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第五章 悲恋の章

第六話 崖から突き落とされたG…いや、D再び!

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 崖から突き落とされたG…もとい、ドミニクがやって来る少し前…?

 またも厄介な貴族がこの店に現れた。

 「僕の名前はピエール・ド・テルシュマン…伯爵家の嫡子だ! 僕は君の噂を聞いてはるばる会いに来たのさ‼︎」

 最初は男爵家で、次は侯爵家…そして今度は伯爵家ですか?

 今までは店の商品を寄越せ!…という話だったけど、今度の貴族は違うみたいね?

 「はい、会えましたのでお帰り下さい。 次はお客様としていらっしゃってから何か購入して下さるとありがたいのですが…」

 私はそう言って店の扉を閉めた…が、ピエールという男はまた扉を開けて店の中まで入って来た。

 「僕は君を迎える為に来たのさ!」

 「お断り致します! 私は自分より爵位の低い男性には興味がありませんので…」

 「何だと! 僕は伯爵家の嫡子だぞ‼︎」

 「私は伯爵位を持っておりますが…」

 伯爵位と伯爵令息では立場が違う。

 伯爵令息はたまたま伯爵家の生まれで、いずれは伯爵家の跡取りになる…というだけで、叙爵もされていないのなら貴族の子供というだけで身分的な事を言えば平民と大差が無い。

 それに跡取りとは言っても、跡を継ぐ為にはそれなりの功績を積まない限り周りから認められる事はない。

 なので、こんな頭の軽そうなチャラ男が伯爵家を継げるかどうかすら怪しい。

 「僕はいずれ伯爵家を継ぐんだぞ‼︎」

 「なら、伯爵家を継いでから来て下さい。 今の貴方の身分では、私とは釣り合いませんので…」

 「くっ………調子に乗るなよ、この女が‼︎」

 あらあら…逆ギレですか。

 「店長、新しい商品は入っておるか?」

 ピエールの横を擦り抜けてファリス様がカウンターに飛び込んで来た。

 ファリス様は私がポーションや石鹸の製作者と聞いてから、ほぼ毎日の様に顔を出していた。

 「ありますよ、これはまだ試作段階ですがお試しという形でな…」

 「おいガキ! 横から割り込んでんじゃねぇよ‼︎」

 ピエールは私からファリス様に渡される商品を掴んでから床に叩き付けると、踏み躙っていた。

 あーあ、この男は誰に対してやっているのか分かっているのかな?

 「私の新作が…何をするのですか⁉︎」

 「ウルセェ! 僕が今この女と喋っているんだよ! ガキはすっこんでいろ‼︎」

 ピエールはそう言い終えると同時に騎士団に捕縛された。

 「何だお前達は、僕を誰だと思っている? 僕はテルシュマン伯爵家の嫡子ピエールだぞ‼︎」

 「私はベルシュナーデ王国の第三王女のファリスです。 此度の事はテルシュマン伯爵家に厳重に抗議を申し付けるのでそのつもりで…」

 「……へ?」

 「それと、不敬罪も加えておきましょうかねぇ? 私の事をガキ呼ばわりをして恫喝されましたからね…」

 「そうですねぇ、テルシュマン伯爵家は注意処分で済むでしょうが…ピエール様が伯爵家を継がれる望みは絶たれたでしょうしねぇ?」

 私とファリス様がそういうと、ピエールは青い顔をしながら連行されて行った。

 この話が広まれば、もうバカな事を仕出かす貴族が現れる事はないだろう。

 「私の新製品が…」

 「大丈夫ですよ、まだまだたくさんありますから…この試作品は、化粧品を購入された方にお試し頂ける様にお作りしている物ですからね。」

 私はカウンターから試作品を取り出すと、ファリス様にお渡しした。

 ファリス様はそれを受け取ると、嬉しそうに店を後にして馬車に乗り込んだ。

 …で、これは後日談だけど…ピエールは伯爵家の嫡子から廃嫡されたそうだった。

 まぁ、自国の王女にあんな事を言えば…伯爵家の立場上、それが妥当な判断だっただろう。

 ピエールはその後どうなったのかは知る由もない。

 噂では国を追い出されたとか何とか…?

