継母の心得

トール

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2巻

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   プロローグ


 夜明け前、部屋にある暖炉のパチパチという小さな音で目が覚める。
 少し前までは寒さに震えながら布団にくるまり、侍女のサリーが来るのを待つのが冬の朝の常だったが、嫁ぎ先のディバイン公爵家ではその必要もない。
 私――イザベル・ドーラ・ディバインの布団の中には温かな湯たんぽが入れられ、シーツは毛足が長いふかふかのもの。上から軽くて温かな毛布とかけ布団がかけられ、目覚める前に暖炉に火を入れてくれる侍女がいる。
 貧乏でまきすらも節約していた実家から、何故こんなお金持ちの公爵家に嫁いでこられたのか、未だに不思議ではあるが、衣食住に困らない生活と、なにより、天使のように可愛い義息・ノアを与えてくれた旦那様には、心から感謝したい。

「まさか自分が、前世で読んでいたマンガの悪役継母に転生するとは思わなかったなぁ」

 天井を見ながら呟き、ゆったりした動作で身体を起こす。起きるにはまだだいぶ早い時間だ。
 起き上がったもののベッドから出る気にはなれず、布団をかぶったままボーッと部屋を眺める。
 そういえば、最近一緒に食事を取るようになった旦那様は、魔法契約をするまで、私を避けに避けていたっけ。月日はそんなに経っていないのに、随分昔のことのような気がするわ。
 ホホッ、わたくしもセレブの一員としてディバイン公爵家に馴染なじんできたのかしら? ――というのは冗談で、いまだに公爵家ではびっくりすることも多い。そうそう、先日の晩餐ばんさんでは、公爵様からノアのお披露目をするよううながされたのよね。そのことを考えると気が重いわ。

「手始めに我が一門でノアと年の近い子供がいる者を招き、交流を図るといい。招待する者は私が選別しよう。イザベル、君もディバイン公爵夫人として家臣たちの奥方と交流する良い機会だ。主催者として交流会を取り仕切るように」

 なんて、そんなこと急に言われても、はい喜んで! とか返せるわけがないでしょう!? こちとら居酒屋の店員じゃないんですからね!

「使用人とサロンは好きに使うといい。予算の上限も設定しない。わからないことはウォルトに聞くように」

 って、言いたいことを言えてスッキリしたみたいなお顔でお食事を続けていたけれど、なにからなにまで寝耳に水ですわよ!
 ――などと当然言えるわけもない。状況が理解できていないのか、きょとんとしていた愛息子に癒やされたものの……交流会のことを考えると、胃がキリキリしてくる今日この頃だ。
 しかも翌日早々に、こういった交流会の大まかな流れや、平均的な予算などの詳しい説明をされ、資料まで貰ってしまった。交流会をもよおさなければいけないということが現実味を帯びてきたせいで、余計現実逃避したくなり、今朝まで目をそらしていたわけである。

「はぁ……、夏休みの宿題を後回しにしてきた子供の気分だわ」

 とはいえ、このまま目をそらし続けるわけにもいかないわよね。
 目が覚めてしまったので、侍女が来るまで交流会について考えようと明かりを灯し、ベッドサイドテーブルの上に置いておいた資料を手に取る。
 公爵様は確か、四歳から十歳までの子供を持つディバイン家の縁戚にあたる貴族たちを招待する予定だと言っていた。
 ならば、おそらく十家族前後だろう。

「そうすると、子供たちを合わせても、三十人いかないくらいかしら」

 交流会はお茶会と似たような流れだが、今回はあくまで子供たちがメインだ。
 であれば、お茶とお菓子を出してしゃべって終わり、ではあまりにつまらないだろう。
 それに、ノアにお友達ができるいい機会なのだから、最高に楽しい交流会にしたいわ。
 資料に目を通しながら考え込んでいたらいつの間にか時間が経っていたようで、私付きの侍女であるミランダがやってきたため、一旦作業を中止した。


 ノアとの楽しい朝食を終えたあと、交流会の会場となる公爵邸のサロンを見渡した。ふとピアノが目に入り、小さく息を吐く。
 こんなパーティー会場みたいな大きなサロンでも、公爵様がくださったピアノの存在感はすごいわね……

