しく話を聞いてしまったからには断るわけにもいかなかった。
迷う気持ちはあるが、ここはいったん引き受けるのが得策だろう――
そう判断を下すと、愛菜は健一郎を見つめて表情を引き締めた。そして、通話を終えた幸三が戻ってきたタイミングで、彼に向き直った。
「承知いたしました。このお話を、お引き受けいたします」
愛菜の返事に、幸三が満足そうな顔をして頷く。
「ありがとう。さっそくだが、今週の日曜日は空いているかな?」
その後の話し合いで、お見合いは今度の日曜日に行われる事になった。場所や時間などは追って連絡をもらう手筈となり、愛菜は健一郎と個人的な連絡先を交換した。
「会長はお忙しいから、本件についての連絡は、すべて私にするように。進捗状況の報告についても同様だ」
「心得ました」
話し合いが終わると、先に幸三が席を立ち、それに健一郎が続く。
二人がいなくなった会議室で、一人座っていた愛菜は目の前の茶器を手に取ると、中身を一気に飲み干してカラカラになっていた喉を潤した。
息子を思う幸三の期待に沿いたいという気持ちはある。しかし、健一郎の思っているような展開にするつもりも、ビッチな女を演じるつもりもない。
引き受けたからには、なんらかの結果を出さなければならないが、具体的にどうしたらいいだろう?
長テーブルの端には、茶器を運んできたトレイが置かれている。
愛菜は三人分の茶器をトレイに載せ、それを持って部屋の入り口に向かおうとした。ちょうどその時、開け放たれたままのドアの向こうから幸三がひょっこりと顔を出し、驚いてハタと足を止める。
「悪いが、ちょっとだけ時間をもらってもいいかな?」
彼はそう言うと、そっとドアを閉めて足早に愛菜の近くまでやってきた。そして、スーツのポケットから出した真新しいスマートフォンを手渡される。
「これは……?」
「私と賀上くんだけの特別なホットラインだ。今後、雄大と付き合っていく上で、何かあったら健一郎に連絡をする前に私に連絡をしてほしい。私からも必要に応じて連絡を入れさせてもらう。そして、これの存在は健一郎には内緒だよ」
幸三が、いたずらっぽく口の前で人差し指を立てた。いかつい顔に、一瞬だけ少年のような表情が浮かぶ。
よもや、会長がそんな顔を見せるなんて!
驚いた顔をする愛菜に、幸三が小さくふっと笑った。
「私が部屋を出ている間に、健一郎が君に失礼な事を言ってはいないかな?」
ふと思いついたように訊ねられ、愛菜は一瞬言葉に詰まった。それを見た幸三が表情を曇らせ、何かしら察したように僅かに肩をすくめる。
「もしそうであれば、本当に申し訳ない。もう気がついていると思うが、私と健一郎では今回の件に関する考え方が違う。むろん、君に対する認識や役割についての捉え方も異なっている。だから、君に対する健一郎の態度が気になってね」
そう話す幸三の口調は、とても穏やかだ。こちらをまっすぐ見つめてくる目は優しく、それだけで彼が愛菜に関するくだらない噂を信じていないとわかった。
「お気遣い、ありがとうございます」
愛菜が微笑んで礼を言うと、幸三の顔ににこやかな笑みが浮かんだ。彼は愛菜に椅子に座るよう促し、自分はその前の席に腰を下ろした。
「雄大には、人としてもっと視野を広げ、柔軟な心を持ってほしいと思っている。だが、そのためには、頼りになる人の助けがどうしても必要でね」
幸三が、しみじみとそう語りながら、ゆっくりと瞬きをする。彼の仕草のひとつひとつから、息子への深い思いが感じられた。
「賀上くん、君はとても礼儀正しく賢明な女性だ。馬場部長のお墨付きももらっているし、私もここ最近の君の様子をこっそり見させてもらっていた」
「え……わ、私の様子を?」
「そうだ。覗き見をするような真似をして悪かったが、父親としてどうしても、直接確認しておく必要があった。その上で、君なら、雄大に新しい世界を見せてくれるかもしれないと思った。だから、あれこれ構えずに、まずは息子と会ってみてほしい」
幸三が言うには、健一郎から見合い相手の候補者の名を聞いたその日に、愛菜に関する調査を始めたらしい。その上で愛菜に依頼しようと判断してくれた事を、素直に嬉しいと思った。
「雄大はとても利発な子だ。賀上くん、息子をよろしく頼むよ」
そう話す顔には、父親としての愛情が溢れている。
健一郎の意図はさておき、幸三の父親として雄大を想う心には感銘を受けた。迷いながらも引き受けた愛菜だったが、ここまで信頼を寄せられたからには、できる限りの事はしようと決心する。
「はい、承知いたしました」
ただそれだけを望んでいるのに、どうしてこうも上手くいかないのだろう?
