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4巻
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しおりを挟む第十二話 色々な秘密
朝が来る。
しかし、木々に日差しを遮られた森の中は暗く、朝という実感はない。
昨夜はまさに混乱と恐怖の夜だった。
城塞迷宮調査団は、森の中でウサギたちに襲撃された。取るに足らない、子供が狩猟の練習で最初に狩るような普通のウサギたちに襲われ、訓練を積んだ騎士や兵士たちが翻弄されたのだ。
ほぼ壊滅と言っていい損害を被り、死者こそ出ていないものの、その機能は一時崩壊した。
唯一、対抗することができたロアと従魔たちの存在がなければ、全員が狂乱状態を起こしてバラバラに敗走して、森の中で行方不明になっていたことだろう。
騎士や兵士たちの頭にはその時の恐怖が焼き付き、それは安全が確保され、休息をとっている今もなお、重い空気を漂わせる要因となっていた。
彼らが目的地としている城塞迷宮は、グリフォンを主とした魔獣の住処である。グリフォンは飛行することによって広い範囲を縄張りとし、その気性の荒さもあって人間にとってはかなり危険な魔獣だった。
また、その周囲は古戦場だったこともあり、多くの不死者が徘徊する場所になっていた。人間にとっては踏み込めばすぐに死が訪れる、まさに死地と言っていい場所だ。
普通であれば、そんな場所にわざわざ踏み込む理由はない。
しかし、一カ月ほど前にアマダンの街にグリフォンが飛来し、混乱を引き起こしたことがあった。
一応は、ロアが元々所属していた冒険者パーティーの『暁の光』が従魔にしていたグリフォン、つまりグリおじさんが、パーティー壊滅時に一時的に逃げ出した時の行動として決着がついた。公式発表でもそうなっている。
それは事実なのだが、真実を知っているロアたちが口を噤むことにしたため、曖昧なままの決着となっていた。そのため、裏付けを取る必要が出てきてしまったのだった。
そこで、街に飛来しそうなグリフォンの住処である城塞迷宮を調査し、まだそこにグリフォンがいることを確認して、裏付けに代えることにしたのである。
その確認のために編成されたのが、彼ら城塞迷宮調査団だった。
実のところ、この調査が成功するなどと思っている者は誰もいない。生き残るのも困難な場所で、そこの主の存在を確認するなど不可能と言っていいからだ。
あくまでこの調査団は、城塞迷宮に調査団を送ったという言い訳を作るための、いわば生贄のような集団だった。そのため、アマダン伯領の騎士団や兵士たちから、実力不足で役に立たない者や、様々な理由で目障りとされている者たちが集められていた。
死んでも関与しないどころか、彼らはむしろ全滅を望まれて送り込まれている。
実力がある者も交ざっているが、協調性がないなど集団戦闘に向かない者たちばかりだ。その筆頭が、彼らを率いる立場の瑠璃唐草騎士団なのだから、頭の痛い話である。
そんな調査団に、ロアが同行したことは、調査団にとって不幸中の幸いと言ってもいい。
ロアもまた、商人たちや冒険者ギルドなど、彼のことを目障りに感じた者たちの思惑が交ざり合って、この調査団に参加している。
拒否することもできたが、ロアは条件を付けて参加することにした。その条件とは、この調査が成功した時に、報酬として、自分を見習い職である万能職から正式な冒険者と認めることだった。
彼自身は自分のためにこの依頼をこなしているという自負があるため、調査団のためにやっているという気負いはない。
しかし、ロアがいることが、調査団の者たちの大きな助けになっていることは間違いなかった。
今も、ロアの周りにいる騎士や兵士たちは、彼を目で追っている。監視しているわけではなく、その行動が気になるのだろう。ロアの行動次第で、自分たちの未来が大きく変わることを、彼らは悟っていた。
唯一、昨夜の襲撃でウサギたちに対抗できたロアの存在が、彼らの心の支えになっていたのである。
