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3巻

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   第ゼロ話 これまでの話


 自宅のベッドで眠りについた私は、ラノベでよくあるトラ転……ではなく、異世界――エールデテールを管理している神様ズのミスによって日本人として生きていた人生の幕を下ろした。そして誘われるままエールデテールに転生することが決定。打算まみれでパパと呼んだ私を何故か気に入った風の神・エアリル、水の神・アクエスの手で、あれこれと便利スキルを付与され、〝神人しんじん〟として生きていくことになった。
 街の近くに送ってもらうハズが……またも神様ズのミスにより、呪淵じゅえんの森という危険な森で目を覚ました。転生したという記憶を失って。
 夢の中だと思い込みたかった私は幼女サイズのボディに四苦八苦しながら魔物と戦ったり、武器を作ったり、のちに従魔となってくれるリスに似たヴァインタミアという種族の魔物――クラオルを助けたり、ガルドさん・ジュードさん・モルトさん・コルトさんの四人組パーティ【黒煙こくえん】に助けられたり……と、あれやこれやありつつもなんとか生き延びていた。
 魔獣襲撃事件で【黒煙こくえん】の四人とは離れ離れとなり、無我夢中で逃げて廃教会に避難。そこを騎士団に保護された。私のことを発見してくれたのはキアーロ国カリダの街の第二騎士団に所属しているフレディ副隊長だ。そこで記憶は取り戻したけど、そのまま騎士団の宿舎でお世話になることになった。
 冒険者ギルドに登録し、身分証をゲット。この世界に慣れるために依頼を受け、薬草採取をしたり、魔物と戦ったり、とある家の庭の草刈りをしたり、お店のお手伝いをしたり……依頼とは別だけど、パン屋さんでパンの作り方を教えてもらったりもした。
 今のところ、パパ達に付けてもらったスキルのおかげで難なく生活できている。
 なのに今では、騎士団を総合的にまとめているブラン団長、フレディ副隊長、パブロさんの三人に過保護なくらい心配性を発揮されている。そんな三人を説き伏せ、なんとか条件付きではあるものの、宿に移れたところである。



   第一話 心機一転


 昨日いっぱい泣いてスッキリした。今日から新しい環境で冒険者一日目が始まる。まぁ、騎士団の宿舎から宿に移っただけなんだけどね。
【クリーン】をかけてからエアリルの服に着替えて一階に下りる。

「おや、おはよう! 早起きなんだね。すぐに食べるかい?」
「おはよう。ううん、朝の運動してから食べたいから、三十分後くらいにお願いしたいな」
「はいよ!」

 了承してくれた女将さんに裏庭への行き方を聞くと、受付けカウンター横のドアから行けると教えてもらえた。ドアから裏庭に出て朝の空気を吸い込む。
 すーはー。すーはー。
 朝の清澄せいちょうな空気で自分の中の淀んだものが出ていく気がする。
 うん、頑張れそう。今日から心機一転頑張ろう。とりあえずは一ヶ月。その後はガルドさん達捜しだ。
 クラオルと二人で日課のストレッチをこなす。三十分ほどかけてゆっくりほぐして宿に戻った。
 女将さんの案内で席に座ると料理が運ばれてきた。

「おぉ、モーニングセットだ」

 コンソメスープとベーコンエッグと麦パン。ただ、スープは丼サイズ、ベーコンが七枚、目玉焼きは三つ、さらに麦パンも三つ用意されていた。
 美味しそうなモーニングセットではあるものの、明らかに量が多い。子供が朝から食べる量じゃない。「足りなかったら言って」って言われたけど、おかわりすることはないと思う。残すのは申し訳ないので、こっそりとお皿を出して食べられない分はしまっちゃおう。お昼ご飯の心配がなくなったね。クラオルは私が作ったパンがいいらしく、ドライフルーツパンを半分ほど。

