第一話　フェンリル少女、アン


　フェンリルの私は、『死の森』と呼ばれる森の奥をお父さんと一緒に歩いていた。
　死の森というのは、誰も好んで近づこうとはしない魔物の巣窟そうくつだ。
　森から発生している霧きりに誘われて迷い込んだら最後、帰還することは難しいと恐れられている。
　そんな場所をお構いなしに歩けるのは、私たちが伝説の魔物であるフェンリルだからだろう。
　他の魔物が束たばになっても敵わないから、フェンリルはドラゴンにも匹敵する強さだと言われている。
　なので、私たち親子の魔力に気付いた魔物たちは一目散に逃げだす。
　……だが、今回は少し違うようだ。
　スキル【魔力感知】で魔物を発見したが、その魔物はなかなか逃げようとしない。
　警戒心のない魔物なのか、私たちに勝てると思っているうぬぼれ者か。
　どちらにせよ、死の森に自ら飛び込んでくる命知らずが、どんな魔物なのか見てみたい。
　私は口角を上げると、隣にいるお父さんに目配せをした。

『お父さん、こっちに強い魔力の反応があるよ。狩ってきてもいい？』
『いや、やめておけ……少し厄介やっかいそうだ』
『厄介そう？』

　不思議に思って尋ねると、お父さんは少し気まずそうに私から顔を逸そらした。
　私はお父さんの言葉に首を傾かしげる。
　もしかして、お父さんは私が魔物に負けると思っているのだろうか？
　お父さんでさえ強いと思っている魔物……なら私がこの魔物を倒すことができたら、お父さんは褒ほめてくれるかな？
　私は魔物を倒した後にお父さんに褒めてもらうことを想像して、口元を緩めた。

『お父さん。やっぱり、私が魔物を狩ってくるね！』
『いや、いったん退ひくぞ。森の奥に――』

　お父さんはそう言っているけど、その間に私は【魔力操作】のスキルを使って一時的に魔力を抑えた。これでお父さんにバレないようにこっそり移動できる。
　そして慎重にかつ迅速に駆けだした。
　よっし。スピードを上げて、この場から離れてしまおう。
　そう考えて走りだすと、背後から地面を振動させるほどの大きな声がして鼓膜こまくを揺らした。

『アン！　戻れ、アン‼』

　まずい。
　私が隣からいなくなったことがバレてしまったみたいだ。
　それになんか、お父さんの声がずいぶん必死な感じがするけど、気のせいかな？
　後方から聞こえてくるお父さんの声を無視して、私は魔物の元に走って向かっていった。
　私が勢いよく森を駆けていくうちに、魔物の動きがぴたりと止まったのが分かった。
　私が【魔力操作】で魔力を抑えていたのに、まさか見破ったの？
　なのに逃げないということはこの魔物、私と本気でやり合う気らしい。
　上等だ……やってやる。
　私は地面を強く蹴って魔物の前に勢いよく飛び出すと、大きな唸うなり声を上げた。

「くっ！　なんてすごい威嚇いかく……ん？」

　そう言って私の威嚇に驚いた相手は――二足歩行の魔物だった。
　オークを小ぶりにしたようなサイズだが、体の形はまるで別のものだった。
　オークとは大きく違い、妙に整った顔をしていて、頭部にのみ藍色あいいろの毛が生えている。
　こちらに向けている武器も、身に着けている防具も、妙に精巧な作りで見たことがないようなものだ。
　……この魔物が自分で作ったのだろうか？
　もしかして、かなり危険な魔物なのだろうか？
　初めて対峙する魔物は、どんな攻撃をしてくるのか分からない。まずは、様子見かな。
　私はいつでも攻撃をよけられるように足で地面を踏みしめながら、臨戦態勢に入る。
　しかし、その魔物は何を考えたのか、私に向けていた武器を下ろした。

