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 第1章 テンプレの異世界転生



 第1話 異世界転生モノって人気ですよね


 目を開けると真っ白い空間に僕はいた。

「ここはどこだろう。夢かな」

 周りを見ても何もない。ただただ空間が続いている場所で、僕は立ち尽くしていた。
 すると「初めまして光也みつやくん」とどこからか声が聞こえてきた。
 上を見ると、神々こうごうしいオーラをまとったひげもじゃの老人が宙に浮いていた。

「えっ。神様……? やっぱり夢かな」

 僕は夢だと確信し、その神様っぽい人を見つめた。

「光也くん、お主は死んで、ここは転生前の空間じゃ」

 いきなり意味のわからないことを言われ、僕は何も言葉が出なかった。

「やはり覚えておらぬか。光也くん、お主はトラックにはねられて死んだのじゃ。仕事の帰りかの~。夜中に横断歩道を渡っておったら、飲酒運転のトラックにひかれたのじゃ」

 そういえば……昨日は仕事が遅くまであり、疲れてふらふらっと歩いていたんだっけ。そして横断歩道でトラックが来て……‼

「思い出した! そうだ、僕はトラックにひかれたんだ。でも、じゃあ何で生きてるんだ?」
「光也くん、お主は死んだんじゃよ。聞いたことはないかな。トラックにひかれて死んだら異世界に転生する、と」

 僕は異世界モノの小説をよく読んでいたので、神様っぽい人が言ってることがよくわかった。

「たしかにトラックと異世界転生はよくある組み合わせだけど、実際に起こるわけないじゃないですか」
「そうじゃな。こればかりは死なないと確かめようがないからの~。でもじゃ、実際に異世界は存在しており、光也くんを異世界に転生させるために、この空間にお主の魂を呼び寄せたのじゃよ」
「えっっっ。じゃあ、本当にあなたは神様なんですか?」
「そうじゃ。わしは創生神そうせいしんで、地球を含めていくつかの世界を管理しておる」

 僕はこれが現実で、本当に異世界があると知り、死んだことなど忘れて両手を突き上げた。

「やった~。じゃあ剣と魔法の世界に行って、チートしてハーレム作って楽しい人生を送ることができるんですね」

 僕は普通のサラリーマンで、サービス残業も多く給料も安い、いわゆる「社畜」だったので、異世界転生にはすごくあこがれていた。そして目の前にそのチャンスが転がってきて、すごくラッキーだと思うとともに、絶対最高の人生を送ってやると心に決めた。

「神様! ぜひ異世界に転生させてください。そしてチートスキルをください」

 僕ははっきりと要望を伝えた。

「はっきり言いよるの~。まあチートスキルは授けるつもりじゃったから別にいいんじゃが……ちなみに、光也くんはどんなスキルがほしいんじゃ」
「はい。定番の『鑑定』に『アイテムボックス』『成長促進』『各種耐性』『全魔法適性』『言語理解』『前世の知識』など、あらゆるモノがほしいです」

 だって異世界だもの。剣と魔法の世界ということは、魔物もいるはず。なら安全に生活するためにも、もらえるモノはもらっておかなくちゃ。

「ずいぶん異世界に詳しいようじゃの。まあ光也くんの言うように剣と魔法の世界じゃから、魔物もおるし、光也くんの言ったスキルも存在はする。じゃが、全てを授けることはできない。なぜなら、世界にはバランスというモノがあり、やりすぎると世界が滅んでしまうからの~」
「では神様、どれぐらいスキルをもらえるんですか?」

