【完結】公爵令息は前世での関係は恋人同士だと告げて迫って来たけど、僕は男だよ?

アノマロカリス

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第八話 懐かしき場所

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 マリアは朝食に近くにいる兵士に、夢で見た山の形を絵にした物を見せた。
 ただし、この絵はあくまでも、帝国に住む親戚の子供が送って来た物として…

 「この様な形の山を見える場所を探しているのですが、見た事はありませんか?」
 「これはヴェルヴィリルド山脈の1つだな。 この帝国の西側から見える場所にあるよ。」

 兵士は地図に印を書いてくれた。
 ただ、この山は今は先端が少し欠けて見えるらしく、この絵を頼りにすると見つからないと言われた。

 「しかし、この山が見える場所が見える場所に何があるんだい?」
 「親戚の子供と勝負をしているんです! この山が見える場所に試練を隠したから、来る時にそれを見つけるまでは来るな!…と言われて。」

  「そういう話は好きだな。 所詮は子供の浅知恵だから、見付けてぎゃふんと言わせてやれ。」
 「ありがとうございます、結果教え致しますね。」

 マリアは和気藹々と兵士と話し終えると、カインの元に合流して市街地郊外の西側を目指した。
 カインは辺りを見ながら歩いている。
 マリアはうろ覚えな記憶を元に屋敷を眺めていた。

 「この辺も記憶にはあまり引っ掛からないかな? そもそも、僕の知っているお嬢様は、屋敷の敷地からあまり出た事が無かったし、庭には高い塀で囲まれていたからね。」
 「もう少し、ここを歩こう。 でも、さすがに100年前の戦争時代から今となると、古い屋敷は残っていたとしても新しく建てられた建物も増えているから見つけ難いかもしれないけど。」

 ダナンは、お嬢様と違って敷地の外を何度か歩いている。
 記憶と照らし合わせながら歩いてはいるものの、さすがに100年も前の景色と現在では大きく変わっていた。
 そろそろ市街地も終わり、山脈が見える場所に辿り着くと、マリアは記憶にある山を探した。
 
 「山が見えた場所はこの辺からとすれば、この近くにある屋敷が当たりなのかもしれないけど…高い塀で囲まれた屋敷は見当たらないわね?」
 「マリア、もしかすると…この屋敷かもしれない! 高い塀ではないけど、屋敷に見覚えがあるかも。」

 マリアは屋敷や敷地内を見る事が出来た。
 そこは高い塀ではなく、鉄柵が敷地を囲っていて、そこから見える屋敷は確かに記憶の中にある建物と一致した。
 ただ、少し違うのは…屋敷の敷地内が緑に溢れて、庭がバラの庭園っぽく仕上がっている事だった。
 100年前の戦争終結後なら、高い塀も取っ払ってこういう作りになるだろう…

 「この屋敷の方に中を見せて貰えないか話せられないかな?」
 「どうやっていうのよ? 実は夢の中で、100年前はここのお嬢様でした…とでも言うつもり? 頭のおかしい人と思われるだけよ。」

 前世の記憶では確かに、カインはここのお嬢様のサフィリアで…マリアは使用人のダナンだった。
 カインの言う事も解らない事は無い。
 マリアも夢の景色が一致している場所を見付ける事が出来て、テンションは上がっている。
 だけど、前世はここの関係者で敷地を見せて欲しいなんて言っても、性質の悪い詐欺と勘違いされるに違いない。
 逸る気持ちのカインを宥めながら、マリアは途方に暮れていると、屋敷の門番から声が掛かって来た。

 「そこの者よ、この屋敷に何用か?」
 「あ、いえ…その…」
 「あ、その…僕達は、このお屋敷の中を見せて欲しくて…」

 「怪しい者達だ、本部に連絡して…」
 「お待ちなさい!」
 「これは、奥方様…」
 「何やら騒がしいと思って出てみたら…あら…あらら? 貴方はカインね? カインでしょう?」
 「はい、僕はカインです。 ですが、どうして僕の事を?」
 「そうですね…この場で話をするのは…あら、こちらのお嬢さんは?」
 「僕の幼馴染でマリアと言います。 実は…」
 「少しお待ちになって! この2人は私のお客様です。 丁重に案内なさい!」
 「ハッ!」