「おっ! キレイに食べてくれたね、足りたかい?」

 食べ終わったところで女将さんに話しかけられた。

「おなかいっぱいで苦しいくらい。もっと少なくて大丈夫。むしろ残すのもったいないから半分くらいにしてもらえると嬉しい」
「おや、そうかい? 少食なんだねぇ。しかし半分かい……それで本当に足りるのかい?」

 女将さんは信じられないと言いたそうな顔をして聞いてきた。
 女将さん……残りを昼食に回しても余るほどのボリュームです。この量が毎日だったら無限収納インベントリの中身が増えるだけなのですよ。

「充分! 美味しくて残したくないからお昼ご飯にしようと思ってマジックバッグに入れたの」
「そうかい、そうかい。なら明日から半分で弁当でも作ってあげようか?」
「本当⁉」
「あっはっは! 嬉しそうじゃないか。そんなに美味しいって言ってもらえて嬉しいからね。構わないさ。その代わりに皿なりかごなり用意してくれるかい?」

 お弁当の条件が容器だけとはありがたい!

「もちろん! とっても嬉しい‼ ありがとう!」
「あっはっは! 目が輝いたね! 今日中に用意してくれればいいからね」
「うん! わかった!」

 ちょうど話し終わったタイミングで、他のお客さんが下りてきた。邪魔にならないように私は部屋に戻ろう。お皿を作らねば。
 部屋に結界魔法を張ってから空間魔法でコテージのドアを出して中に入る。コテージの木工部屋に行き、無限収納インベントリから呪淵じゅえんの森で木刀を作った残りの木材を出した。
 まずはお皿だと、木材を魔法で削り、お皿を形作っていく。平らではなく、二、三センチほどの深さのあるお皿を六枚。クラオル用に小さめのお皿も作っちゃおう。表面がツルツルになるようにしっかりと研磨しておいた。
 削り終わってから気付く。防水加工ってどうやるんだ? わからないので実験開始だ。
 削ったお皿に水魔法の水を染み込ませて、それが他の水分を弾くイメージを描く。全体に染み込ませてから乾燥させると、コーティングされたようにツヤツヤになった。
 確認のために水を出してみると見事に弾く。一発で大成功! なので残りの五枚とクラオル用のお皿にも同じ処理を施した。
 次はスプーンとフォークだ。これも木を削っていく。クラオル用にちゃんと小さいサイズのも作った。製作が終わったスプーンとフォークにも先ほどと同様に防水加工をしたら完成だ。
 念のために鑑定してみる。


 **** 木のスプーン ****
 セナが心を込めて作ったスプーン/呪淵じゅえんの森の木でできており、多量の魔力を含んでいる/
 セナの魔力が浸透しており、すくった料理の温度を使用者の好みに合わせて調節可能/
 セナの水魔法コーティングにより、焦げ付かず燃えない/完全防水加工、完全防汚加工/
 傷付きにくく、耐久性バツグン


 わお! 初めてなのにすごいのができちゃった‼ 燃えないって……まぁいいか。身内しか使わないしね。
 作っている間にお昼近くの時間になっていた。完成品を無限収納インベントリにしまい、宿の部屋に戻ってお昼ご飯タイム。
 私は朝残したモーニングセット、クラオルも朝食べたドライフルーツパンの残り半分だ。予想通り、食べ切れなかった。明日からお弁当もあるのに……困ったとき用の保存食だな。


 食べ終わった私は宿屋を出て、魔女おばあちゃんのお店へ。

「おばあちゃん、来たよ~!」
「ヒャッヒャッヒャ! 今日はどうしたんじゃ? ヒャッヒャッヒャ」
「おばあちゃんにプレゼントがあるの!」
「ヒャーッヒャッヒャ。こないだ言ってたやつかのぉ? ヒャッヒャッヒャ」
「そう、これだよ!」

 ドドン! とガイにいが作ってくれた保存箱をカウンターに出す。
 中には作った白パン・麦パン・ジャムパン・ナッツパン・ドライフルーツパンとイチゴジャムを入れている。