 僕は期待で胸をいっぱいにして神様に問いかけた。

「そうじゃの。光也くんに行ってもらう異世界で安全に生活するために……三つまでスキルを選んでよいのじゃ」
「三つですか……少ないですね……」

 僕はスキルが少ししかもらえないことを聞いて落ち込んだ。

「そうは言っても、異世界の住人はスキルを自由に取得できないからの~。三つもらえるだけでも十分チートだと思うのじゃが」

 神様はため息をついて僕にそう伝えた。

「わかりました。言っても仕方がありませんので三つで我慢します。スキルは何でも取得できるんですか?」

 僕は神様に問いかけた。

「そうじゃの。このリストの中にあるスキルなら取得可能じゃ。時間はたっぷりあるからゆっくり選んでよいぞ」

 すると、目の前にボードのようなモノが現れた。

「この中からですね。わかりました。えっと……色々ありますね。これは選ぶのに時間がかかりそうだ」

 これから選ぶスキルで僕の人生が決まるようなモノだ。ここは慎重に選ばなければならない。
 僕はリストを凝視し、一つひとつのスキルをじっくり見た。
 ざっと見ただけで、数百種類ものスキルがあるのがわかる。
 魔法関連や料理などの家事関連、武器の適性アップなどの定番のモノから、『触手』や『ブレス』など意味のわからないスキルもあり、どれを選べばいいかすごく迷ってしまう。三つしか選べないんだ。無駄なスキルは省いて効果の高いスキルを選ばないと。

「神様、おススメのスキルとかってありますか?」

 悩んだ末に、僕は神様に何がいいか聞いてみた。

「そうじゃのう、これから光也くんに行ってもらう異世界は、光也くんがよく知っているゲームの世界に非常に似ておる。レベルがあり、街並みは中世ヨーロッパ風で、ギルドがあり、魔王や勇者もおる。だから定番のスキルなんかが割と役に立つんじゃないかのう。あまりスキルのことを教えるのは規則によってできないんじゃ。ヒントぐらいなら大丈夫じゃから、これぐらいしか言えんのう」

 神様は言える範囲でヒントをくれたようだ。

「ありがとうございます。やっぱり定番スキルが役に立つんですね。じゃあ『鑑定』と『アイテムボックス』は取得して、あと一つはどうしようかな~」

 二つのスキルを決めて、あと一つをどうするか考えた。

「そういえば神様、僕の行く異世界は剣と魔法の世界って言ってましたが、誰でも魔法が使えるんですか? スキルがなかったら魔法は使えないんですか?」

 僕はふと疑問に思ったことを神様に聞いた。

「あちらの世界の住人は五歳になると鑑定の儀というモノを行い、そこで自分の適性を知ることになる。ある者は剣に適性があったり、またある者は火魔法に適性があったり、複数の魔法適性を持っていたり……。そして、その適性に合ったスキルを得ることができる。もちろん本人の努力次第でその後もどのようなスキルも取得可能じゃが、適性がないスキルに関しては何十年努力しても取得できないこともあるのぉ~」
「僕の場合はどうなるんでしょうか?」

 僕はスキルを今三つ選ぶから、鑑定の儀ではスキルを取得できないのだろうか。

「光也くんの場合は、今スキルを選んでおるから、鑑定の儀ではスキルを取得できん。その代わり、転生者は今までの経験や知識を元にスキルを覚えることができる。さらに異世界の人間は相当努力をしないとスキルは発現しないが、転生者である光也くんは相当とまではいかなくとも、努力次第でどんなスキルでも覚えることができるはずじゃ」

 神様はナイスな情報をくれたようだ。

「そうなんですね。努力が報われるっていうのはうれしいです」
「それから、光也くんにはわしの加護をやる。それだけでもかなりチートじゃぞ。なんせ、成長促進やステータスアップなど色々な特典があるからのぉ。『創生神の加護』を持ってる者はあまりいないんじゃ」
「本当ですか。それはありがとうございます。ところで、転生ということは0歳からのスタートになるんですか?」
「そうじゃのう。どこに生まれるかは秘密じゃが、過ごしやすい所とだけ言っておこうかのう」

 なるほど。0歳からスタートして五歳で鑑定の儀を受けて、適性を知ってそれぞれの人生を歩んでいく感じだな。僕の場合は転生者の特典があるから、どのような人生にもできそうだ。なら、レベルを上げるためにも、ある程度の戦闘力は必須だな。
 僕は異世界での生活を考え、残り一つのスキルをどうするか悩んで、決めた。

「最後のスキルは『全魔法適性』でお願いします」

 やっぱり異世界なら魔法を使いたいよね。僕は『鑑定』『アイテムボックス』『全魔法適性』のスキルの取得を決めた。

「ようやく決まったか。三時間ぐらいはかかったかの~。では、そろそろ転生させてもいいかの~」
「はい。大丈夫です。ちょっと怖いですが、よろしくお願いします」
「では光也くん。新しい世界を存分に楽しむのじゃ」