今年、二十代最後の年を迎えた賀上愛菜は鏡を見つめながら大きくため息をついた。
「真面目だし、性格だってそこそこいいはず。スキンケアやボディメイクにもそれなりに手をかけてるのに、どうして良縁に恵まれないの」
愛菜は顔全体に基礎化粧品を丁寧に塗り込んだあと、細心の注意を払いながらメイクアップをしていく。
時計代わりにつけているテレビから、午前七時の時報が聞こえてきた。気象予報士が、今週末に秋雨前線が近づいてくると予想する。それに続いたのは、奇しくも婚活アプリに関する話題だった。
(そんなもの、とっくに試したわよ。だけど、時間を浪費しただけだったな)
ほかにも、婚活パーティや婚活イベント、街コンにも参加した。しかし、気になる男性はいても、交際には至らず、付き合えても長続きせずにお別れする事になった。
別に、分不相応な高望みをしているわけではない。
望むのは浮気をしない誠実さと、向上心を持って仕事に取り組む姿勢のみ。
経済力はあるに越した事はないが、生活のレベルは夫婦二人で保つものだ。
もともと人に頼るよりも頼られるほうが好きだし、結婚したからといって専業主婦となり夫の収入に依存する気などさらさらない。現に、大学卒業後、新卒で大手企業の「新田証券」の本社に入社し、順調にキャリアアップして現在はマーケティング部で活躍中だ。結婚願望は強いが、それと同じくらいの熱量で仕事にも取り組んでいる。
それに、入社当初から会社の制限下できちんと資産運用をしてきたおかげで、数年くらいなら無職でも生活していけるだけの貯蓄もある。
だから、あとはパートナーを見つけるだけなのだが――
ここまできたら、いよいよ結婚相談所の利用を考えたほうがいいのかもしれない。
「でも、それなりに費用がかかるし、もうちょっと自力で頑張ってみるかな。……あ~、恋人がほしい! 私と心底愛し合える人、どこにいるの?」
鏡に向かって問いかけても、答えが返ってくるはずもない。
愛菜はフンと鼻を鳴らしながら、先日デパートの化粧品コーナーで買ったフェイスパウダーでメイクの仕上げをした。
「これでよし、と」
愛菜の顔の輪郭は卵型で、各パーツのサイズが若干大きい。そのせいか、すっぴんだと実年齢よりも若く見られがちだ。そのため、メイクはいつも年相応に見えるよう人一倍気を遣っていた。
百六十五センチある身長は、ハイヒールを履けば百七十センチを超える。メイク同様、服装も意識的に大人っぽく見えるものを着るよう心掛けていた。
会社までドアツードアで約四十分の距離にあるマンションを出て、最寄り駅に向かう。通りすがりにある商店街のショーウィンドウに映る自分をチラリと見て、黒のパンツスーツの襟を正す。
今日のコーディネートのメインカラーは黒だが、スカーフとバッグは少し明るめのボルドーだ。
肩より少し長い髪はひとつ括りにしてあり、前髪はサイドにきちんと撫でつけている。
テーマは、仕事のできるキャリアウーマンといったところだろうか。身長があるので、我ながら結構様になっていると思う。
出社の際、ここまで外見に気を配るのには、理由がある。
愛菜は仕事に関して常にストイックなモチベーションを保ってきたし、与えられた業務にいつも全力で取り組んでいるおかげもあって、これまでにいくつもの実績を上げてきた。
けれど、社内には未だに脳味噌が昭和仕様になっている上司もいる。
入社して最初に配属された業務統括部で、上司の田代という男性から、女性という理由だけで不当な扱いを受けた。部内会議で発言しても軽く受け流されたり、そうかと思えば出したアイデアをまるまる横取りされたりした。
年々企業に対するコンプライアンスがうるさくなっているし、社内にも専門の部署がある中で、よもや堂々とそういった事をする上司がいるとは思ってもみなかった。
もともと曲がった事が嫌いな愛菜は、そのまま黙っていられるはずもなく、人事部の相談窓口にアポイントを取って事実関係を説明した。
