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3巻

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 第一章 迫りくる脅威


 ブラック企業づとめのサラリーマン、高橋渉たかはしわたるは女神アリーシャによって、あらゆる薬を作ることができるスキルを授けられ、伯爵はくしゃく家の息子アレクとして異世界に転生した。
 転生した先のバーナード伯爵家でいじめ抜かれたアレクは、復讐ふくしゅう心を抱きながら専属メイドのナタリーとともにそこを脱出し、ヴェルトロ子爵ししゃく家に養子として迎えられる。
 子爵のヨゼフとその妻カリーネに愛され、アレクは毎日幸せな日々を送っていた。
 そして、復讐の時が訪れる。国王の思惑で呼び出された晩餐ばんさん会で、伯爵家長男のヨウスが相も変わらぬ性格の悪さでアレクを挑発ちょうはつし、決闘けっとうに発展した結果、アレクが圧勝したのだ。
 さらにバーナード伯爵家の悪事――彼らは裏で国家転覆てんぷくを狙っていた――が国王によって白日の下にさらされ、バーナード伯爵家は取りつぶしとなった。
 晴れてうれいがなくなったアレクは、元凄腕すごうで冒険者のノックス、その仲間の魔法使いオレール、そして奴隷どれい商で契約したパスクとともに、冒険者活動を開始する。そこでさまざまな出会いや異世界ならではの魔物との死闘を経験し、成長していった。
 そんな中「復讐は復讐を生む」という言葉通り、ヨウスは深いやみまれ、アレクを狙う組織、ドラソモローン・エミポグポロスの仲間になっていたのだった。


 ◆ ◇ ◆


 アレクは、王都から家族の待つストレンへと向かう馬車の中にいた。師匠ししょうのノックス、その元パーティーメンバーで魔法使いのオレール、アレクの奴隷パスク、マンテじいという従魔のマンティコア、そして冒険者パーティー『鉄血てっけつきば』の元メンバーであるスベアが一緒だ。
 つい先日、王都で行われた『鉄血の牙』とのランク昇格試合を終え、アレク達は無事にBランクパーティーへと昇格した。彼らはその後、ドワーフの老夫婦が営む鍛冶かじ屋で注文していた特注の武器を受け取ると、馬車に乗って王都を出発することにしたのだ。
 馬車を引いているのはマンテ爺だ。
 この馬車は、アレクが護衛任務で知り合った商会の会長に特別に作ってもらった、従来型より速度が出せてれも少ない最新型のものである。
 揺れを軽減するサスペンション機構は、アレクが前世の知識を伝え、搭載とうさいしてもらった。
 馬車の中でアレク達は、無事に昇格できた喜びを改めて分かち合ったり、新型馬車の性能について意見を交わしたりしていた。

「アレク、そしてみんな、昇格おめでとう。だが、冒険者としてのキャリアはまだ始まったばかりだ、気を抜かないようにな」

 そう言ったノックスは、さらに上の冒険者ランクを目指していた。

「俺だけではなく、みんなで力を合わせた結果ですよ。スベアさんという心強い仲間も増えましたし、みんなでどんどん上を目指すつもりです。スベアさん、よろしくね」

 スベアはオレールの魔法使いとしての才能にあこがれ、弟子入りを志願してアレク達のパーティーについてきた。
 スベアは緊張しながら、意気込みを口にする。

「は、はい。足を引っ張らないよう頑張ります!」
「スベアさん、よろしくお願いしますね。私の訓練は厳しいですよ?」

 オレールはそう言って、スベアに向かってにこやかな表情を向けた。
 どれほど厳しいのかとスベアが身を震わせる横で、パスクが口を開く。

「それにしても、この馬車凄いですね、全然揺れません」

 その言葉に、ノックスが同意しながらアレクをめる。

「確かに凄い。さすがアレクだな、強いだけではなく、機械に関する知識もあるなんて」
「俺は凄くないですよ。作ってくれた職人さん、引いてくれているマンテ爺が凄いんです」

 アレクが謙遜けんそんすると、馬車の中の皆が「アレクらしいな」という表情を浮かべながら頷いた。
 馬車内ではそんな平和な会話が続いていて、目的地であるストレンの街を狙って不穏な集団が動いていることは、この時まだ誰も知らないのであった。


