第21回漫画大賞 秋の陣

第21回漫画大賞 秋の陣

選考概要

今回、編集部内で大賞候補作としたのは「瞳の中のアルタイル」「三上君は地味だけどモテル」「君にピアス」「ぼくらの漂流譚」「髪切り」「古家の古時計綺譚」「眠れない枕」「レイン サウンド リズム」「タマムスビ」「君はただ、ひとり」「銀色狼と空駒鳥のつがい」「シロウトの僕が彼女を描けるようになるまで」「なんでもないはなし」「帰り道が一緒なだけのふたり」「ウラトリ-その異能、知恵とカラダで証明します-」「媚人と××」「魔法少女の隣にいるアレ」「WEED LAND」の18作品。

ユニークかつ彩り豊かなラインナップとなった候補作のうち、編集部内で高い評価を獲得した「瞳の中のアルタイル」を大賞(賞金50万円)に選出した。なお、本作はポイント最上位作品としてユーザーからも高い人気を博しており、読者賞とのW受賞となった。「大賞」作品の選出はこれで9大会連続となり、投稿作品がいっそうレベルアップしていることを強く感じさせる結果となった。

続く各賞の選考では、次いで支持を集めた「なんでもないはなし」を編集長賞(賞金10万円)に、「ウラトリ-その異能、知恵とカラダで証明します-」をネコ部長賞(賞金10万円)に選出した。
さらに今後の活躍へ期待を抱かせる4作として、「髪切り」と「古家の古時計綺譚」の2作を特別賞(賞金各5万円)に、年々勢いを増すタテ読み作品の台頭を受け、「シロウトの僕が彼女を描けるようになるまで」と「三上君は地味だけどモテル」の2作を新設のタテ漫画賞(賞金各5万円)に選出する結果となった。

「瞳の中のアルタイル」は、貧民街で暮らす男娼と「鳥の人」と呼ばれる亜人男性が互いに心を通わせていくファンタジーBL。卓越した画力でキャラクターの挙動や表情を魅せられている点が高い評価を得た。また、それぞれのキャラクターがしっかり作り込まれていることも伝わってきた。今後、世界観をさらにはっきり提示するとともに、ストーリーの流れに起伏をつけることで、本作への没入感がよりいっそう増していくだろう。

「なんでもないはなし」は、長崎のとある高校を舞台に、生徒たちが日常で抱えるふとした悩みや葛藤を優しくすくい取る、青春・オムニバスストーリー。キャラクターの内面をこまやかに描き出す手腕は大きな武器だろう。画面の見栄えが一様に淡白な点は課題なので、描線にメリハリを持たせるとともに人物の表情表現を研究し、読者をより惹きつけ、キャラクターに感情移入させるための引力を強化していってほしい。

「ウラトリ-その異能、知恵とカラダで証明します-」は、お互いになんの能力も持たない快活ボクっ娘&クールゴスっ娘のバディが異能者の存在を明らかにしていく物語。画力、画面構成力ともに高水準で、完成度の高い作品となっている。設定にオリジナリティがあるもののストーリーは小さくまとまってしまっているので、今後は意外性のある展開などもう一歩見せ場を意識し、盛り上がりを作っていくことが求められる。

「髪切り」は、人の髪を切る妖怪「髪切り」がとある青年の悩みを解決していく現代ファンタジー作品。高い画力と丁寧な画面構成、まっすぐに展開する物語の読みやすさが評価を得た。一方で、勢いはあるもののキャラクターの掘り下げが甘く、それぞれの掛け合いから生まれるドラマに少々物足りなさを感じてしまうのが惜しいところ。キャラクターの内面をより詳細に描き、読者と共有する意識を。

「古家の古時計綺譚」は、古民家にいたはずが、ふとしたきっかけで別世界へ迷い込んでしまった青年が秘密を解き明かしていく作品。起承転結に沿ってしっかりまとめ上げられたストーリーが支持を集めた。反面、画面の濃淡のコントラストが弱く、ぼやけた印象を与えてしまっているので、原稿の仕上げ方をブラッシュアップしてメリハリを生み出せると、さらに見栄える画面になっていく。

「シロウトの僕が彼女を描けるようになるまで」は、絵を描き始めたばかりの主人公がヒロインにからかわれながらも奮闘する青春コメディ。キャラクターの小気味良いやり取りや、独特な色使いによって本作固有の空気感を作り出せている。キャラクターデザインはまだまだ改良の余地があり、画力の向上とともに取り組んで行くことで作品のポテンシャルがさらに拡大していく。

