全てをカイジみたく突っ込まない小説一覧

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現代文学 完結 ショートショート
投資家の健一は、一攫千金を夢見る「ドアホ」な投資家と呼ばれることに抵抗がなかった。元々の資産も大したものではなく、生活費をやり繰りして貯めた僅かな余剰資金を、一つまた一つと投資に突っ込んでいたからだ。しかし、仮想通貨という言葉が彼の耳に入ったとき、まるで稲妻に打たれたような衝撃を覚えた。何の担保もない、中央銀行の力が及ばない「お金」。その自由さは、彼にとってかつてない可能性を感じさせた。 最初のうちはビットコインだけに焦点を当てていた。しかし、「分散投資」という基本的な原則を無視することの危険性も耳にしていた。もし仮にビットコインがポンジスキームであったなら、元も子もない。だが健一は自己資金の限界も痛感していた。結局、彼が持っている全ての余剰資金を突っ込んでみたかったのだが、冷静さを装い、「分散」のために少額ずつ他の仮想通貨にも振り分けることにした。 まずはイーサリアム。プラットフォームとしての活用が広がり、ただの通貨以上の役割を果たし得ると評判だった。他にも、名前を聞いたこともないようなアルトコインたちに、数百円から数千円をポツポツと投じた。中には実体の見えないプロジェクトも多く、何を信じてよいのか分からないまま、彼は「未来の夢」を買うような感覚でコインを収集した。買い集めた仮想通貨はバラエティ豊かで、まるでポケモンのように色とりどりに並んでいた。 だが、仮想通貨市場の変動は、彼がこれまで経験した株やFXの比ではなかった。ある朝、目覚めてスマホを確認すると、全財産がわずか数時間で半分に減っていた。反対に、数日後には一気に三倍に跳ね上がることもあった。この瞬間ごとの浮き沈みに、健一は心を掴まれた。それは高揚と恐怖が背中合わせのような、不安定な興奮だった。 「余剰資金でやりましょう」——ネット上の掲示板では、さまざまな警告が飛び交っていた。しかし、健一にとってこの言葉は耳に残りつつも、どこか他人事のように感じていた。自分には「余剰」というほどの資金など存在しない。生活費も仕事のストレスも、すべてを投げ打ちたい衝動が彼の中で膨らんでいた。 ある日、健一は仮想通貨投資の勉強会に参加してみた。年齢も職業も異なる参加者たちが、「新しい経済」について語り合っていた。特に目を引いたのは、中年の男であった。彼は何度も「忖度は止めましょう」と口にしていた。「仮想通貨の本質は、中央集権を廃するところにある。ここで本物の自由を感じるためには、自分で判断し、誰にも頼らないことが大事なんだ。」彼の目には、不屈の信念のようなものが宿っていた。
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文字数 1,463 最終更新日 2024.11.10 登録日 2024.11.10
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