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1巻
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苦しい……暗い……誰か、ダレカ……
タスケテ……
クルシイクルシイクルシイクルシイクルシイクルシイクルシイクルシイクルシイクルシイクルシイクルシイ……
コワシテヤル……
世界から明かりが消えたころ、かつて栄えたある国の跡地で、鈍く、怪しく光る黄色くよどんだふたつの玉が浮かんでいた。
しかし、それを見た者はいない。
見た者がいたとしても、なんにもならないだろう。
◆ ◆ ◆
迫り来るトラック、衝撃、からの暗転。
来るはずの痛みがなく、固く閉じていた目を開けると、あたり一面真っ白だった。
『はじめまして、北野優子さん。私は女神です』
うしろから声をかけられ振り向くと、発光している美女が立っていた。
「えっと……誰? 女神って何? そういうイタい人か何か?」
疑わしくてジロジロ見るも、自称女神は白い服を着たただのきれいな光る人にしか見えない。私、夢でも見てるのかな。
『ち、違います、イタい人じゃないです! ほんとに女神なんですよぅ。ほら!』
そう言って自称女神様は光量を落とし、自分の背中に生えている羽を見せてきた。まぶしくて見えなかったが、よくよく見ると、頭に輪っかもついている。
「本当の本当に女神様? どちらかと言うと、天使要素が強いけれど……?」
『女神です! もー……コホン。えー、話が逸れました。優子さん、あなたは死にました』
……そうだ。たしか、久しぶりに定時で上がれて、職場近くのスーパーで買った焼き鳥と缶ビールの入った袋をぶら下げて家に帰る途中だった。
その道中、歩道に突っこんだトラックに小学生くらいの女の子が轢かれそうになった。
それをブラック企業勤めの万年運動不足アラサーOLにしては素晴らしい、近年稀に見る反射神経と火事場の馬鹿力で、あの女の子をぶん投げて助けたのを思い出した。
『どうやら覚えているようですね。実はあなたが庇ってくれた少女は、最高神が数百年に一度転生した姿だったのです。あのとき車に轢かれて死んでしまっていたら、世界の均衡が崩れ、滅亡の可能性もありました』
女神様の言葉に驚愕した。
だって、てことは……私、死に際に世界を救った英雄になったってことでしょ?
死んじゃったのは悲しいし、両親には辛い思いをさせてしまうけど、何も成せずに死ぬより最期に誰かを救えたならよかった。
『天界の者たちで話し合った結果、命と引き換えに最高神を守ってくれた功績を称え、感謝の意をこめてあなたを転生させることにしました』
「え、まさかの第二ラウンド?」
天国でいい待遇をしてもらえるとかだと思ってたけど、まさかの最近流行りの異世界転生パターン?
でも、あれってガチャ要素強くない?
どこへ行っても日本より治安悪そうだし、よくある異世界って文明レベル低いし……大体能力チートあるけど、逆にそれがないと平和ボケした日本人なんてすぐサクッと殺られるでしょ。
『もう一度同じ世界に転生となると、人間ではなくなってしまうので、別の方が管理する世界に転生していただくことになります』
「えっと、参考までにどんな世界か聞いてもいいですか?」
『あなたを転生させる世界は簡単に説明しますと、まず魔法があります。魔物などもいるので脅威はあります。文明レベルは地球でいう中世ヨーロッパのような感じですね。最近流行りの異世界ものを想像するといいかと思います』
やっぱり、異世界転生ものだ!
