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26巻
26-1
しおりを挟む第一章―――― 風向きの変わる時
北方の暗黒の荒野を統一した魔族勢力ムンドゥス・カーヌス国の『魔王軍』による、第二次アークレスト王国侵攻。
王国北部のベルン男爵領は少ない人員を補うべく、モレス山脈に棲まう強大な竜種と共同戦線を張り、独自に配備していた兵器を活用して戦いに臨んだ。
古神竜の転生者ドランをはじめとするベルン首脳部の逸材の活躍もあって、彼らは圧倒的な数と、個としての戦力を誇る魔王軍に対して、互角以上の戦いを演じたのだった。
†
後に『アグラリア戦役』と呼ばれる魔王軍の侵攻から数日が経過した。
今や都市の規模になったベルンには、王国のみならず、周辺諸国から集められた天才、奇才、奇人、変人、変態と呼ぶべき有能な人材が揃っている。
経済的な事情や同業者達から嫌われて表舞台に立てず、歴史の闇に埋もれていた彼らは、ベルン側から提示された膨大な資金と資材、研究施設提供等の条件に惹かれて集まった人々だ。
ベルンでは日々、多くの失敗と遥かに少ない成功が繰り返されているが、その研究成果の一つが領内の各地で活躍している。
大きな通りや人々が足を止める頻度の高い交差点、人々の集まる広場、あるいは数少ない高層建築物の壁面などに、つい最近、ソレは設置されるようになっていた。
白い金属の枠に嵌まった、一般家庭の家屋の壁ほどもある巨大で分厚い硝子状の一枚板――背面からはいくつもの管が伸びている――が、壁や立て板に設置されている。
もしここに昨年の『競魔祭』でドランと激戦を演じた異界出身の生徒――ハルトがいたなら、彼の故郷にある品を思い浮かべて〝テレビ?〟とでも呟いただろう。
プツッという小さな音と共に、黒一色に染まっていた巨大な板の画面に光が灯った。
見慣れた者は足や作業の手を止めて視線を向け、初めて見る者は驚きと共に注視する。
画面の中にはベルン男爵領の家紋を描いたクロスを掛けた机と、品の良い純白のドレスを身に纏い、巻き上げたオリーブ色の髪が目を引く鳥人の女性が映し出された。
女性の前には『ホロミス』と書かれたプレートが置いてある。
『皆様、ごきげんよう。本日のベルン男爵領の出来事をお伝えする、ベルン公式放送の時間です。本日の放送はわたくし、ホロミスがお伝えします』
神妙な顔で画面の向こう側から話しかけてくる女性の姿に、初見の人々が驚きの声を上げ、またあるいはポカンと口を開くという分かりやすい反応を示す。
その内の一人、露店で昼間から麦酒を立ち飲みしていた年嵩のドワーフの商人は、思わず店主の山羊人の若い青年に問いかけた。
「お、おいおい、店主よ。ありゃ、なんじゃな? ベルンのあちこちにああいう板みたいなもんが掛かっているのは知っとったが、ああして人が映って声を出すなんぞ、どういう仕掛けじゃ?」
もう何度も目の前のドワーフのような反応を見てきたからか、店主は慣れた調子で質問に答える。
「見ての通り、聞いての通りさ。他の領地でも領主からのお触れが掲示される事があるだろ? それをああして喋って伝えているのさ。詳しい事はおれだって分からんけど、声と映像を遠くに伝える魔法の応用なんだと。男爵様のお屋敷の近くに『ベルン放送局』っていう組織の建物があって、そこで今撮影しているものを、ああしてあちこちに流しているんだよ」
店主はそう言って、酒のツマミにと、炙った鶏の胸肉とチーズを載せた小皿もついでに差し出した。
ドワーフの商人は分かっているのかいないのか、ほぅと気の抜けた声を出しながら、皿に盛られたツマミを口に運んでは麦酒の硝子のジョッキを口に運ぶ。
