第23回漫画大賞 秋の陣

第23回漫画大賞 秋の陣

選考概要

今回、編集部内で大賞候補作としたのは「ビリオンターゲット」「豊太郎ものがたり」「乙女紅茶日和」「小ナポレオンのあと」「女王と歪んだ鏡」「AccEpT」「葉記花紀(ハキカキ) Webtoon・縦読み」「ハートの魔法使い」「こわもてギャルと気弱なうさぎ」「親友×狼」「黒丸双紙」「世に棲む天狗」「現代お嬢様は異世界で王子様になる」「偏屈な柘植さんの愛情表現」「ババアとジジイとオッサンと。」の15作品。

多種多様なクオリティの高い作品が集まり、議論も非常に熱を帯びたものとなった。最終的に数ある候補作の中から、編集部内で最も高い評価を集めた「ビリオンターゲット」を大賞(賞金50万円)に決定した。

続く各賞の選考では、次いで支持を集めた「ハートの魔法使い」を編集長賞(賞金10万円)に、「豊太郎ものがたり」をネコ部長賞(賞金10万円)に選出した。
さらに今後の活躍への期待感を込めて、「葉記花紀(ハキカキ) Webtoon・縦読み」をタテ漫画賞(賞金10万円)に、「乙女紅茶日和」と「女王と歪んだ鏡」を特別賞(賞金各5万円)に選出する結果となった。

「ビリオンターゲット」は、突然懸賞金を懸けられたお嬢様と最強でサイコパスな侍女の日常を描いたサスペンスコメディ。この作品の見どころは何と言っても、ハイテンションで展開されるお嬢様と侍女二人のかけあいだろう。テンポ感抜群のキャラ同士の会話によって、強く読者を物語に引きこむ工夫がなされている。また緻密な伏線を張りつつ、きちんと回収をしていく物語展開が見事であった。今後の課題としては、絵柄を洗練させること。まずは、より線を滑らかにして強弱をしっかりとつけることで画面にメリハリを持たせてもらいたい。

「ハートの魔法使い」は、天涯孤独に生きる少女が魔法界の王子と出会い、自分の運命を変えていく恋愛ファンタジー。画力が高く、柔らかい線で描かれたキャラクターの表情が非常に魅力的。さらに、作り込まれた世界観や迫力のあるアクションの見せ場が、作品への没入感を高めている。ただ全体的に文字量が多く、情報を詰め込みがちになっているのが惜しい。読者の読みやすさを考慮して、コマ割りやセリフ量を見直し画面の情報整理を行ってみてほしい。

「豊太郎ものがたり」は、とある犬の名付け親である主人公と「妖異狩り」を生業とする青年との和風恋愛ファンタジー。感情に合わせた表情や様々な人物の動きをしっかりと捉えて描くことができているのが素晴らしい。また単調にならないよう工夫されたコマの割り方なども達者で、画面を見せる構成力は高い。主人公らの目的は定められているものの、要素が多く楽しみどころが分かりづらい印象を受ける。物語を通して最も描きたいテーマは何かを予め設定し、物語の早い段階で提示することをおすすめする。

「葉記花紀(ハキカキ) Webtoon・縦読み」は、魔導師の子ども二人が賢者と勇者を探しに旅に出る冒険ファンタジー。タテ漫画としてのコマ割りの完成度が高く、動きのある人物描写と奥行きのある空間描写が見事である。また美しい情景を表現する色彩のセンスも光っている。一方で、物語展開がやや単調で、少し物足りなさを感じる。結末まで読者の興味を引き続けるストーリー構成を意識することが今後の課題。

「乙女紅茶日和」は、高身長イケメン女子とフリルと紅茶が大好きな「ドールちゃん」とのロマンシス作品。小物や衣装といった細部まで美しく繊細に描き込まれた世界観に感嘆するとともに、少女たちの強い葛藤をリアルに描写することができているのが素晴らしい。構図やキメゴマと抜けゴマの緩急をより意識することで、読者がさらにスムーズに読み進めることができるだろう。

