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第十話

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 「あっさりしすぎじゃ無いかしら?」

 何故私がそう言ったのかというと…街から城の中まですんなりと入れた事だった。
 以前からならまずあり得ない話だったんだけど?
 まぁ、城の復興にも住人の手助けを受けている訳だから、以前と違ってオープンにしているのだろう。
 …とは言っても、流石に王宮の方には騎士の見張りが立っているけど…。 
 
 「さて、王宮迄乗り込んで行ったら、どんな反応をするのかしらね?」
 《セレナが乗り込んで来るとは思わないから驚くとは思うけど…》

 私は王宮に続く道に行く為に、騎士に事情を話したが通しては貰えなかった。
 なので、騎士には何の怨みもないけど…顔をぶっ飛ばしてから無理矢理通って行った。
 だけど、さすがに王の間に行けば見張りの騎士もいる訳で…その者達もぶっ飛ばしてから、王宮の扉を開けて中に入った。

 『な…何者だ‼』
 
 玉座に続く絨毯の上を歩ていると、国王陛下から叫ぶ声が響いて来た。
 私は変装を解くと、スカートを摘まんでお辞儀をした。

 『其方は…セレナか?』
 「お久しぶりです、陛下。」
 『セレナがここに戻って来たという事は、考えを改めたのだな?』
 「は? 何の事ですか?」

 何か…思っていた反応と違った。
 考えを改めたって…何?
 私はそもそもカロナック王国に戻るつもりなんて1ミリも無いんだけど?

 「あの…どういう事でしょうか?」
 『セレナはまた国に仕える為に考えを改め直して戻って聞いたのではないのか?』
 「いえ、私はこの大陸中にカロナック王国から掛けられた懸賞金を解除して頂く為に参ったのですが…」
 『懸賞金とな? 一体何の話をしておる、我はグラロスに聖女セレナの捜索を命じる為に捜索費用を掛けて目撃者を募れと…』
 
 なるほど、私の懸賞金騒ぎは馬鹿王子の単独だったのね。
 通りで話が食い違うと思ったわけだわ。
 私は巷に貼られている懸賞金の紙を国王陛下と王妃陛下に見せた。
 国王と王妃はそれを見て、ワナワナと震えていた。 

 「私がここに来た理由は、まるで犯罪者扱いされて懸賞金を掛けられて…他大陸に横断する為の船には乗れないし街にも禄に入れなくて、これらを解除して貰う為に参上したのです。 なのに考えを改めたとかってあり得ないですよ!」
 『おい、大至急グラロスを呼んで来い‼』

 騎士は玉座の間から出て行くと、数分後にグラロスを連れて戻って来た。
 そして国王が激怒している顔を見てから、私と目が合うと…物凄くバツの悪い顔をしてから私に叫んできた。

 「セレナ! 何でお前が此処に居る⁉」
 『おい、グラロス‼ これは一体どういう事だ⁉』
 
 恐らくグラロスの考えはこうだったのだろう。
 セレナに懸賞金を掛けた冒険者達が、カロナック王国に連れてきてから国王に謁見させる前に馬鹿王子と会ってから…という感じで。
 ところが、まさか私が先に城の中に乗り込んで来たとは思っていなかったので…予定が狂ったのだろう。

 「あの…長くなりそうなら、先に私の方の話をお願い出来ませんか?」
 『セレナにも話があったので丁度良い! セレナよ、お前は聖女の仕事を放棄してから結界を解いて、更には宝物庫の中の財宝を奪ってカロナックから出たという話ではないか‼』
 「は? 何の事です?」
 
 私がこの王国から出て行った理由を都合良く話した者が居るみたいだけど、そんな事を話すのは1人しかいない。
 私はグラロスを見ると、滝の様な汗を掻いていた。

 「言っておきますが、半分は合ってますが…もう半分は間違っています。」
 『うん?』
 「まず私がこの王国から出て行こうとした理由は、そこの馬鹿王子が新しい婚約者を婚約パーティーの場に連れてきてから、更には私以上の聖女の力があると言われた上に婚約破棄をされて、国外追放まで言い渡されたのですよ‼」
 『グラロス…聞いていた話と違うが?』
 「そ…それは!」
 「更に宝物庫の財宝を全て奪ったのは確かにやり過ぎだったと思いますが、私は12歳の頃から王宮での暮らしを始めましたが、朝は神殿での祈り、昼は王子妃になる為のマナー教育、そして夜には魔法の才能があるからと宮廷魔術師による魔法講座、それを2年間続けさせられてからマナー教育は無くなりましたが、魔法講座は継続し武術の才能があるからと戦場に送られて最初は負傷兵の治療だけでしたが、その内に武器を持たされて魔物や魔獣討伐をさせられたり、他にも職人が身に付ける様な技能をやらされた挙句、護符やアミュレットなどを作らされて神殿に献上させられたり、武器や防具を作らされたりしたけど給料は貰えなかったり…」
 『グラロス、我はセレナ嬢には対価を払えと申したよな?』
 「そうだったんですか? 私が聞いたのは…いずれは王族となるので働いた分は国が徴収して管理すると言われましたけど。」
 
