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第五話

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 「セレナ! お前に2つの選択権を与える。 1つは王国に引き渡されるか、2つ目は俺達の為に身を捧げるかだ‼」

 この男は何を言っているんだろう?
 そんなもの、どっちもお断りに決まっているじゃない!
 そんな事も解らないのかしら?

 何故この様な事が起きているかというと、2時間前に遡る。

 ~~~~~2時間前~~~~~

 あれから1週間が過ぎた。
 畑の作物も結界と豊穣の恵みの効果により、虫に食われる事も無く実もしっかりと品質が良い形になっていた。
 なにより豊穣の恵みという効果は、作物がしっかり育つだけではなく…成長も著しく早かった。
 なのでそれ等の作物を収穫してから収納魔法に入れた。

 「明らかに村で購入した野菜より品質が良いわね。」
 《いや、良すぎるでしょ。》

 確かにカロナック王国にいた時に売られていた野菜より遥かにぷっくりと実が詰まっている。
 カロナック王国で売られていた野菜は、細くは無かったがここまで太くも無かった。
 野菜は好きだし、毎日食べていても多少は飽きても食べれない訳ではない。
 収納魔法に入れておけば時間が停止する為に鮮度は良い状態のままに保ってくれる。
 だけど問題は数だった。
 豊穣の恵みの効果で、収穫したその場からもう芽を出している。
 このまま育てて行けば、一生食べても減る事は無い…けど、野菜だけでは物足りない。
 私は村に持って行って、チーズや肉と交換しようと思っていた。

 《セレナなら、ボアとかブルとかの魔物は狩れるでしょ?》
 「狩れるし解体も出来るけどね。 でもこの山にはそれらはいないみたいだし、いるのは村の反対側に出没するらしいから、別に無理して捕まえる必要はないからね。」

 街と違って村では物々交換なので、あまりお金は使わない。
 全く使わない訳ではないけど、村ではそれ程金の価値は無い。

 《ちょっとセレナ、村人達の前で収納魔法を披露するのは感心しないわよ!》
 「あ、そうね。 魔法自体が珍しい物だから…けど、箱を持って移動するのは…」
 《セレナは召喚魔法が使えるのよね? 馬型の召喚生物はいないの?》
 「えっと…ユニコーンが。」
 《さすがにユニコーンは荷馬車の代わりにしたら怒るわよ?》
 
 ユニコーンは清き乙女を乗せて駆ける神馬と言われている。
 そんなユニコーンに馬車を引けとか命令したら、さすがに怒るか。

 「他にはペガサスがいるけど?」
 《それも神話で出て来る神馬でしょう? 確かに馬車を引く馬ではあるけど、こんな場所でペガサスを出していたらあっという間に噂が広まるわよ!》
 「だとすると…バイコーン。」
 《それは見掛けは馬だけど、魔物に分類されるわよ。》
 「なら、ギガントウォーリアフェーズは?」
 《それは魔獣でしょ! まぁ、見掛けはバイコーンに比べたら少し大きい立派な馬に見えなくはないけど…》
 
 私はギガントウォーリアフェーズを召喚した。
 見掛けは馬なんだけど、赤兎馬と呼ばれる大型の馬で馬車を引く馬にしては少し大きすぎた。
 だけど、この大陸ではあまり見かけない馬なので誤魔化せるかな?

 《それで、馬車はどうするの?》
 「馬車ならカロナック王国から脱出する際に頂戴した物があるから、それを使う。」

 私は収納魔法から荷車を取り出した。
 それにギガントウォーリアフェーズを組み合わせたら、ちょっとした商人の馬車に早変わりになっていた。
 
 《色々ツッコみたい所はあるけど、とりあえずはこれで良いかもね。》
 
 私は荷台に収穫した野菜を木箱に移してから出発した。
 馬車での移動中に聖女の加護によって魔物と出くわす事はあまりない。
 だけど全く出遭わないという訳ではないんだけど、ギガントウォーリアフェーズが威圧を放ちながら走っているので並みの魔物では向かって来るという事は無かった。