 神様にそう言われ、僕は意識を失った。


 次の瞬間、目を開けると、金髪の美男美女が僕のことを抱きかかえていた。



 第2話 転生しても0歳は何もできないよ……


 男性の方はがっしりした体格で、髪は短く切りそろえられている。女性の方はスラッとしていてスタイルが良く、ロングヘアーだ。どちらも顔が整っている。
 どうやら僕は無事転生できたようだ。
 この人たちが僕の両親だろうか?
 二人と目が合ったので、精一杯笑ってみた。

「おー、クリフが笑ったぞ。パパだぞー」
「本当に⁉ ママよー」

 どうやら僕は「クリフ」という名前らしい。
 返事をしようとしたが、「あぅ~、あぅ~」としか声が出ない。0歳だから当然か。しかも身体もうまく動かない。それも当然だ。
 生まれてからどのぐらい経ってるのだろうか? 生まれたてでないのは確かだ。
 まだこの世界のことがよくわからないので、両親の言葉に耳を傾けた。

「クリフが生まれてもう一カ月かぁ。元気に育ってくれてよかったよかった」
「本当にそうね。クリフちゃんはお乳もたくさん飲むし、目もパッチリしてるから将来はモテモテでしょうね」

 親バカぶりがはんぱないが、両親にかわいがられていることがわかって安心する。
 そして両親が美形な点も、将来ハーレムを目指したい僕としてはプラスポイントだ。
 あとは貴族か平民かなどの身分だが、けっこう立派な服を着てるように見えるので、貴族ではないだろうか? 爵位はどれくらいだろう……。

「じゃあクリフちゃん。ご飯にしましょうか」

 ママがそう言っておっぱいを出してくる。
 来た‼ 異世界転生の定番、0歳のママのおっぱい……。前世の記憶があるからママのおっぱいなんて恥ずかしい……。だが、ご飯は食べなければならない……。
 乳離れしてから転生したかったが、今の状況でそれを言ってももう遅い。
 僕は覚悟を決めておっぱいを飲んだ。いっぱい飲んだ。お腹いっぱいになった。
 そしてその後、豪快に大きい方を出して「オギャー」と盛大に泣き、泣き疲れるとそのまま眠りについた。


 目が覚めると、ベッドの上にいた。まだ寝返りをうつこともできないので、天井を見つめる。

「知らない天井だ……」

 僕は言いたかったセリフを言ったことで、少しだけ満足した。と言ってもまだしゃべれないので、実際は「あぅあぅ」と声が出ただけだったが……。
 異世界転生一日目は何もできなかったが、異世界に転生したということを改めて実感した。
 やっぱり退屈だな~。当然だが、0歳では動くこともできないし、しゃべれない。トイレも一人ではできない。前世の記憶がある人なら、いいことなど何もないと感じるかもしれない。
 でも、僕は異世界に行った時にするべき行動を知っている。前世で異世界転生モノの小説を何度も読んで、テンプレはばっちりと押さえている。そう、この世界は剣と魔法のゲームのような世界だ。異世界に転生したら、ステータスをチェックし、魔力を上げる。これが正解だ。
 そこでまずは……「ステータスオープン」と、心の中で唱えてみる。
 すると僕と天井の間に、半透明の板のようなものが現れた。
 よし! ステータスは確認できそうだ。さすが異世界。
 そして僕は自分のステータスを確認してみた。


【名 前】 クリフ・ボールド
【年 齢】 0歳
【種 族】 人族
【身 分】 辺境伯家次男
【性 別】 男
【属 性】 火・水・風・土・光・闇・時・空間
【加 護】 創生神の加護
【称 号】 転生者
【レベル】 1
【H P】 1
【M P】 1
【体 力】 1
【筋 力】 1
びん しょう】 1
【知 力】 1
【魔 力】 1
【スキル】 鑑定・アイテムボックス・全魔法適性