「ピアノねぇ……あっ、そうだわ! 前々からやってみたかったこと、この際だから挑戦してみようかしら!」

 ちょうど絵本のラインナップも充実してきたし、と思いながら、専属侍女のミランダを呼ぶ。

「いかがなさいましたか、奥様」

 すぐさまやってきたミランダに、「会いたい方たちがいるから、手紙を届けてほしいのだけど」とお願いする。
 どうかいい返事が貰えますように。


 さて、開催日は私が決めてもいいということだったけれど……、先程思いついたことをやるなら、準備のために三ヶ月は欲しいのよね。
 それに今は冬だ。遠方からやってくる方もいるだろうから、馬車での移動を考えると冬が明けてからの方が望ましいだろう。

「となると、春の交流会ね!」

 ノアもひと月後には四歳になるし、ちょうどいいかもしれないわ。

「って、そうよ! 交流会の前に一番のビッグイベント、ノアの誕生日があるじゃない!!」

 そう思ったら、あっという間に頭の中がノアの誕生日で占められた。

「プレゼントはなにがいいかしら」

 渡したいものがたくさんありすぎて、一つに決められないわ。
 ……きっと、三歳の誕生日は祝ってもらえなかったはずだ。だから四歳の誕生日は、これでもかってくらいお祝いしなくてはね!
 あの子が、幸せな気持ちで春を迎えられるように。

「今からノアの喜ぶ顔を見るのが楽しみですわ!」

 その後は春の交流会を……あら、そういえば公爵様と結婚式を挙げたのも春だったっけ。

「一年ってあっという間よね……」

 ここに嫁いでからの出来事を思い出し、遠い目になる。
 色々あったわ……。前世を思い出したり、新素材を発見しておもちゃを作ったり。お店まで出してしまったものね。よくよく考えると、この一年、波瀾万丈はらんばんじょうすぎないかしら。
 けれど、その中でも、やっぱりノアに出会えたことが私の一番の幸運だろう。初めて出会った時のことを思い出し、なんだか感慨深くなる。
 出会った当初は全く話せなかったノアが、今ではあんなに話すようになって……

「背も、ほんの少し伸びたかしら。ほっぺだって、初めて会った頃よりふくふくしているわ」

 お友達もできたのよね。皇子様だけど。

「いやだ。子供の成長ってあっという間なのね」

 もっと大きくなったら、公爵邸のお庭だけでは物足りなくなりそう。そう思うと、もっと子供がのびのび遊べる場所が必要だわ。そう、たとえば公園のような場所が……
 サロンで一人、とりとめもなく考えている時だった。

「のびのびのぉ……ぎゅーっ」

 足元にノアが突進してきたのだ!

「きゃーっ、ノア様、そのように淑女に突然抱きついてはなりませんっ」

 え、なに今の? 今、ノアったら、「のびのびの、ぎゅーっ」って言わなかった!?

「おかぁさまも、ノアにぎゅーっ、よ?」

 こちらを見上げてそんなことを言う可愛い息子に、頭の中で天使が鐘を鳴らしラッパを吹いた。

「っ、お母様の攻撃は、のびのびのぎゅーっ、じゃなくて、パクパクの~、ムギュゥッ、よ!! ぱくぱく食べちゃうぞ~」
「きゃーっ」

 あまりの可愛さに、思いっきり抱きしめると、ノアはきゃっきゃと喜んだ。
 ノアの専属侍女であるカミラが横で呆れていたが、ウチの教育はこれでいいのよ。だって、ノアがこんなにも幸せそうに笑っているのですもの。


 とまぁ、こんな調子で忙しくもほのぼのとした日常を送っていたのだが、交流会に向けてノアに新たに行儀作法の教師がついてしまった。どうやら、公爵様が指示をしたらしい。
 やっと親の自覚が出てきたのかしら。
 私も主催者として忙しく動き回っていたので、ノアと遊ぶ時間が少し減ってしまったのが、本当に残念でならない。
 ――そうして冬を越し、四歳になったノアと、新米継母兼公爵夫人の私は、ついに春の交流会を迎えたのだった。