「拒否権ってありますか? 普通に天国で悠々自適に暮らす、とかがいいんですけど……社会人になってからろくに休めた試しかがないし」
『実は、あなた方人間の言う天国と呼ばれる場所は存在しないのです。死後、魂は今回のような例外でもない限りすぐに輪廻の輪に送られ、順番に生まれ変わります。拒否は、うーん……』
そういうと、女神様は悩むそぶりを見せた。
『できれば受け入れていただきたく……その、上からの命令には逆らえなくて……』
申し訳なさそうに言う女神様は、職場での自分を見ているようでなんとも言えない気持ちになる。
「わかりました。転生します。魔法って私も使えるんですか? さすがに今のまま転生ってことはないですよね?」
『はい。優子さんにはその功績に見合った能力、容姿を用意しています。ただ、ひとつだけ申し訳ないことがあって……』
「申し訳ないこと?」
『私たち神は転生時の始まり、つまり転生場所だけは決めることができないのです。完全ランダムとなっています』
「何その仕様。容姿とか能力は設定できるのに、なんでそこで運なのよ」
『申し訳ありません』
女神様はペコペコと謝罪をしてるけど、この人が一番上じゃないみたいだし、ここでごねたところでどうにもならない。
「できないものはしょうがないので大丈夫です」
『ご理解感謝します。では、最後に質問などはありますか? あ、そうだ。ちなみに五歳で記憶が戻ります』
「わかりました。質問は……特にないです」
『では転生していただきます。改めて、天界を代表して御礼申し上げます』
ここまできたら腹を括るしかない。
今回はのんびり自分の好きなことやって生きたいな。
女は度胸! 頑張れ私!
女神様が深々と頭を下げる姿を見たのを最後に、私は再び意識を失った。
第一章 転生と名前
ガタンゴトンという揺れで目を覚ますと、どうやら檻の中にいるようだった。
周りを見ると五、六歳の少女たちが鎖に繋がれ、泣いている。
「かわいそうになぁ、お前らはもう二度と親に会えないんだぜ! 子どもだけで出歩かなかったら俺らみてぇな人攫いに捕まることもなかったのに!」
ニヤニヤしながら見張りの男が言った。
「なんだぁ、ガキ。お前はほかの奴と違って親に売られたんだぜ。ヒヒッ。お前は見た目がいいからなぁ。高値で変態貴族どもが買ってくれるだろうよ。よかったなぁ、少なくともここにいる奴らよりはいい暮らしができるぜ。それが幸せかどうかは別としてなぁ!」
男はゲラゲラ笑って元いた場所に戻っていき、少女たちが逃げ出さないように見張っていた。
嘘でしょ!? スタートは選べないって言ってたけど、まさかの親に売られて奴隷なんて。運がないにもほどが……
鎖で繋がれているから逃げられないし、武器なんてものもない。この子たちを連れて逃げられるわけもないし、どうしたらいいの……?
とりあえず落ち着け私。泣きたいけど、泣いたって意味ない。
とりあえず五歳以前の記憶を思い出してみよう。もしかしたら魔法の使い方とかわかるかも! そしたら助けを呼べるかもしれない!
うんうん唸って思い出してみる。
……うーん、ろくな親じゃないな。
産んだはいいけど、私が両親どちらの色も持たなかったから、名前もつけないまま、売れる年齢になるや否や人攫いに売り払った。血が繋がっているのが恥ずかしいクズだ。
売られる前、近くの水場で見た私の今世の容姿は、栄養失調でガリガリだったけれど、素地は良さそうだった。
くすんでいるけど、髪の色は前世ではありえない銀色。光を受けてキラキラと金色に輝く瞳はクリっとした猫目。
対して両親は村に多い茶色い髪と瞳をしていた。記憶の中のふたりはいつも喧嘩をしていて、私の存在を疎んでいた。よし、私を捨てた親のことは忘れよう。もう関係ない。
今はこの状況から一刻も早く助かる方法を考えないと! 生まれ変わったら奴隷でした、とか冗談じゃない!