 ◆ ◇ ◆


 鉱山で奴隷として働かされていたヨウスが逃げ出し、ヴェルトロ伯爵家に向かっているかもしれないという情報は、国王の耳にも入っていた。
 そのため国王は、ヨウスの脱走をヨゼフに伝え、彼の護衛ごえいをするよう第三騎士団長のルーヘンに王命を下した。
 ちなみにヨゼフは先の晩餐会のあと、彼の王国への貢献、平和な領地経営が高く評価され、伯爵へ陞爵しょうしゃくしていた。
 ルーヘンは国王から任務を伝えられると、すぐに第三騎士団を率いて、王都から伯爵家が治めるストレンの街に向かう。

「団長、めずらしく真面目な様子ですが、どうされたのですか?」

 ストレンの街までの道中で、副団長のヘリオスがルーヘンに向かって尋ねる。
 ルーヘンは不真面目で、何故団長になれたのかと疑問視する者が多数いるが、第三騎士団の団員の多くは彼のことをしたっていた。

「う~ん、ぜひ騎士団に入ってほしい子がいてね、その子がいる領地に行くからさ、楽しみで仕方ないんだよ。十歳なんだけど、新人の騎士団員より強いんだ。凄い逸材いつざいだと思わない?」

 その子とはもちろんアレクのことである。
 ルーヘンとアレクは、アレクが王都に訪れた際に、腕相撲うでずもう対決をしたという縁があった。
 ルーヘンの言葉を聞いたヘリオスは、本当にそんな十歳がいるのかと話半分で聞いている。

「もし本当にそんな子がいれば、ぜひ入団させたいですね。そのまま成長して、成人を迎えて十五歳の時には、どこまで成長しているやら」
「信用していない感じだね、別に構わないけど。バーナード伯爵家の長男ヨウスとアレクが決闘をしたんだ。その時、アレクは無詠唱で中級魔法の《竜巻トルネード》を放ち、さらになんの躊躇ちゅうちょもなく相手の子の手足を折ったんだよね」

 決闘のことは知っており、悲惨ひさんな現場だったと聞いていたヘリオスだったが、詳しい内容までは知らなかったので驚いてしまう。

「無詠唱で《竜巻トルネード》、それに、躊躇なく手足を折るなんて……信じがたい内容ばかりですね。その子は大丈夫なのですか? 犯罪……いや……足を踏み外さないかと心配になります」
「副団長の考えは当然だね。でも、僕はあの子は大丈夫と確信しているんだ。あ、それより今回はみんな完全武装だよね?」
「はい! 言われた通り、戦闘用フルプレートを着用して、武器も予備を含めて持ってきました。それに、ポーションも各種揃えております。……指令を聞いた時は、戦争でも起こるのかと思いましたよ」
「戦争に近いことは起こるかもしれないよ。ヘリオスだけには伝えておくけど、ヴェルトロ伯爵家は凶悪な犯罪者に狙われているんだ」

 ヘリオスは聞かなきゃよかったとため息をつく。

「はぁ~、そんな不安になることをサラッと言わないでくださいよ。王命である以上、任務は遂行すいこうしますが、団員が対処できないほど強い相手が現れた場合、どうするのですか?」
「そうなんだよね。そこが問題なんだよ。僕とヘリオスだけで相手をして、他の団員にはヴェルトロ伯爵家の人達の護衛をしながら逃げてもらおうか」
「本当は私も逃げたいですが、団長の命令なら従うしかありませんね。ここが私達の最後の戦場にならないことを願いますよ」

 ヘリオスは半分冗談、半分本気で答える。
 ルーヘンがこのような不吉なことを言う時はたいてい当たるので、気を引き締め直すのであった。


 ◆ ◇ ◆


 一方その頃、ドラソモローン・エミポグポロスの幹部構成員であるナンバー3とナンバー5は、ストレンの街から少し離れた街で食事をしていた。
 ナンバー3とナンバー5は市民に擬態ぎたいするために、普段している黒いローブも仮面もせずに、平民が着るような服を着ていた。はたから見れば兄弟にしか見えない。
 少年のような見た目をしたナンバー3が、恵まれた体格のナンバー5にからかうように話しかける。

「なんでそんなに不機嫌なの?」
「人を殺せるっていうのに、お前が行こうとしねぇからだ」
「だって、この街の料理がおいしいんだもん。どうせ僕達が本気を出したらすぐ終わっちゃうんだから、のんびり行こうよ」
「お前は俺より強いから基本的には従うようにしているが、そろそろ限界なんだよ。行かねぇならこの街を破壊するからな」