「……なんで幼い人間の女の子が、威嚇なんてしてるんだ？」

　目の前にいる魔物は目を見開きながら言った。

「……というか、この子、可愛すぎないか？　天使とかではないよな？」

　緊張していた空気感が突然なくなり、目の前にいる魔物は本気で悩んでいるような表情で私のことをじっと見ている。
　あれ？　戦うんじゃないの……ていうか、何を言ってるの？
　なんで急に武器を下ろしたんだろう、この魔物……天使がどうとか言った気がするけど。
　あれ、それにその前に、私のことを『にんげん』とか言った？ 

『アン！　勝手にどこかに行くなと言っているだろ！』
『お、お父さん』

　私の威嚇を聞きつけて追いついたらしきお父さんが、すぐ隣にやってきた。
　しかし、私を叱しかった後に目の前にいる魔物と目が合うと、お父さんはそれ以上何も言わなくなってしまった。
　あれ？　どうしたんだろう？
　魔物を前にして、こんな反応をするお父さんは初めて見た。

「……嘘だろ、フェンリルじゃないか！　おい、そこの女の子！　早くこっちに来るんだ！」

　お父さんを目にした二足歩行の魔物は驚いた様子で、額ひたいから汗を垂らして私に手を差し出した。

「フェンリル相手じゃまともに戦えない、逃げるぞ！」

　え、一人で逃げるんじゃなくて、私を連れて逃げようとしているの？
　なんで私を逃がそうとしているのだろうか？
　この魔物、行動がまるで読めない。

『お父さん。この魔物、私のこと『にんげん』？　とか言ってきて武器を下ろしたんだけど、どういうことかな？』

　私は隣にいるお父さんに魔物の言葉の意味を尋ねてみた。
　すると隣で複雑な表情をしていたお父さんが、小さくため息を漏らす。

『アン……お前は、本当はフェンリルではないんだ』
『私がフェンリルじゃない？』

　ん？　どういうこと？
　お父さんの言ってる意味がよく分からない。
　私は物心がついた時からお父さんと一緒にいた。
　死の森を住処すみかとする、誇り高いフェンリルとして育てられた。
　それなのに、私がフェンリルじゃない……？
　私たちが会話している間、目の間にいる二足歩行の魔物は不思議そうな顔で私を見ていた。

「君、『にんげん』なのにフェンリルと会話ができるのか？」
「待って。私、フェンリルじゃないの？」
「何言ってんだ、当たり前だろ。どこからどう見ても『にんげん』じゃないか」

　二歩足歩行の魔物から、そう言われた。
　あれっ？　そもそも私、なんでこの魔物の言葉が分かるんだろう？
『にんげん』……？　人間……？
　ぴしんっ。
　言葉が頭の中で反芻はんすうされて、何かにひびが入ったような音が聞こえた。
　そして、知らない記憶が流れ込んできた。
　それは『大野杏おおのあん』という名前の人間の記憶。
　中小企業に勤めていた会社員で、趣味は異世界ものの小説を読むこと。
　会社帰りに本屋で異世界ものの新刊を買って、少し寝た後でそれを読もうとしていたんだった。
　今さらだけど……それがなんで今、森の中でフェンリルと一緒にいるんだろう⁉
　ていうか、なんでこんなに視線が低いんだろう？
　そんなことを思って自分の手を見てみる。
　すると、その手は六歳になる従妹いとこと同じような大きさをしていた。
　……え？
　社会人にしては小さすぎる手で自分の頬ほほをつまんでみると、やけに弾力がある。

「何このもちもちで、ぷにぷになほっぺは……え？」

　なんだろう、なんか喋しゃべり方も少し舌足らずな感じがする。
　……あれ？　子供になっている!?
　これってもしかして、よく異世界小説にある幼女転生ってやつ？

「――そうだ。私、『人間』だったんだ。お父さん、私、フェンリルじゃなくて人間だったみたい」


　完全に思い出した。
　前世で私は普通の人間として生きていて、気付いたらこの世界でフェンリルのお父さんに育てられていたんだ。
　ということは、私は狼おおかみ少女の異世界版……フェンリル少女ってことになるのかな？
　思いもよらない事態に私が唖然としていると、二足歩行の魔物――もとい、冒険者の男性が首を傾げる。