 私は順調に進んで行き、2時間後には村に辿り着いていた。

 「こんにちは!」
 「おぉ、セーレナリアさん。」

 以前立ち寄った時に私はセーレナリアという偽名を作った。
 全く違う名前で名乗ったりすると、呼ばれた時に気付かない恐れがあったので、本名を少し捩ったのだった。

 「今日はどんな用大、お嬢ちゃん!」
 「山で育てていた野菜を持って来たんだけど、チーズや加工肉と交換して欲しくて…」
 「どれどれ…って、立派に育っているじゃないか! というか、以前この村に来たのは1週間前だったよな?」
 「山では育ちが良いみたい。 苗を植えてから畑で育てるより早く育ったみたいで…」

 しまった、豊穣の恵みの効果は成長スピードが異常な事を忘れていた。
 誤魔化せるかな?

 「村の畑と山だとこうまで育ちが違うのか…」
 「これは見事ね! アタイ達では山は危険で入れないからね。」

 上手く誤魔化す事が出来たみたい。
 私はチーズと加工肉を野菜と交換してから周囲を見渡すと、貴族馬車が村の広場に停車しているのが見えた。

 「あぁ、あの馬車かい? 今この村に貴族様がいらしていてな…」
 「なんか浮かない顔ですね?」

 村に貴族が来る事は滅多にない。
 貴族が村に来る場合は村の特産品目当てに来て、理不尽な要求を押し付けて安く買い叩いて奪って行くという横暴な輩が多い。

 「どんな貴族が来ているんですか?」
 「ヴィシュランティス男爵というカロナック王国の貴族様らしい。何をしに来たのか?」
 「え?」

 ヴィシュランティスといえば、私の家族の事だ。
 とはいっても、あの家の者達と私には家族の情という物は殆ど無い。
 準男爵時代から私は無下に扱われて奴隷の様な暮らしをしていたし、私が聖女に任命されてからは家が男爵に格上げして私の事を放っておいて好き放題をしていた。
 てっきりカロナック王国が壊滅した際に一緒に滅んだのかと思っていたけど、領地に逃げていて難を逃れたんだろう。
 男爵の領地は、カロナック王国より離れた場所にあるからだ。

 「私は貴族には関わりたくないので、早めに退散しますね。」
 「その方が良いだろうな、また収穫したら今度は魚と交換してやるぞい!」

 私は馬車の方に向かって歩いていた。
 ところが私の馬車の所に男がギガントウォーリアフェーズを見て頷いていた。

 「これは貴様の馬か?」
 「はい、私の馬ですが何か?」
 「この馬は中々気に入った! これを譲れ!」
 「お断り致します、大事な仲間なので…」

 間違いない、私の知っている頃の姿とは見違える位に肥えているが間違いなく父親だ。
 私は関わりたくなくてすぐにこの場を退散しようとした。
 ところが、この男のしつこさは並大抵ではなかった。

 「俺は貴族だぞ‼」
 「だから何です?」
 「貴族に逆らってただで済むと思っているのか‼」
 「貴方は男爵とお聞きしましたが、私はAランク冒険者で伯爵の地位を得ています。 男爵風情が伯爵の爵位を持つ者に逆らってただで済むと思っているのですか?」

 ヴィシュランティス男爵は黙って項垂れていた。
 …というか、スカーフで顔半分を隠しているとはいえ…自分の娘と面等向かって話していて気付かないのかな?
 まぁ、この男にとって私はこの程度の存在なんでしょう。
 私はその場を去ろうとすると、背後にいた者の気配に気付かずに…その者は私のスカーフを奪い取った。

 「貴様は…セレナ‼」
 「あ、バレた。」

 ちなみにスカーフを奪い取ったのは、私の姉のクローラだった。

 「声を聞いていて何か違和感があったのよね。」
 「セレナ…これは何て都合が良いんだ‼」

 ヴィシュランティス男爵は大声で歓喜しながら笑っていた。
 どうみても、これから起きるのは厄介事でしかない。
 そして冒頭に戻り…選択肢を投げ掛けられるのだが?
 
 さて、どうしようかな?
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