「あれなら、文字を読めん者でも領主からの知らせが一発で理解出来るっちゅうわけか。しかしまあ、贅沢な話じゃわい。魔法の品をああも大胆に使う財力もそうじゃが、他で目にした事のない品を実用化する技術力と発想もすごい。ここはやはり、これから色んな意味で台風の目になる土地じゃな。戦争中でなけりゃ、もっと人が集まっとったろうな」
「お客さんはここに来て日が浅いんだな。日に日に人は戻ってきているんだよ。幸い、戦争は勝っているみたいだし、男爵様が色んな物を買い上げてくださっているしな。お客さんだって、それ目当てで商売をしに来たんだろ?」
「おうよ。ドワーフが精錬した金属類はどこでも人気じゃが、ここでは今のご領主が赴任して以来、貪欲に買い集めておるからの。ましてや戦争が始まったとあっちゃ、ますます量が必要になるわな」
ニヤリと笑うドワーフに、店主は溜息混じりに応える。
「戦争か……早く終わってほしいもんだよ。あの放送だって、普段は歌自慢の連中が集まって歌を歌ったり、素人や大道芸人の演奏や芸を流したり、劇団の芝居を放送したりって、皆の楽しみになっているんだぜ。戦争が始まってからは、戦争の事を放送する時間が増えちまった」
「そりゃおめえ、戦争なんだから仕方ないわな。ベルンだけじゃなく、北方の諸侯を集めての大戦じゃ。下手をすれば王国全土に広がりかねん状況じゃからな。まあ、その割にこかぁ、和やかじゃけんども」
「まだ戦場から戦死者や負傷者が戻ってきていないし、色んな教団の神官様達が医者として従軍してくださっているお蔭だろうな。お、ちょうど戦況を放送するみたいだぞ」
『暗黒の荒野から南進してきたムンドゥス・カーヌス国の魔王軍と、ベルン男爵率いるベルン軍ならびに諸侯連合軍の戦闘が終了したとの事です。魔王軍は北方へと撤退を開始し、現在、ベルン男爵と諸侯はジョウガン要塞に向かい……』
多くの者が耳を傾ける中、ホロミスによる放送は続くのだった。
†
ベルンで魔王軍の撃退成功の知らせが堂々と放送されていたその頃。
ベルン北西に建設されたジョウガン要塞へと入ったベルン男爵クリスティーナと諸侯達は、まさしく放送の通りに今後の対応について会議を開こうとしていた。
魔王軍との戦闘による被害や消耗した物資の把握、撤退した魔王軍の動向の確認などが一通り済んだ後である。
建設が進み、国防の要となる要塞に相応しい威容を誇るジョウガン要塞だが、そこに待機する兵士の多くは、ベルン軍と同盟相手の姿を見て顔を引きつらせた。
砲台を乗せた自走型のゴーレム達はまだいい。大型の生物に大砲を牽引させる例がある為、彼らにも理解が出来る範囲だ。
しかし、足を生やすか、魔王軍の陸上戦艦のように履帯を使って動く『砦ゴーレム』となると、目を疑わざるを得ない。
魔王軍の陸上戦艦の存在もアークレスト王国兵の度肝を抜いたが、味方にも似たような真似をしている連中がいるとは知らなかった。
魔王軍への監視網を兼ねて暗黒の荒野各地に点在しているベルンの砦ゴーレムのうち三体が、有事に備える意味もあって、ジョウガン要塞に集まっていた。
そして砦ゴーレム以外にも彼らを驚かせたのは、知恵ある竜達が何体もジョウガン要塞の敷地内に降り立ったという――実際に目の当たりにしても信じがたい事実だった。
ベルン経由とはいえ、アークレスト王国軍はモレス山脈の竜達にとっても同盟相手となる。今後の方針に関しては、彼ら竜種も情報の共有と意見を交わす必要があると考えての措置であった。
なお、そのような隔たりの大きな異種間での意見交換という繊細さと配慮が求められる作業は、直情径行気味な深紅竜のヴァジェには荷が重い。彼女は今ドラゴニアンの姿になって、懇意にしているセリナ達が待機している砦ゴーレムに遊びに行っている。
その他の竜達は敷地内に降り立った後、緊張しきっている王国兵を興味深そうに観察している。
同じ敵を相手に戦ったとはいえ、彼らはあくまで空のみを戦場としていた為、地上で戦っていた人類の兵士達をつぶさに見る機会がなかったのだ。
