第6回歴史・時代小説大賞
選考概要
過去最高を更新し応募総数464作となった今回も、昨年に引き続き様々な設定・作風の作品が集まった。編集部内で大賞候補作としたのは、「黒猫・玉、江戸を駆ける。~美弥姫初恋顛末~」「料理屋おやぶん~ほろほろしょうゆの焼き結び」「旅医者、十六文先生」「水茶屋『はなや』の裏看板」「小売り酒屋鬼八 人情お品書き帖」「守銭奴にも武士の魂~札束風呂の元祖、岡定俊の貫いた武士の一分~」「狼の贄~念真流寂滅抄~」「大江戸釣狂物語」「春日屋仮宅騒動記」「それは、欲望という名の海」「礫 -つぶて-」「大江戸ディテクティブ ~裏長屋なぞとき草紙~」「陰を蝕む鬼」「雇われ見届け人 婿入り騒動」「狼同心」「刀行く道(つるぎゆくみち)」「光の剣、剣の影」の17作品。
選考の結果、選考員から最も支持された「黒猫・玉、江戸を駆ける。~美弥姫初恋顛末~」を大賞に選出した。また、テーマ別賞として「料理屋おやぶん~ほろほろしょうゆの焼き結び」を読めばお腹がすく江戸グルメ賞、「それは、欲望という名の海」「礫 -つぶて-」の2作を特別賞に選出することとした。また、最終選考に残ったものの、惜しくも受賞に至らなかった作品を奨励賞とした。
「黒猫・玉、江戸を駆ける。~美弥姫初恋顛末~」は、大名家のはねっかえりな姫君が黒猫の玉と共に、他藩のお家騒動に巻き込まれる物語。時代小説としてはややライトさが目立つ面は指摘されたものの、テンポが良く設定も魅力的で、読者を引き込むパワーを感じる作品だった。
「料理屋おやぶん~ほろほろしょうゆの焼き結び」は、元やくざの親分が切り盛りする小料理屋に町娘が迷い込み……という江戸を舞台とした作品。全体的に優しくほっこりとした雰囲気があり、料理や食事の描写が秀逸だった。しかし、さあこれからというところで物語が終わっている点が大変惜しかった。
「それは、欲望という名の海」は脱藩後、江戸の谷中で用心棒稼業を営んでいた男が、過去の因縁に巻き込まれ……という、剣戟や重厚な人間模様を中心に描いた作品。読み応え抜群であったが、タイトルが時流と外れており、また作品とは直接関係ないものの「ハードボイルド」作と謳うのも時代小説読者からは敬遠されると思われ、その点が残念だった。
「礫 -つぶて-」は、桶狭間合戦の裏で暗躍する無名の男たちを主軸とした物語で、筆力・構成力ともに非常に高く仕上がっていた。ただ、テーマゆえの暗さが目立ち、爽快感には欠けること、読者を選んでしまう点がマイナスとなった。
黒猫・玉、江戸を駆ける。~美弥姫初恋顛末~
いや、婿を選べって言われても。むしろ俺が立候補したいんだが。
ポイント最上位作品として、“読者賞”に決定いたしました。全体を通じてテンポがよく、活劇と恋愛ものの両方をバランスよく取り入れており、読んでいて飽きのこない展開に引き込まれました。時代小説に馴染みの薄い読者にとっても親しみを感じられる作品だったと思います。
料理屋おやぶん~ほろほろしょうゆの焼き結び
元やくざで料理が下手な料理屋の主人・親分や父親を捜して旅に出た少女・お鈴など、登場人物たちが魅力的な作品でした。作中に登場する料理も、シンプルですが温かみがあり、読んでいるだけでおなかが空いてしまいます。
それは、欲望という名の海
江戸谷中、玄界灘の人々が生き生きと描かれていて、物語に引き込まれました。己の信念に従う大楽の生き様は格好良く、また、ふとした言動から人間味を感じられて魅力的です。総じて完成度の高い作品だと感じました。
礫 -つぶて-
桶狭間の戦いの前哨戦とも言うべき物語を描き切った大作です。架空の人物を主人公としながらも、彼らが実在の人物たちやその後の歴史に影響を与えていく重厚なストーリーに、読みごたえを感じました。
※受賞作については大賞ランキングの最終順位を追記しております。
黒猫・玉の視点から始まる構成はユニークで、冒頭からぐっと引き込まれる作品でした。可愛らしい玉はもちろん、男装姿で無茶をする姫様や、訳アリの若侍など登場人物たちがとても魅力的です。また時代小説としてだけでなく、恋愛小説としても楽しく読み進めることができました。