「ヒャッヒャッヒャ。またすごいものだのぉ、ヒャーッヒャッヒャ」

 おばあちゃんは鑑定できるんだろうか? ガイにい隠蔽いんぺい魔法をかけてあるから大丈夫って言ってたんだけど……とりあえず気にしないようにして説明しよう。

「この箱は保存魔法がかかってるから、中のものが腐らないの。これは私が作ったやつじゃないんだけど……中に私が作ったパンとジャムが入ってるからぜひ食べてみて! ジャム入りのジャムパンは【パネパネ】ってパン屋さんがこれから発売する予定だよ。気に入ってくれると嬉しいな」
「ヒャッヒャッヒャ。ありがとさん。大切に食べよう。箱のことは誰にも言わんから安心していいよ。ヒャッヒャッヒャ」

 おぉ! さすがエスパー‼

「うん、そうしてもらえると助かる」
「ヒャッヒャッヒャ。どれ、こちらもいいものを用意しておいたよ。ヒャーッヒャッヒャ」

 そう言っておばあちゃんが持ってきたのは、日本でよく見るガラス製の丸みを帯びた小さめなコップだった。数は三十個くらいある。
 なんでコップ? と私は首を傾げた。

「ヒャッヒャッヒャ。わからんかの? これは耐熱性じゃよ。ヒャッヒャッヒャ」
「!」

 耐熱性‼ プリンを作るときにめっちゃ便利じゃん!

「ヒャーッヒャッヒャ。欲しくなったようじゃのぉ。ヒャッヒャッヒャ」
「うん! おいくら?」
「ヒャーッヒャッヒャ。全部で銀貨一枚じゃの。ヒャッヒャッヒャ」
「そんなに安くていいの?」
「ヒャーッヒャッヒャ! お嬢さんだからの。ヒャーッヒャッヒャ」
「それで大丈夫なら買う。はい!」

 銀貨を渡すと、おばあちゃんはニッコリと受け取った。

「ヒャッヒャッヒャ。確かに受け取ったよ。ヒャーッヒャッヒャ」
「いつもありがとう!」

 お礼を言ってコップを無限収納インベントリにしまう。
 再度お礼を伝えておばあちゃんのお店を出た。終始おばあちゃんは笑っていた。
 宿に戻り、女将さんにさっき作った木のお皿を渡してから部屋に入る。
 依頼を受けるには時間が遅いため、今日は休息日にしちゃおう。ちょうどいいのでパパ達にお手紙を書くことにした。
 全員分書き終えると夕食の時間になっていたので、一階に下りて朝の席に座る。朝は他の冒険者がいなかったけど、夜は賑やかだ。
 女将さんがさっそく朝食時の半分ほどにしてくれていた。大変ありがたい。それでも私には多いくらいだったよ。


   ◇ ◆ ◇


 一階に下り、女将さんに挨拶をしてから裏庭に出てクラオルとストレッチだ。朝の新鮮な空気で深呼吸をして、シャキッと覚醒できた。
 朝ご飯を食べ終わったところで女将さんからお弁当を受け取った。お皿しか渡してなかったけど、麻袋に入ったパンも一緒にくれた。
 お礼を言ってから部屋に戻り、短剣とマジックバッグを装着。
 よし。改めて……冒険者をやるのだ!
 女将さんに依頼を受けてくることを伝えて部屋の鍵を返し、冒険者ギルドに向かう。
 久しぶりな気がするけど一昨日おとといくらいにも来たんだよね。気持ちの問題かしら? 依頼は……あぁ、激混み。人が少なくなるまで待っていようかな。

「おい! ……おい、ガキ!」

 なんか聞いたことのある声がするなと振り返ると、初日に肩車してくれたお兄さんだった。

「あ、肩車のお兄さん。おはよう!」
「おう! おはようさん。覚えてたか。また依頼か?」

 ニカッと笑いながら片手を上げて挨拶してくれるお兄さん。
 お兄さん……その任侠にんきょう映画の制作会社からスカウトを受けそうな強面コワモテで笑うとさらに怖いぞ!