とりあえず危険性のない人間と竜種の接触がなされている中、要塞の中庭に面する会議室の一つで、今回の連合の上層部中の上層部が顔を突き合わせていた。
アルマディア家から派遣された黒狐人のカジョカ将軍をはじめ、諸侯連合の中でも特に派遣元の家の影響力が強いか、あるいは派遣した兵力の大きな者達が揃っている。
その中にあって、兵力は僅か五百あまりで爵位も低いベルン男爵家は、本来ならこの会議に出席するには不相応な弱小勢力だった。
しかし、魔王軍との激戦を経た今、ベルン男爵家を侮る者達がこの場にいるはずはなかった。
五百の兵は常軌を逸した高品質の装備に支えられ、特上の質を有する精鋭である。そしてそれすら意識の外に吹き飛ぶほどの、超常の力を誇る個をベルンは複数抱えていた。
圧倒的な力によって魔王軍の将軍を相手に互角以上に戦い抜いたクリスティーナ。
そして彼女の傍らに控えている補佐官のドランは、アークレスト王国の最高戦力である〝アークウィッチ〟メルルの後継者と噂されるほどの実力を見せている。
今後の魔王軍との戦いで、ベルン男爵領の力は絶対に必要なものだと、誰もが理解していた。
そこにはベルンの単純な戦力のみならず、彼らが持つ伝手も含まれている。
たとえば、急遽、会議室の壁に開けた大穴から頭を突っ込んで、会議に出席という事にした地竜が良い例だろう。
モレス山脈に棲まう竜達の代表者として出席している、老地竜ジオルダである。
秘めたる力は竜公級とも竜王級とも言われるこの老竜は、魔王軍の偽竜達との戦いでもヴァジェと並んで多大な戦功を挙げている。
穏和な性格ではあるものの、現在の人類の技術水準を考慮すれば、およそ通常戦力では打倒不可能な規格外の怪物であるのもまた事実だ。
壁からにょっきりと頭を突っ込んでいるジオルダを除けば、出席者全員が円卓についていて、会議の進行役は年配の人熊ベアベ子爵が務めている。
熊人が熊の特徴を持った人間という容姿をしているのに対して、人熊は人間の特徴を持った熊だ。彼らは人間のように二足歩行し、それに合わせて多少、手足の寸法が変わった熊という姿をしている。
いくつもの勲章で胸元を飾った軍服に身を包むベアベ子爵は、ジオルダの存在にも動じず、会議の開催を宣言した。
度胸があるのか、現実から目を逸らしているのかは分からない。
「それでは、これより対魔王軍対策会議を開催いたします。また今回はモレス山脈の竜種を代表し、地竜ジオルダ殿にご臨席いただいております。ジオルダ殿、本会議ではどうぞ忌憚のないご意見をくださいますよう、お願い申し上げます」
ぺこりと熊そのままの頭を下げるベアベに、ジオルダも動かせる範囲で首肯して返答とした。
戦場では突出するヴァジェや血気盛んな若い竜種達を支援し、さらに他の同胞達の統率も行い、戦場を離れればアークレスト王国との折衝役も務めるのだから、ジオルダは大忙しだ。
「我らはもっぱら偽竜の相手しかしておらぬが、相手方の空の戦力はおおよそ把握出来た。貴殿らと情報を共有する重要性は理解しておるし、今後も奴らとの戦いでは共闘する仲じゃて、こうして顔を出す必要性があるのは分かっているとも」
「今後もお味方として戦っていただけると仰ってくださるならば、我らとしても心強い事この上ない」
ジオルダのこの言葉に安堵したのはベアベだけでなく、他の諸侯やそのお付きの者達も同じである。
基本的な技術力において魔王軍の方が一枚も二枚も上手であるのは、残念ながら認めざるを得ない。アークレスト王国が強大な空の戦力を有する魔王軍と戦うには、どうしたってモレス山脈の強力な竜種の助力を欠くわけにはいかないのだ。
魔王軍との戦いを経験した諸侯らは、その事を痛切に理解していた。
もっとも、ドランとクリスティーナ達は、モレス山脈の竜種と自分達以外の人間とが、なんとか協調していけそうだという意味でも安堵していたけれど。
