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1巻

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   プロローグ


「この度、副社長に就任させていただく田崎たさき悠太ゆうたです。皆様のご期待に添えるように、精進して参ります。ご指導ご鞭撻賜りますよう、よろしくお願いいたします。そして、私事ではありますが、来栖亜美くるすあみさんと婚約いたしましたことをご報告申し上げます」

 会場は盛大な拍手に包まれている。

「……」

 ただ一人、月川つきかわさくらだけが訳がわからず呆然としていた。それもそうだろう。今の今まで彼氏だと思っていた人物が、目の前の舞台上で隣に立つ知らない女性と二人、仲睦まじく婚約を発表しているのだから……
 今は、神楽坂グループのホテルで行われている『田崎ホールディングス』の創立五十周年を祝う記念パーティーの真っ最中だ。
 神楽坂グループは、金融、ホテル、不動産、石油、海運、食品、飲食業など、あらゆる業種を傘下に持つ世界的に知られる巨大な企業だ。
 田崎ホールディングスはその神楽坂グループ傘下で、外食部門に属している。
 そして、さくらは悠太の秘書であり、恋人だった、はず……
 今この瞬間まで、二人が恋人関係を解消した事実はない。さくらにとって悠太の言葉は寝耳に水で、意味がわからない状況だ。しかし人間驚き過ぎると、意外と冷静になれるのかもしれない。さくらは、ここ一ヶ月のすれ違いを振り返った。
 悠太からは、社長である父からお見合いをするように言われたと聞いていた。悠太に副社長への昇進の話が出ていて、見合い相手に会わずに断る選択肢はないと説明されたのだ。
 仕事では毎日顔を合わせるが、忙しくてお見合いの話を聞けないまま二週間ほど経ってしまった。微妙にぎくしゃくした空気が流れていたが、気のせいだと無理やり自分に言い聞かせる。
 そして週末、彼のマンションへのお誘いがあったが、タイミング悪く生理になってしまった。いつもなら気にしなくていいと言ってくれるが、その日はまたにしようと断られたのだ。今思うと、この時点で悠太との未来は決まっていたのかもしれない……


 田崎の御曹司で専務である悠太との関係は、元々周囲には秘密にしていた。知られると仕事がやりづらくなる。しかも、さくらは秘書という立場上、二人きりになることも多い。やましいことはないが、余計な詮索はされたくない。
 良かれと思って関係を隠して来たことが、結果的に悠太にとって都合のいい存在になってしまったようだ。


 無事に挨拶を終えた悠太と婚約者だと紹介された女性――来栖亜美は腕を組み、舞台からパーティー会場に降りて挨拶に回る。お見合いで知り合ったばかりとは思えない仲睦まじい様子が、更にさくらを混乱させた。今日は秘書としてではなく、他の社員同様にパーティーへ出席するように言われたのも頷ける。
 彼女とは以前から付き合っていたのだろうか? 自分はずっと裏切られていたのか。
 疑いだけが膨れ上がる。
 さくらにとって、悠太は初めてできた彼氏だ。専務秘書に抜擢されて以来、必死で頑張ってきた。秘書になって数ヶ月後に告白された時には、自分が悠太に認められた喜びと、御曹司である悠太との立場の違いに戸惑い悩んだものだ。それでも悠太の誠実な人柄に惹かれたのと、積極的なアプローチを受けて付き合うことにした。それから、三年の日々を恋人として一緒に過ごした。幸せだった二人の関係は、幻だったのか……
 悠太との将来を少なからず思い描いていたさくらには辛い現実だった。立ち尽くしているさくらの側まで来た二人が、男性と会話している声が聞こえてくる。本当なら逃げ出したいが、さくらが悪いことをしている訳ではない。

「おめでとう。これで田崎ホールディングスも安泰だな。田崎社長も喜んでいるだろう」
「ありがとうございます。そうですね。家庭を持って落ち着けと常々言われていましたので」
「それにしても仲睦まじいな。交際は、長いのかね?」
「いえ、先日お見合いで知り合いまして。僕が一目惚れしたんです」
「ほう、それはそれは。お幸せにな」
「はい」
「ありがとうございます」

