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1巻

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   プロローグ


 月に一度、王宮で開かれる舞踏会。
 そこには理想の相手との出会いを求めて、多くの貴族が参加していた。
 そして年若い令嬢たちが集まると、必然的に噂話が始まる。

「あのときのサディアス殿下とミリア様の結婚式、素敵でしたわね」
「ええ。ふたりとも、とってもうれしそうなお顔でした。本当にうらやましいわ……」
「ですけど、アニュエラ様は少しかわいそうですわね」

 ――アニュエラ。
 ルマンズ侯爵家の令嬢であり、サディアスの正妃となるはずだった女性だ。
 しかし今から一年前、事情が大きく変わった。サディアスが突然、別の令嬢を正妃にすると宣言したのだ。
 その結果、アニュエラは側妃に追いやられてしまった。

「仕方ありませんわ。アニュエラ様って、とても冷たいお方なのでしょう?」
「そうそう。一緒に出歩いてもくれないと、サディアス様が嘆いていらっしゃいましたわ」
「そうでしたの? でしたら、アニュエラ様の自業自得じごうじとくですわね」

 令嬢たちは目を輝かせながら、会話に花を咲かせる。その口元には、意地の悪い笑みが浮かんでいた。
 ルマンズ侯爵家は国内有数の資産家で、他国の貴族や商人との繋がりも深い。アニュエラ自身も語学が堪能で、女性でありながら政治学や経済学にも精通している。
 家柄がよく、優れた才を持つアニュエラをねたむ令嬢は少なくなかった。

「ご自分の立場を理解していらっしゃらなかったのかも」
「調子に乗っておられたのでしょうね」
「でも、サディアス王太子はお優しい方だわ。側妃としてお傍に置いて差し上げるなんて」
「アニュエラ様は、殿下のご慈悲に感謝すべきよ」

 パーティーに参加した目的も忘れ、令嬢たちが盛り上がっているときだった。
 ――カツン。
 ひとりの女性が会場に現れた途端、ホール全体が一瞬にして静まり返った。彼女の靴音だけが鋭く響き渡る。
 シニョンに結い上げられた、燃えるような紅い髪。
 若々しい輝きを放つエメラルドグリーンの瞳。
 スレンダーな体型を見せつけるような、マーメイドラインの黒いドレス。
 大きく開いた胸元では、瞳と同じ色の宝石が輝いている。
 そして人形のように整った美しい顔立ち。

「ア……アニュエラ様……?」

 誰かがその名前をつぶやくと、ほかの者たちも我に返ったようにざわつき始める。

「どうして側妃様がこちらに……?」
「本日の舞踏会は、独身限定だったはずでは……」
「サディアス王子は、ご存じなのか?」

 会場内に困惑の声が飛び交う。
 アニュエラはそれらを無視して妖艶に微笑み、小首をかしげてみせた。

「皆様、ごきげんよう。時間が空いていたので、私も出席させていただきましたの。よろしければ、どなたか私と踊ってくださる?」

 相手は側妃とはいえ、王太子の伴侶はんりょだ。
 手を出していい相手ではない。
 だが、一曲踊る程度なら。男たちの中に淡い下心が生まれる。

「で……でしたら、僕はいかがでしょうか?」

 夜の外灯に誘われるのように、ひとりの男がアニュエラへ歩み寄る。それを皮切りに、ほかの男たちも慌てた様子で動き出す。

「お待ちください、アニュエラ様。ぜひこの私とお願いいたします!」
「いえ、俺と踊ってください!」
「こんなヤツらに、あなたを任せることはできません! ここは私と!」

 多くの貴族がアニュエラに群がる。
 取り残された令嬢たちは、敗北感に唇を噛んでいた。

「アニュエラ!!」

 そのとき、突如響き渡った怒号に、ホールは再び静寂に包まれる。

(ああ、ようやくお出ましのようね)

