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2巻
2-1
しおりを挟む一章 アマード子爵領への旅路
僕はレオ、黒髪が特徴の四歳の男の子です。
シェルフィールド王国の端にある小さな村に住んでいたんだけど、両親の借金が原因で、村を訪れた商人に売られてしまった。
そのままセルカーク直轄領の街まで輸送されかけていたところで、僕を乗せた商人の馬車をバラス一家という盗賊団が襲う。その襲撃で、商人たちはバラス一家に殺害されて、僕も暴行を受け、頭やお腹に怪我を負う事態に。
そんな絶体絶命の状況で、僕は体の中に湧き上がった何か熱いものを無意識のうちに放っていた。
その後、気を失っていた僕は、騒ぎを聞きつけて現場を訪れたセルカーク直轄領の守備隊に助けられた。
話を聞くと、どうも僕が魔法を使ってバラス一家を倒したらしい。
それから僕は街に住む事になり、保護してくれた守備隊のもとで魔法の勉強をしたり、街の皆のお手伝いをしたりしてのんびり暮らしていた。
しかし、僕が治癒魔法で街の皆を治した事で、それまで街の治癒を牛耳っていた悪徳司祭から目をつけられてしまう。誘拐までされかけたけど、魔法を使ってこのピンチを何とか切り抜けた。
そして司祭が無事捕まり、街が司祭のせいで失われていた活気を取り戻した頃。
僕を捨てた一件の聴取のために、両親がこの街に連れてこられる話を聞いた。
かつてのトラウマから精神の不調に陥った僕は、大人たちの助言もあって、セルカークを離れることになった。
いつかはまた戻ってきたいと思い、僕は見送ってくれた皆に「いってきます」と言って旅立ったのだった。
パカパカパカ。
僕や乗客を乗せた馬車は、順調に街道を進んでいた。
お天気もよく、風もとっても心地よい。
「えっと、途中で二泊するとアマード子爵領の領都に到着するんだね」
僕はセルカーク直轄領で買った地図を広げながら呟いた。
セルカーク直轄領に隣接する男爵領で一泊し、アマード子爵領の領都手前の村でもう一泊する予定だ。
「セレンお姉さんに言われた通り、馬車用のクッションを買っておいて正解だね。馬車の振動がすごいんだ」
クッションを敷いてなければ、お尻が痛くなってしまうところだった。
「おじさん、まだ森が続くんですか?」
「森を抜けるまで、あと二時間はかかるな。その後は、男爵領まで平原だ。それから休憩を挟みつつ、しばらく行った所にある村で昼食だな」
御者のおじさんに道中のスケジュールを聞くと、森を境にセルカーク直轄領とその先で一気に景色が変わるのだと知った。
森を通っている間は、特に何も起きなかった。
普段はオオカミみたいな獣が出てくるって聞いていたけど、休憩予定の場所に着いてもまったく現れる気配がありません。
探索魔法を使っても、危ない動物の存在は確認できなかった。
僕が不思議そうにしていると、休憩中におじさんが笑いながら話し出す。
「ははは、そういえば守備隊と軍が街道に現れるオオカミとかを狩っていたな。誰かのためとか何とか」
その言葉を聞いて、僕は嬉しくなった。
守備隊の皆さんが安全に旅ができるようにしてくれたんだ。
やっぱり守備隊の人たちは、とってもいい人ばかりだ。
「お菓子をいっぱいもらったんで、皆さんも食べてください」
「おお、悪いね」