だけど、どれだけ記憶を掘り起こしても魔法の使い方はわからない。
ふと、外が騒がしいことに気づいた。同じ檻に入れられている少女たちも縮こまっている。
突然、薄暗かった周りが急に明るくなった。そして、あの気持ちの悪い人攫いの怒声が聞こえてくる。
「何があった! まさか……王国騎士団か!? くっそ、忌々しい国の犬どもめ! どこまでも追ってきやがる!」
「見つけたぞ、捕えろ!」
ほかの少女たちと身を寄せ合いながら外の様子を窺っていると、何度か金属のぶつかり合う音がした。そのとき見えた血に思わず顔をしかめてしまったが、驚いたことに、特に気持ち悪くなったりはしなかった。
女神様の特典のおかげかな? と思っていると、人攫いはみんなお縄についたのか、騎士服を着た人たちが私たちを解放してくれる。
どうやら私たちは荷馬車に乗せられていたようで降りてみると、盗賊のような格好をしていた人たちが縄で縛られて捕まっていた。そこにはあの気持ち悪い人攫いもいて、うなだれている。
騎士に先導されて、今までのものよりも広くてきれいな馬車に乗り、少し離れたところにある村まで連れていかれた。捕まっていた少女たちはみんなこの村の出身らしく、それぞれ自分の家族のもとへ帰っていく。
泣きながら再会を喜んでいる家族をぼうっと見る。
すると、不意に視界に茶髪の騎士が入ってきた。
あ、この人さっき荷馬車に乗りこんできた人だ。意志の強そうな赤銅色の瞳が印象的で覚えてる。それにこの人だけ制服? がほかの人より豪華だから、きっと偉い人だ。
「君は家族のところに行かないのか?」
私の前にしゃがんだその人はそう聞いてきた。
うーん正直に言ったほうがいいよなぁ、これ。だけど、いないって言ったら私、どうなるんだろう。孤児院とかに入れられて仲良くやっていけるかな? でも正直に言うしかないよなぁ……
「あー……私、家族いないの」
「亡くなったのか?」
「違うよ。売られたの」
「何!? あの組織の余罪を詳しく調べる必要がありそうだな……」
茶髪の騎士は驚愕すると、少し離れたところに集まっていたほかの騎士のほうに走っていった。そして何かごにょごにょと話し合っていたが、やがてこちらへ戻ってきた。
「君、名前は?」
再び目線を合わせて質問してくる。
「……」
どうしよう。前世の名前で答える? でも、明らかに洋風な世界と容姿でユウコはどうなんだ? なんかもうちょっと西洋感のあるカタカナの名前……
ダメだ、思いつかない!
「どうした?」
「私、名前ない」
もう、この人が私に名前つけてくれないかな。優しそうだし、頼んだら頑張って考えてくれそう。
「そうか……なら、一度一緒に来てくれるか? 我々騎士団が君を保護しよう」
「え?」
孤児院に入れられるとかじゃなくて、一旦保護なの?
困惑している私をよそに、再び馬車に乗せられる。そしてガタゴトと揺れる馬車にだんだんと眠気を感じ、いつの間にか眠ってしまっていた。
ガタンという大きな馬車の揺れで目を覚ますと、巨大な門が見えた。
尋ねると、あれは城門だと教えてくれる。円形都市である王都に入る際に通る必要があり、よっつの入り口のうち、東門から入ると騎士団の本拠地に一番近いらしい。
そのまま石畳を進むと、どうやら目的地の騎士団に到着したようだった。馬車から下ろされて、たくさんの騎士の視線を感じながら、茶髪の騎士に手を引かれて執務室と書かれた部屋に入った。
もうひとり入ってきたのを確認すると、私をここに連れてきた騎士は口を開いた。
「自己紹介が遅くなってすまない。まず、俺は第一騎士団団長のルイ・ヴェルエスだ」
どうやらルイさんは騎士団長だったようだ。
「僕は、レイファス・ブルドン。副団長を勤めております」
ルイさんが熱血系お兄さんなら、レイファスさんは優しげな雰囲気のお兄さんだった。
薄めの金髪にラベンダー色の瞳で、全体的に色素が薄くて儚い印象を受けるけど、騎士団の副団長ってことは強いんだろうな。レイファスさんは脱いだらムキムキなタイプと見た!
「さっきも言ったが、君をここで保護することになった」
「わざわざ保護してくれるの?」
「身寄りのない子どもを放置したりしないさ。それに、その容姿だといろいろと危険もあるだろう」
「私、気持ち悪い?」
この世界の基準だと、私の容姿はひどいのかと不安になってしまう。
「そんなことないさ。とても、その……可愛い」
イケメンの照れ顔可愛い!