「お父さんだと？　フェンリルが子供を攫さらったってわけじゃないのか？」
「馬鹿を言うでない。この子は我が娘、アンだ。人間によって死の森に捨てられたのだ」
「え、フェンリルが人間の言葉を喋った!?」

　お父さんの言葉に、冒険者が目を見開いた。

「フェンリルを馬鹿にしているのか。貴様ら人間が使う言葉くらい話せるわ」
「馬鹿にしてるわけじゃないが……ダメだ、事態が飲み込めない」

　冒険者は額に手を当てて考え込み、お父さんは冒険者を睨にらみ、私は突然前世の記憶を思い出してアワアワとしている。
　そうこうしているうちに、戦闘するという状況ではなくなってしまっていた。
　冒険者が剣を下ろしている姿に、お父さんは息を吐いた。

「……ちょうどよい。戦う気がないなら、少し話に付き合え、人間」
「話に付き合えって、俺がか？　別にいいけど、急に襲わないよな？」
「馬鹿め。そんな気があるのなら、とっくに噛み殺しているわ」

　お父さんはそう言うと、その場に座って丸くなった。
　こちら側に戦う意思がないことが分かったのか、警戒しながらも冒険者はその場に腰を下ろした。

「アン、結界だ」
「うん」

　私はお父さんに言われて、いつもやっているように魔法で結界を展開した。
　死の森で座って話す以上、何も警戒しないわけにはいかないしね。
　私とお父さんがいれば何かしてくる魔物は少ないけど、自分の力量が分かっていない魔物が戦いを挑んでくることもあるし。
　結界を張ってから腰を下ろすと、冒険者はぽかんと口を開けて私を見ていた。
　何かおかしなことしたかな？
　そう思って首を傾げていると、冒険者は正方形に張った結界を見て、眉を寄せる。

「今、この子がこの結界を張ったのか？」

　この冒険者、なんで結界を張ったくらいで驚いて……あれ？
　もしかして、私くらいの年齢の子が結界を張るのって、この世界じゃ普通じゃないのかな？
　ていうかそもそも私、今、どうやって結界を張ったんだろう？
　頭でイメージしたら勝手にできたような気がしたけど、どうやったのかと言われると説明しようがない。
　私が困っていると、それに見かねたのか、お父さんが短く息を吐いた。

「フェンリルならできて当然だ。俺の娘だからな」
「当然って……この子まだ五、六歳くらいだろ」

　冒険者は結界を確認するようにペタペタと触った後、私たちの前に来て再び腰を下ろした。

「こんなに小さいのに、魔法使いも顔負けの結界を張れるなんてすごいな」

　冒険者は私にそっと手を伸ばすと、優しく頭を撫でてくれた。
　私のいた世界では、女の子は頭を撫でられれば喜ぶものだ、とか言われていた。
　私は撫でられたことなんてなかったし、別に撫でられてもなんとも思わなかっただろう。
　そう思ってたけど、実際に撫でられてみると意外と悪い気はしない。
　それどころか、犬に似た習性のあるフェンリルとして育ったせいか、撫でられるとワンちゃんみたいに相手に懐なつきたくなる。
　私が心地よさに目を細めていると、それを見ていたお父さんが私と冒険者の間に強引に入り込んできた。