   第一章 春の交流会


 ディバイン公爵邸の敷地に馬車が入り、エントランスで停まる。続いて盛装した母子が緊張した面持ちで馬車から降りてきた。

「ようこそお越しくださいましたわ。エジャートン伯爵夫人、イライジャ様」

 そこへすかさず挨拶をする。この流れ、もう何度目だろうか。

「ディバイン公爵夫人、公子様、お招きいただきましてありがとう存じます」
「おまねき、いただきまして、ありがとうぞんじます」

 お母様にそっくりなイライジャ様は五歳。ノアより一つ上の女の子だが、ご挨拶もしっかりできて、将来有望だ。

「まぁっ、ディバイン公爵夫人、素敵な藍色のドレスですわ。公子様も同じお色をまとっていらっしゃいますのね! あら、もしかしてそのブルートパーズのネックレスは、ディバイン公爵の瞳のお色ですか? 素敵ですわ~!」

 いえ、違いますけど。
 先程、他のお客様からも同じようなことを言われたが、正直声を大にして言いたい。
 ――これはノアの瞳の色ですわ!
 まぁ、そんなことを言うと公爵様と不仲だと思われかねないので、黙って微笑むだけにしているのだけれど。
 エジャートン伯爵夫人とイライジャ様の親子は、使用人に案内されてサロンに向かう。彼女たちが乗ってきた馬車は、公爵邸外に作られた駐車場へと誘導されていった。


 そんなことを何度も繰り返し、ようやく最後のお客様をお迎えした私は、その方たちとノアとともにサロンへと移動した。
 サロンに集まった人数はなんと、当初の予定を大幅に超えた総勢五十名。
 何故そんなに増えたかというと、私が経営する育児グッズ専門店『おもちゃの宝箱』のせいだ。
『おもちゃの宝箱』が、お子様がいらっしゃる貴族たちの間で話題となり、さらに帝都に支店を出したこと、そして『おもちゃの宝箱』で出すカフェメニューが人気になったことによって、私と繋がりを持ちたいと思う貴族の夫人たちがわっと増えたのだ。
 交流会の開催を聞きつけたその夫人たちから、招待してほしいというお願いの手紙がディバイン公爵家に殺到したのだとか。
 当初は縁戚のみ招待するつもりでいた公爵様だったが、さすがに自身の派閥に属する貴族たちからの要望に、招待者数を増やさざるを得なかったそうだ。
 とはいえ、今回の名目は『公子様のお友達を作るための交流会』なので、もちろん子連れの方限定である。


「皆様、本日はお越しいただきありがとう存じます。わたくしの息子も四歳になりました。この場にいらっしゃるご子息、ご令嬢の皆様には、息子のノアと仲良くなっていただけると嬉しいですわ」

 規模が大きくなってしまったため、交流会はサロン横の庭も開放しておこなうことになった。
 ウチの庭は広いから、開放感もあるし、ちょうどいいわね。いい天気になって良かったわ。
 とはいえ、庭が広いがゆえに子供たちが迷子になってしまうと大変だ。使用人を各所に配置しているので、大丈夫だとは思うけれど。
 今回の交流会では、女の子でも遊べるよう、庭にハンモックチェアタイプのブランコや、二人乗りの箱型ブランコを置いている。男の子向けとしては、船形のアスレチック滑り台、ジャングルジムなどの遊具を設置しておいた。幼い子用には、柔らかい布でできたボールプールもある。
 そんなわけで当然、子供たちは一斉に庭へと集まったのだ。
 これならノアも遊べるし、すぐお友達ができそうだわ。


「ディバイン公爵夫人、こちらの椅子、なんというか……面白い形をしておりますのね」

 そう話しかけてきた夫人の視線の先には、宙に浮くように吊り下げられている、卵形の椅子があった。
 そう。ハンギングチェアである。
 子供たちが主役の交流会とはいえ、私にとっては公爵夫人デビューの場でもある。そういうわけで、大人にもリラックスしながら楽しんでもらえるよう、この形の椅子を用意したのだ。もちろん大きめのソファも置いてあるので、好きな方を選んでいただける。