結果、愛菜の主張は正当なものだと認められ、田代はコンプライアンス部から注意勧告を受けたが、おそらくそういった行動が煙たがられたのだろう。
『賀上愛菜はクソ生意気』
『ペーペーのくせに上司にたてつく厚顔無恥女』
誰が言い出したのか、そんな噂が瞬く間に広がり、愛菜は本社で一番有名な新入社員になった。
噂を全面的に否定するつもりはないし、言わせたい奴には言わせておけばいい。そんなスタンスで日々真面目に勤務してきたし、くだらない噂を跳ね返すべく人一倍仕事に打ち込んできた。
愛菜が常にメイクとファッションに注力しているのは、周囲に舐められないためのセルフコーディネートであり自己防衛の手段だった。
最寄り駅に到着し、会社に続く通路を大股で歩く。
新田証券の本社は東京でも一、二を争うビジネスの中心街にある。駅に直結している建物は、地下四階、地上四十二階の高層ビルだ。中は地上七階までのショッピング&レストランエリアと、それより上階のオフィスエリアに分かれており、新田証券は二十二階から三十階に入居している。
(今日の会議のプレゼンは、ぜったいに成功させなきゃ。それが顧客のため、ひいては会社での自分の将来に繋がるんだもの)
オフィスエリア専用のエレベーターで二十六階に向かい、居合わせた同僚たちと挨拶を交わしながら、まっすぐ自分のデスクに向かった。着席してすぐにパソコンを立ち上げ、やりかけの顧客データの集計と分析に取り掛かる。
愛菜は入社後、およそ二年ごとのジョブローテーションでいくつかの部署を経験し、六年目に今の部署であるマーケティング部に配属された。
現在はウェブ広告やキャンペーンの企画・実行を担当しており、新規顧客の獲得と既存顧客の取引量増加を目標に業務にいそしんでいる。
作業に没頭し思いついた事をメモ書きしていると、愛菜宛に内線電話がかかってきた。
かけてきたのは、社長担当の秘書課長で、これからすぐに三十階にある役員会議室に来るように言われた。
(え? 役員会議室って……。私、何かしでかした?)
入社して以来、役員会議室に呼び出された事など一度もない。念のため、マーケティング部部長の馬場に確認してみたが、思い当たる節はないと言う。
「まあ、気軽な感じで行ってみたら?」
笑顔の馬場に見送られ、愛菜は内心ドキドキしながら役員会議室に向かった。
(週明け早々、いったいなんなの?)
三十階は役員専用エリアになっており、通常のフロアとは雰囲気からして違っている。
指定された会議室の前に立ち、軽く深呼吸をしてからドアをノックした。許可を得てドアを開け、中にいる人が誰であるか理解するなり目を剥いて固まる。
「やあ、来たね」
愛菜に声を掛けてきたのは、新田証券代表取締役社長の新田健一郎だ。それだけでも驚くのに、会議室用の長テーブルの一番奥には親会社である新田グルーブ株式会社代表取締役会長の新田幸三までいる。日本屈指のグループ会社の会長だけあって、威風堂々としていて、ものすごいオーラを感じる。
幸三は新田グループの創業者一族の直系であり、健一郎は彼の甥だ。自社の社長なら、これまでに何度も見かけた事があったけれど、直接話す機会などなかったし、ましてや親会社の会長ともなると遥か雲の上の人だ。
「まあ、こっちへきて掛けたまえ」
健一郎に促され、愛菜は顔にビジネススマイルを貼りつけながら彼の左隣の席に腰を下ろした。
長身で穏やかそうな風貌をしている健一郎は、現在四十代後半。大学卒業後いくつかの企業に勤務したのち、幸三の兄である健一郎の父親が社長を務める新田証券に入社し、数年間社長秘書をしていた。
社長が亡くなったあと、幸三の意向で親族ではない役員が一度社長に就任したが、今から二年前の春、健一郎がそのあとを継いだのだ。
「さっそくだが、賀上くん。君には今、結婚を前提にお付き合いをしている男性はいるかな?」
唐突にプライベートな質問をされて、愛菜は微かに表情を強張らせた。いくら社長とはいえ、いったいなんの目的があって、そんな事を聞くのだろう?