そんな中で、ロアだけが自分がそんな目で見られていることに気が付いていなかった。
夜明け前に起き出したロアは、横倒しになって壊れた馬車を黙々と解体していた。
薪の炎だけでは手元が見え辛いため、頭上にはロア自身が出した魔法の灯りが浮いている。以前なら灯りを出す程度でもすぐに魔力切れを起こしていたが、今はグリおじさんと魔力を共有しているため大丈夫だ。一日中どころか、数年灯しっぱなしでも問題ない。
ウサギの襲撃によって壊れた馬車は、森の中の通り道を見事に塞いでいた。壊れたまま放置するわけにもいかず、昨夜のうちに、ある程度は野営の薪にするために兵士たちの手で解体されていた。だが、骨組み部分はほぼそのままだ。
軍用馬車の骨組みは、重い物資や人員を運ぶために魔法で強化されており、そう簡単には解体できないのだった。
今この場で解体できるのは、ナイフに風の魔法を纏わせることができるロアだけだろう。
そのため、ロアがナイフで切って解体し、それを見張りで起きている兵士たちが運ぶという流れになっていた。
本当なら、ナイフに魔法を纏わせられることは隠しておきたかったが、ウサギとの戦いで全員に見られてしまったので、今更だからと気にせずに使っている。
「それにしても、スゲーもんだなぁ」
ロアが骨組みを簡単に切り裂くのを見ながら、木材を運んでいる兵士が声を掛けてくる。
ロアはそれに何と返していいか分からず、愛想笑いで応えた。
彼にとってこの力は借り物だ。グリおじさんと従魔契約をした恩恵であり、自分の実力ではない。そう考えている所為で、褒められても手放しには喜べなかった。
昨夜から兵士たちや騎士の一部との関係は良好だ。それまでの険悪な雰囲気が嘘のようだ。
自分たちをウサギから守り、傷も魔法薬で治療したロアを、兵士たちは尊敬の眼差しで見つめてくる。感謝の言葉を伝えてくる者も少なくない。
そんな中でも、瑠璃唐草騎士団だけは違っていた。
彼女たちは、ロアを恨みが籠った目で睨んでくる。自分たちが得るはずだった栄誉を奪ったとでも考えているのだろう。ただ、実害も口出しも一切ないため、ロアは仕方がないかと諦め気味に放置していた。
「朝から精が出るな! 冒険者殿!」
また別の声が掛かる。ロアが作業の手を止めて顔を上げると、そこにいたのは男性の騎士だった。
昨晩のウサギの襲撃時に、ウサギの存在に真っ先に気付き、その後も必死に兵士たちを取りまとめていた騎士だ。
ここまで調査団の行動を取り仕切っていた瑠璃唐草騎士団の女騎士たちが役に立たないため、本来の仕事ではないものの、昨夜の野営の指示なども彼が行っていた。今までほぼ無視されていたロアに、壊れた馬車の解体をお願いしてきたのも彼だ。
彼は瑠璃唐草騎士団員ではなく、この調査団のために臨時で組み込まれた騎士だった。
騎士としての実力はあるように見えるが、何か失敗をしてこの死地に赴く任務を押し付けられたのだろう。鍛えられた身体に適度に切り揃えられた髪という、いかにも騎士らしい真面目そうな感じだが、旅慣れておらずマメに手入れできていないのか、その口元には無精髭が浮いていた。
「おはようございます!」
「貴殿がいてくれて本当に助かった。もう一度礼を言わせてくれ」
彼は大柄な身体を折り、ロアに対して深く頭を下げる。
「やめてください。その……オレも一応は調査団の仲間ですし、これも仕事ですから。礼を言われるほどのことではないです」
ロアはいきなり頭を下げられるとは思っておらず、戸惑い、照れる。
今まで騎士から礼を言われたことなどないため、こういった状況には慣れていない。
それに、半ば無理やりとはいえ、同じ仕事を任された調査団の人間はロアにとって仲間だ。それを助けるのに理由など必要なかった。
仲間は助けるもの。
ロアがなりたい本当の冒険者とは、そういう生き方をしている人間だ。
「しかし、我々が今生きているのは貴殿のおかげだ。頭くらい下げるのは当然だ!」
「いえ、そんな……」