 悠太と亜美が揃って男性にお礼を述べている。さくらの存在を知らない人達には、ただただ幸せなカップルに映っているだろう。
 次の挨拶へ向かう二人が、さくらの目の前まで来た。立ち尽くすさくらと、気まずい顔をする悠太と、腹黒い笑みを見せる亜美。悠太は気づいていないが、さくらは瞬時にわかった。きっと、さくらと悠太の関係を知っていたのだ。先程の話で、さくらとの交際期間中に二股をかけていた訳ではないことはわかったが……
 結果的には、さくらではなく亜美を選んだ事実は変わらない。二人が通り過ぎるまで待つしかなかった。


   第一章 運命の一夜


 平静を装って凛とした足どりでパーティー会場から出たさくらは、ホテルの最上階を目指す。エレベーターからは、ネオンの輝く美しい景色が見える。今のさくらの心情とは正反対の、キラキラと輝く世界だ。
 今にも目からは涙がこぼれそうだが、どうにかこらえる。このホテル自慢の夜景スポットにもなっていて、一度は来てみたいと思っていた憧れの場所であるダイニングバーへ向かった。今まで贅沢もせずに一生懸命頑張ってきたのだ。悠太と交際している間も、私生活ではずっと慎ましく過ごしてきた。
 今日ぐらいこんな素敵な場所で、記憶がなくなるまで飲んで贅沢しても許されるはず――
 そう思いながら、案内されたカウンターで強めのカクテルを頼んだ。悠太を忘れようとしてお酒を飲んでいるのに、それでもこうして一人で飲んでいると、二人で過ごしてきた日々を思い出してしまう。


   ***


 田崎ホールディングスに入社後、新入社員研修を終えたさくらは総務部に配属となった。語学力や秘書検定の資格を活かせる秘書課が希望だったが、この年は配属の枠がなかったのだ。ただどの部署になっても、精一杯勤めることに変わりはない。真面目に仕事をこなす日々が続いた。
 転機は入社半年が経った頃だった。秘書課に急な退職者が出たのだ。そこで経歴や資格の有無から、さくらが選ばれた。
 憧れていた秘書課。
 夢が叶った喜びと責任ある仕事に、緊張の日々を過ごすことになる。そして少し慣れた頃に抜擢されたのが、専務秘書だった。田崎ホールディングスの御曹司で、女性に人気の悠太の秘書になれるとは思っていなかった。選ばれたからには期待に応えたいと、とにかく必死だっただけだ。
 そんな一生懸命なさくらに、悠太が猛アプローチをする。勢いに負けたのか、強い想いが伝わったのか、戸惑いながらも悠太の想いを受け入れて、二人の交際が始まった。
 ただ専務と秘書が交際していると知られたら、何かと詮索されたり、いらぬ噂を立てられたりする可能性が高い。まだまだ新人のさくらの立場を考えて密かに愛を育み、幸い誰かにバレることもなく付き合ってきた。今日、あの発表があるまで、悠太の恋人は自分だと疑うことすらしなかったのだ。まさに、寝耳に水の出来事だった。
 まだこの瞬間も、嘘だと言ってくれるのではないかと思ってしまう。


   ***


 どれぐらい時間が経ったのか――ハイペースに飲み続けて夜景すら視界に入らないくらい酔いが回った頃、さくらの隣に誰かが座った。気配を感じるが、そのまま構わずに飲み続ける。

「飲み過ぎじゃないか?」

 突然、低くずっしりとした魅力的な男性の声が聞こえた。でも、自分が話しかけられているとは思いもしない。気にすることなくグラスを口に運ぶ。

「おい」

 言葉と共に、グラスを持つ手が押さえられた。驚いて声の主を見るも、飲み過ぎて目が霞み、男性だということしか認識できない。

「私に何か御用ですか?」
「さっきから見ているが飲み過ぎだ」
「えっ? この席ずっと空いていましたよ?」
「ああ、あっち」

 コの字のカウンターの対面を指差す。確かに、正面の席からならよく見えていただろう。

「私のことは、放っておいて下さい」
「それができないから、わざわざ席を移動してきたんだ。そんなになるまで飲むなんて何かあったのか? この際だから、話してみろよ」
「……初対面のあなたに?」
「初対面だからいいんだろう?」