そんな中、ベアベが本題を口にする。
「さて、件の魔王軍――『魔六将』と呼ばれる特殊な役職に就いた強力な魔族、生き人形であるヴェンギッタと知恵を持つ魔蜘蛛クインセが率いていた軍団につきまして。竜の方々のご協力により、彼らは既にジョウガン要塞から軍で半月以上かかる距離まで後退しております。今なお、暗黒の荒野の中心部、彼らの所属国であるムンドゥス・カーヌスを目指して後退を続けておりますが、これは本国からの援軍と合流を図っているものと思われます」
出席者達は配布された手元の資料に目を通しながら、近くの席の者や同道させた者達と言葉と意見を交わす。
ちなみにジオルダは思念魔法によって再現した【念動】を用いて、自分用に特別大きく刷られた紙の資料を捲っている。
その左隣には、大邪神カラヴィスによってベルン領内に建てられた『カラヴィスタワー』から出張してきた、ドラグサキュバスの女神リリエルティエルが座っている。
ジオルダの右隣にはクリスティーナが座し、その後ろにドランが立つという配置である。
出席者の一人が意を決した顔つきで発言の許可を求めた。アピエニア家から派遣された、茶褐色の鱗を持つ蜥蜴人の青年将校だ。
副官には歴戦の風格を漂わせる隻眼のダークエルフが控えており、将来有望な将校に経験を積ませる為に派遣したといったところか。
アピエニア家には時折、ドランの同級生であったネルネシアとその友人のファティマを目当てにヴァジェが遊びに行って模擬戦をしている。その為、集まった中ではドラン達の次に竜を相手するのに慣れた人々と言えるだろう。
「本国からの増援の可能性もさる事ながら、ロマル帝国に向かった軍団との合流も考えられるのではないだろうか。かの地では内乱と後継者争いで国内が三つに割れているが、魔王軍を相手に皇女派と大公派が一時休戦し、迎撃に注力しているという。最近、皇女と大公が魔六将に襲われた際にそれを撃退して、魔王軍そのものもアークレスト王国側と同様に大きく前線を下げているという情報が入っている。こちらとあちらの手強さに手を焼いた者達が合流し、王国と帝国のどちらか一方をまずは叩こうとする可能性がある」
こと戦闘において、アークレスト王国で一、二を争う武闘派貴族のアピエニア家の情報網は、王国の外まで広く伸び、伝達速度もその内容の正確さもよく知られている。
その為にこの若き蜥蜴人の話す内容は、一笑に伏す事の出来ない現実味を持って、会議に出席した諸侯の胸と耳に深く浸透した。
次に手を挙げたのは濃い褐色の肌と青い長髪を持ち、肌に白い塗料で文様を描いた女性だった。髪の間と腰のあたりから蝙蝠の翼が生えている。蝙蝠人のレステル伯爵だ。
「敵軍を率いる魔六将。直接戦ったのはベルン男爵とその側近の方々だけでしたけれど、如何でしたかしら? 数で押せば勝てる相手でしょうか?」
この問いは、クリスティーナが予め想定していた質問だった。彼女は〝緊張するな〟と自分に言い聞かせながら、胸を張って答える。
「僭越ながら、レステル伯爵の問いにお答えいたします。私の戦ったヴェンギッタ、私の家臣達と交戦したクインセは、どちらも特異な能力を備え、なおかつ戦いにも慣れた猛者でした。加えて両名とも多数を相手取るのに向いた能力の持ち主です。相性と実力の双方から考えて、数を頼りに戦うべき相手ではありません」
クリスティーナは迅速に頭の中で何度も仮初めのヴェンギッタとクインセを思い浮かべ、並みの人類で戦うにはどれだけの質と数が必要かを計算した。
出席者の中で最も若く、つい最近までまだ実績を作っている最中だった若人を、この場の誰もが侮る事などせず、一語一句聞き逃すまいと話に意識を集中する。
「それでも数で戦うとしたなら、百単位の魔法使いによる絶え間ない攻撃魔法の連射と、支援魔法による恩恵を受けた、これまた百単位の戦士による白兵戦しかないでしょう。魔法使いと戦士、いずれも実力、装備共に一流でなければならないのは、言うまでもありません」