「いや、これはセクハラではなく、必要な質疑応答のひとつだ。このあとも、いくつか質問をさせてもらうが、すべて我が社の将来に関わってくるものだと思って正直に答えてもらいたい」
「はい、わかりました」
これがセクハラでなく、なんだと言うのか。そう思いつつも、会社の将来のためと言われたら応じないわけにはいかない。
愛菜は感情を抑え、質問に答えた。
「今現在、結婚を前提にお付き合いしている男性はいません」
「では、それ以外に特別親しくしている男性はいるかね?」
健一郎の視線が、愛菜の顔から彼が持っている薄い資料に移った。彼は何かしらそこに書き込みをして、再度顔を上げて愛菜を見る。
「いえ、おりません」
「よろしい。君の健康状態についてもデータを閲覧させてもらったが、特に持病もなく極めて健康で身体的にも申し分ない。
仕事もできるし、人事関係の評価も上々だ。自己表現能力も高くリーダーシップもある。総合的に見て、私たち二人は君になら安心して任せられると判断した」
健一郎が同意を求めるように、幸三のほうに顔を向ける。それまでひと言も発しなかった幸三が、低い声で「うむ」と言った。
来年古希を迎える彼は、彫りの深い顔立ちをしており、白くなった髪は綺麗にうしろに撫でつけられている。それきりまた口を噤んだ幸三が、愛菜の顔をまっすぐに見つめてきた。
穏やかではあるが、その目力は強く圧倒的なパワーがある。
愛菜が瞬きもできずにいると、幸三がふと目を細め、ゆっくりと口を開いた。
「時に賀上くん。副社長の新田雄大と直接会って、話をした事はあるかね?」
「いいえ。何度かお見掛けした事はありますが、すれ違いざまにご挨拶させていただいただけで話した事はありません」
新田雄大は幸三の一人息子であり、二十七歳にして新田証券株式会社の取締役副社長兼戦略企画部長の職に就いている。聞くところによると、幼い頃から頭脳明晰だった彼は、小学校卒業と同時に渡英し、現地に古くからあるエリート校に入学した。卒業後も引き続きイギリスで学び、五年前に帰国しないまま新田証券に入社。新たに設立されたロンドン支局長として数々の実績を上げ、今年の春に帰国すると同時に現在の役職に就任した。
リモートではあるが、雄大はロンドンにいる時から本社の業務に深く関わっており、ここ四、五年の新田証券の業績が好調なのは社長ではなく副社長の辣腕のおかげなのではないかという噂もある。
その上、超がつくほどの美形で、知らない人が見たらトップモデルと勘違いするほどスタイルがいい。もっとも、同じ会社ではパートナーを探さない主義の愛菜にとって、彼はあくまでも勤務先の極めて優秀な副社長にすぎないのだが。
「そうか。あれは昔から努力家で、とても賢い男だ。将来は日本屈指のビジネスパーソンになる資質を十分に持っている」
そう話す幸三は強面だが、気のせいかほんの少し表情が和らいで見える。一方、健一郎はといえば、さっきからずっと薄い笑みを顔に貼りつけたまま微動だにしない。
「雄大はまだ二十七だ。人生における経験も浅く、学ぶべき事は山ほどある。仕事に関しては、さほど心配していない。だが、今後も引き続きビジネスの高みを目指そうとするなら、もっと世の中を学び、私生活も充実させるべきだ。そうは思わないかね?」
幸三の話を聞きながら、愛菜は適切なタイミングで相槌を打った。
確かに、人は仕事のためにだけ生きているわけではないし、プライベートがビジネスに影響を及ぼす事がないとも限らない。
雄大の私生活については知る由もないが、彼が有能で抜群のビジネスセンスを持っている事は社内の誰もが認めている。存在感もあるし、グローバルな経歴についても周知の事実だ。
彼ほどハイスペックで容姿端麗な男性なら、きっと華やかな私生活を謳歌している事だろう。
幸三はいったい雄大の何を心配しているのだろうか?