 そう言われるとそんな気がしてくるから不思議だ。かなりの量のお酒が入り、判断能力も低下しているからだろうか。

「愚痴なんて聞いても、面白くないのに……」
「それは、俺が判断することだ。今の気持ちを素直に吐き出してみろ」
「時間の無駄だと、後悔しても知りませんよ?」
「俺の時間を気にする必要はない」
「わかりました。そこまで仰るなら……。さっきまで、このホテルで会社の創立記念パーティーがあったんです。そこで、今日まで彼氏だと思っていた人が突然婚約を発表したんです。私じゃない人と……。おかしくないですか?」
「……ああ」
「婚約者だという女性と幸せそうにしている姿を突然見せられて、訳がわからないし、頭が真っ白になるしで。今までの三年間は何だったんだろうと思うと哀しくて……。しかも、私とは全然タイプの違う可愛らしい女性で、何で私と付き合っていたのか」
「そうだな……」
「彼とは……立場も違いますし、交際を始める時にも、悩んだんですよっ……! でもっ、彼なら大丈夫だと思ったのに……。私はっ……、彼の何を見ていたのでしょう……?」

 さくらが詰まりながらも経緯を話す間、男性は軽い相槌あいづちを打つだけで、口を挟むことなく真剣に聞いている。

「自分の見る目のなさにも泣けてきます! ほんと腹が立つ!」

 一方的に胸の内を吐き出したさくらに、彼は何を言う訳でもなく、大きな手で頭を優しくポンポンとしてくれた。
 温かい手が大丈夫だと言っているようで、初対面で警戒していたのが嘘のように、今まで我慢していた涙が一気にあふれ出す。涙を流し続けるさくらを、彼は黙ってただ優しく見守っていた。
 先程までの荒れ狂う胸の内が、少しだけ落ち着きを取り戻す。

「なあ」
「はい」
「辛い記憶を、俺が塗り替えてやろうか?」
「えっ……?」
「この最悪の夜を、最高の一夜に変えてやるよ」

 さくらの手を男性が包み込んだ。普通の人が言うと何様だと思うセリフも、不思議と違和感がない。優しく大きな手と、自信に満ちた大人の男性の声。顔がはっきり見えないのが残念だが、どこの誰だかわからない声の主に、さくらはなぜか惹かれていることに気づく。

「……忘れさせてくれますか?」

 悠太としか付き合ったことがない真面目なさくらにとっては、一夜の関係を持つなんてあり得ない状況だが、なぜか男性の言葉が胸に響いたのだ。気づくと思いがけない大胆なセリフが口から出ていた。

「ああ。俺に全てを任せろ。名前は?」
「さくらです」
「俺はれいだ」
「怜さん……」
「ああ。じゃあ行こう」

 怜に促されてカウンターから立ち上がるが、少しよろけてしまう。そんなさくらを、大きな手がさり気なく支えた。女性にしては長身のさくらでも、見上げるほどの高身長の怜。普段から女性の扱いに慣れているのだろうか、エスコートは完璧だ。腰に手を添えて歩き出し、そのまま店を出ようとする。

「あっ、お会計がまだ……」
「大丈夫だ」
「えっ?」

 何が大丈夫なのか理解できないが、さくらはなぜか、怜ならこの哀しみから自分を救ってくれる気がしたのだ。到着したエレベーターに乗り込み、身を任せる覚悟を決める。そして、エレベーターはすぐに目的の階へと到着した。
 エレベーターを出て、フロアに降り立つ。さくらの知っているホテルの廊下とは比べものにならないほど毛足が長く柔らかい絨毯の感触。明らかに他とは違う高級なフロアだとわかる。
 よく考えると二人でホテルに宿泊したことはなく、いつも悠太のマンションで会っていたのだ。高級なマンションではあったが、旅行などには連れて行ってもらったことがない。無意識に、今までの悠太とのことを思い出していた。

「他の男のことを考えているのか? 余裕だな」
「そんなことは……!」
「大丈夫だ。そんな余裕はすぐになくなる」

 その不敵な笑みに、思わず背筋がゾクッとした。ぼんやりとした視界でもわかるほどの端正な顔立ちに、凄まじいオーラと色気が伝わってくる。怜がスーツの内ポケットからカードらしきものを取り出して扉のところにかざすと、電子音が鳴り、ガチャッと鍵が開く音がした。