「じゃあ、もらうとするか。昼食前だから少しだけ」
僕は一緒に馬車に乗っていた人たちに、街の人からもらったお菓子をお裾分けした。
僕一人では全部食べきれないし、皆でおしゃべりしながら食べた方がずっと美味しいからね。
こんな感じで休憩を何度かとりながら進んでいると、昼食を食べる村に無事に到着した。
村の定食屋さんに入って、僕はお昼ご飯を注文する。
「おかみさん、量は半分にしてもらっていいですか?」
「あいよ、ちゃんとお願いができて偉いね」
まだ大人と同じ量は食べられないので、減らしてもらった。
もっとたくさん食べるためにも、早く大きくなりたいな。
昼食を食べ終えて再び馬車で進む事三時間ほどして、今日の宿泊地の男爵領に着いた。
思ったよりも大きい街で、多くの人々が忙しそうに行き交っている。
「明日は朝早く出発しますか?」
「次の村までの馬車便は、だいたい今朝と同じくらいに出るから、ちょっと余裕を持って早めに来た方がいいな」
今日乗ってきた馬車はこのままセルカークの街に戻るので、明日は別の馬車に乗らないといけないんだよね。
乗る馬車の確認を終えた僕は、おじさんに教えてもらったおすすめの宿を目指した。
「わあ、大きな宿だね」
おじさんに教えてもらった所は、三階建ての大きな建物だった。一階に食堂があって、すでに多くの人でいっぱいだ。
賑やかな話し声がホールに響いていた。
僕は宿のカウンターっぽい所に向かい、帳簿に何かを書いていたおばさんに話しかけた。
「すみません、一泊お願いします」
「えっ? 君一人で泊まるの? まだ、随分小さいみたいだけど」
おかみさんらしき人は、僕の言葉を聞いて酷くビックリしていた。
僕は小さいから、お客さんの誰かが連れている子どもって思っているのかも。
そこで僕は、魔法袋から冒険者カードを取り出しておかみさんに手渡した。
年齢問わず、冒険者であれば一人前と見なされるとセルカークで聞いた事がある。
これで、おかみさんも認めてくれるはずだ。
「あらやだ、ごめんなさいね。その歳で冒険者なんてすごいわね。カードも本物だし問題ないわ。泊まる場所は二階の部屋で、夕食は一階の食堂だからね」
おかみさんに案内してもらった部屋は、セルカークの街の冒険者ギルド併設の宿よりもずっと広くてベッドもふかふかだった。
部屋の確認が終わったところで、食事の時間になった。
僕は一階の食堂に移動した。体が小さいから、階段での移動は結構大変だ。
「はい、お待ちどうさま。小さいサイズのピザね。あと、ジュースよ」
僕が頼んだのは、トマトと野菜を使った小さなビザ。
お酒のおつまみに出される事が多いからか、この食堂は小さいサイズのメニューが充実していた。
僕はピザをもぎゅもぎゅと食べながら食堂を見回した。
宿泊客だけでなく、仕事帰りに食堂でお酒を飲んだり夕食をとったりしている人も見られた。
それから、ピザを食べ終えて僕が部屋に戻ろうかなと思ったところで、食堂内がざわつき出した。
突然、僕から少し離れた席で酔っ払い同士の言い争いが始まった。
「なんだと、やるのか!」
「そっちこそ、俺に歯向かう気か!」
セルカークの街でも冒険者ギルドの食堂で酔っ払いを見かける事はあったけど、ここまで酷い酔い方をする人はいなかった。
まさか喧嘩するまでお酒を飲む人がいるなんて。
バキ、ボカ、ドカ!