 家名は「ボールド」で辺境伯か。けっこうな大貴族だな。ってことは、ここは国の端っこってことだな。それと、次男ってあるから兄がいるのか。それなら家は長男が継ぐから、僕は冒険者になってチーレムが目指せるな。よかった。
 自分の身分がある程度わかったことで、将来の道が見えてきた。
 種族が人族ってことは、獣人やエルフ、ドワーフとかもいるのかな? 異世界といえばケモ耳をもふるのは定番だし、エルフの「のじゃロリ」もありがちだ。いるなら早く会ってみたい。
 能力は0歳だから低くて当然だな。生まれたら初めはみんな1からスタートするのかもな。
 一般的なステータスがどれくらいかわからないが、0歳でステータスを見られることを知ってる人はまずいないだろう。ここから努力でステータスを上げていけば十分チートできる。
『全魔法適性』のスキルがあるから、属性欄に色々な属性が書かれているのだろう。スキルの『アイテムボックス』が『空間』属性に分類されるのかな。『時』属性もあるってことは『時間移動』とかも覚えることができるのかな。
 ステータスを一通り確認した僕は、次にスキルを試してみることにした。
「鑑定」と念じてみた。すると【天井】と出た。
 天井しか見えないから当然か。僕は苦笑いをした。
 今度は『アイテムボックス』を試してみよう。
「アイテムボックスオープン」と念じると、ステータスと同じように半透明の板が現れた。ここに色々入れることができるようだ。ただ、今は動けないから、使うこともできない。
 よし。スキルは普通に使えたな。あとは動けるようになるまで魔力を増やす特訓だな。
 そう。異世界に赤ちゃんとして転生した主人公はだいたい、魔力の感覚を探し、魔力を動かして増やすのだ。そして成長すると他の人と比べて魔力の量がけた違いに多くなり、より多くの、そしてより強力な魔法を使って活躍する。それがテンプレだった。
 まずは魔力の感覚を見つけるか。たしかテンプレなら心臓の下ぐらいに違和感があるんだったよな。僕は心臓の下に意識を向けて、違和感がないか探してみた。すると、やはり心臓の下ぐらいに米粒のような違和感があった。
 多分これが魔力だろうな。よし、動かしてみよう。動け~、動け~、動け~。動け~、動け~、動け~。
 僕はがんばって米粒を動かそうとした。ただ……全く動くことはなかった。
 あれ? おかしいな~。これが魔力じゃないのかな~。
 全く動かなかったので、自分の考えが間違ってるのかと不安になった。
 まあまだ時間はたくさんあるんだ。ちょっとずつ試していけばいいさ。
 そう思ったところで、ステータスを確認し始めてからけっこうな時間が経っていたのに気がつき、トイレに行きたくなった。
 自分でトイレに行けないのは辛いな~。だってもらすしか方法がないもんな~……。

「オギャー、オギャー」

 僕は盛大に泣いて助けを求めた。
 早く誰か来てくれ。臭いし気持ち悪いよ。早く一人でトイレに行けるようになりたい。
 これも前世の記憶を持ったまま異世界に転生することによる、大きなデメリットであった。
 すぐにメイド服を着た女性が来て、オムツを交換してくれた。
 おー、メイドさんがいるぞ。さすが貴族だ。
 僕は初めて見るメイドに感動したが、オムツを換えられるのは恥ずかしかったので、何も声を出さずにそのまま眠りについた。



 第3話 ようやく歩けるようになったけど大貴族ってすごい


 異世界に転生してから二年が経った。
 二年の間は米粒のような魔力を動かす以外は、ただただベッドの上で過ごしていた。
 ハイハイで多少は移動することはできたが、基本立ち歩きができないので、ベッドで魔力をひたすら動かし続けた。
 初めは全く動かなかった魔力のかたまりだが、二年も続けていると魔力の塊も大きくなり、今では自由自在に動かせるほどになった。
 ようやく最近は立って歩くことができるようになったので、家の中を自由に動き回っている。いや、家というか屋敷だ。この屋敷は相当に広い……大貴族をめていた。
 何十部屋もあり、いまだに迷ってしまう。メイドがいなければ常に迷子だ。


 僕は二年間の成果を確認してみることにした。

「ステータスオープン」


【名 前】 クリフ・ボールド
【年 齢】 2歳
【種 族】 人族
【身 分】 辺境伯家次男
【性 別】 男
【属 性】 火・水・風・土・光・闇・時・空間
【加 護】 創生神の加護・魔法神の加護【NEW!】
【称 号】 転生者
【レベル】 1
【H P】 10
【M P】 10
【体 力】 3
【筋 力】 3
【敏 捷】 3
【知 力】 3
【魔 力】 500
【スキル】 鑑定・アイテムボックス・全魔法適性・身体強化【NEW!】