 アニュエラが目を細めて振り返ると、そこには怒りの形相ぎょうそうをした青年が息を切らして立っていた。

「あら。そんなに怖いお顔をなさって、どうなさいましたの?」
「君は自分の立場を理解しているのかっ!?」
「ええ。理解していますわ、サディアス様」

 すさまじい剣幕で怒鳴られたが、アニュエラはひるむことなく言い返す。

「『所詮、側妃はお飾り。お気楽な立場の女』。そうおっしゃったのは殿下、あなたではございませんか」
「な、なぜそれを……っ」

 図星を突かれたサディアスは、あからさまに目を泳がせた。
 アニュエラはさらに追い打ちをかける。

「ですから国のことも、あなたのことも考えずに、楽しく生きることにしました」
「黙れ! このままで済むと思うなよ……!」

 サディアスが捨て台詞を吐き、会場から去っていく。
 王太子殿下と側妃の口論に、貴族の面々は唖然あぜんとしていた。
 そんな彼らに向かって、アニュエラは穏やかに笑いかける。

「見苦しいものをお見せして、申し訳ございませんでした。さあ、パーティーの続きを楽しみましょう。ねえ、あなた。よろしかったら、私とお話ししてくださらない?」

 アニュエラが声をかけたのは、会場のすみたたずんでいた令嬢だった。

「えっ? あっ、はい!」
「そんなに緊張なさらないで。あなた、お名前は?」
「私はロイル男爵家のリュジーと申します……っ!」

 令嬢がぎこちなく挨拶する。アニュエラはその名を聞いて、「まあ」と声をはずませた。

「ロイル男爵領では、近ごろ羊毛工業に力を入れているのでしょう? 新しい加工法を開発なさったのだとか」
「は、はい! 従来のものより耐久性に優れ、肌触りも滑らかに仕上げることが可能となりました」

 ロイル男爵令嬢が緊張気味に説明をする。
 それを聞いた参加者たちは、驚いたように顔を見合わせた。
 ロイル男爵領は、吹けば飛ぶような小さな領地だ。
 社交界で話題にのぼることなど、皆無に等しい。新たな羊毛技術を生み出したことを知る者は、ごく少数だった。
 だがアニュエラは、そのことを当然のように把握していた。

「あ……あの……」

 ある人物がふたりの前におずおずと歩み寄る。先ほどまでアニュエラの陰口を叩いていた令嬢のひとりだ。

「お初にお目にかかります。私はエルマド子爵家のアザレアと申します」
「あなたがエルマド子爵家の? うれしいわ、是非お会いしてみたかったの」
「え?」

 満面の笑みが返ってきて、アザレアは目を丸くする。

「私のことをご存じでしたの?」
「ええ。去年、学園で優秀な成績を収めた方とお聞きしていますわ。特に経済学に秀でているそうですわね?」
「いえ、私はそんな……」

 アニュエラからの言葉に、アザレアは頬を赤く染めて口ごもる。
 誰に対しても尊大な態度を取らず、敬意を持って接する。その姿は、噂とは大きくかけ離れていた。
 すると、その様子を見ていたほかの令嬢たちもアニュエラに駆け寄っていく。

「アニュエラ様、私ともお話ししていただけませんか? 是非お聞きしたいことがありますの」
「妃教育はもうお済みになったのですよね? どのようなことを学ぶのですか?」
「お城では毎日何をなさっていますの?」

 男性陣をそっちのけにして、皆アニュエラに夢中になっていた。本人も嫌な顔ひとつせず、丁寧に答えている。
 このとき、勘の良い者はある疑念を抱いていた。
 世間では、アニュエラはサディアスに愛想を尽かされ、捨てられたとささやかれている。
 だが、事実は大きく異なるのではないのか?
 実際に愛想を尽かされたのは、あの王太子のほうではないのか?
 余裕に満ちた側妃の笑顔を見ていると、そう勘ぐらずにはいられなかった。