「やったな、この野郎!」
「そっちこそ殴ったな!」
「殴り合いが始まったぞ、守備隊を呼んで来い」
僕がセルカークの街の事を思い出している間に、二人の喧嘩がヒートアップしてしまった。
二人とも酔っぱらっている影響なのか、互いに容赦なく殴り合っている。
周囲に被害が出る前に早くやめさせないと、と僕が考えていた矢先、とうとう恐れていた事態が起きてしまった。
酔っ払いの片方が喧嘩相手に向けて投げつけようとしたコップが、あらぬ方向へ飛んでいき、無関係の若い女性の頭に当たってしまったのだ。
「「「あっ!」」」
思わず、僕だけでなくその場にいた多くの人が声を上げる。
「いたたた……」
女性がうずくまったのを見て、僕はすかさず駆けつけた。
他の人は、これ以上二人を暴れさせまいと酔っ払いを羽交い絞めにして喧嘩を止めていた。
怪我をした女性の周りにも、すでに数名集まっている。
「おい、大丈夫か? しっかりしろ!」
近くにいた男性が女性の頭を布で押さえていた。
結構な出血量で、見るからに痛そうだ。
「ぐっ、離せ、離しやがれ!」
「俺は、こいつを殴らないと、気が済まない!」
羽交い絞めにされている酔っ払いたちは、女性が怪我している事にも気付かず、いまだに喚き散らしている。
そっちはさておき、女の人の治療を早くしないと。
僕は、集中して魔力を溜め始めた。
「僕が回復魔法で治療します!」
「えっ?」
一緒にいた男性が人混みを縫って現れた僕にびっくりしているけど、今は気にしている場合じゃない。
僕は女性の頭に手を翳した。
シュイーン、ぴかー。
幸いにして深い傷ではなかったので、女性の怪我はすぐに治った。
「これでよくなったはずです。調子はどうですか?」
「あっ、わあ、傷が治った。全然痛くない!」
女性はかなり驚いた表情で自分の頭をペタペタと触っていた。
一緒にいた男性も唖然としたまま、僕と女性を交互に見ていた。
「さすがは小さな魔法使い様だ。相変わらずいい回復魔法だな」
たまたま食堂に来ていたらしい御者のおじさんがそう言って、僕の後ろから声をかけてきた。
「「「この子が小さな魔法使い!?」」」
おじさんが僕の二つ名を口にしたと同時に、周りの人が驚愕の声を上げた。
「皆さん、どうしたんですか?」
「レオは知らないかもしれないが、君が思っている以上に君の二つ名は遠くまで広まっているぞ。なにせ、セルカークの街を救った英雄だからな」
まさかセルカークにいた頃につけられた名前が、こんな遠くまで知られているとは思わなかったな。
「えー! そんな事になっているんですか!? それほどすごい事をしたつもりはないですよ」
「他の街に行った行商人の連中が、レオの事を話しまくっていたぞ。小さいのに凄腕の魔法使いがいるってな。レオが考えている以上にすごい事をしているんだぞ」
「そうだったんですね……」
僕が知らない間にそんな事になっていたんだね。
うう、悪い噂ではないから否定しづらいけど、少し困っちゃうな。
「さっきレオが女性を颯爽と治療したのもかっこよかったからな。また噂が広がるかもな」
おじさんはニヤニヤしながら、僕の頭を少し強めに撫でた。
そこに、怪我をしていた女性と一緒にいた男性がやってきて僕の手を取った。
二人とも、とってもキラキラした目を僕に向けている。
「怪我を治してくれて、本当にありがとう。幼いのにすごい魔法使いがいるって聞いたけど、噂は本当だったのね」
「大したお礼にならないかもしれんが、せめて食事代は出させてくれ。彼女を治療してくれてありがとう」
笑顔でお礼を言う二人を見て、僕は治療してよかったとホッと胸を撫でおろした。
ご厚意に甘えて、食事代は二人に払ってもらった。
酔っ払いたちは、僕が女性を治療している間に食堂からいなくなっていた。
さっき守備隊を見かけたから、多分彼らに連れていかれたのだろう。
それからは、セルカークの街で僕が何をしていたかを知っている人によって、僕のすごさがひたすら語られていた。