「知らなかったのですか?」
「ガリガリだし……」
ふたり揃って気の毒な様子で私を見ているけど、気にしないでほしい。これからいっぱい食べたらいいので。
「んん、話を戻すが、これからは騎士寮で暮らしてもらおうと思う。これから何をして生きていきたいか、ゆっくり決めればいい。俺が一応保護者になるから相談があれば乗るぞ」
ルイさんが咳払いをして話を戻すと、そう提案してくれた。
「僕のほうがルイよりいいアドバイスができると思うので、ぜひ僕にも相談してくださいね」
「うん!」
この世界のこと、自分のこと、私は何も知らないから、親切な大人が近くにいてくれるととっても助かるな。
「それにしても名前がないのは不便だな」
「そうですねぇ……」
そういえば、名前ないんだった。大人ふたり組はうーんと悩みこんでいる。これは、考えてくれてるのかな?
「ノエル、とかどうだ?」
「おぉ、ルイにしてはセンスがいいですね」
「ノエル! 私の名前……」
私は記憶が戻る前も含め、この世界に来てから初めて自然に笑った気がした。名前がもらえてうれしくてニマニマしていると、ルイさんが私の頭をなでながら言う。
「じゃあ、お前の部屋に案内するぞ。っと、その前に、お前のステータスをよかったら見せてくれないか?」
「ステータス?」
「あぁ。『ステータス』って唱えると出てくる。基本本人にしか見えないが、『ステータス開示』と唱えるとほかの人にも見えるようになるぞ」
おお、異世界の定番だ! この世界にもそういうのあるんだ!
「なるほど。『ステータス』」
唱えてみると画面が出てきた。私のステータスはこうだ。
[名前]ノエル
[性別]女
[年齢]5
[種族]人族
[称号]女神の恩人、転生者、愛される者
[加護]神々の加護
[HP]31000/34000
[MP]500000/500000
[スキル]五属性魔法、無属性魔法、魔法創造、鑑定、破壊魔法(ユニーク魔法)
……うん。見事なチート。スキルやばいでしょ。
しかも破壊魔法って何? めちゃくちゃ物騒なんだけど!
遠くで「奮発しました!」と女神様の声が聞こえた気がした……
「ノエル?」
「あ、えっとー……」
「嫌なら見せなくても大丈夫ですが、今後のことを考えると……」
私の微妙そうな顔を見て、レイファスさんがそう言ってくれた。とはいえ、やっぱり見せたほうがよさそうだし……
「ううん、見せる。大丈夫」
異世界お決まりのアレをやればいいのだ!
そう、隠蔽! さすがにまだ転生者の称号は見せられない。ということで、少しステータスをいじってからふたりに開示する。
「……こりゃすごいな」
「……ですね」
困らせているのを感じて、体がこわばる。前世と合わせるとそれなりの年齢だけど、精神年齢が体に引っ張られているみたいで、記憶を取り戻す前の幼い私が顔を出した。
困らせてごめんなさい。捨てないで。嫌わないで。
いろんな言葉が喉につかえて出ていってくれない。何か言わなきゃと焦れば焦るほど何も言えなくなって、涙で視界が滲んで下を向いてしまう。
「ごめんなさい……捨てないで……」
やっと出た言葉に、難しい顔をしていたふたりが驚いてこちらを見る気配がした。
だけど、五歳以前に両親から向けられたあの嫌悪感、今もふたりからいろんな負の感情がこもった目で見られてるかもしれないと思うと、怖くて顔を上げられなかった。
うつむいていると、ふわりと頭に温かいものが乗った感触がした。
顔を上げると、ルイさんが手を伸ばして頭をなでていた。レイファスさんも優しい笑顔で私を見ている。
「大丈夫だ。俺たちはお前を捨てたりなんかしない。お前を気持ち悪いなんて思ったりしない。大丈夫」
その言葉で拒絶されていないことがわかり、うれし涙がポタポタとこぼれ落ちる。
ふたりは何も言わず、私が泣き止むまで頭をなで続けてくれた。
やっと涙が止まると、私は自分を買った犯罪組織について教えてほしいと頼んだ。
ふたりが顔を見合わせてどうするか迷っていたから、なんとか説得すると、五歳児にもわかるように言葉を選んで答えてくれた。