「人間、あまりアンに気安く触れるな。人間の匂いがつくだろう」
「いや、アンは人間だろ」

　お父さんは不満げな冒険者を牽制けんせいしながら尋ねる。

「人間よ、貴様はなぜこの森に入ってきた？」
「さっきから人間人間って言うが、俺にはエルドって名前がある。呼ぶならエルドと呼んでくれ」

　エルドと名乗った冒険者はそう言うと、私の方をちらりと見てから、視線をお父さんに戻した。

「……ある冒険者から、子供がフェンリルと一緒にいるところを見たと聞いてな。魔物が子供を森の奥に無理やり連れていったのかと思って、助けに来たんだ」

　エルドさんはそう言うと、お父さんから視線を逸らした。
　私たちが親子だって知らずに勘違いしてたことになるから、エルドさんは気まずいみたい。
　まあ、普通は幼女とフェンリルが親子だとは思わないよね。
　それはさておき子供を助けたいからといって、死の森まで探しに来るのは普通ではない気がする。
　一般的にはエルドさんの行動は、勇敢っていうより無謀だって非難されるんじゃないかな。
　そんな風に考えていると、ふいにエルドさんがじっと私を見てきた。
　なんだろう？
　私が首を傾げると、エルドさんはその視線を逸らしてお父さんに向ける。

「なぁ、この子をどうするつもりなんだ？」
「どうすると言うと？」

　エルドさんからの問いかけに、お父さんが質問で返した。
　すると、エルドさんは小さくため息を漏らしてから続けた。

「そのままの意味だ。この子は人間だろ？　これからもフェンリルとして育てていく気なのか？」

　エルドさんに言われて、お父さんは少し言葉に詰まった。
　それからしばらく考え込んだ後、私の方に顔を向けた。

「……アン。この機会に、人間の街で暮らすというのも一つの手だ」
「え、お父さん？」

　お父さんは私の言葉に反応せず、すくっと立ち上がった。
　お父さんが私を置いてどこかに行ってしまう気がして、慌ててお父さんの体にしがみつく。

「お父さんっ！　私、お父さんと離れて暮らすなんて嫌だよっ」

　お父さんと離れて暮らすことを想像してしまい、目から涙が溢れてきた。
　鼻の奥がツンとして、垂れてきそうになる鼻水を啜すすりながら、さらに強くお父さんの体に抱きつく。
　お父さんは声を震わせている私をじっと見ていたが、私の頬にそっと顔を近づけて、零こぼれた涙を拭うようにぺろぺろと舐なめた。

「何を言っているんだ、アン。離れて暮らすなんて俺だって嫌に決まっているだろう」
「で、でも、でもっ、人の街で暮らすのも一つの手だって……」

　私がどもりながらそう言うと、お父さんはもふもふっとした毛並みで私を包み込んでくれた。
　……温かくて、心が落ち着いていく。
　お父さんは私の涙が止まるまで待った後、優しく私を見つめた。

「少しだけ街で暮らしてみよう。もちろん、俺も一緒に行く」
「い、一緒に来てくれるの!?」
「ああ。もちろんだ」

　離れ離れで暮らさないでいいんだ。
　安心感から、体の緊張が緩んでいくのを感じた。
　ひと安心してエルドさんの方を見ると、エルドさんは何か言いづらそうな表情をしている。
　私と目が合うと、エルドさんは私から顔を背そむけた。

「……一緒にって、フェンリルが街に出たら大変なことになるだろう？」

　エルドさんに言われ、私はハッとしてお父さんを見る。
　私はずっと一緒にいたから何も思わないけど、急にフェンリルが街に出てきたら、街の人たちはパニックになるかもしれない。
　やっぱり私たちは離れて暮らすしかないの？

「まぁ、『従魔契約』でもできれば問題はないだろうけど、フェンリルが相手だとなぁ……」
「従魔契約？」

　エルドさんがぼそっと呟つぶやいた言葉を、私は聞き逃さなかった。
　私が読んだことのある幼女転生ものの小説では、主人公が従魔と契約をして一緒に旅をする話があった。
　もしかしたら、私も小説みたいに従魔契約ってやつをすれば、お父さんと街で一緒に暮らせるのかな？
　そんな希望を抱いてエルドさんを見ると、エルドさんは気まずそうに私から目を逸らした。