恥ずかしくなった僕は、すぐに部屋に戻ってふわふわのベッドでぐっすり眠ったのだった。
翌朝、僕は早めに起きて部屋の中で魔法と剣技の訓練をしてから身支度を整えた。
旅行先でも、訓練は毎日しないと。
魔法袋にしまってあったパンを食べて、部屋を生活魔法で綺麗にして出かける準備は完了。
受付に向かうと、カウンターの上に鍵を置いた。
「お世話になりました。ありがとうございます」
「お礼を言うのはこちらの方だよ。昨夜は怪我人を治療してくれて助かったよ。ありがとうね。また利用してね」
宿のおかみさんからも、昨日の食堂の件で褒められちゃった。
ちなみに治療した女性と一緒にいた男性は守備隊の聴取を受けていて、今朝は会えないらしいです。
この街を出る前に少しお話ししたかったから、ちょっと残念です。
気を取り直して、僕は馬車乗り場に向かった。
「おっ、レオか。昨夜はよく寝れたか?」
「はい、ぐっすりと眠れました」
「おお、そりゃよかったな」
乗り場に着くと、昨日この街まで乗せてくれた馬車便のおじさんに声をかけられた。
これから、またセルカークの街に戻るそうだ。
「いやあ、それにしても昨日はレオの話で盛り上がったなあ。俺たちはレオの事をよく知っているけど、他の街の人間にとってはレオは謎が多いからな。颯爽と怪我人を治療した様子を見た皆は、レオは天使みたいだと口々に言っていたぞ」
おじさんが昨夜の事を思い出しながら話し始めた。
「えー!」
「セルカークの街に戻ったら、この事も皆に話さないとな。レオは元気にやっていますって」
僕の気も知らずに、おじさんが悪戯っ子みたいな笑みを浮かべた。
また大げさに僕のした事を広めるんだろうな。
僕は、思わずがっくりとしてしまった。
「おっ、そろそろアマード子爵領行きの馬車便が出るぞ。ほらほら、遅れないように乗っていきな」
おじさんが僕の背中を押した。
話に夢中になっている間に、僕が乗る馬車便の出発時間になっていたようだ。
僕は馬車に乗り込んで、おじさんに手を振った。
ここからまた新しい場所へ向けての旅が始まるんだ。
僕はワクワクしながらも、気持ちを引き締めた。
パカパカパカ。
両側を平原で挟まれたのどかな街道を、僕たちを乗せた馬車が順調に進んでいく。
「おじさん、この街道は危険なものはいないんですか?」
「うーん、今の時期はあんまり出ないね。森の食べ物が少なくなる秋から冬にかけては、たまにイノシシが出てくる事もあるがな」
山に食べ物がいっぱいある夏のうちは、森にある動物のテリトリーに侵入しなければ安全みたいだ。そこら辺は、森に囲まれているセルカーク直轄地とは違うんだ。
馬車での移動中、一緒に乗っていた人たちから話しかけられる事が何度かあった。
今回の同乗者はまったく知らない人ばかりだったけど、昨日の食堂での一件が広まっているようで、たまに僕の噂について聞かれた。
しばらく進むと、だんだんと街道の周りの風景が変わっていった。
「平原から山道に入ってきましたね」
「アマード子爵領は鉱山が有名でな。実は山に囲まれた盆地に都市があるんだ。必然的に標高の高い山道を越えないといけない」
「そんな高い所を馬車で通るなんて大変ですね」
「まぁな。とはいっても、街道は整備されているから問題なく移動できるぞ。馬の疲労を考えて、宿場街は距離を短めに設定されているがな」
確かに、この道を通ると普段以上にお馬さんが疲れてしまいそうだ。
そんな話をしていると、御者のおじさんの言っていた宿場街に到着した。
昼食を食べて、そのままこの村で一泊するみたいだ。
村といっても宿場街として栄えているだけあって、普通の宿だけでなく立派な宿もあった。
この立派な宿は、貴族が泊まる事もあるという。
アマード子爵領の都市までは、明日の朝に出る別の馬車便で向かうようだ。
昼食と宿の確保を済ませた後、僕は村を散策していた。
「わあ、色々なものが売っているなあ」
たくさんの観光客が歩いている中、僕はとあるお店の前で足を止める。