 あれから魔力を動かしまくっていたせいか、魔力の数値が大きく上昇している。さらに魔力を薄く伸ばし身体にまとわせるようにしていたら、『身体強化』のスキルも取得できた。
 しかも『魔法神の加護』もいつの間にかついていた。ラッキーだ。魔法はこの世界で重要なモノだと思うので、いい加護を授かったと思う。
 ただ、まだ魔法は使っていない。正確には使い方がわからないのだ……詠唱えいしょうだとか、どんな魔法があるのかなど、わからないことはたくさんある。
 するとその時、ドアをノックする音とともに「ぼっちゃま。食事ができましたので呼びに来ました」とメイドの声がした。

「メアリーおはよう。父様と母様はもういるの?」

 メイドの名前はメアリーといい、十五歳ほどの美少女である。

「はい。旦那だんな様と奥様は既に食堂でお待ちですよ」

 僕はステータス画面を消すと部屋から出て、メアリーと一緒に食堂に向かった。今では自分で歩いて部屋から食堂に移動することができる。
 階段は手すりにつかまらないとなかなか降りられないし、時間もかかるが、自分の足で歩くのも鍛錬たんれんだと思い、メアリーの抱っこを拒否し、自分で歩いている。
 食堂に着くと家族はみんなそろっていた。

「父様、母様、兄様、姉様、おはようございます」

 僕はみんなに声をかけた。

「クリフおはよう。最近は自分で歩いてここまで来て偉いな。言葉もだいぶしゃべれるようになったしな」
「クリフちゃんおはよう。今日もかわいいわね」
「クリフおはよう」
「クリフちゃんおはよう」

 みんなから声をかけられ、僕は父様と母様の間に座る。
 ちなみに、兄様と姉様は五歳で双子だ。兄様は父様に似ており、姉様は母様に似ている。どちらもよく遊んでくれるいい兄姉だ。
 大貴族の食事は朝から豪華だ。
 スープにパンに肉、サラダとテーブルいっぱいに皿が広がっている。
 そばではメイドが専属の料理人が作った料理を盛り付けている。
 さすがは辺境伯家である。

「ではみんなそろったし、食事にするか。いただきます」
「「「「いただきます」」」」

 僕は母様が料理を取り分けて持ってきてくれるので、目の前に置かれたモノを上手に食べている。二歳児とは言え、前世の記憶持ちだ。綺麗きれいに食べるのはお手の物である。

「クリフちゃんは好き嫌いもないし、フォークもスプーンも上手に使えるし、トイレももう一人でできるから安心ね」
「そうだな。夜泣きとかもしないし、手がかからないのはいいんだが、逆に少し心配にはなるな」

 当然、トイレは歩けるようになってすぐに自分で済ますようにした。オムツは早く卒業したかったからね。
 そんな会話をしながら食事が終わり、僕は食堂を後にした。


 部屋に戻ると、メイドのメアリーから「ぼっちゃま、今日は何をして遊びますか?」と聞かれたので、僕は「今日は屋敷を探検したい」と答え、前々から考えていた書庫を探す計画を実行に移すことにした。
 もう歩けるようになったし、しゃべれるようにもなった。魔力の操作にも飽きてしまった。魔力を上げるために訓練は続けるが、魔法書を見てみたい。魔法を使ってみたいんだ。

「わかりました。では私が案内しますので、お屋敷内を回ってみましょうか」

 メアリーが了承してくれたので、二人で屋敷を歩き回った。
 本当にこの屋敷は広い。
 三階建てのうち、最上階は使用人の部屋と書庫や物置があり、二階は家族の部屋と寝室、父様の仕事部屋がある。一階は食堂と応接室や厨房などがある。
 家族の部屋には一度入ったことがあるが、二年も住んでいるのに入ったことのない部屋がまだいくつもある。

「ぼっちゃまはどこか行きたい所はありますか?」

 メアリーからそう聞かれ、僕は「書庫に行ってみたい」と希望を伝えた。


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