「うん。何かあるかなって」
「そうか。また乗せてやるよ」
「わーい! ありがとう!」
「ほら、よっと!」

 前回と同様に私を肩に乗せたお兄さんは、そのままズンズンと依頼書が貼ってある混み合った掲示板に歩いていく。

「Hランクだったよな。そうすると今日は……コレとコレとコレとコレの四つか。……あとは常設依頼だな」

 家の掃除にお店のお手伝い。街の清掃に畑のお手伝い。常設依頼は薬草採取と井戸掃除、と前回と変わらなかった。

「うーん……やっぱり薬草採取かなぁ?」
「なんだ? 不満か?」
「ううん。面白い依頼がないかなって思ってただけ」
「面白い依頼か……なら俺達と一緒に討伐依頼に行くか?」
「討伐依頼?」
「ここで話すのは邪魔になるから戻るぞ」

 言いながら掲示板から離れ、邪魔にならない場所に移動したところで降ろされた。

「俺達が今回受けるのはスライム討伐だ」

 スライム! これぞ異世界って感じ!

「行ってみたい‼ でも私も一緒に行っても大丈夫なの?」
「うーん……まぁ大丈夫じゃねぇか?」
「お兄さんパーティ組んでるでしょ? お邪魔じゃない?」
「ぶはっ! いっちょ前に気遣いやがって! 大丈夫だ、気にすんな」

 笑いながらガシガシと頭を撫でてくる。軽く目が回ったぞ。

「依頼、一緒に受けられるか聞いてみる」
「ん? お前パーティ組んでるのか?」
「ううん。ジョバンニさんに聞くの」
「ジョバンニって……サブマスか?」
「そうだよ!」
「よくわかんねぇけど、サブマスだろ? 呼んでやるよ」

 そう言ってからギルド職員に話して呼んでくれた。

「ありがとう!」
「お前じゃちっこすぎて埋もれちまうからな」

 またガシガシと頭を撫でられた。撫でられるのは好きだけど、もうちょい手加減お願いします。
 クラクラする頭を落ち着けていると、ジョバンニさんが現れた。

「お待たせいたしました。何か問題がありましたか?」
「ジョバンニさん! おはようございます」

 ペコリと挨拶。すると途端にジョバンニさんが笑顔になった。

「セナ様でしたか。おはようございます。どうなさいました?」
「あのね、このお兄さん達と一緒に依頼受けてもいい?」
「依頼ですか……どのような依頼でしょうか?」
「これだ」

 お兄さんが依頼書をジョバンニさんに見せる。

「……ふむ。Dランクのスライム間引き討伐でございますか。セナ様ならば魔法が得意ですので大丈夫でしょう。【ガーディアン】の皆さんと一緒でしたら受理可能ですね」

 強面コワモテお兄さんのパーティはガーディアンというらしい。

「本当? Hランクでも行ける?」
「はい、大丈夫です。パーティランクはパーティの平均とルールで決めてありますが、正式なパーティではなく、引率や合同ということならばわたくしの権限で許可を出せます。【ガーディアン】の皆さんはCランクですし」

 Cランクだったんだ! ベテランさんだね!

「大丈夫なら頼むぜ」
「かしこまりました。セナ様、ギルドカードを渡してもらってよろしいでしょうか?」
「はい!」
うけたまわりました。処理して参りますので少々お待ちください」

 私が渡したカードを持って、ジョバンニさんはカウンターの中に入っていった。

「お待たせいたしました。セナ様のギルドカードをお返しいたします。しっかりと受注処理いたしましたのでご安心ください。【ガーディアン】の皆様、セナ様をよろしくお願いいたします」