 なるほど、私の稼ぎはこの馬鹿王子が着服していたのね。
 
 「更には買い物をする時間も無く、社交界や夜会などのパーティーが一切参加もさせて貰えずに16歳までそんな調子で、それで婚約披露パーティーで私ではなく別な女性を婚約者として発表して、私は国外追放を命じられたので、王国に張られている結界を解いてから、今迄働かされていた分の給料として宝物庫の財宝を全て徴収したのですが…」

 私は全てを打ち明けると、国王陛下と王妃陛下は頭を押さえていた。
 そしてグラロス馬鹿王子はというと…?
 端の方で小さく項垂れていた。

 「そして今回の懸賞金ですよ。 ここ迄されて考えを改めた? 国に迎え入れる…って冗談じゃありませんわ‼」
 『・・・・・・・・・』

 私は言いたい事を全てぶちまけた。
 さて、国王陛下はどう判断して下さるのでしょうかねぇ?

 『セレナよ、これまで済まなかった! 我はどうも息子を過信し過ぎていた様だ。』
 「私からは、まずこの懸賞金をさっさと撤回して欲しいのです。」
 『あぁ、大至急処理させよう。』
 「それと私はもう二度とこの王国には一切関わりませんので、聖女や結界の話はしないで下さい。」
 『あぁ…当然だな。 セレナの意思を尊重しよう…他には何かないか?』
 「あともう1つだけ許しが得られるのであれば…?」
 『何でも言ってみると良い、今迄の非礼を詫びる為に出来得る限り叶えて見せよう。』
 「グラロス馬鹿王子様をボコボコに暴行する許可を戴きたいのです。 安心して下さい、殺したりはしませんので…」
 『あぁ、好きにしろ‼』
 「ち…父上⁉」

 私は指を鳴らしながら馬鹿王子に近付いて行くと…まずは挨拶代わりの1発を顔面に叩き込んだ。
 そしてそのまま地面に叩きつけてから、馬乗りになって両拳で顔面を殴りまくっていた。
 馬鹿王子から漏れる悲痛な呻き声、口の中が切れて飛び散る鮮血、そして両手が真っ赤に血に染まり続けても尚、親の目の前で子供を殴りつけていた。

 「も…もう辞めてくれ~~~!!!」

 馬鹿王子は私を馬乗りから退かそうとして手を体に当てた…が、その場所は胸で更に馬鹿王子は私の胸を揉みだした。
 コイツ…本当に殺してやろうか?
 私はその手を払ってから殴りを再開させた。
 歯も折れ顎も砕かれて、更には顔の形まで変わっていた。
 私は一度クリーン魔法で拳や周りに散った血を浄化してから、馬鹿王子の顔に回復魔法をして元に戻した。

 「もう…許してくれるのか?」
 「ううん、第二ラウンドよ!」

 今迄の怨みがこの程度の暴行で晴れる訳がない。
 私に支払われる筈の給料を着服し、ありもしない罪で私に婚約破棄の汚名を着させ、更には国外追放までしただけでなく、犯罪者扱いをして懸賞金迄かけたこの馬鹿王子を簡単に許す訳がない!
 私は殴りを再開して行くと、馬鹿王子は私に向かって叫んだ。

 「お前が暴力を奮っているのはこの王国の王子だぞ、解っているのか‼」
 「知っているわよ、だから何?」
 「王族にこんな真似をしてタダで済むと思っているのか⁉」
 「貴方こそ知らないみたいだから言っておくけど、聖女に任命された者は…一国の国王よりは立場は下だけど、王子の位よりは立場が上なのよ。 それで、どうタダで済まないのか教えてくれる?」

 魔王を討伐する存在で、更には魔王討伐後に世界を癒す目的のある聖女は…並みの貴族よりも立場はずっと上なのが世界の掟なのである。
 それは皆が熟知している筈なのに、この馬鹿王子はその事を全く知らなかった。
 私は殴りを再開し始めた。
 そしてしばらく殴り続けてから…また回復させると意識が戻った。

 「これで終わりなのか!」
 「ううん、これで半分だから…あと500発は殴るから!」
 「辞めてくれ! 俺が死んだらどう責任を取るんだ⁉」
 「死んだら? 蘇生魔法で生き返らせてからまた殴るだけよ。 私は回復魔法のエキスパートだから安心して!」
 「お前…本当に聖女か⁉」

 そして暴行は再開されてから、全てを目標数殴り終わると…回復魔法はせずにそのまま床に寝かしておいた。
 私は国王陛下と王妃陛下にお辞儀をしてから玉座の間から出て行った。

 「さて、これでカロナック王国からは無罪放免だわ! 元々罪は犯していなかったけどね。」
 《いえ…十分犯罪行為の様な気がするわ。 聖女の力が無くなったりはしないのかしら?》

 私はスッキリした顔をしながら、カロナック王国を出た。
 次はゼムスカーラン王国に行って決着を付けるのだけれど…?
 どうなるのかしら?
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