第5回ホラー小説大賞
選考概要
編集部内での議論の末、最終候補作としたのは「わたしのパパは殺人鬼さん」「金魚」「屍ヶ台」「サクリファイス」「女ノ親指」の5作品。選考の結果、いずれもそのまま出版化するのは難しいと考え、編集部内で支持の高かった「金魚」「サクリファイス」の2作を特別賞に選出することとした。「金魚」は元遊郭に建てられた古アパートを舞台にした、独特の世界観をもつ不気味さ漂う作品で、その完成度の高さが評価された。一方「サクリファイス」も、日常を描きながら、徐々に主人公や周辺の「いびつさ」が明らかになるという、表現するのに非常に難しいストーリー展開を、巧みな筆致で綴っており、「金魚」同様、小説として質の高い作品であると評価された。また残念ながら受賞にはいたらなかったが、「女ノ親指」は設定がとてもユニークで、展開にも次を読み進めたくなる力強さがあり、非常に良かった。残念ながら小説としては書きこみ不足で、総合的には物足りなかったが、今後もホラー小説大賞では斬新なアイデアに期待したいと思わせる作品であった。
なし
元遊郭のあった場所に建てられた古アパートを舞台に、一人の平凡な女性が狂気の世界に入り込んでいくという、独特の湿り気のある怪異世界を描いた作品でした。過去の遊郭での出来事と現代の恐怖体験が夢か現実か分からないように入り混じり、その不気味さと残酷さがまるで読んでいる者の身に迫ってくるようでした。また、文章力の高さ、意欲的なサイト作りも、編集部内で高く評価されました。
サクリファイス
冒頭のエピソードから引き込まれる、構成・ストーリーがとてもよく練られた作品でした。一見穏やかな日常に隠れていた「いびつさ」が少しずつ明らかになっていく様が、読みやすい文章で、非常に巧みに描かれており、読み進めるほどに作品の世界に引き込まれていきました。友人の生い立ちや、圧力釜、スーツケースなど個々の設定・アイテムの描き方も非常に上手く効果的であったと思います。また最初から最後まで作品に漂う、独特の、空間がゆがんだような雰囲気も、とても魅力的だと思いました。
ポイント最上位作品として、“読者賞”に決定いたしました。増えすぎた人口を抑制するために現れた「殺人鬼さん」という設定が何より独創的で、物語に引きこまれました。失踪した父と冷徹な母という複雑な家庭事情から、親友との友情や幼なじみへの淡い気持ちまで織り込まれており、とても読み応えがある内容でした。ストーリー展開のテンポも良く、ラストも見事なオチが用意されており、それらも相まって多くの読者の好評を得る結果に繋がったのだと思います。