愛菜が密かに首を捻っていると、幸三が軽く咳払いをして目の前のお茶をひと口飲んだ。
「知ってのとおり、雄大は人生のほとんどをイギリスで過ごしてきた。当然、日本の文化にはなじみが薄く、ビジネスシーンにおいて多少戸惑う事があるようだ。まあ、それはおいおいクリアできるだろう。しかし、女性に関しては、そうはいかん」
幸三が難しい顔をして、言葉を切る。彼はチラリと健一郎を見たあと、テーブルに肘をついて愛菜のほうにほんの少し身を乗り出してきた。
「雄大は、ああ見えて恋愛経験が極端に少ないんだ。別に女性が苦手とか嫌いなわけではないようだが、自分から女性と関わろうという気がないようでね。そこで――賀上くん。君をここに呼んだのは、ほかでもない君に、雄大と付き合ってもらいたいからだ」
「はあ?」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまい、ハッとして口を閉じる。しかし、驚いて見開いた目は、まん丸になったままだ。
「し、失礼しました」
突然の事に、愛菜は頭が混乱して何をどう答えていいのかわからずにいる。
「いや、驚くのは無理もない。雄大は将来、新田証券のみならずグループ全体のトップに立つ男だ。そうだね、新田社長?」
問われた健一郎が、にこやかに頷く。
「これはある意味、新田グループの社運がかかっている一大プロジェクトだ。新田社長から君を推薦されてから、私も自分なりに君の事を調べさせてもらった。その結果、君になら大事な雄大を任せられる――そう判断したんだ」
こちらを見る幸三の視線から、彼の強い意気込みが感じられる。しかし、幸三の申し出は愛菜の理解の範疇を超えすぎていた。
「で、ですが、なぜ私に――」
「君は熱心に婚活をしているようだし、雄大なら相手として悪くないと思うが?」
確かに、そのとおりだ。けれど、降って湧いたような上手い話に、愛菜は未だ戸惑いを拭い去れずにいる。
「とにかく一度、見合いという形で雄大と顔合わせをしてほしい。ただし、これはここにいる三人と雄大だけが知る極秘事項だ」
幸三曰く、雄大は事情があって女性との付き合いをほぼしないまま成人し、今に至ったらしい。
恋愛経験はほぼないに等しい上に、本人は仕事一筋で今のところ恋愛や女性に時間を費やす気はないようだ。
ゆくゆくは結婚して家庭を持ちたいという気持ちはあるらしいが、今のままでは、あらゆる面で先行きが不安なのだという。
そこでお節介とは思いつつ、どうにかして雄大に女性と付き合う経験を積ませてやりたい――
そんな親心から、今回のプロジェクトを思いついたとの事だ。
「つまり、副社長に私との恋愛を通して、女性との付き合い方を学んでもらいたいと?」
愛菜が問うと、幸三が深く頷きながら席を立った。そして、神妙な面持ちで愛菜の左隣の椅子に腰を下ろした。
「さすが、理解力が高い。どうだろう、引き受けてくれないかね? むろん、お見合いをするからには正式な婚約者候補として扱わせてもらうし、付き合ってみて気に入らなかったら断ってくれても構わない。つまり、相手が雄大だからといって無理や遠慮はしなくていいという事だ。だが、断るにしても、せめて数回はデートしてからにしてもらいたい」
幸三の目は真剣そのもので、嘘や冗談で言っているわけではなさそうだ。
けれど、あまりに突飛すぎるし、普通に考えたら引き受けるべきではない。しかし、幸三から期待を込めた視線を送られている今、どう断ればいいものやら――
返事を躊躇していると、幸三が眉尻を下げて困ったような表情を浮かべた。
「無茶な事を言っているのは重々承知している。だが、このまま何もしなければ、雄大は自分にふさわしくない女性をパートナーに選んでしまうかもしれない。あれの母親は病気で亡くなってしまったんだが、最後まで雄大の行く末を気に病んでいてね」
静かな声でそう話す幸三が、過去を振り返るように空を見つめた。その顔を見れば、彼がいかに亡妻を大切に想っていたかが容易に想像できる。
「私は妻に代わって、雄大を幸せにする義務がある。親バカと思われるかもしれないが、それだけは、どうしても果たさなければならないんだ」
訥々とそう語る幸三は、大企業のトップというよりは息子を深く思う父親の顔をしている。
我が子の行く末を心配する親の気持ちは、わからないでもない。けれど、さすがにやり方が突飛だし、普通に見合いをして納得のいく相手を探したほうがいいような気がするが……
愛菜がそんなふうに思っていると、幸三のポケットからスマートフォンの着信音が聞こえてきた。
彼は「ちょっと失礼」と言い、受電するために部屋を出ていった。そのタイミングを見計らったかのように、健一郎が声を低くして話し始めた。
「賀上くん。君が躊躇するのも当然だ。だが、先ほど会長がおっしゃったとおり、この話には我が新田グループの社運がかかっている。引き受けてくれたら、君には相応の報酬を支給するつもりだ。むろん、雄大を振ったとしても、社内での立場は十分考慮させてもらう」
要は、引き受けるならそれなりの対価を支払うし、今後の人事考課も大いに期待できるという事であるらしい。
「どうかな、悪い話ではないだろう?」
健一郎がうっすらと微笑みながら、愛菜を見る。口元は綻んでいるが、目はまったく笑っていない。
同じ話をしているはずなのに、会長と社長ではなんとなくニュアンスが違うような気がするのは気のせいだろうか?