 まぁ、こんな厄介事はもう無いかとも思われた翌日…

 崖から突き落とされたが店に現れたのだった。

 「リアーナは…いるか?」

 そう言ってやって来た男は、あの頃に比べて見る影も無く痩せ細ったドミニクだった。

 「リアーナはいませんよ。」

 「ならば何処にいる⁉︎」

 私は拉致から帰還した後にブリオッシュとのやり取りで、ドミニク対策を色々と話し合っていた。

 ドミニクという男は、まず人の話を聞かない。

 リアーナが頑なにドミニクからの告白を何度も断っているにも関わらず…ドミニクは全く聞き入れなかった。

 ここで死んだ…なんて話した所で素直に認めるとも思えないし、その時だけは国を離れても…いずれまた来たりして店で見掛けたりすると話がややこしくなる。

 なので、どんな権力を持ってしても敵わない方法を取る事にした。

 「リアーナは現在は祖国に帰っております。」

 「祖国だと? それは何処だ⁉︎」

 「私とリアーナは、ディスガルディア共和国大統領のグランマリー・バーンシュタットの血縁者です。 貴方はリアーナと共に拉致されたという話ですが…リアーナの話は何処まで知っていますか?」

 「ディスガルディア共和国だと⁉︎ …オレは崖から海に突き落とされて港に着いてからリアーナを探したが見つからず仕舞いだった。」

 「そうでしたか…リアーナは犯罪組織に売られる前に、ディスガルディア共和国のプリズムナイツに助け出されて祖国に連れ返されました。」

 「プリズムナイツ、ディスガルディア共和国の最強の騎士団か…」

 ディスガルディア共和国のプリズムナイツは世界では有名な話だった。

 騎士団と言ってもたった5人しかいないのだが、その強さは別格で…たった1人のプリズムナイツだけで1国を落とせるという力を所持する者なのだった。

 何故この話をしたかというと?

 ドミニクの性格だとディスガルディアまで会いに行こうとしかねないのを阻止する為だった。

 「オレが近くに居たら守ってやれたのに…」

 「そもそも、拉致される時に貴方が居たから捕まったという話を聞きましたけど?」

 「何だと⁉︎」

 「貴方はリアーナが冒険者ランクのどの位置か知っていましたか?」

 「いや…?」

 「リアーナの冒険者ランクはAで…リアーナ単独でボルティックスドレイクを討伐出来る力があるんですよ。」

 「ボルティックスドレイクって…国の騎士団が総がかりで倒せるかどうかというアレか?」

 ボルティックスドレイクはランクSの災害級のドラゴンである。

 リアーナ…つまり私は、錬金術の材料でボルティックスドレイクの素材が欲しくて討伐をした。

 これを冒険者ギルドで報告すればランクはSになっていたんだけど、ボルティックスドレイクの討伐証明部位が錬金術で必要な材料のコアと被ってしまった為に、報告は一切を伏せたのだった。

 「貴方は単独でボルティックスドレイクを倒せますか?」

 「無理…だな。」

 「貴方とリアーナの力の差はそこまでなんですよ。 だからそんな貴方がリアーナを守るって…烏滸がましいにも程があるでしょ‼︎」

 「・・・・・・・・・」

 ドミニクは俯いて黙ってしまっていた。

 人の話を聞かないこの男にちゃんと響いたのかがイマイチ怪しい…?

 なので、トドメの一言を刺す事にした。

 「リアーナからドミニクという方が尋ねられた時に言伝を預かっております。」

 ドミニクは顔を上げた。

 「貴方が現れてからというもの、本当に迷惑でしかありませんでした。 もう貴方の姿は見たくもありませんので、私の前に二度と現れないで下さい! それがリアーナから貴方に向けた言伝です。」

 ドミニクはショックを隠せずに地面に崩れ落ちた。

 そして暫くしてから立ち上がると、「分かった…」と言って店を後にした。

 その背中は何処か寂しげな感じだった。

 「これで二度と現れないでほしいんだけどね?」

 流石に今迄とは何か違う感じがしたから、もう現れる事はないだろう。

 これで…元のリアーナの姿に戻る事が出来るわ!

 翌日、バーンシュタット魔法道具店はお休みにした。

 そして扉には、「ポーションのストックが無くなりそうなので、店長はポーション製作に為に店から後退します。 代わりに副店長に交代しますので…」と書いておいた。

 するとそれを見た男客からは不満の声が出ていた。

 お店を再開してリアーナの姿で対応しても、男客達は「店長はいつ戻って来る⁉︎」とか、私の顔を見るなり溜め息を吐いて店を後にする者達が暫く続いた。

 ルーナリアって本当にモテたのねぇ?

 店の売り上げが下がりそうになった時には、またルーナリアの姿で対応しようかしら?

 なんか複雑な感じがした私だった。
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