 組織の幹部は強さによって序列付けされていて、ナンバー1が一番強く、ナンバー9が一番弱い。
 ナンバー5はもう暴れたくて仕方がなく、我慢の限界を迎えていた。

「やめてよぉ。帰りにおいしい食事ができなくなるのはイヤ。分かったよ。明日出発するからさ」
「分かりゃいいんだよ。お前だって早くあの大剣野郎と戦いたいだろ?」

 ナンバー5が大剣野郎――ノックスの話題を出すと、さっきまで無邪気に話していたナンバー3の顔から少年っぽさが消え、彼は邪悪に満ちた笑みを浮かべた。

「急にその顔はやめろよな……えんだよ」
「これは君が悪いんだよ。僕は頑張って我慢していたのに、あの大剣野郎のことを思い出させたんだからね。ハァハァハァハァ、僕が殺してあげるから待っていてねぇぇ」

 ナンバー3はそう言って、ヨダレを垂らしながら恍惚こうこつの表情を浮かべるのであった。


 ◆ ◇ ◆


 王命を受けた第三騎士団は、すでにストレンの街の門の前に来ていた。
 平和な様子の街に、まだ悪いことは起こっていないようだと安堵あんどするルーヘンとヘリオス。

「門番へ早急に通すように言ってきます」
「頼むね」

 そう言うとヘリオスは馬に乗って門へ駆けていく。

「団長、もうヘトヘトです~。休ませてください~」

 女性団員のジェシカが、疲れをアピールしながらルーヘンに話しかける。
 普通の騎士団であれば、こんなことを言っていると怒られてもおかしくないが、ルーヘンは一切怒らない。

「何もなければ明日は休暇きゅうかにする予定だよ。僕もゆっくりしたいからね。でも、今回は嫌な予感がするから、いつでも動けるようにはしといてね」
流石さすが団長です~。こういう時だけは第三騎士団でよかったと思います~」

 そんなことを言うジェシカに対し、ルーヘンは問い返す。

「え? 普段は嫌なの? こんな時だけ?」
「そうです~。団長は優しいだけがとりえですから~」

 こういった冗談を言えるのも、ルーヘンが普段から話しやすい環境を整えているからだ。

「いやいや、団長に対しての敬意とかないわけ? ジェシカ、僕泣いちゃうよ」

 それを聞いたジェシカはクスクスと笑った。

「団長、門に入る許可が出ました。すぐに伯爵様の屋敷に向かってほしいとのことです」

 門番に話を通したヘリオスが戻ってきて、今後の予定をルーヘンに伝える。

「了解。後ででいいから、団員みんなに明日は休暇にすると伝えといてね。僕と副団長も休暇だから」
「はい。分かりました。でも私は団長についていきますね。羽目を外されては困りますから」

 ヘリオスの言葉を聞いたルーヘンは『なんでついてくるの? 僕の自由を奪わないで』という顔をする。

「あははは……なんのことかな? 僕が困らせるようなことするわけないじゃないか。ヘリオスは心配性だな~」
「では来年は謹慎きんしん処分なしでお願いしますよ。団長が謹慎になって、他の騎士団団長に嫌味を言われるのはもうこりごりなんですから」

 ヘリオスはルーヘンが一番言われたくないことを、刺すように言った。

「よし! 屋敷からの迎えを待たせるわけにはいかないから行こう」
「ちょっと! まだ話は終わってませんよ」

 これ以上小言を聞きたくないルーヘンは、耳をふさいで逃げるように門をくぐるのだった。


 そして屋敷に着くと、屋敷の門の前で執事しつじのセバンが待っていた。

「皆様、長旅お疲れ様です。旦那様は応接室でお待ちです。ご案内させていただきます」

 セバンの案内のもと、伯爵家の敷地に足を踏み入れる一行。
 庭にはテーブルと椅子いすと飲み物などが用意されており、団員はそこで休息を取るように指示される。そしてルーヘンとヘリオスはヨゼフが待つ応接室に向かった。

「旦那様、お客様をお連れいたしました」
「入りなさい」

 ヨゼフから入室許可が出たので、セバンに続いてルーヘンとヘリオスが応接室へ入る。

「ルーヘン殿、久しぶりじゃのぅ。先日の王城での晩餐会以来じゃな」

 急に来た二人を、ヨゼフは笑顔で出迎える。

「お久しぶりです。ヴェルトロ伯爵様。急な来訪にもかかわらずお会いしていただき、感謝いたします」
「お初にお目にかかります。ヴェルトロ伯爵様。私は第三騎士団副団長のヘリオスと申します。以後、お見知りおきを」