 私にギルドカードを返すと、ジョバンニさんがお兄さんに頭を下げた。

(ここにも保護者が!)
「任せろ」

 なんでもないようにお兄さんがジョバンニさんに言ってくれた。

「迷惑かけないように頑張るね!」
「はい。ではいってらっしゃいませ」
「いってきまーす!」

 微笑んで見送るジョバンニさんに手を振って、お兄さんと一緒にギルドを出た。

「馬車を使う。今、俺の仲間が馬車を借りに行ってる。討伐場所は北門を出た先にある湖だ」
「はーい!」

 ギルドの近くの馬車エリアで、話しながらお兄さんのパーティメンバーを待つ。十分ほど経ったとき、アレだとお兄さんがとある馬車を指差した。簡素ながらも屋根がある馬車だった。
 近付くにつれて馬車の中の声が聞こえてくる。

「ちょっと! ヤークスが女の子、誘拐してきてるよ!」
「えぇ!? 人を殺してそうな顔面でも犯罪はしないと思ってたのに!」

 私達の前に着いた馬車からバタバタと三人が降りてきた。
 一番声が大きかったのは、鎧を着たクマ耳のソフトマッチョなお姉さん。小顔で可愛い。
 からかい交じりに返していたのは、ホンワカした雰囲気で白いローブを着た、木製の杖を持っているお兄さん。フツメン。
 最後の一人は背中の大きな弓が目立つ、狩人スタイルの男の子。とんがった耳が特徴的で、他の三人より少々若く、中学生くらいに見える。美少年だ。エルフかな?

「とりあえず乗るから持ち上げるぞ」

 強面コワモテお兄さんはパーティメンバーに反応することなく、私を持ち上げ馬車に乗り込んだ。メンバーの三人はお兄さんの様子に目を丸くしながらワタワタと続く。強面コワモテお兄さんは背が高いからか、気持ち縮こまって座り、私はその隣にちょこんと降ろされた。向かい側に白いローブのお兄さんとクマ耳お姉さんが並んでいる。結構ミチミチだ。
 御者ぎょしゃは中学生くらいの男の子がするみたいで、彼は中に入らなかった。ただ御者ぎょしゃ席との壁がないので、中から彼の背中が見える。

「北門だ」

 強面コワモテお兄さんが告げると馬車が動き出した。

「いやいや、ちょっと! すんなりこの子も乗っちゃったけど、さすがに誘拐はまずいって!」

 馬車が出発してすぐ、クマ耳お姉さんが反応を返さない強面コワモテお兄さんの腕をバシバシと乱暴に叩き始めた。

「どんなに人殺しみたいな凶悪なツラをしてても犯罪だけはしないと思ってたのに……」

 シクシクと泣きマネをする白いローブのお兄さん。

「お前はそういう趣味だったんだな……」

 中学生くらいの男の子まで強面コワモテお兄さんに冷たい視線を向けている。
 このパーティ面白い! 強面コワモテお兄さんはいじられキャラみたいだ。ガルドさんもそうだったけど、強面コワモテの人はよくいじられるんだろうか? っていうか自己紹介しなくていいのかな?

「だぁーー! うるせぇ! ちげぇよ!」

 私がタイミングをうかがっている間に、ついに耐えきれなくなったのかお兄さんが叫んだ。

「一緒に依頼受けることになったから連れてきただけだ」

 フンっとねた顔をして強面コワモテお兄さんが言う。

「依頼……え!? 依頼ってスライム討伐の!?」
「そうだ」

 驚きの声を上げたクマ耳お姉さんに、強面コワモテお兄さんは頷いた。

「可愛いのはわかるけど誘拐はダメだって!」
「だから誘拐なんかじゃねぇって言ってんだろうが!」

 クマ耳お姉さんと強面コワモテお兄さんが言い争っているのを気にも留めず、白いローブのお兄さんが話しかけてきた。

「ねぇねぇ、キミのお名前はなんて言うの?」
「私はセナだよ。お邪魔しちゃってごめんなさい」

 立つと振動でよろけるので座ったまま頭を下げる。

「ほら。お前がピーチクパーチクうるせぇからこいつが気にしちまったじゃねぇか!」
「なんだって!? あたしのせいだって言うの!?」

 強面コワモテお兄さんにクマ耳お姉さんが反論して、また言い合いが激化してしまった。
 自己紹介がなかなかできないなと思っていたとき、振り向いた御者ぎょしゃのイケメン少年と目が合った。

「うるせぇ」

 たった一言で、騒いでいた二人に効果てきめん。

(美少年恐るべし!)