 舞踏会が終わったのは日付が変わるころだった。
 参加者が馬車に乗って帰路に就く中、アニュエラは薄暗い廊下を硬い靴音を響かせながら進んでいた。

「今夜はお疲れ様でございました、アニュエラ様」

 斜め後ろに控えている侍女が、ねぎらいの言葉をかけてくる。アニュエラは振り返りざまに、彼女に満足げに微笑みかけた。

「今夜はとっても楽しかったわ。人前に出るのなんて久しぶりだったもの」
「そうでございますね」

 侍女も頬を緩ませて相槌あいづちを打つ。
 アニュエラの自室は、王宮の片隅にある。
 日中でも日の光の当たらない、薄暗く狭い室内だ。以前は王太子の私室に近い部屋を与えられていたが、現在そこは正妃の部屋となっている。

「お茶をおれしましょうか?」
「いえ。今夜はもう遅いからいいわ。あなたも早く部屋に戻って、休んでちょうだい」

 アニュエラがやんわりと断ると、侍女は一瞬迷った様子だったが「かしこまりました」と一礼した。そして部屋から出ていこうとしたが、ふと足を止めた。

「ですが、アニュエラ様。今夜はなぜパーティーにご出席なさったのですか?」

 侍女が素朴な疑問をぶつける。
 正妃の椅子をミリアに奪われてからというもの、アニュエラは隠居同然の生活を強要され、それを文句ひとつ言わずに受け入れていた。
 だというのに、今朝突然『舞踏会に出ようと思うの』と言い出したのである。いったいどういう風の吹き回しなのかと、ずっと気になっていたのだ。

「単なる気まぐれよ。特に深い意味はないわ」

 アニュエラはくすりと微笑んで答える。
 侍女はまだ納得していなかったが、これ以上詮索せんさくしても無駄だと悟り、今度こそ部屋をあとにした。
 ひとりになり、アニュエラは豪奢ごうしゃなドレスのまま、仰向けにベッドに身を投げた。

「ふぅ……」

 全身に疲労がなまりのようにのしかかってきて、深いため息が漏れる。しかし、その唇は吊り上がり、達成感に満ち溢れた表情をしていた。
 明らかに狼狽ろうばいした様子の夫の顔が、脳裏に浮かぶ。

(あいかわらずわかりやすい人ね。自分に都合の悪いことが起きると、すぐ顔に出るんだから)

 本人に指摘するつもりはない。どうせ口にしたところで、「側妃ごときが指図するな」と逆上して終わりだ。
 それに、わざわざ敵に塩を送るつもりもない。
 アニュエラは微睡まどろみに身を任せ、まぶたを閉じる。そして半年前の出来事を思い返す。
 すべてはあのときから、始まった。


 サディアス王太子との結婚式が目前に迫っていた時期だった。サディアスは突然アニュエラの部屋を訪れると、開口一番にこう言った。

『アニュエラ、君を正妃にするわけにはいかなくなった』

 その隣には、銀髪の少女が立っていた。
 ぱっちりとした大きなルビーレッドの瞳と、まっすぐ通った鼻筋。厚みのある唇に引かれたルージュが、肌の白さを際立たせる。
 真紅のドレスは蠱惑的こわくてきなボディラインを強調しており、大きく開いた胸元にはエメラルドのネックレスが揺れていた。
 甘ったるい香水の香りが、室内に漂う。

『そちらの方は?』

 どこの娼婦しょうふを連れてきたのかと、アニュエラはいぶかしんだ。

『紹介しよう。彼女はノーフォース公爵家のひとり娘だ』

 ノーフォース公爵家。この国で数少ない公爵家であり、王家の血筋を引く名家だ。その歴史は古く、一族から優秀な文官や武官を輩出してきた。領地も国内一の大きさを誇り、領民の信頼も厚い。