そこまで言われて、ロアはさらに恐縮してしまう。
彼はグリおじさんから色々聞いており、なんとなくウサギの襲撃の裏事情を察している。
ウサギが不殺を心がけているのを知っていたため、騎士や兵士たちのように、殺されるかもしれないという恐怖も感じていなかった。だからこそ、接触した瞬間に遥か格上だと感じたあのウサギの王とも、落ち着いて戦えたのだ。
そう思うとどうも詐欺のようで、こうやって頭を下げられると、申し訳ない気持ちが先に立ってしまった。
「高価な治癒魔法薬を使って、ケガ人も助けてもらった。感謝するしかないだろう!」
「あれはオレが作った物なので、全然高くないんです」
「なに⁉ 冒険者殿は……」
騎士が驚いた表情を浮かべる。
「あ、ロアです! ロアと呼んでください! 殿なんて付けてもらえるほどの身分じゃないですし、恐縮するというか……敬語もなしでお願いします!」
「ん?」
唐突に言われ、騎士は一瞬表情を曇らせた。しかし、次の瞬間には笑みを浮かべる。
「そうか。それは逆に申し訳なかった。では、ロアくんと呼ばせてもらおう。私はジョエルだ……それで、ロアくんは錬金術師でもあるのだな?」
「はい」
騎士……ジョエルの視線はロアの腰に向いていた。
作業をしていたために、ズボンのベルト通しに付けている、四角柱の生産者ギルドのギルド証が、見える位置に来ている。
先ほどの、治癒魔法薬を自分で作ったというロアの発言が気になり、思わずその証を探したのだろう。
ギルド証を付ける位置は、各ギルドで大まかながら決まっている。
これはルールがあるわけではなく、ギルド証の形状と各職業の特性から自然とそうなっていた。
冒険者ギルドであれば、ギルド証は穴の開いたプレートのため、紐などを通して首にかける者が多い。商人ギルドであれば、カード型のために胸ポケットに入れる者が多い。
そして、生産者ギルドの場合は、紐が通せる四角柱のため、ベルト通しに付けて腰にぶら下げる者が多いのだった。
これは、生産者に、下を向いて手先を使う作業をする者が多いこととも関係がある。首にかけると邪魔になり、ポケットには道具を詰め込むことが多いからだ。
ジョエルはそのことを知っていたに違いない。
そして、生産者ギルドのギルド証を見て、安心したようだった。ギルド証を持つということは、安定して高いレベルの物を作れる証であり、兵士たちが飲んだ魔法薬が問題ない物であったという証拠でもある。
先ほどジョエルが一瞬表情を曇らせたのも、それに起因している。実のところ、錬金術師というのはそれほど低い地位の存在ではない。正式な階級が与えられているわけではないが、それなりの扱いを受けてもおかしくない立場なのだ。
それなのに自分の地位を低く見ているロアに、ひょっとしたら詐欺まがいの錬金術師ではないかと疑ってしまったのだった。
「その年齢でギルドの二重所属とは珍しいな。才能に溢れているのだな」
「いえ、そんな……」
ロアは思わず口ごもる。
今回の城塞迷宮の調査を失敗すれば、期限切れで、自動的に冒険者ギルドを追い出されるなどと言える雰囲気ではない。
何と返答していいか分からず言葉を探していると、急にジョエルの顔が強張った。
〈何をしておるのだ?〉
「あ、グリおじさん」
背後から声が掛かり、ロアが振り向くとグリおじさんがいた。グリおじさんは昨夜、いつもの抜け出し癖を発動させてどこかに出かけて行った。ロアは、旧知であるらしい襲撃してきたウサギの王か、もしくはその王の主に会いに行ったのではないかと考えている。
〈今帰ったぞ〉
そう言って、グリおじさんはその頭をロアの頬に擦り寄せる。
「ちょっと……え? 酒臭い……」
口からだけでなく、身体全体から酒の臭いが漂ってくる。
グリおじさんが酔って帰って来たことを周囲に知られるとまずいと思い、ロアは声を潜めた。
〈旧知の者に勧められて、仕方なく飲んだ。仕方なくだ、本当だぞ?〉
「……一応、周囲の敵の調査に出てるって言ってあるんだよ? 酒臭かったら言い訳できなくなるよ……」