 北門に着くと、全員のギルドカードをチェックするとのことで、私のも提出。クマ耳お姉さんに「ホントに登録してるんだ……」って言われちゃった。そんなに意外かね?
 門を過ぎてから十分ほど経ったとき、ローブのお兄さんがパンッ! と手を叩いた。

「さすがにそろそろ自己紹介しない? セナちゃんだよね。僕の名前はロナウドだよ。ヒーラーなんだ」

 ローブのお兄さん、ありがとう。ナイスです!

「お前セナって名前なのか。そういやサブマスが呼んでたな。オレはヤークスだ」

 ローブのお兄さんに続いて強面コワモテお兄さんも自己紹介してくれた。
 ヤークスさんか。ヤーさんだね。顔と名前がピッタリだ。ヤーさんと呼ばせてもらおう。

「あたしはガルダ。ヤークスに何かされたらぶん殴ってやるからね。見てわかる通り、熊族さ」
「俺はフォスター。ハーフエルフだ。見た目は子供だが十七だ‼ 成人している!」

 クマ耳お姉さんは自分の耳を指差し、中学生くらいの男の子は年齢のところでやたら力を込めていた。

(見た目十二、三歳だもんね。この世界の成人は十五歳。気にしてるのか)

 ロナウドさん、ガルダさん、ヤーさん、フォスターさんね。よし、覚えた。ここでハーフエルフに出会えるとはちょっと感動だわ。ハーフでも美人さんなのね。

「私はセナ、この子はクラオルです。お邪魔しちゃってごめんなさい。Hランクですが足を引っ張らないように頑張りますのでよろしくお願いします」

 頭を下げて挨拶をする。もう遅いかもしれないけど最初が肝心だからね。

「敬語じゃなくていいよ! しっかしよくこの顔面凶器と一緒に受けようと思ったね? ほとんどの子供は泣き叫ぶのに。怖くない?」

 クマ耳お姉さん改めガルダさんが不思議そうに聞いてきた。

「泣くどころか初めて会ったとき、声かけたらキョトンとしてたぞ」
「えっ? 今日が初対面じゃないの? どういうことよ?」
「やはりそういう趣味だったのか……犯罪はやめろ」

 ヤーさんのセリフにガルダさんが詰め寄り、フォスターさんが呆れたように呟く。

「だぁー! ちげぇって言ってんだろ!」

 そんな二人にヤーさんが噛み付くように叫んだ。
 これまた説明うやむやパターンな気がする。落ち着かせようと四人に果実水を出して渡し、静かになったところでヤーさんに会ったときのことと今日のことを説明した。

「すごいねぇ。ヤークスの説明よりわかりやすい」

 ロナウドさんが私の頭を撫でる。手つきが優しすぎてちょっとくすぐったい。

「そうだ! 前に使ったあの魔法なんだよ? すげぇキレイになるわ、いい匂いがするわ、こいつらにどこ行ったんだって怪しまれたんだぞ!」
「「「あぁ! あのときか!」」」
「え? ただの【クリーン】だよ?」
「「「「は?」」」」
「お礼できるものがなかったから、勝手に【クリーン】かけちゃったんだ。ごめんなさい」
「い、いや。それはいいんだが。ただの【クリーン】か?」
「うん。いつもかけてるのと同じだもん。ね? クラオル」

 クラオルはみんながわかりやすいように大きく頷いてくれた。

「僕にもやってもらえないかな?」

 ロナウドさんに言われ、返事をして【クリーン】を展開。

「すごい……ホントにキレイになった。ありがとう」
「あたしも、あたしも!」


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