『お初にお目にかかりますわ、アニュエラ様』

 ミリアが無邪気な笑顔で、ぎこちないカーテシーを披露する。
 アニュエラも挨拶しようとすると、サディアスがこんなことを聞いてきた。

『彼女をどう思う?』
『……と、おっしゃいますと?』

 アニュエラは質問の意味がわからず、聞き返した。

『これほど見目麗しく、品の良い令嬢はいないだろう。将来の国母こくぼにふさわしいとは思わないか?』
『はぁ……』

 段々と話が読めてきた。
 だからこそ「意味がわからない」と、アニュエラは眉をひそめる。


 すると、サディアスは見せつけるようにミリアの腰に手を回した。
 美少女の顔が喜色に染まる。

『彼女を正妃に迎えたい』
『……なぜそのようなお考えに至ったのか、お聞きしてもよろしいでしょうか?』

 アニュエラはそう尋ねずにはいられなかった。

『ノーフォース公爵家から多額の援助金を受けたのさ。我が王家は去年の水害で、大きな痛手をこうむっている。ところが、どこぞの侯爵家は娘が王太子妃になるというのに、王家を助けようとしなかった。君はどう思う?』
『不義理な家ですわね』
『だろう? 父上と母上もこのことを重く捉え、文官たちの間でもミリアを正妃にしようという動きが出ている』

 嫌みをあっさりと受け流したアニュエラに、王太子は得意気な様子で語り続ける。
 その間、アニュエラは今後のことを考えていた。王太子妃でなくなるというのなら、実家に戻れるわけだ。そうすれば、この男からも解放される。
 悪い話ではないように思えた。
 サディアス殿下の婚約者に選ばれたのは、五年前のこと。当時、文官を目指していたアニュエラにとって、寝耳に水の話だった。
 正直断りたいと思ったのも事実。しかし、どうか息子を支えてほしいと国王夫妻に懇願こんがんされたら、承諾するほかない。
 四年にわたる妃教育は、決して楽ではなかった。
 文官と王妃では、求められるものが大きく異なる。それでも周囲の期待に応えるために、王家の将来のために私情を捨て、頑張ってきた。
 その結果がこれだ。

『わかりましたわ。それでは、私は早急に荷物をまとめさせていただきます』
『いや、その必要はない』
『どういうことですの? 妃はミリア様になるのでしょう?』
『それはあくまで正妃の話だ。君には側妃になってもらう』
『…………はぁ』

 当然のように言われ、気の抜けた声が出た。

『ひとつお聞きしますが、ミリア様は何かご病気をお持ちなのですか?』
『そんなわけないだろう。彼女はいたって健康だ!』

 馬鹿なことを聞くなとばかりに、サディアスが語気を荒らげる。
 それにひるむことなく、アニュエラは冷静に質問を続ける。

『でしたら、なぜ側妃を置く必要があるのです。まさか、権力を誇示する目的などとおっしゃいませんわよね?』
『そのつもりだが』

 だからどうした、とサディアスは腕を組んで首肯しゅこうする。

『正妃、側妃ともに国内有数の高位貴族の出身。王家、いやこの私がミジューム王国の権力を掌握しょうあくしているとアピールできる』
『そのようなことをなさったら、民衆の反感を買いますわよ』
『ただのやっかみだ。好きに言わせておけばいい』

 サディアスは口角を吊り上げて、そう言い放った。
 つまり、民衆の声など無視すると宣言しているようなものだ。

(それが次期国王のお言葉ですか?)

 幼稚かつ短絡的な考えに、アニュエラは唖然あぜんとする。

『さすがはサディアス様。そのくらい強気でなければ、将来国王なんて務まりませんものね』
『君ならわかってくれると思ったよ、ミリア』

 耳当たりのよい言葉をささやかれ、サディアスが表情を柔らかくする。
 その様子を見て、アニュエラはサディアスの説得を諦めることにした。

(仕方ないわ。陛下に相談しましょう)

 サディアスがミリアを正妃に迎えるのはかまわない。
 だが後先を考えない愚策に、自分を巻きこまないでもらいたい。できれば、今すぐにでも王宮から去りたかった。
 すぐさま国王に直談判じかだんぱんした。
 王妃を追われた心痛でこれ以上ここにはいられないと訴え、婚約の解消を狙ったのだ。