 ルーヘンが真剣な顔付きで頭を下げ、ヘリオスもそれに続く。

「二人とも、こんな田舎いなかの街によう来てくれたわい。歓迎するぞい。それにしても第三騎士団が総出でやってくるとは、いったいどうしたんじゃ?」
「まずはこちらをご覧ください」

 ルーヘンから渡されたのは王印がされた書簡であった。
 すぐに中身を確認したヨゼフは、そこに書かれていたヨウスの脱走の件を知り眉をひそめる。

「こりゃ、一大事じゃな……ルーヘン殿はバーナード家の復讐についてどう思うかのぅ?」
「すぐにあるとは思えませんが、別の嫌な予感もしております。いつでも動かせる私兵と、避難ひなんの準備をしていただきたいと思います。私の予感を信じていただけるのであればですが……」
「うむ……セバン、すぐに市民の避難誘導の準備と、私兵団長のロイスに、いつでも動けるように伝えるのじゃ。あと、使用人の避難経路も再確認しておけ。ルーヘン殿、ヘリオス殿、すまんがストレンの街をよろしく頼むのぅ」

 一度襲撃され、使用人が何人か命を落としているからか、ヨゼフはルーヘンの言葉に素直に従った。
 二度とあのような悲惨ひさんなことが起こらないように、しっかり準備をして対策を練り、万全な状態にしておこうと考えているのだ。

「お任せください。王命に従い、あなた方を全力でお守りいたします。あと、関係ない話になるのですが、アレク様はいらっしゃいますか?」

 どうしてもアレクに会いたいルーヘンは我慢できずに聞いてしまう。
 横で聞いていたヘリオスは、今じゃないだろうと思った。

「アレクは冒険者の昇格試験で王都に行っておるぞい」
「そうですか、行き違いになっていたのですね……」

 それを聞いたルーヘンは悲しそうに返事をする。

「なんじゃ? アレクに用でもあったのかのぅ?」
「実は、アレク様にはかつてお断りをされたのですが、どうしても騎士団に入団してほしいと思っておりまして、もう一度お誘いできたらなと……」
「そうじゃったのか。ワシからは何も言うことはないが、無理いはせんようにのぅ。アレクの人生じゃから、アレクの好きなようにさせてやりたいんじゃ」

 それを聞いたルーヘンは「はい。無理強いはいたしません」と答える。
 ヘリオスは一抹いちまつの不安を感じ、ルーヘンが行きすぎたら自分が止めに入ろうと心に固くちかった。


 ◆ ◇ ◆


 到着から早くも二日が経ち、ロイス率いるヴェルトロ伯爵家の騎士団とルーヘン率いる第三騎士団は、ヨゼフの指示でストレンの街の人々やヴェルトロ伯爵家を防衛する訓練をしていた。
 街が襲われた場合の避難誘導訓練と、実際の戦闘訓練をする組に分かれ、避難誘導をするグループは街の警備をしながら、いつでも対応ができるように巡回をしている。それ以外の戦闘に参加する組は、一緒に屋敷の訓練場で汗を流していた。
 戦闘の訓練を指揮していたルーヘンはふと、不吉なことを口にする。

「やっぱり、なんだか嫌な予感がするんだよね……」
「やめてくださいよ。絶対何か起こるじゃないですか。すぐに指示を出せるように……なんだ!?」

 ルーヘンの呟きにヘリオスが反応した時、彼の言葉をさえぎるように大きな爆発音が鳴った。

「嫌な予感が当たったよ」
「何を言っているんですか! 団長は屋敷を頼みます。私は爆発音があったところに向かいます」

 すでに、何かあった時の指示はされている。
 避難誘導組のリーダーが住民に避難指示をしているだろうと考えたヘリオスは、団員を連れて自分達がやるべきことに集中する。

「ロイス団長、私兵を連れて屋敷内の全員を避難させてね。僕と騎士団は中庭で来るであろう敵を相手にするから」
「はい! 手はず通り全員を避難させます。ルーヘン騎士団長殿、あとは頼みます」