グリおじさんが昨夜からどこかに出かけていたことは、周囲の調査を依頼したということにしていた。
この森に入る前であれば、ロアたちは調査団から離れて野営をしていたので、姿が見えなくても気付かれなかったが、森の中では安全のために一カ所に集まって夜を過ごしていた。そのために言い訳が必要だったのだ。
なのに、酒の臭いをさせて帰って来たのでは、調査という言い訳が成立しない。
そもそも、従魔が酒を飲んで帰って来たという時点で、変に思われるだろう。
〈風の魔法で臭いは抑えておる。このように密着でもせぬ限り臭わぬ〉
そう言いながら、グイグイとロアに身体を密着させてくる。酔っ払いにありがちなグリおじさんの執拗さに、ロアは両手で押し退けて抵抗した。
別に本気で嫌がっているわけではないが、一応人前だ。話していた相手を放置して、従魔とじゃれ合っては不快にさせてしまうだろう。
そう思って、先ほどまで話していたジョエルを見ると、彼は引き攣った顔で固まっていた。
「すみません。話の途中だったのに従魔の相手をしてしまって。グリおじさん、しつこい」
ジョエルに声を掛けながら、ロアは近くにあった壊れた馬車の木材を手に取ると、グリおじさんの頭をポカリと叩いた。
「ひっ……」
叩かれたグリおじさんは平気な顔をしているのに、なぜかジョエルが驚いて息を呑み、喉から悲鳴のような奇妙な音を出した。
「ジョエルさん?」
「……いや、何でもない。豪胆なのだな……」
「?」
真っ青な顔のジョエルにロアは首を傾げた。ロアにとっては、グリおじさんを何かで殴るなどいつものことだ。向こうもどうせ蚊に刺された程度にも感じていない。
「あのー、ジョエル様」
そこに、ジョエルの背後から声が掛かった。少年兵だろうか、兵士にしてはやたら華奢だった。
彼もまた青ざめた顔をして震えている。ジョエルに声を掛けたというのに、視線はグリおじさんに向いているその姿を見て、ロアもやっと二人がグリおじさんに怯えていることに気が付いた。
「何だ?」
「アイリーン様がお呼びです」
「そうか……ロアくん、申し訳ないが失礼させてもらう」
そう言って、一度大きく安堵の息を吐くと、ジョエルはロアから離れていった。
足早に立ち去る姿を見て、ロアは怯えさせたことを申し訳なく感じたのだった。
「それで、旧知の人って誰だったの?」
ジョエルを見送った後、ロアは壊れた馬車の解体を再開する。
グリおじさんがロアの傍から離れないために、切り出した木材を運んでくれる兵士たちは近寄って来ないが、後でまとめて処理してもらえばいいだろうと、ロアはそのままグリおじさんに話しかけた。
〈昔の知り合いだ〉
「……そりゃ、旧知なんだから昔の知り合いだろうね。そうじゃなくて、どんな人なのかなと思ってさ。やっぱりあのウサギたちの主なの?」
ロアは、ウサギたちを率いていたウサギの王にさらに主がいるのか、という疑問も含ませて尋ねてみる。
〈まあ、そのようなものだ。時が来たら会わせてやるから詮索するでない〉
しかし、グリおじさんははぐらかして具体的には答えてくれない。
ロアとしては、酒を飲んで酔っている今なら口が軽くなっているのではないかと思って話しかけたのだが、それほど簡単ではないらしい。
そもそも、グリおじさんの隠し事は、理由を聞くとほとんどが「恥ずかしいから」とか「秘密がある方がカッコいいから」とか「ちょっとしたイタズラ」だったりする。だから今も、たいした理由があって隠しているわけではないのかもしれない。
「じゃあ、昨日のウサギたちに襲われたのは何だったの? オレも巻き込まれたんだから教えてくれるよね? けっこう苦労したし」
〈あれは腕試しだ。この国の人間が無駄に死なないようにやっている〉
グリおじさんは、作業をしているロアの肩に頭を乗せて顎の下を擦りつけた。体重をかけてこないので重くはないが、作業の邪魔だ。
「だから、お酒臭いって」
ロアはそれを手で押し退ける。
〈ウサギの相手すらできぬ者は、ここから先に進めば確実に死ぬからな。篩にかけておるのだ〉
