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第七話 風景
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カインは、またも前世の夢を見ていた。
夢の中の彼女の世界の全ては、伯爵家とその敷地内の納屋までの移動でしかなかった。
現在は戦時中で、街や他国に観光出来るような時世ではなかったのである。
彼女の年齢からしてみたら、日々の生活は退屈その物であるが、流浪の民であった使用人のダナンが世界を旅した話をしてくれたので満足しているのである。
「ダナン、おはよう!」
「おはようございます、……お嬢様…今日も大変お綺麗でございます!」
これが伯爵令嬢と使用人ダナンのいつもの挨拶である。
ダナンは、長身に褐色の肌に髪も瞳の色も茶色で、細身だけど体格はガッチリとした青年だった。
「ダナン、ごめんなさい。 今日はこれだけしか持って来れなかったわ!」
「……様、あまり御無理をしないで下さい。 こんな御時世でも使用人には食事は与えられているのです。 まぁ、正直言えば少し足りませんが…」
……は、パンを2つ持ってきて、ダナンに渡した。
ダナンは申し訳なさそうに頭を下げてから、パンを受け取ってかじった。
「それにしても、この戦争はいつまで続くのかしらね?」
「そうですね…情勢的には帝国が有利と噂されていますが、あくまでも上層からのお達しですからね。」
「この戦争で仮に帝国が敗北したら、私達はどうなるのでしょう?」
「……様、滅多な事を口になさらないで下さい。 そうですね、仮に帝国が敗北してしまった場合、状況はあまり変わらないと思います。 ただ、重税が厳しくなる位でしょうし、戦勝国も帝国全土を手中に出来る程の力は無いと思いますので…」
「では、生活はあまり変わらないのですか?」
「戦勝国がどういう条件を出すかによりますね。 もしかしたら、帝国の貴族制度が無くなるかもしれません。」
「では、私は平民に?」
「可能性の話なので、何とも言えませんがそうなるかもしれませんね。」
……は腕を組んで考えていた。
ダナンはそんな……様の顔を見て微笑んだ。
「そもそも、どうして戦争って起きるのかしら?」
「理由はいくつかありますが、最大の理由は飢饉による飢餓ですね。」
「飢饉による飢餓って?」
「戦争を仕掛けている側が、領民に満足のいく食料が供給されずに食料を求めて戦争を起こすという物でしょうね…」
「話し合いでは解決しないのですか?」
「相手は北方民族で雪深く、作物のあまり育たない地だと聞いております。 彼らの必要な食料を考えますと、帝国の収穫量では分け与える程の量には達していないのかと…」
「世知辛い世の中ですわね。」
「戦争が終われば、そういう事も無くなるのですけどね。」
……様は、ダナンの膝に頭を預けた。
ダナンは、そんなお嬢様を見つめながら、激しく熱いキスをした。
そしてカインは目覚めた。
カインは左手で顔を押さえながら言った。
「何で僕は夢から目覚める時は毎回毎回、男のキスで目覚めなければならないのだろうか? 生々しいというか何というか、男の唇の感触が残っているんだよね…」
カインは、いつもとは違い…
お嬢様の名前は相変わらず解らないが、相手の男の名前がダナンと事は解った。
「100年前の戦争という事は、サーディリアン戦線か…それにしても、お嬢様がもう少し色々な場所を見ていてくれると手掛かりが得られるんだけどなぁ…」
窓の外を見るとまだ暗いので、再び寝直した。
………一方、マリアは………
僕の名前は、ダナン・マクガイバー。
小さい時からの相棒の……と一緒に伯爵家の主人に雇われてる。
僕の仕事は主に、屋敷の敷地内にいる家畜の世話がほとんどだった。
現在は戦争中という事もあり、敷地の外はあまり良い状態ではない。
伯爵家も城壁の様な囲いに囲まれている為に、外からの侵入者は殆どいないが、それでもたまに盗みに入ってくる者がいる。
そういった者を排除するのも仕事の内なのだ。
僕は門に行って、門番と話をした。
「門番、お疲れ様です。」
「おぉ、ダナンか…仕事は慣れたか?」
「毎日家畜の世話ですが、この御時世に仕事を戴けるだけありがたい事ですよ。」
僕はそういって、屋敷の外を見た。
この辺での戦闘はないので、平和ではあるのだが……