 ロイスは私兵を連れて全員を避難させるために、屋敷に戻る。
 訓練場には、ルーヘンと戦闘訓練をしていた騎士団員が残された。

「これはまずいね……」

 ルーヘンの言葉通り、あちこちで爆発音や悲鳴が聞こえる。

「あれ? 君は誰かな?」

 ルーヘンが予想以上の事態が起こっているなと考えていると、空から声がする。
 見上げると、黒いローブと仮面をつけた二人組がいた。

「僕は王国第三騎士団団長のルーヘンだよ。君達は誰かな?」

 屋敷の全員が避難できるように時間を稼ぐため、ルーヘンは見知らぬ二人へ問いかけた。

「騎士団だって。敵が増えちゃったよ。ナンバー5の言う通り、早く来たらよかったね」
「だから言ったじゃねぇか! だが、悪くねぇ。あいつ相当強いぞ。俺にらせろ」

 ナンバー3とナンバー5が二人で話し始める。

「う~ん、まぁ僕には大剣野郎がいるからゆずるよ。でも見渡す限り、あいつの姿はないね。屋敷を壊したら出てくるのかな? 《轟炎槍グレイトフレイムランス》!」

 ナンバー3が魔法を唱えると、炎の槍が屋敷へと飛んでいく。
 いきなりのことでルーヘンは止めることができない。
 すると、どこからか紫の稲妻いなづまが飛んできて《轟炎槍グレイトフレイムランス》を消失させる。

「ルーヘン様、お待たせいたしました。そこの御仁ごじんは私が相手をしましょう」

 そんな言葉とともに、颯爽さっそうとセバンが現れた。
身体強化フィジカルエンハンス》と雷を纏う《雷旋風ライトニングストーム》という魔法で力と素早さを上げたセバンが、《轟炎槍グレイトフレイムランス》を殴って打ち消したのだ。
 アレクの薬で若返ったおかげで、前よりも動きが機敏で、紫の稲妻も激しさを増している。

「セバンさん、助かるよ。じゃあ僕はあの背の高い方を相手しようかな。団員の皆は街の騒動の鎮圧ちんあつに向かってくれないかな? 荷が重いからね」

 ルーヘンにそう言われた団員達は少し悔しそうな顔をするが、自分達では歯が立たないことは目に見えているので、大人しく街に向かう。

「逃がすわけねぇだろ。《爆発エクスプロード》!」

 ナンバー5が指定した範囲を爆発させる魔法《爆発エクスプロード》を発動させた直後、街に向かおうとした団員が爆煙に包まれる。

「残念だったな。お前の仲間は……」

 爆発して跡形もなくなっているというナンバー5の予想に反して、何もなかったかのように全員無傷だった。
 攻撃を察知したセバンが、団員達の周りに魔法で障壁を作ったのだ。
 そしてセバンは次の行動に出る。

「ナンバー5の攻撃、塞がれてるよ。しかも、逃しちゃったし。アッハハハ」

 大笑いするナンバー3だが、セバンは空まで跳躍して容赦ようしゃなく殴り飛ばした。

「うっせぇな、お前もやられてるじゃねぇか」
てて……急に殴るなんて卑怯じゃないかああああ!」

 ナンバー3は殴り飛ばされて地面に叩きつけられ、仮面が砕けるほどの衝撃を受けたにもかかわらず、平然と立ち上がる。

「ずっと空中にいられても困りますからね。それにしても、少年とは驚きました」

 セバンは澄ました顔でナンバー3を見据える。

「アッハハハ! あぁぁだめだよ。大剣使いまでは我慢しようと思ったのに、もう抑えられないよぉぉぉ」

 その言葉とともにナンバー3の体から黒いモヤが出始めた。
 次の瞬間、ナンバー3はありえない速さでセバンの目の前に行き「《絶対零度アブソリュートゼロ》」と唱える。
 それは対象を氷漬けにする魔法で、セバンの全身は一瞬にして凍りついた。

「はぁ、もう終わりかな? つまらないなあ。じゃあ、壊して終わりにしちゃおっと」

 ナンバー3はセバンをり飛ばして粉々にする。
 しかし、そんなナンバー3の後ろから、セバンの声が聞こえた。

「勝手に終わりにしないでください。まだまだ始まったばかりではないですか! 私も久々に楽しめる相手と出会い、心が躍っているのですから」
「アッハハハ。あぁ~凄いよ。どうやって逃げたの? 教えてよ」
「もう一度同じことをして、自分で解明してください。簡単に答えが分かったら、面白くないでしょう?」

 この時、実はセバンは焦っていた。相手がこれ以上速くなると手に負えなくなると。
 だが負けるわけにはいかないので、セバンは敵を倒すために、頭をフル回転させるのだった。


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