「さくら、今ならまだ引き返せるぞ」
「全部、忘れさせてくれるんですよね?」
「ああ、後悔はさせない」

 その言葉に、さくらは自然と頷いた。それを確認した怜に手を引かれ、さくらは部屋の中へと引き入れられる。
 バタンッと扉が閉まった瞬間、さくらの口は怜の唇でふさがれた。怜のひんやりとした唇が、さくらの酔いの回った温かい唇と合わさり、体温を分け合う。触れるだけだったキスがだんだんと深くなり、さくらの口内をもてあそぶ。

「んんっ……」

 無意識に漏れる色っぽい吐息。悠太とは違い、キスだけで感じてしまう。かなりの上級者だと一瞬頭をよぎったが、次の瞬間には身体がふわりと浮き上がり、お姫様抱っこをされて思考が停止した。

「あのっ、重いからっ」
「もう、黙って俺だけに溺れろ」

 俺様な発言も、全く違和感がない。こうしてお姫様抱っこをされるのも初めての経験だった。お姫様抱っこなんて、小説の中だけの出来事だと思っていたのだ。
 どうしていいのかわからずに、怜の胸に顔を埋める。お姫様抱っこが、こんなにも恥ずかしいものだと初めて知った。怜からは爽やかなマリン系の香りがして、男性らしさと色気が相まってくらくらする。悠太には感じたことのない感覚だ。比べる訳ではないが、怜は格が違った。
 悠太の秘書として多くの地位のある人達と対面してきたが、彼はその中の誰とも比べられない最高の気品を持つ、最上級の男性だと感じた。
 ――怜は、一体何者だろう。
 考え事をしているうちに、気づけばベッドルームに運ばれていた。室内を見る余裕すらなかった。ベッドルームの扉を開くと、驚くほど広い部屋の真ん中にキングサイズのベッドがドドンと鎮座していた。一瞬にして、今の状況に緊張感が増す。

「もう余計なことは考えるな」

 言葉と共にベッドに寝かされ、上から怜が見下ろしている。
 ここで初めて、まともに顔を見た。長身で端正な顔立ちだとは感じていたが、日本人とは思えないくらい顔が小さくて色素の薄い、まるで王子様のようなイケメンの姿に驚く。
 一瞬、どこかで見たことのあるような……と思ったが、そんなことを考える余裕はすぐになくなった。
 いきなり深いキスが降り注ぎ、もうそれだけで何も考えられなくなる。さくらがキスに翻弄されている間に、怜の手はブラウスのボタンを器用に外していく。
 今日のさくらは一社員としてスーツ姿でパーティーへ出席していたが、婚約者の小柄な女性――亜美は可愛らしいドレス姿だった。長身のさくらには、絶対に似合わないドレス。
 すぐに余計なことに意識を持っていかれそうになるが、それもここまでだった。さくらの胸があらわになり、怜の手がそれを優しく揉みしだく。

「んんっ」
「さくら、綺麗だ」

 キスの合間に怜が甘い言葉を放つ。そのまま胸の先端を口に含まれて、反対側は強弱をつけて揉みしだかれた。あまりにも妖艶な舌の動きと絶妙な手の動きに、すでに目の前がチカチカしはじめてくる。

「あっ、ダメッ」

 すぐにイキそうになってしまう。今まで、こんなに感じた経験がなかっただけに怖くなる。

「ダメじゃない。もっとだろ? 素直になれ」
「んんっ。おかしくなっちゃいそうで怖い……」
「俺が、さくらの全てを愛してやる」

 言葉と共に、胸を愛撫していた口と手の刺激が強められて、一瞬にして目の前がチカチカして頭の中が真っ白になった。
 怜の愛撫に翻弄され、さくらは達してぐったりとしてしまう。

「本番はまだまだこれからだ」
「今のは一体何……?」
「はあ? 田崎と付き合ってたんだよな?」

 怜からは、驚いたような素っ頓狂な言葉が聞こえてきた。

「……はい。でも正直、気持ちいいとかじゃなくて、愛情確認の行為なんだと……」

 悠太にとってのセックスは、さくらを気持ちよくするのではなく、自分が気持ちよくなるための行為でしかなかった。独りよがりな男だったのだ。
 怜はさくらを強く抱きしめて、慰めてくれる。何も知らなかったさくらを好きにしていた悠太に怒ってくれているようだ。ただ悠太が間違った道を選び、さくらを手放したことだけは褒めてやると、怜が内心で思っていることを、今のさくらはもちろん知る由もない……