「三上君は地味だけどモテル」は、一見すると地味な男子が実は魅力的な一面を秘めていることを周囲の女子たちに見出されていく学園ラブコメディ。タテ読み作品として画面の見せ方を工夫できており、ストレートなストーリー展開と合わせてテンポよく読み進めることができた。線を滑らかにするとともに、強弱をつけて絵柄を洗練させていくことで、読者への間口をどんどん広げていってほしい。

惜しくも受賞を逃した11作品もそれぞれに見所があり、将来性を感じる作品ばかりだった。

「君にピアス」は、独占欲が強めなピアス男子とお気楽系男子による日常BL作品。美麗な絵柄と、ギャップのあるキャラクター設定や印象的な表情描写が注目を集めた。一方で、キャラクターはしっかり描けているものの、物語が進むに連れてエピソードのスケールが小さくなっていってしまう点は課題。描きたいエピソードだけでなく、いかに読者を楽しませていくかという視点を持てると、さらなる読者獲得に繋がるだろう。

「ぼくらの漂流譚」は、トンネルの崩落事故に巻き込まれた二人が見知らぬ世界に迷い込んでしまう、サスペンス・ファンタジー。とにかくインパクトのある導入と、大きな謎を秘めた物語展開の妙が光る。ただし、あっさりとしたキャラクタービジュアルが重厚感のあるストーリーと今ひとつ噛み合っていない印象。絵柄の幅を広げていくことに挑戦し、キャラクター描写でも読者の興味を引いていってほしい。

「眠れない枕」は、不眠に悩むサラリーマンの主人公が、かつて仲良くしていたお兄さんと再会するところから始まるBL作品。枕屋で膝枕されるという特殊なシチュエーションと、人物造形の華やかさが評価を得た。ストーリー展開にはやや唐突さを覚えるので、読者目線に立って作劇していくことを心がけ、シーンに説得力や臨場感を加えていくことが求められる。

「レイン サウンド リズム」は、雨男かつ不幸体質な主人公が、気になる同僚女性と関係を発展させるために奮闘する現代ラブストーリー。雨×恋愛というテーマがはっきりしており、ブレずに描きたいものを表現できていた点が好印象。全体的に人物絵が白く見えがちなため、衣服の描き込みなどのディテールアップに取り組んでいけると原稿のクオリティが格段に増すだろう。

「タマムスビ」は、いじめられっ子の少女が猫の体を借りて生きている青年と出会い、彼の身体を探す旅に出るファンタジー。まだ荒削りではあるものの、内に抱く情念が伝わってくるキャラクター描写と見せ場を意識した画面作りが支持を集めた。さらなる画力向上と合わせ、日常シーンではページ内に情報を詰め込みがちなので、コマ割りやセリフ量を見直して画面の情報整理を。

「君はただ、ひとり」は、誕生日の関係で同い年だが違う学年になってしまった幼馴染の男女が、高校入学を機に再会する学園ジュブナイル作品。主人公とヒロインの関係性がユニークで、キャラクターの感情もしっかりと表現できている。物語が動き始めるまでがやや散漫になっているので、序盤からキャラクターの目的やモチベーションを明確にし、物語に牽引力を生み出していけると良いだろう。

「銀色狼と空駒鳥のつがい」は、とある特殊な能力を持った狩人の少年と、その幼馴染である薬師の少女による恋愛ファンタジー作品。ファンタジー特有の雄大な世界観をしっかりと描き出す画力や、作風にマッチした繊細なペンタッチ、オリジナリティあふれる設定が評価を集めた。コマ数やセリフ量が多く、画面に情報を詰め込みすぎてしまっているので、読みやすさを改善していけるよう取り組んでほしい。

「帰り道が一緒なだけのふたり」は、学校からの帰り道が同じ男女二人が下校中に一緒に過ごす、なんでもない時間を描いた日常コメディ。作中でゆるやかに流れていく時間や穏やかな空気感を描き出せており、心地よい読み味。ただ、キャラクターの表情を生き生きと動かせているものの、ラフな描線や人物のアップばかりの画面構成などはまだまだ改善の余地がある。線を整えるとともに、メリハリのある画面づくりを目標にしていってほしい。

「媚人と××」は、見る者全てを魅了する髪色を持った「媚人」と呼ばれる存在と、その保護を担当する組織を描いたSFヒューマンドラマ。オリジナリティのある世界観に加え、キャラクターの感情を丁寧に描こうとする姿勢が評価された。その反面、次々と新たな情報が増え、読者を置いてきぼりにしてしまっている。設定が複雑な分、情報の取捨選択をして最も読ませたい部分を定め、シンプルに展開していけると良いだろう。