「聞いた話によると、この戦争もそろそろ終結しそうだという話だそうだ。」
「そうですか…それでもしばらくは屋敷の敷地外には出れないでしょうけど、終結すれば外での食料を確保も出来そうですね。」
僕はそう言って、遠くの山をみた。
山は先端近くが少し欠けているが、高い山のようだ。
「……山か、あそこには山菜が豊富にあるという話だが…」
「戦争が終結したら、登ってみたいですね。」
「その時は、腹一杯喰いてえな!」
「同感です。 では、仕事に戻りますね!」
僕は納屋に戻り、家畜の世話の準備を始めた。
給与はあまりないが、食事を戴いている分の仕事はしないといけない。
「ダナン、今日も精が出るわね!」
「サフィリアお嬢様…またこの様な場所に来て、旦那様に叱られますよ!」
「貴方に会いに来たのにそんな意地悪な事をいうのね。」
「サフィリアお嬢様にはかないませんね。 今日はどの様なお話を致しましょうか?」
僕はサフィリアお嬢様に、今迄の旅の話や戦争の話などを話した。
当然、お腹の子の話も話した。
「やはり、旦那様にお話ししても許しは得られそうもないですね。」
「ダナンが貴族ならいい訳も出来るのですが…」
「僕は一応、砂の国では貴族だったんですよ。 今はもう砂の国はありませんので平民と変わりありませんが…」
「どの爵位の貴族だったの?」
「この国の貴族の爵位とは呼び方が違うのですが…公爵と同等の立場でしたね。」
「なら、王位継承権も?」
「はい、王位継承権第7位でした。」
僕はサフィリアお嬢様に手を取られて、納屋の奥に入って行った。
そこでサフィリアお嬢様は…
「私のお腹の中には、貴方の王族の血が宿っているのですよ。」
「砂の国があればの話です。 砂の国は自然災害で滅びましたから、王族ではないですね。」
「それでも、良いのです…」
「サフィリア…」
納屋の奥で僕とサフィリアは、舌を絡み合う様な熱いキスをした。
そして、サフィリアの首筋にキスをしていき……
「また、もう少しで官能小説の様な世界を見る所だったわ! 彼のお陰で場所を特定出来るかもしれないわね。 ただ、この話をカインに…いえ、目的の場所が見つかったら明かしましょう。」
となりで寝ているカインを見ると、寝息を立てていた。
窓を見ると、朝日が昇りつつあった。
大体の場所は特定出来たから、後は人に尋ねようと思っていた。
夢の中の彼女の世界の全ては、伯爵家とその敷地内の納屋までの移動でしかなかった。
現在は戦時中で、街や他国に観光出来るような時世ではなかったのである。
彼女の年齢からしてみたら、日々の生活は退屈その物であるが、流浪の民であった使用人のダナンが世界を旅した話をしてくれたので満足しているのである。
「ダナン、おはよう!」
「おはようございます、……お嬢様…今日も大変お綺麗でございます!」
これが伯爵令嬢と使用人ダナンのいつもの挨拶である。
ダナンは、長身に褐色の肌に髪も瞳の色も茶色で、細身だけど体格はガッチリとした青年だった。
「ダナン、ごめんなさい。 今日はこれだけしか持って来れなかったわ!」
「……様、あまり御無理をしないで下さい。 こんな御時世でも使用人には食事は与えられているのです。 まぁ、正直言えば少し足りませんが…」
……は、パンを2つ持ってきて、ダナンに渡した。
ダナンは申し訳なさそうに頭を下げてから、パンを受け取ってかじった。
「それにしても、この戦争はいつまで続くのかしらね?」
「そうですね…情勢的には帝国が有利と噂されていますが、あくまでも上層からのお達しですからね。」
「この戦争で仮に帝国が敗北したら、私達はどうなるのでしょう?」
「……様、滅多な事を口になさらないで下さい。 そうですね、仮に帝国が敗北してしまった場合、状況はあまり変わらないと思います。 ただ、重税が厳しくなる位でしょうし、戦勝国も帝国全土を手中に出来る程の力は無いと思いますので…」
「では、生活はあまり変わらないのですか?」
「戦勝国がどういう条件を出すかによりますね。 もしかしたら、帝国の貴族制度が無くなるかもしれません。」
「では、私は平民に?」
「可能性の話なので、何とも言えませんがそうなるかもしれませんね。」
……は腕を組んで考えていた。
ダナンはそんな……様の顔を見て微笑んだ。
「そもそも、どうして戦争って起きるのかしら?」
「理由はいくつかありますが、最大の理由は飢饉による飢餓ですね。」