「女王と歪んだ鏡」は、『白雪姫』をモチーフにした、女王と性癖の歪んだ鏡の物語。白雪姫への強い嫉妬心やそうした女王に向ける鏡の欲望を毒々しく且つ耽美に描くことができており、高い表現力を感じさせる。一方で、キャラクターや世界観について説明をしないまま物語を始めてしまっており、読者を置いてきぼりにしかねない。この作品独自の設定については、できるだけ早い段階で共有すると良いだろう。

惜しくも受賞を逃した11作品もそれぞれに見所があり、将来性を感じる作品ばかりだった。

「小ナポレオンのあと」は、急速な近代化を遂げた明治時代を生き抜く、とある華族の物語。全体的にクオリティの高い作品で、史実に基づき綿密に作り込まれた世界観は称賛に値する。「一族の話」を客観的に描写する場面が多く、没入感はやや薄い。主人公の姿に読者が共感できるよう、キャラの心情を掘り下げて描写することをおすすめする。

「AccEpT」は、「怒り」が原動力となる異能の力を手に入れた囚人の息子が、自分の居場所を探す旅に出るバトルファンタジー。粗削りながらもダイナミックな演出とストレートに共感を訴える感情表現には目を見張るものがある。立体感を意識して線の強弱をつけたり複雑なコマ構成を避けたりなど、読者の読みやすさに配慮するとさらによくなるだろう。

「こわもてギャルと気弱なうさぎ」は、仏頂面のギャルと仲良し女の子三人組の日常漫画。女の子の属性に合わせて、可愛らしい表情や仕草を描くことができている。ただ、セリフの長さのわりに、キャラクターの個性の描写や深堀りに繋がっていない。セリフの内容を精査しつつ、各キャラの個性をもう少し引き立てて描写することを心がけてほしい。

「親友×狼」は、ある日「狼」と遭遇したことをきっかけに、ごく普通の男子高校生の人生が狂いだす怪異サスペンス。画力が非常に高く、日常の隣に潜む非日常の恐ろしさを痛切に感じさせる。ただ、絵柄や物語の展開の仕方が女性向けで、本作のターゲット層にしていた男性読者に届きづらい印象を受ける。狙う読者層に合わせたキャラづくりや絵柄を追求してみてほしい。

「黒丸双紙」は、父の薬代のため義賊になることを目指す少女のハートフルストーリー。無邪気で可愛らしい主人公はもちろん、主人公に振り回される岡っ引きと義賊の姿が微笑ましい。背景を細部まで丁寧に描き込んでいるのも好印象。様々なアングルからでも違和感が出ないよう、人物の絵柄を安定させることが求められる。

「世に棲む天狗」は、現代社会に生きる天狗の日常を描いた物語。人ではない存在として独特の価値観を持ちながらも、妙に人間らしい温かさや哀愁を感じさせる主人公が非常に魅力的。似た大きさのコマが並ぶページが散見され、雑多な印象を受けるのが惜しい。見せ場以外のページでも、コマ割りや構図にメリハリをつけて構成してほしい。

「現代お嬢様は異世界で王子様になる」は、異世界に転移した少女が、愉快な仲間たちと共に王子を探しに旅する四コマギャグ漫画。和気あいあいと旅する日常を賑やかに描けているとともに、物語の目的が明確で読み進めやすい。各キャラの性格や立場といった基本的な情報は、「登場人物紹介」に頼らずストーリーの中で提示するよう心がけてほしい。

「偏屈な柘植さんの愛情表現」は、学校一のマドンナ的存在で偏屈すぎる彼女と、そんな彼女にベタ惚れの彼氏のほのぼのラブコメディ。キャラクターの感情がありありと伝わるような表情を描き出しており、読者の目を強く引くだろう。ややキャラの動きがぎこちなく見えるので、読者の視線の流れを意識したコマ割りを心がけてほしい。

「ババアとジジイとオッサンと。」は、勇者になることを決めた青年が、ババアとジジイとオッサンを仲間にして旅をするギャグコメディ。次々に登場する癖の強いキャラクター同士の軽快なかけあいが秀逸。しかしながら、画力についてはまだ発展途上。まずは身体のバランスを考慮して人物を丁寧に作画することを意識してもらいたい。