どこか爬虫類を思わせる健一郎の表情に、愛菜はビジネススマイルで応戦する。
「それは、会長も了承していらっしゃる話でしょうか」
「もちろんだ。私と会長の意見は一致しているし、今後も私の言葉は会長の言葉と思ってくれていい」
健一郎が自信たっぷりにそう言って、鷹揚に咳払いをする。
「付き合うといっても、そう難しく考える必要はない。君も副社長もいい大人だ。それに、日頃からプライベートを満喫している君なら、さほど難しくない依頼だと思うが?」
健一郎が、いかにも意味ありげな表情を浮かべながらにんまりと笑った。
その顔を見て、愛菜は心の中で拳を握りしめる。
(ああ、なるほど……。社長は、私に関する噂を知った上で、会長に推薦したのね)
入社一年目にして上司に物申した一件以来、生意気で厚顔無恥な女だと噂されている愛菜だが、現在はそれに謂れのない尾ひれがついている。
それは、愛菜が男好きでしょっちゅう相手を変えて遊び歩いているというものであり、端的に言えば「賀上愛菜はビッチだ」という根も葉もないものだった。
出所は定かではない。けれど、社内の事情通で人事部にいる同期社員の増田智花曰く、発信元は元上司の田代やその一派である可能性が高いようだ。
さらに言えば、田代は健一郎の腰巾着だ。健一郎が田代をどう思っているかはさておき、自分の噂は彼を介して社長の耳に入ったに違いない。そうなると、健一郎が幸三に愛菜を推薦した理由は、さっき幸三が話していた内容とは違ってくるはずだ。
「それと、これは私からの個人的な補足事項なんだが、君には後々私が責任をもって、結婚するには申し分のない相手を紹介すると約束しよう。どうかな?」
言い終えた健一郎の顔には、依然として上辺だけの笑みが浮かんでいる。彼は、愛菜が断るとは微塵も思っていない様子だ。
(ビッチならハイスペックなイケメンとの出会いは断らないだろうし、婚活をしているなら鼻先に結婚という美味しい餌をぶら下げておけば、なんでもすると思ってるんでしょうね)
社長の話で、自分がここに呼ばれた本当の理由を察する事ができた。
つまり、見合いというのは建前で、適当に付き合える相手を宛がおうとしているという事だ。
男慣れした打算的な女――
健一郎は愛菜をそんなふうに思って、白羽の矢を立てたに違いない。
見合いだなどと言われて驚いたが、そもそも一般社員の自分が、大企業の御曹司の婚約者になどなれるはずがないではないか。
そう思うなり、これまで受けてきた理不尽な誹謗中傷や、嫌がらせの記憶が胸に押し寄せてきた。
むかっ腹が立ち、微笑んでいる顔が引きつりそうになる。
この話を自分にしたのが健一郎だけなら、今頃きっぱりと断っていただろう。しかし、少なくとも幸三は、健一郎と違って会社での愛菜を正しく評価してくれているし、本気で雄大の事を考えているのが伝わってきた。
その気持ちを無碍に扱うのは忍びない。
もとより、会長直々の依頼だし、ここまで詳しく話を聞いてしまったからには断るわけにもいかなかった。
迷う気持ちはあるが、ここはいったん引き受けるのが得策だろう――
そう判断を下すと、愛菜は健一郎を見つめて表情を引き締めた。そして、通話を終えた幸三が戻ってきたタイミングで、彼に向き直った。
「承知いたしました。このお話を、お引き受けいたします」
愛菜の返事に、幸三が満足そうな顔をして頷く。
「ありがとう。さっそくだが、今週の日曜日は空いているかな?」
その後の話し合いで、お見合いは今度の日曜日に行われる事になった。場所や時間などは追って連絡をもらう手筈となり、愛菜は健一郎と個人的な連絡先を交換した。
「会長はお忙しいから、本件についての連絡は、すべて私にするように。進捗状況の報告についても同様だ」
「心得ました」
話し合いが終わると、先に幸三が席を立ち、それに健一郎が続く。
二人がいなくなった会議室で、一人座っていた愛菜は目の前の茶器を手に取ると、中身を一気に飲み干してカラカラになっていた喉を潤した。
息子を思う幸三の期待に沿いたいという気持ちはある。しかし、健一郎の思っているような展開にするつもりも、ビッチな女を演じるつもりもない。
引き受けたからには、なんらかの結果を出さなければならないが、具体的にどうしたらいいだろう?