「片方だけが気持ちよくなる行為は間違っている。俺が本当の愛を教えてやる」

 今まで誰も愛したことのない怜も、さくらを前にして無意識に素直な気持ちを口にしていた。だが残念なことに、さくらには怜の本心が伝わっているはずもない。
 裏切られた可哀想な自分を精一杯慰めてくれているのだろうと、さくらは思っているのだ。

「今から俺だけを見て、俺だけを感じろ」

 その言葉を合図に、再び愛撫が再開された。さくらの身体中にくまなくキスが落ち、刺激を与えられる。どこを触られても、敏感に反応してしまうのだ。

「もうトロトロだ」

 そう言うとさくらの脚を大きく開き、そこにも口づける。膣内なかに指を入れてかき回し、わざと愛液がしたたる手を見せ、さくらが恥ずかしがって赤面する様子に満足気な様子だ。
 初々しいさくらの反応を楽しんでいるようにしか思えない。かなり焦らしているが、怜もすでに限界を迎えているような表情になった。ゴムを取り出して、さっと装着している。

挿入いれるぞ」

 声と共に怜の熱くて大きいモノが、ゆっくりと奥深くまで挿入はいってきた。

「ああっ……!」

 ひときわ大きくなったさくらの喘ぎ声が室内に響く。優しくしていた怜だったが、狭い膣内なかに余裕がなくなったようだ。さくらの身体からだは激しく揺さぶられて、身体同士が激しく当たる音が響き渡り、羞恥心を煽られる。怜のモノが角度を変えて、奥深くまで何度も挿入そうにゅうされるのだ。今までに感じたことのない強い刺激と快感を受けて、悠太のことなど忘れて怜に身を任せた。

「今、誰に抱かれているかわかるか?」
「れ、怜さん……」
「ああ、俺だけを見て感じろ」

 力強い言葉が聞こえ、更に強く最奥まで突かれて二人同時に果てた。
 今まで膣内で果てることのなかったさくらの身体は、初めての経験に熱く火照ほてっている。ぐったりとしていると、怜がすぐに覆いかぶさってきた。

「え?」
「何を驚いているんだ? まだまだこれからだ」

 言葉通りすぐに再開される愛撫。イッたばかりの敏感な身体を刺激されて、さくらの下半身からは愛液が止まらない。怜のモノは衰えることを知らないのか、大きくったままだ。繊細な動きで刺激されて、自然に腰が浮いてしまう。
 怜のモノが抽挿ちゅうそうされるたびに粘着質な音が聞こえてきて、更に羞恥心を煽られる。
 何度目かの行為の後、さくらは意識を手放した。


 眠っているさくらを見て、怜はこれからは自分がさくらを幸せにすると誓うのだが……
 さくらには怜の本当の気持ちは伝わっておらず、ここから長い長いすれ違いが始まるのだった。


   ***


 翌朝、先に目覚めたのはさくらだった。
 飲み過ぎて酔っていたとはいえ、昨夜の出来事はしっかりと覚えている。隣を見ると、王子が眠っていた。寝顔まで神々しく輝いている。
 怜のお陰で、さくらは今までに経験したことのない快感を知った。限界まで感じて最後は記憶さえないが、深く眠り、驚くほどスッキリしている。
 どこかで見たことがあるような気がするが、彼は自分の手に負える相手ではないとさくらは思った。
 一夜の奇跡だと思って忘れよう……
 怜を起こさないように、そっとベッドから出て脱ぎ散らかした服をかき集めて、ベッドルームを後にした。
 そして、ここで更に驚いた。昨夜、お姫様抱っこをされて通り過ぎたリビングは、見たことがないほど広かったのだ。スイートルームの中でも、一番高級な部屋だと想像できる。
 怜は一体何者だろう。どん底まで落ちていた自分を助けて、ふっ切れるきっかけをくれた。
 もう悠太への未練は微塵もなかった。
 幸い今日は土曜日だ。今後のことは週明けまでにゆっくり考えよう。
 さっと着替えを済ませたさくらは『ありがとうございました』とメモだけを残して、部屋を後にした。


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