話をまとめると、都市部からそれなりに離れた村の子ども、それも少女ばかりが行方不明になっていたらしい。攫ったとされるのはカーネスと呼ばれる犯罪集団。逃げ足が早く、なかなか捕まえることができなかった。
被害が都市部まで広がる前に捕まえるため、ルイさんたち王国騎士団の第一騎士団が捜索に当たっていた。それまでの犯行がもっと計画的だったのに対して、今回は至るところに痕跡があったため、すぐに捕縛及び少女たちの救出に向かうことに。
結果は全員無事。
犯罪集団のうちひとりは重傷だが、捕縛後すぐに手当てをし一命を取り留めたそうだ。
そのあとは私も知っている。攫われていた少女たちはみんな無事に親元に帰れた。
「まあ、ざっとそんなところだ」
話し終えたルイさんは息をつく。そしてまだ五歳の少女が話の内容をすべて理解したことに、とても驚いているようだ。
「それにしてもステータスは……。まだ五歳だからもっと伸びるだろう」
これ以上伸びる必要なくない? って正直思ってしまう。
それが顔に出ていたのか、ルイさんも苦笑している。
「こんなに高い能力を持っていることがバレれば、クソみたいな貴族に利用されるかもしれないな」
「えっ……!?」
今世は自由に生きるって決めたのに!
レイファスさんの言葉に思わず頭を抱えてしまう。
その姿を見たルイさんたちは、私の意思を最大限尊重すると約束してくれた。これから孤児院に行くか、このままお手伝いさん的な立ち位置でここに住みこむか、私が自分で決めていいらしい。
王宮への報告も、身元不明の少女を保護したということだけ伝えたそうだ。
なんでここまで優しくしてくれるのかはわからなかったけれど、まだひとりでは生きていけないのは事実だし、少しふたりに甘えようと思う。
第二章 訓練スタート
「知らない天井だ……」
思わずぽつりとつぶやいた。だるい体に鞭打って起き上がってみると、これまた知らない部屋だ。どこここ?
……あ、昨日保護されてここに来たんだった。いろいろ話を聞いたあと、疲れて眠っちゃったんだな。
まあ、転生初日? からいろいろあったからな……
今世ではこんなふかふかのベッドは初めてだなぁ、なんて考えながらぼーっとしていると、ドアをノックする音が聞こえた。
「はーい」
「俺だ。起きてるか?」
入ってきたのはルイさんだった。持っているお盆には、パン粥の入ったお皿がのっていた。
「食事を持ってきた。動けるか?」
「大丈夫」
ルイさんが持ってきてくれたご飯を食べながら、これから自分はどうなるのか聞いた。好きにしていいらしいから、剣稽古をつけてもらうことにした。
やっぱり身を守る術は身につけておくべきだよね。
勉強はレイファスさんが教えてくれるらしい。レイファスさんのほうが頭いいし、わかりやすいだろうって。
思わず、だろうね。って言いそうになった。だってルイさんは脳筋って感じなんだもん。団長だし、貴族らしいし、頭は悪くないんだろうけどさ。
そんなわけでレイファスさんが一般常識や歴史や魔法を、ルイさんが剣を教えてくれることになった。
魔法かぁ……ついに異世界って感じがしてきた!
ワクワクが顔に出ていたのか笑われてしまう。恥ずかしかったのでむすっとしていると、大きな手のひらで頭を少し乱暴になでてくれた。
私はその温かい手がうれしくてうれしくて、しかたがなかった。
保護されてから一か月が過ぎ、今日から本格的な勉強が始まった。
最初は簡単な一般常識からだった。王族の話、貴族の話……そういうの。私は平民だし、あんまり関係ないけど、知っておいて損はないよね。
あとはお金。前世のお金と照らし合わせると、小銅貨が十円、銅貨が百円、そのあと銀貨、大銀貨、金貨、大金貨、白金貨と続き、ゼロが一個ずつ増えていく感じだった。覚えやすくて助かる。
私が理解できていると早々に認識してからというもの、レイファスさんの説明の仕方は幼児向きではなく、それなりに教育を受けた子ども相手のそれに変わっていた。
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