「魔法で魔物を従魔にする方法がある。魔物に魔力のパスを通して契約すれば、魔物に命令することができるんだ。人間の命令を聞く魔物なら、街に連れていっても問題はない」

　やっぱり小説で読んだ展開と似てる！
　私が喜んでいると、エルドさんは慌てて言葉を続けた。

「ただ、従魔契約できるのは低ランクの魔物だ。フェンリルと従魔契約をした奴なんて聞いたことがないし、そもそも契約できるかどうかも怪しい」

　そう言われて、ぬか喜びだったのかと心がしゅんとなった。
　やっぱり街でお父さんと一緒に暮らすことはできないの？ 
　私が不安になっていると、お父さんはなぜか自信ありげな笑みを浮かべていた。
　お父さんは得意げな顔で口を開く。

「俺とアンなら可能だ。俺がアンの従魔になる従魔契約を行う」

　エルドさんは思ってもみなかったようで、驚いて一瞬言葉を失っていた。

「魔物側から契約するってことか？　そんなことができるのか？」
「俺は普通の魔物ではないからな」

　お父さんはエルドさんを見てニヤッと笑う。
　普通ではない魔物という返しに、私はふふっと笑ってしまう。
　私が笑っているのを見て、お父さんはほっとしたみたいで言葉を続ける。

「アン、さっそく始めよう」
「うん、お願い。えっと、私はどうすればいいのかな？」
「とりあえず、俺の魔力と波長を合わせるんだ」

　そう言われて、お父さんの魔力を感じ取ろうとした。
　お父さんの魔力は淡い緑色のようなイメージだ。
　この魔力に、私の魔力の波長を合わせればいいんだよね。
　むむっ、こんな感じかな。
　私が波長を合わせていくと、徐々に地面に緑色に光る魔法陣が形成されていった。

「これって、従魔契約の……？」

　私が魔法陣を見て驚いていると、お父さんは頷うなずきながら言う。

「ああ。これで従魔契約の第一段階は成功だ。後はアンが俺に名前を与えれば契約は完了だな」
「名前？」

　私は突然そう言われて首を傾げてしまった。
　これだけで終わりじゃないんだ。

「従魔契約は二段階に分かれている。一段階目が魔力を同調させてパスを通すこと。これが今完了したというわけだな。そして二段階目が従魔に名前を与えることだ。名前がなければ、従魔に命令をする時に困るだろう？」

　お父さんの説明に私は頷く。
　確かに、命令する時には名前が必要だよね。
　じゃあ、とびっきりいい名前を付けてあげよう！
　……と思って腕を組んで考えてはみたが、なかなかいい名前が浮かんでこない。
　え、こんなに出てこないものなの？　私ってネーミングセンスない？

「どうしよう。名付けって難しいかも」
「難しく考える必要はないぞ。アンが名付けてくれるなら、なんでも構わない」

　なんでも構わないと言われても、それはそれで迷ってしまう。
　名前……名前……
　私は改めてお父さんをじっと観察して、名前のヒントがないか探してみることにした。
　神聖なオーラが漂う神々しい存在。
　切れ長の目、そして白銀色のもふもふとした毛並み。
　白銀色、白銀の世界……スキー、雪？　冬？
　冬はいい気がするけど、フユって名前だと、響きが少し可愛すぎるかも。
　それなら、いっそのこと冬に限らずすべての季節を入れちゃおうかな？ 
　すべての季節といえば……

「『シキ』っていうのはどうかな？　すべての季節を支配する存在っていう意味で！」
「なるほど、素晴らしい由来だな。いいな、シキという名前は気に入った」

　お父さんが口元を緩めると、私たちの足元にある魔法陣が一層強い光を放った。

「わっ、なんかすごい光ってるけど、大丈夫？」
「問題ない。アンがくれた名を俺が受け入れたからな」

　私の心配をよそに光は徐々に小さくなり、やがて足元にあった魔法陣が消えていった。

「これは、契約完了ってこと？」
「ああ。これから俺のことはシキと呼ぶようにな、アン」
「ふふっ、なんか慣れるまで変な感じがするね」

　どうやら、従魔契約はうまくいったみたいだ。
　私たちが安心して和なごんでいると、エルドさんから視線を感じた。