『アニュエラよ。このところ、王家の求心力が低下しているのは、そなたも知っているな?』
『はい。存じております』

 国王の問いかけに、アニュエラは即答する。
 近ごろ、地方で王家に対する不満の声が高まっていることは耳にしていた。
 これ以上信頼を失うわけにはいかない。そのためにも、今は慎重に動かなければならない時期だった。
 しかし、そう考えていたのはアニュエラだけのようだ。

『今こそ、この国を治めているのは誰か、強く見せつける必要がある。聡明なそなたなら、そんなことくらい理解しておるはずだ』

 アニュエラを褒めながら、侮っている。
 アニュエラは怒りを通り越して、もはや呆れるしかなかった。
 要するに、国王もサディアスの愚策に賛同しているのだ。しかも、婚約の解消は認めないと遠回しに言っている。
 たしかにルマンズ侯爵家は、ほかの領地の民衆の人気も高い。
 だが、アニュエラは「はい、わかりました」と素直に従うつもりはない。冗談じゃないと、目に力をこめて国王を睨みつける。

『お父様が黙っておりませんわ』
『いや、ルマンズ侯爵にはすでに話を通してある』

 途端、アニュエラの表情が強張った。まさか父は、このような馬鹿げた話に同意したのだろうか。

『この国のためなら娘も本望でしょう、とのことだ』

 国王は平然と言い放った。

『そう……でございますか』

 アニュエラは声を震わせ、視線を足元に落とした。
 サディアスの言うように、去年の水害の際、ルマンズ侯爵家は王家を助けなかった。その負い目もあって、父は断れなかったのだろう。
 それに、王家を支持する貴族を敵に回すことにもなりかねない。父としても、苦渋の判断だったに違いない。
 アニュエラに拒否権はなかった。


 一か月後、サディアスはミリアと婚姻を結んだ。
 王都にある聖堂にて、結婚式が執り行われた。
 同時期にアニュエラとも夫婦となったが、こちらは式を挙げなかった。「ルマンズ侯爵令嬢は、王家のひんしゅくを買って側妃にされた」という噂が広まった要因のひとつだ。
 瞬く間に拡散されていく醜聞しゅうぶんに、サディアスは次のように言及した。

『アニュエラとの式を挙げなかったのは、彼女の意思だ。側妃の分際で人前に出たくないと癇癪かんしゃくを起こした。たしかに私が正妃に選んだのはミリアだ。しかし、アニュエラへの愛情が完全に冷めたわけではない。だから彼女とも式を挙げたいと思っていたのだが……残念だよ』

 その記事が書かれた新聞に目を通し、アニュエラは笑うしかなかった。彼から『側妃との結婚式など不要だろう?』と面と向かって言われていたのだ。

(台本を書いたのは文官? それとも彼の侍従かしら?)

 大した演技力だと感心しながらも、あの男を罵倒ばとうしてやりたい衝動に駆られた。
 胸の奥に氷をつめこまれたかのように、急速に冷えていく。感情をうまく抑えられず、新聞を持つ手が小刻みに痙攣けいれんする。

(なぜ、私がこんな仕打ちを受けなければならないのかしら)

 頭の中でぷつり、と管が切れる音がした。
 その瞬間、どうでもよくなった。王家も、実家も、領民も、この国も、何もかも。

(あの人、以前言っていたわね。側妃はお飾りだと)

 だったら、それらしく振る舞ってやろう。
 そう決めて、独身限定の舞踏会に飛び入り参加してやった。不義と見なされ、王宮から追放されることを望んで。
 あえて今夜を選んだのには、理由がある。

(この日はあなたと初めてお会いした日ですわよ、殿下)

 おそらく夫はそんな些細なこと、気づきもしないだろう。
 それでもかまわない。
 この目には見えないおりの中で、自分のやりたいことだけをやる。
 アニュエラは強く心に決めたのだった。


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