第7回歴史・時代小説大賞
選考概要
過去最高となる492作の応募があった第7回歴史・時代小説大賞では、ライト層でも入りやすい読み味の時代小説から本格的な歴史長編まで、前年にも増して多種多様な作品が集まった。選考にも力が入る中、編集部内で大賞候補作としたのは「あしでまとい」「あやかし吉原 ~幽霊花魁~」「今宵は遣らずの雨」「八重姫様御大変(やえひめさまおたいへん)」「柳鼓の塩小町」「仕合せ屋捕物控」「陸のくじら侍 -元禄の竜-」「扇屋あやかし活劇」「江戸時代信用詐欺~吉原の抱けない太夫~」「千代田城御家騒動対策室~久島左門迷惑棋」「庚申待ちの夜」「余り侍~喧嘩仲裁稼業~」「恒久の月」「人情落語家いろは節」「楽毅 大鵬伝」「又聞きの八市 ~野盗の頬白~」の16作品。
選考の結果、完成度の高い情感溢れる物語が評価され、選考員が最も支持した「あしでまとい」を大賞に選出。またテーマ別賞として、キャラクターの個性が光り、話の緩急の付け方にも優れていた「仕合せ屋捕物控」を江戸を揺るがす捕物譚賞、短いながらも構成力の高さがうかがえた「又聞きの八市~野盗の頬白~」を優秀短編賞とした。その他、最終選考に残ったものの、惜しくも受賞に至らなかった作品を奨励賞とした。
「あしでまとい」は、老中暗殺の任務を担った老侍の生き様を描いた作品。自らを「あしでまとい」と考え苦悩する老境の主人公と、彼をいずれ殺す運命にある娘婿との切ない関係性が、読み手の涙を誘った。
「仕合せ屋捕物控」は、蕎麦屋の父娘と情に厚い侍がお江戸の事件を追う捕物帳。登場人物の軽妙な掛け合いと、中盤から一転して繰り広げられる緊迫した展開が巧みに描かれていた。
「又聞きの八市 ~野盗の頬白~」は、江戸の美丈夫が又聞きで情報を集め、とある盗人の正体を探る短編。設定が非常に良く、構成も見事で、他の話も読みたいと思わせる完成度だった。
なお、「江戸時代信用詐欺~吉原の抱けない太夫~」はまだ話の本筋に入っておらず、物語の着地点が未知数だったため賞の授与は見送ったが、序盤の面白さと設定の斬新さは高く評価された。今後の展開が楽しみである。
今回の歴史・時代小説大賞では読みごたえのある高水準な作品が多数見られたが、他に大きく抜きんでた一本はなかった。今後、より読者のニーズを意識した、娯楽性の高い作品がさらに増えることを期待したい。
あしでまとい
好いたの惚れたの恋茶屋通り
ポイント最上位作品として、“読者賞”に決定いたしました。全編を通して飽きの来ない展開となっており、特に後半のエピソードは、仲間達に加わって応援したくなるほど引き込まれました。キャラクター達が繰り広げる親近感のある恋愛模様が、多くの読者の心を惹きつけたのではないでしょうか。
仕合せ屋捕物控
冷静に推理をする反面、年相応の可愛らしさを持つ美代や、人情深い役人の北川など、どのキャラクターもユニークでした。また、蕎麦屋を舞台にした軽妙な掛け合いと、緊迫感溢れる事件解決に緩急があり、楽しく読み進められました。時代小説とミステリーの、双方の良さが引き出された作品だと感じます。
又聞きの八市 ~野盗の頬白~
「又聞き」という主人公の設定が非常に面白く、彼の脇を固める人物たちもみな個性豊かで魅力的でした。「又聞き」を通して犯人を明らかにしていくという短編としての完成度が素晴らしく、ぜひ同じ主人公と舞台で他のエピソードも読んでみたいと思わせる捕物譚に仕上がっていました。
※受賞作については大賞ランキングの最終順位を追記しております。
政頼の生き様が非常に格好良く描かれているところが、大変魅力に溢れていました。気にかけていた娘婿の陽一郎にいずれ殺されることを知りながらも、政頼が変わらずに常に彼の幸福を願う様子は、涙なしでは読み進められません。丁寧な人情描写により物語にぐっと引き込まれる、素晴らしい作品でした。