「まぁ、お庭にソファですの!? とても……斬新ですわね」

 この世界ではガゼボはあっても、屋外用ソファはこれまで存在しなかったようだ。まるでリゾートガーデンのようなそれに、夫人方がざわつく。

「防水仕様の屋外用ソファですのよ」

 クッション部分は、なんとかという魔物から取れる、防水性のある糸を紡いで作っているのだとか。
 このソファ、座り心地がとてもいいのよね。
 納品されてから何度か使用したのだけれど、ノアとここでうたた寝してしまったことは記憶に新しい。

「さぁ、皆様お座りになって」

 流行に敏感な彼女たちは、戸惑い半分、ワクワク半分といった顔で思い思いに席に着き、その座り心地に驚いて声を上げる。

「座り心地がいいですわね。なんだか、外の爽やかな風とソファの心地よさで眠ってしまいそうです」
「こちらの『はんぎんぐチェア』という椅子も、包み込まれているようで安心してしまいますわ~。それに宙に浮いているよう……」
「ディバイン公爵夫人、こちらの椅子は一体どちらで購入されたものなのでしょうか?」

 などと感想や質問が飛び交う。それぞれに答えていると、今度は『おもちゃの宝箱』に併設したカフェで出されているものと同じ軽食が使用人によって運ばれてきた。

「これ、ディバイン公爵夫人が経営されているカフェのメニューですね!」
「私も行きましたのよ!」
「わたくしもよ!!」

 さすがに二十人以上のご婦人たちが競うようにおしゃべりをすると、とても賑やかだわ。

「わたくし、こちらのやわらかいパンでできたサンドイッチがとても好きですの」
「私もですわ。バゲットのサンドイッチも美味しいのですけれど、どうしても硬くて噛み切れませんのよね。外出先では恥ずかしくて食べられませんの」
「そうそう。その点、こちらのサンドイッチは食べやすくていいですわ~」

 あら、子供たちが食べやすいよう食パンのサンドイッチを出したのだけど、女性にも需要があったみたい。
 こうして、屋外用ソファやカフェメニューなどの話から始まり、おもちゃや遊具の話題で一時間ほど盛り上がったのだけど……実は今日のメインは、これらではないのだ。

「奥様、準備が整いました」

 使用人が会話の邪魔をしないよう、小さな声で伝えてくる。
 いよいよね。皆が驚く顔を想像すると、顔がニヤけてしまうわ。

「皆様、そろそろ身体も冷えて参りましたし、サロンへお入りになって。子供たちもですわ」

 皆をサロンへと誘導する。庭で遊んでいる子供たちもすっかり仲良くなったようで、頬が緩んだ。

「これから、楽しいもよおしが始まりますわよ」

 なに、なに? と遊具で遊んでいた子供たちがサロンへ大移動を始める。テラスの出入口付近では、喉が渇いているであろう子供たちに、使用人たちが麦茶やジュースが入ったコップを手渡している。
 コップはもちろん新素材で作っている。飲み物をこぼして洋服を汚したりしないよう、蓋とストロー付きだ。

「ご令嬢の皆様、こちらにいらして」

 女の子だけを呼び、お手洗いに行きたい人がいないかをこっそり聞いて、希望した子は使用人が案内する。もちろん男の子の方も、男性の使用人に聞いてもらっている。女の子は集団で、男の子は一人あるいは二人でと少人数で行くのは、前世も今世も変わらないらしい。

「皆様、お好きな席にお座りください」

 サロンにはゆったりしたソファがいくつも置かれ、前方にはカーテンで隠された舞台がある。舞台下の両脇には、楽団が待機していた。
 皆はそれぞれ席に着きながら、ワクワクとした瞳を楽団へと向けている。

「有名な演奏家でもお招きしているのかしら」

 夫人たちが小さな声で話している。
 しばらくして、全ての子供がトイレから戻ってくると、サロンのカーテンが閉められた。
 室内はシャンデリアと、間接照明の明かりのみになる。

「皆様、事前にプレゼントした絵本は、読んでいただけましたか?」

 私の問いかけに、三十人の子供が「読んだ!」、「楽しかった!」、「大好き!」と答えてくれる。
 素直で可愛い子供たちだわ。

「わたくしも読みましたけど、子供の読み物とは思えないほど面白かったですわ」
「ええ、ええっ、実は私もハマってしまって……」
「あら、わたくしもよ!」

 などと夫人たちも盛り上がっている。

「絵本の中に出てくる人は、誰が好きかしら?」

 皆に問いかけると、子供たちが自分の好きなキャラクターの名前や特徴を次々とあげていく。キャッキャとはしゃぐその様子に、頬が緩みそうになった。
 どうやら私がプレゼントした絵本は、子供たちの心を鷲掴わしづかみにしたようだ。

「ノアは、誰が一番好き?」

 もちろん私の息子はそこで、主人公の名前を叫ぶ。
 はい。私の欲しい言葉、きました!