 カインとマリアは、この屋敷の奥方様の後に着いて行くように屋敷の中に入った。
 そして、ロビーに入ると懐かしい記憶が甦って来た。
 それから、応接室に案内されてから、お茶が用意されてカインとマリアは奥方様と話をする事になった。

 「まずは私から…この屋敷の当主であります、イザベラです。 カイン、貴方の顔をもっと良く見せておくれ…」
 「僕は、奥方様と何か関係があるのですか?」
 「あらやだ! ハイウィンドは貴方の事を何も話してないのね? 貴方は流行り病で亡くした私の妹の娘から生まれた子供です。 貴方の母は、ハイウィンドの姉にあたります。 私の妹がハイウィンドの母になりますので、私はハイウィンドの叔母になりますね。」
 「僕はてっきり、父様の子供だとばかり思っていました。」
 「それは無理もありません。 貴方が引き取られていたのは、まだ赤子の頃です。 それにしても、カインは本当に私の母にそっくりですね。」

 マリアはイザベラに頭を下げて挨拶をした。

 「イザベラ奥様、私はカインの幼馴染のマリアと申します。 実は、今回こちらに来たのには理由がありまして…」
 「そうでしょうね…カインはこの話をするまで身に覚えのない顔をしていましたから、この地を訪れるには何か別の理由があると思いましたので。」

 マリアは頭の中で整理をしながら話をした。

 「実は、イザベラ奥様には奇妙な話に聞こえるかもしれない事をお許し下さい。」
 「構いませんわ、どうぞお話ください。」

 マリアの態度に対して、イザベラは微笑んで答えた。
 
 「私とカインは、100年前にここで暮らしたという前世の記憶があります。」
 「マリアも⁉」
 「カイン、ごめんなさい。 私も確証が出るまで話せなかったの。」
 「続けて…」
 「はい、私の前世での名前は、使用人のダナンで…カインは、サフィリア様でした。」
 「サフィリア…そう、僕はサフィリアという女性でした。」
 「そうでしたか…では、貴女とカインがこの地に来たのも偶然ではなかったのですね?」
 
 マリアは婚約発表の時のアベルの話や翌日からカインが見始めた夢の話を事細かくした。
 マリアも帝国に来てから、ダナンとして夢を見始めたという話をした。
 そして、伯爵様に結婚を認められない2人は、毒を飲んで自殺をしたと…

 「あなた方の話は本当です。 ですが、1つ間違っている部分があります。」
 「イザベラ様、どこが違っているのですか?」
 「毒を飲んで死んだのはダナンですが、サフィリアは医者の治療のお陰で息を吹き返しました。 ただ、その後に記憶に障害が起きて、それ以降…死ぬまで記憶が戻る事はありませんでした。」
 「では、お腹の子供は?」
 「はい、奇跡的に助かりました。 そして、姉は新たな人の元に嫁ぎ、その時の子供は伯爵家が引き取りました。」
 「それはもしかして…?」
 「はい、私が父ダナンと母サフィリアの実子です。 妹は、嫁ぎ先の子供として生まれました。 私と妹は、父親が違うだけの姉妹という事になります。」
 「カインの夢でサフィリアが毒を飲んで死んだという事は、サフィリアの人格がそこで死んだ事になっているのね。 だから、その後の人生の夢を見なかったのね…」
 「だとすると…? アベルは、何でその時の事を知っているんだろう? アベルの前世は誰だったんだ?」

 イザベラは、敷地に2人を連れて出ると、今は使われていない納屋に案内をした。
 そして2人をそこに残すと、イザベラは屋敷の中に入って行った。

 「そうだ、少し朽ちているけど、この場所で間違いない!」
 「そうね…私とカインが過ごした場所がこの場所ね。」
 「そして、ここでサフィリアとダナンは毒を飲んで…」
 
 マリアはカインをそっと抱きしめた。
 それはダナンがサフィリアにした行動の様に…
 そしてマリアは、カインの目を見詰めながら顔を近付けようとすると、カインは目を閉じた。
 
 「カイン、まだ駄目よ! これをするのは、もう1つの決着が済んでからね!」
 「マリア、僕は君の事を…」
 「駄目よ、それも決着の後に聞くわ。 王国に帰るわよ!」

 その後、全て思い出した説明をイザベラに話した後に、2人は王国に帰って行った。
 
 そして、アベルもアーベント皇国にカインがいない事を確認してから王国に帰って行った。
 そこでアベルの真実が待っていた。
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