「篩?」
〈昔にこの国を守っていたやつと知り合いでな。この国の住人に安易に死なれては寝覚めが悪いので、ピョ……この森を守っている旧知の者と相談して、力の足りぬ者はその心を折って追い返すように取り決めた。ウサギたちの鍛錬にもなるので一石二鳥だ。小僧にウサギの王が戦いを挑んだのは、我と同行している小僧に興味を持っただけのようだがな〉
「ふーん。まあ、それならいいか……」
ロアはあっさりと納得する。
グリおじさんの言葉を信じるなら、この森の中を通って城塞迷宮周辺に入って死ぬ者の数を減らしている、ということなのだろう。
悪いことをしているのでなければ、ロアとしては問題ない。
ふと、それだったら、グリおじさんが城塞迷宮を巣にしていた時に、人間を殺さないように指示を出していれば済んだのではないかとも考えたが、すぐにそれは無理だと気付く。
縄張りに入り込む人間を許す魔獣はいない。
そもそも、グリおじさんが縄張りの頂点の存在だったのだとしても、それは力による支配なだけで、他の魔獣に命令できる権利があるわけでもない。そもそも命令を聞けるような知能が、普通の魔獣にはない。
魔獣は本能で生きている。考えて行動しているグリおじさんや双子はかなり特殊なのだ。
それに、人間だって自分の住んでいる所に魔獣や害獣が入り込めば殺すのだから、逆の立場の時だけ許してもらおうなどというのは、調子が良過ぎる。
こうやって、多少でも死ぬ人間が減るように配慮してもらっているだけでも、かなりの高待遇だと言って良い。
〈小僧こそ、あの者たちと何の話をしていたのだ?〉
グリおじさんの問いかけに、ロアの表情は曇った。
「その……感謝されたんだ」
感謝されたと言う割にロアの口調は弱々しい。そんなロアに納得がいかないものを感じて、グリおじさんは擦りつけていた頭を上げるとロアの目を真っ直ぐに見つめた。
探るようなグリおじさんの瞳に、ロアはそっと目を逸らした。
〈感謝されたことに問題があるのか? 昨夜の小僧はそれに値する働きはしていたと思うぞ?〉
騎士が手も足も出せなかったウサギたちの襲撃を抑えたのだから、ロアは十分な働きをしたと、グリおじさんは思う。いくら自己評価の低いロアであっても、自分の働きが評価に値することは分かっているだろう。
なのにロアはどこか不安げな表情を浮かべていた。
「そういうわけじゃないけど……大丈夫なのかなって」
〈何がだ?〉
「皆をちゃんと守れるのかなって。感謝してもらって、改めて守りたいと思ったんだ」
〈……〉
グリおじさんは、口を開けて呆れた目でロアを見つめることしかできなかった。
ロアが最初からこの調査団の人間たちを守りたいと思っていたことは、グリおじさんも知っている。それがロアが憧れる冒険者の姿だからだ。
しかし、自己評価の低いロアは、それはあくまで希望であって、自分では達成できるはずがないと半ば諦めていた。
だが、今のロアは自分どころか従魔たちに頼ってでも、絶対に調査団を守りたいと思っていた。感謝されたことで、改めて強くそう思った。
ロアが感じた不安は、守りたいという思いの強さによって現れたものだ。
〈ふふふふふ……欲が出たか! 良い傾向だ!〉
呆れた目から一転して、グリおじさんは笑った。
これはロアにとって良い傾向だろう。
無意識だろうが、今のロアは騎士や兵士を保護対象として見ている。それは自己評価が低いままではありえない話だ。
ましてや、自分ができるかどうか不安に思うなど、それなりにできるという自信がなければ成り立たない。もちろんそれはグリおじさんや双子の力を当てにしてのものだろうが、力を借りられるということはそれもロアの力の内だ。ロアだからこそ、グリおじさんたちはその望みのために力を貸すのだから。
少しは意識が変わったかと、グリおじさんはほくそ笑む。
ならば、グリおじさんがすることは決まっている。
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