「第23回漫画大賞 秋の陣」は981作品もの応募があった。今回よりBL漫画の応募はBL大賞(11月1日~11月30日開催)で行うよう規定を変更したため、応募総数は減ったものの例年以上にバラエティに富んだ独創性溢れる作品が集まったことを強く感じさせられた。また投稿作全体のクオリティアップも感じられ、様々な意見が行き交う非常に充実した選考となった。次回以降も、個性と才能に満ちた作品に出会えることを期待している。

開催概要はこちら
応募総数 981作品 開催期間 2024年10月01日〜末日

編集部より

ストーリーの組み立て方が非常に巧みです。導入部分から読者を引きこむ力があり、次話への期待感を煽る展開に仕上げることができています。特にコメディとシリアスな場面の緩急が絶妙で、キャッチ―な題材も相まって読者を飽きさせず、最後まで読ませる筆力を感じました。個性あふれるキャラクター同士の怒涛のかけあいは非常に中毒性があるものの、全体的にセリフの量が多く、画面が見づらいページが散見されます。本当に必要なセリフを厳選したり、場合によってはページを増やしてセリフを分散させたりすることで、より作品の完成度を高めることができるでしょう。

手乗り嫁

1位 / 981件

編集部より

ポイント最上位作品として“読者賞”に決定いたしました。嫁を卵から孵すところから育てるというトリッキーな設定を存分に生かすことができています。特に鳥人の主人公と花嫁の何気ない日常シーンが微笑ましかったです。設定を練り込むことができているのが素晴らしいですが、モノローグに頼りがちになっている印象を受けました。絵で世界観を提示したりキャラ同士のかけあいの中で説明させたりすることで、読者に分かりやすく情報を共有することを心がけてみてください。


編集部より

画風に華があり、キャラクターをいきいきとした表情・仕草で描けている点が素晴らしいです。キャラの位置関係や動きの流れを意識して構成することができており、日常パートだけでなくアクションシーンも違和感なくスムーズに読むことができます。一方で、顔を映すコマが多く、また全体的に淡くぼんやりとした印象を受けるため、画面がやや煩雑に見えます。メリハリを利かせた構図や濃淡を意識することで、情報がスムーズに入ってくるような画面作りを追求しましょう。


編集部より

少しずつ距離を縮めていく主人公とヒーローの恋愛模様を丁寧に描くことができています。アオリやフカンといった構図を駆使して画面が単調にならないよう配慮できていますし、小物や背景の細部まで丁寧に作画することも心がけており、読者を意識した制作の姿勢に好感が持てます。ただ、タイトルにもある豊太郎の活躍が少ない点がもったいないように感じます。今後の展開で、豊太郎の存在や能力がフックとなるよう、ストーリーを構成しても良いかもしれません。


編集部より

華やかで可愛らしい絵柄で、キャラクターの表情を豊かに描き出すことができています。また全編カラーの意欲作で、イヅル國の情景を鮮やかに表現しており、抜群の色彩感覚が際立っています。説明過多にならずにストーリーを進められている点は良かったのですが、ルコとショーリの関係性についての掘り下げが足りず、やや物足りない印象を受けます。登場人物の関係性を深く濃く描くことで、読者の心を惹きつけていきましょう。

乙女紅茶日和

12位 / 981件

編集部より

しっかりとした画力で世界観を表現することができています。人物の些細な表情や臨場感のある情景描写も非常にレベルが高いです。ただ全体的に人物の顔を描くコマが多く、会話に頼った展開になりがちで、やや読みづらくなってしまっています。会話が続く場面でも、絵をしっかり見せたいのか、セリフをより味わってほしいのか、それぞれのコマの役割を意識した構成を心がけましょう。


編集部より

有名な童話『白雪姫』をモチーフに、歪な鏡と女王の関係性に着目した独創的な発想には脱帽しました。見せゴマの構図や演出は、独特でありながらも強烈に印象に残ります。「描く」ことへの熱量を強く感じる一方、状況説明やストーリー全体の流れについて説明が不足しているのが残念です。この作品がより多くの人に届けられるためにも、読者に配慮したストーリー構成を意識しましょう。

※受賞作については大賞ランキングの最終順位を追記しております。

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