「魔法少女の隣にいるアレ」は、世界を救うために魔法少女としてスカウトした人物が、実は極度の自己中だった…という不条理コメディ。独創的なアイデアの切れ味と、毒のあるキャラクターの存在感が際立っていた。状況説明のほとんどをモノローグに頼っており、絵ではなく文字を読ませてしまっている場面が多いので、ネーム力の強化が今後の課題。

「WEED LAND」は、実在する植物に足が生え自我を持って行動する島を舞台に、「ススキ」の少年が自身の夢を追い求めるファンタジー作品。特異な世界観を魅せるに足る圧倒的な描き込みや表現力が目を引いた。一方で、勢いはあるもののキャラクター描写や構図選びが自身の嗜好に傾倒しすぎてしまっている。読み手にどう受け取られるかという意識を持ち、さらなるステップアップを目指してほしい。

「第21回漫画大賞 秋の陣」は過去最大規模となる1,348作品が集まり、9回連続の大賞選出という大変喜ばしい結果に。バラエティに富み、かつ実力も確かな作品が集まったことで投稿作全体のクオリティアップが感じられ、様々な意見が行き交う充実した選考となった。次回も才気あふれる突出した個性を持った作品に出会えることを願ってやまない。

開催概要はこちら
応募総数 1,348作品 開催期間 2023年10月01日〜末日

編集部より

本作は“大賞”に加え、ポイント最上位作品として“読者賞”も獲得となりました。仕上げはラフなものの、華のある絵柄と繊細な表情描写によってキャラクターに存在感があり、しっかりと画面をもたせる事ができていて圧巻でした。一方で、個々のエピソードは構築されているものの作品の世界観や物語が向かっていく方向が曖昧なため、やや単調な読み味となってしまっています。世界観を読者と共有するとともに、キャラクターの目的を明確にしてストーリーが進むベクトルを定めてあげることで、没入感が増してより惹きつける作品となっていくでしょう。


編集部より

キャラクターの心情を丁寧に描き出せており、それぞれが抱える悩みの質量と、他者との交流や心境の変化によってその悩みがほどけていくまでの流れに説得力を持たせられていました。ただ、画面構成、ストーリー展開ともに常に一定のテンションで展開するため起伏に欠けてしまっています。感情のアップダウンや、ハッと目を引く表情など、読者を作品に引き込む表現を盛り込んでいけると、キャラクターが抱く思いをより強く読み手に届けることができます。


編集部より

無能力の主人公たちがその身一つで異能力者を追い詰めていく、キャッチーで読み手を選ばないストーリーに加え、信念のあるキャラクター、丁寧な画面の仕上げなど、バランスの良い作品でした。しかし、物語を素直に運びすぎてしまっていてもう一歩インパクトが足りないので、読者の意表を突く展開だったり、アクションシーンの強化だったりと、エンタメ性を高めていけるとグッと読みごたえが増すでしょう。

髪切り

95位 / 1,348件

編集部より

まっすぐなキャラクター描写と、主人公によって他者が抱える問題が解決される王道なストーリーが爽快でした。表情もよく描けており、感情表現が達者で引き込まれます。ただ、キャラクターの個性やそれぞれの交流が薄いので、ドラマとしては弱くなってしまっているのが惜しいです。展開に緩急を取り入れつつ、キャラクター同士のやり取りや関係性をもっと深めていけると、終盤のカタルシスも増してより印象的な作品になるでしょう。


編集部より

人物や背景、構図の幅広さなど高い作画力をお持ちです。また、世界観が確立されており、物語の中で独特の空気感を演出できていたのが印象的でした。その反面、キャラクターの掘り下げは甘く、リアクションやひとつひとつの行動の源となる感情面のプッシュが弱いので、彼らに興味を抱きにくく感じられました。もっと彼らの人間性を深掘りし、キャラクターのパワーで物語を引っ張っていくことで没入感も高まっていきます。


編集部より

キャラクターの関係性や距離感が絶妙で、テンポの良い掛け合いが光る作品でした。キャラクターの造形やラフなペンタッチが読者へのとっつきにくさに繋がっているのは課題なので、まずは線を滑らかにしていくとともに瞳のディテールを増やし、人物に華やかさを加えていくことから始めると良いでしょう。また、シーンによっては画面の情報量の多さにより読みにくさが目立つので、コマ数やセリフ量の整理も必要になっていくでしょう。


編集部より

タテ読み漫画としての画面構成がこなれており、キャッチーなキャラクター性やわかりやすいストーリーも相まってサクサクと読み進めることができました。それだけに、ストレートな展開や掛け合いが多く、作品を通してやや意外性に不足しているので、主人公やヒロインのキャラクター性、物語展開にもうひとひねり加えて本作独自の読み味を確立し、よりヒキの強い作品を目指していってほしいです。

※受賞作については大賞ランキングの最終順位を追記しております。

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