「それでは皆様、せーので主人公の名前を呼んでみましょうか。そうしたら、出てきてくれるかもしれませんわよ」
「「「「「!?」」」」」

 子供たちと夫人たちは目を輝かせ、一斉に舞台を見た。

「せーの」

 私のかけ声に次いで、子供たちが主人公を呼ぶ可愛い声がサロン内に響く。次の瞬間、室内が暗転し……

「誰かがオレたちを呼んでいるぞ~?」

 よく通る声が舞台のカーテンの向こうから聞こえてきたのだ。
 子供たちはその声に大喜びする。私がうんうん、と頷きかけたその時。

「きゃーーーっ」
「ぃやぁぁぁぁぁ」

 などという大人たちの嬉しそうな悲鳴が響いた。驚きのあまり心臓が止まりかける。

「おーいっ、皆ぁ! こっちだ、こっち!!」

 後ろから聞こえてきた声に、皆がハッとして振り返る。
 すると、後ろのある場所にスポットライトが当たり、絵本のキャラクターが現れた。
 顔といい、衣装といい、絵本そっくりになっている俳優さんを見て、子供たちが歓声を上げる。
 一方、先程悲鳴のような声をあげていた夫人たちは、拍手で迎えている。落ち着いている様子に胸を撫で下ろしたのだが、舞台袖から絵本でも特に人気のイケメンキャラにふんした俳優たちが出てきた途端、「キャアアアア!!」と先程以上の悲鳴を上げたので、ひっくり返りそうになった。
 だ、大興奮ですわね。
 続々と登場する主人公の仲間に、ノアも目をまん丸にし、前のめりで舞台を見ている。
 楽しんでいることが伝わってきて微笑ましくなる。
 そしてとうとう、主人公が出てくるぞ! という時、楽団が軽快な音楽を奏で始めた。
 ――そう。今回の交流会最大の目玉はなんと、二・五次元ミュージカルなのだ!!
 専属侍女のミランダにお願いして有名な劇団に連絡を取り、企画を説明し、台本や衣装等々を準備して、さらに楽団にも同じように説明して……。楽譜を書くのは面倒なので、私がピアノで弾いたものを聞いて編曲してもらい、劇団と合わせて練習に次ぐ練習。
 あら? 私いつから監督兼演出家になったのかしら? と思いつつも、もはや抜け出せず。完璧に仕上げてもらうまでのあの苦労の日々……!
 そしてとうとう、満を持してこの日を迎えましたのよ!!
 ――今回ミュージカルの題材にしたのは、ある国の王女が国内で起こったクーデターを止めるために立ち上がり、主人公たちと協力して、王国を平和に導くというストーリーだ。
 これが一番、女の子たちにも受け入れやすいストーリーかなと思い選んだのだが、どうやら大成功だったらしい。勇敢に戦う王女様がとても人気だ。
 子供たちは皆ミュージカルに夢中で、期待どおりのその光景に顔がニヤけるのを止められない。
 しかし、想定外だったのは、夫人たちの反応だ。二十人の夫人たちが皆、それぞれが好きなキャラクターの戦いぶりに一喜一憂しているのだ。中には、「尊い……っ」と涙を流す猛者もさもいる。サロンの隅に控えている使用人たちも密かに楽しんでいるようだ。
 交流会はなんとか大成功で終わりそうだわ。
 そう思っていた。ノアの隣にいる子供の顔を見るまでは――


「ノア~、……っ!?」

 ミュージカルが終わり、盛大な拍手と歓声の中、ノアに話しかけようとした時だ。
 私は、ノアの隣にいる女の子の顔を見て、ハッと息を呑んだ。
 あの子……っ。


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