「あれ? これは何だろう?」
目に留まったのは、乾燥した何かの実だった。
今まで見た事も食べた事もないから、とっても不思議で興味が湧いた。
僕が品物をじーっと眺めていたら、店員のお姉さんが声をかけてきた。
「あら、ドライフルーツを見るのは初めて?」
「ドライフルーツ、ですか?」
「そうよ。保存が利くように、果物を乾燥させたものよ」
普段食べている果物を乾燥させているんだ。
確かに、その方が長持ちしそうだ。
干し肉の果物版って事かな。
セルカークでは見かける事がなかった食べ物だ。
お姉さんが僕にドライフルーツの試食分を渡してくれる。
「あっ、とっても甘いです。すごく美味しいですね」
一口齧って、僕は目を輝かせた。
「乾燥させると水分が少なくなって、甘みも濃縮されるのよ。これほど美味しいドライフルーツを作るには、ちょっとコツがあるんだけどね」
僕は初めて食べたドライフルーツの美味しさに感動して、早速いくつか購入した。
お姉さんにお礼を言って受け取り、お店を後にする。
これでアマード子爵領までのお菓子は確保できたね。
たくさんはないから、少しずつ美味しくいただこう。
その後もいくつかのお店を回ってから、僕が宿に戻ると、もう夕食の時間になっていた。
「はい、たんとお食べ」
おかみさんから提供される夕食はとても美味しかった。
お肉を焼いただけなのに、セルカークの街の料理と味が違ったのにはびっくりしたな。
料理のタレとか、使用する肉が違うのかな?
夕ご飯を食べ終えて、ベッドに入ると、朝早く起きたのもあってか、あっという間に寝てしまった。
明日も寝坊しないように気をつけないと。
今日は、いよいよアマード子爵領に向かう日だ。
日課の訓練も着替えも終えたし、準備万端です。
馬車の出発時間が昨日より遅い事もあって、ゆっくり寝られたのも嬉しかった。
宿を出て馬車乗り場に向かうと、その手前の立派な宿の入り口に人だかりができていた。
「あれ? 何かあったのかな?」
気になった僕は、その人だかりの方に向かった。
「うう……」
「あなた、大丈夫ですか?」
「先代様、しっかりしてください」
人だかりの中心にいたのは、豪華な服を着ている白髪のお爺さんだった。
お腹を押さえて苦しそうにしている。
そのそばでは、とても綺麗なドレスを着ている白髪のお婆さんと護衛っぽい人がお爺さんに声をかけていた。
これは緊急事態です、すぐにお爺さんを治療しないと。
僕は急いで人だかりの中心に駆けていった。
「お爺さん、大丈夫ですか?」
「あ、ああ……」
軽く魔力を流してお爺さんの体を調べると、お腹だけでなく胸にももやもやがあった。
この不調の原因のもやもやを取り除かなきゃ。
「すぐに治療しますね」
全部治すためには、かなり魔力を溜めないと足りなそうだ。
僕は魔力が両手に集まるように意識を集中させた。
シュイン、シュイン、ぴかー。
そして複数の魔法陣を展開して、僕は溜めた魔力を放出した。
「まあ、坊やは魔法が使えるのね」
「これはすごい魔力の光です!」
僕の後ろにいたお婆さんと護衛らしき人が感嘆の声を上げる。
二人だけでなく、周囲の人々も目を見張っていた。
皆が驚いている間に、僕の治療は終わった。
お爺さんの胸とお腹にあったもやもやは全部消えたけど、これで治ったかな?
「お爺さん、大丈夫ですか?」
僕が尋ねると、お爺さんがビックリしながら体を起こした。
「これは驚いた。腹だけでなく、胸のつっかえも全部なくなったぞ」
お爺さんは不思議そうに自分の体をしばらくペタペタと触っていたかと思うと、僕の手をぎゅっと力強く握ってきた。
「坊や、本当にありがとう。坊やのお陰ですっかり元気になったよ」
「本当にすごいわ。主人を治してくれてありがとうね」
お婆さんも、嬉しそうに僕を撫でてくれた。
事態は解決したかなと思ったところで、宿から誰かがこちらに向かってきた。
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