「飢饉による飢餓って?」
「戦争を仕掛けている側が、領民に満足のいく食料が供給されずに食料を求めて戦争を起こすという物でしょうね…」
「話し合いでは解決しないのですか?」
「相手は北方民族で雪深く、作物のあまり育たない地だと聞いております。 彼らの必要な食料を考えますと、帝国の収穫量では分け与える程の量には達していないのかと…」
「世知辛い世の中ですわね。」
「戦争が終われば、そういう事も無くなるのですけどね。」
……様は、ダナンの膝に頭を預けた。
ダナンは、そんなお嬢様を見つめながら、激しく熱いキスをした。
そしてカインは目覚めた。
カインは左手で顔を押さえながら言った。
「何で僕は夢から目覚める時は毎回毎回、男のキスで目覚めなければならないのだろうか? 生々しいというか何というか、男の唇の感触が残っているんだよね…」
カインは、いつもとは違い…
お嬢様の名前は相変わらず解らないが、相手の男の名前がダナンと事は解った。
「100年前の戦争という事は、サーディリアン戦線か…それにしても、お嬢様がもう少し色々な場所を見ていてくれると手掛かりが得られるんだけどなぁ…」
窓の外を見るとまだ暗いので、再び寝直した。
………一方、マリアは………
僕の名前は、ダナン・マクガイバー。
小さい時からの相棒の……と一緒に伯爵家の主人に雇われてる。
僕の仕事は主に、屋敷の敷地内にいる家畜の世話がほとんどだった。
現在は戦争中という事もあり、敷地の外はあまり良い状態ではない。
伯爵家も城壁の様な囲いに囲まれている為に、外からの侵入者は殆どいないが、それでもたまに盗みに入ってくる者がいる。
そういった者を排除するのも仕事の内なのだ。
僕は門に行って、門番と話をした。
「門番、お疲れ様です。」
「おぉ、ダナンか…仕事は慣れたか?」
「毎日家畜の世話ですが、この御時世に仕事を戴けるだけありがたい事ですよ。」
僕はそういって、屋敷の外を見た。
この辺での戦闘はないので、平和ではあるのだが……
「聞いた話によると、この戦争もそろそろ終結しそうだという話だそうだ。」
「そうですか…それでもしばらくは屋敷の敷地外には出れないでしょうけど、終結すれば外での食料を確保も出来そうですね。」
僕はそう言って、遠くの山をみた。
山は先端近くが少し欠けているが、高い山のようだ。
「……山か、あそこには山菜が豊富にあるという話だが…」
「戦争が終結したら、登ってみたいですね。」
「その時は、腹一杯喰いてえな!」
「同感です。 では、仕事に戻りますね!」
僕は納屋に戻り、家畜の世話の準備を始めた。
給与はあまりないが、食事を戴いている分の仕事はしないといけない。
「ダナン、今日も精が出るわね!」
「サフィリアお嬢様…またこの様な場所に来て、旦那様に叱られますよ!」
「貴方に会いに来たのにそんな意地悪な事をいうのね。」
「サフィリアお嬢様にはかないませんね。 今日はどの様なお話を致しましょうか?」
僕はサフィリアお嬢様に、今迄の旅の話や戦争の話などを話した。
当然、お腹の子の話も話した。
「やはり、旦那様にお話ししても許しは得られそうもないですね。」
「ダナンが貴族ならいい訳も出来るのですが…」
「僕は一応、砂の国では貴族だったんですよ。 今はもう砂の国はありませんので平民と変わりありませんが…」
「どの爵位の貴族だったの?」
「この国の貴族の爵位とは呼び方が違うのですが…公爵と同等の立場でしたね。」
「なら、王位継承権も?」
「はい、王位継承権第7位でした。」
僕はサフィリアお嬢様に手を取られて、納屋の奥に入って行った。
そこでサフィリアお嬢様は…
「私のお腹の中には、貴方の王族の血が宿っているのですよ。」
「砂の国があればの話です。 砂の国は自然災害で滅びましたから、王族ではないですね。」
「それでも、良いのです…」
「サフィリア…」
納屋の奥で僕とサフィリアは、舌を絡み合う様な熱いキスをした。
そして、サフィリアの首筋にキスをしていき……
「また、もう少しで官能小説の様な世界を見る所だったわ! 彼のお陰で場所を特定出来るかもしれないわね。 ただ、この話をカインに…いえ、目的の場所が見つかったら明かしましょう。」
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