「なる、ほど……それは、とても難しいお話ね。聞いていなかったら、多くの兵を無為に死なせてしまったでしょう。ありがとうございます、男爵」
想定していたよりも遥かに評価の高い魔六将の実力を聞き、妖艶な蝙蝠人の貴族は困ったように小首を傾げた。しかしそれは同時に、そんな怪物を退けたクリスティーナとその家臣達の異常な実力も浮き彫りにしていた。
アルマディア家の娘は、常識とさようならをしているような領地経営ばかりが目立っていたが、その実、軍事力も一般常識から大きく外れていたようだ。
そんな出席者達の胸の内を知らないクリスティーナは、〝よし、噛まずにちゃんと言えたぞ、〟と、幼い子供のように内心では自分自身を誇らしく思っていた。
「いえ、魔王軍との戦いに勝つ為に情報を共有するのは必要ですから」
後ろに控えるドランだけが、そんなクリスティーナの内心を推し量り、微笑ましそうにしていた。
魔六将級を一般兵で相手取るのは不可能に近いという前提が一つ出来た出席者達の中で、次に口を開いたのはジオルダである。
「我らが相手をした偽竜達は、わしがこれまで戦ってきた者達の中でも、相当に骨のある連中じゃった。本拠地に迫ればさらに数と質も増すだろう」
長い時を生きたジオルダにしても、これだけ他の種族と協力しながら派手に偽竜の軍勢と戦ったのは初めてである。外宇宙から飛来した侵略者とも戦った事のあるジオルダだが、今回の戦いは非常に新鮮な経験だった。
「我らは貴殿らに助力するのを厭わぬし、むしろ喜んで助力するが、自分達の敵を相手するので手一杯という可能性もあり得るのう。魔六将とやらの一角には、偽竜の女王が席を置くと聞く。少なく見ても竜王級の実力者であろう。モレス山脈を平らに均すくらいは出来ようぞ。噂に名高いアークウィッチの参戦は見込めぬのかな? それか、貴国からのさらなる増援は?」
ジオルダの言い分はもっともである。王国の最高戦力であるメルルならば、単独で魔六将を一人、あるいは二人同時に相手取って勝利する事も不可能ではない。
あまりに強力すぎるが故に運用の難しさを抱えていたメルルだが、今回の状況ならば前線への投入も視野に入れてしかるべきだろう。
ジオルダからの現実的な提案に対して、ベアベは分厚い毛皮に包まれた眉間に皺を寄せながら唸った。その声は熊そのもので、迫力は満点だ。
もっとも、彼よりもさらに巨大で厳めしいジオルダがいるので、迫力は百分の一くらいに軽減されているが。
「メルル殿の参戦については陛下の認可が必要になりましょう。かの御仁は単騎で戦争の抑止力となるほどの逸脱した力の持ち主。動かし方一つで国家の存亡に関わりますゆえ。しかし、今回の魔王軍という強大な敵を相手に、彼女の力は極めて有用です。中央からの援軍も併せて、陛下ならば必ずや派遣を決定されるでしょう。幸いにして、今回の戦いにおける我々の損害は、事前の想定を遥かに下回る極めて軽微なもので済みました。兵力をそのまま次の戦いに導入出来る状態であるのは、もちろん個々の尽力の賜物ではありますが、幸運と言えるものです」
アークレスト王国側の損害が極めて軽微に終わったのは、魔王軍がベルンとの戦闘を主眼において終始戦い続けたのに加え、協力を申し出た外部勢力の恩恵によるところが大きかった。
複数の教団からの善意の協力者達はもちろん、カラヴィスタワー内部に本拠地を置くドラグサキュバス達も、戦闘には出なかったものの様々な面での後方支援を担った。
そもそもカラヴィスタワーの外に出ると、ドラグサキュバス達は地上世界基準にまで力が落ちるので、前線に出られるよりも安全な後方を支えてくれる方がドラン達にはありがたい。
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