長テーブルの端には、茶器を運んできたトレイが置かれている。
愛菜は三人分の茶器をトレイに載せ、それを持って部屋の入り口に向かおうとした。ちょうどその時、開け放たれたままのドアの向こうから幸三がひょっこりと顔を出し、驚いてハタと足を止める。
「悪いが、ちょっとだけ時間をもらってもいいかな?」
彼はそう言うと、そっとドアを閉めて足早に愛菜の近くまでやってきた。そして、スーツのポケットから出した真新しいスマートフォンを手渡される。
「これは……?」
「私と賀上くんだけの特別なホットラインだ。今後、雄大と付き合っていく上で、何かあったら健一郎に連絡をする前に私に連絡をしてほしい。私からも必要に応じて連絡を入れさせてもらう。そして、これの存在は健一郎には内緒だよ」
幸三が、いたずらっぽく口の前で人差し指を立てた。いかつい顔に、一瞬だけ少年のような表情が浮かぶ。
よもや、会長がそんな顔を見せるなんて!
驚いた顔をする愛菜に、幸三が小さくふっと笑った。
「私が部屋を出ている間に、健一郎が君に失礼な事を言ってはいないかな?」
ふと思いついたように訊ねられ、愛菜は一瞬言葉に詰まった。それを見た幸三が表情を曇らせ、何かしら察したように僅かに肩をすくめる。
「もしそうであれば、本当に申し訳ない。もう気がついていると思うが、私と健一郎では今回の件に関する考え方が違う。むろん、君に対する認識や役割についての捉え方も異なっている。だから、君に対する健一郎の態度が気になってね」
そう話す幸三の口調は、とても穏やかだ。こちらをまっすぐ見つめてくる目は優しく、それだけで彼が愛菜に関するくだらない噂を信じていないとわかった。
「お気遣い、ありがとうございます」
愛菜が微笑んで礼を言うと、幸三の顔ににこやかな笑みが浮かんだ。彼は愛菜に椅子に座るよう促し、自分はその前の席に腰を下ろした。
「雄大には、人としてもっと視野を広げ、柔軟な心を持ってほしいと思っている。だが、そのためには、頼りになる人の助けがどうしても必要でね」
幸三が、しみじみとそう語りながら、ゆっくりと瞬きをする。彼の仕草のひとつひとつから、息子への深い思いが感じられた。
「賀上くん、君はとても礼儀正しく賢明な女性だ。馬場部長のお墨付きももらっているし、私もここ最近の君の様子をこっそり見させてもらっていた」
「え……わ、私の様子を?」
「そうだ。覗き見をするような真似をして悪かったが、父親としてどうしても、直接確認しておく必要があった。その上で、君なら、雄大に新しい世界を見せてくれるかもしれないと思った。だから、あれこれ構えずに、まずは息子と会ってみてほしい」
幸三が言うには、健一郎から見合い相手の候補者の名を聞いたその日に、愛菜に関する調査を始めたらしい。その上で愛菜に依頼しようと判断してくれた事を、素直に嬉しいと思った。
「雄大はとても利発な子だ。賀上くん、息子をよろしく頼むよ」
そう話す顔には、父親としての愛情が溢れている。
健一郎の意図はさておき、幸三の父親として雄大を想う心には感銘を受けた。迷いながらも引き受けた愛菜だったが、ここまで信頼を寄せられたからには、できる限りの事はしようと決心する。
「はい、承知いたしました」
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