【完結】公爵令息は前世での関係は恋人同士だと告げて迫って来たけど、僕は男だよ?

アノマロカリス

文字の大きさ
上 下
5 / 10

第五話 帝国

しおりを挟む
 10日後…
 僕とマリアは無事に帝国の国境前に着いた。
 これを過ぎれば、帝国領だ。
 帝国に入れば、帝国の規定で…
 他国の王族や大公、公爵は王族に連なる者として来賓客として扱われるが、それ以下の貴族位の場合は帝国内では平民と同じ扱いをされるという物である。
 帝国内にも貴族制度はあるが、それは他国の貴族制度と違い厳格なものである為に、帝国内で他国の貴族位は無効という処置がされている為に迂闊に名乗る事を禁じているのである。
 簡単にいえば、ややこしい国なんですよ。

 「マリア、そろそろ用意した服に着替えよう。」
 「えぇ、そうね。 地味な洋服って部屋にはないから選ぶのには苦労したわ…」

 カインもマリアも、自国の平民の服を着用した。
 貴族の服に関して言えば、王国と帝国だと服装がまるで違うが、平民だとあまり差が無いのである。
 
 「ここまでで良いわ、ありがとう。 貴方達は屋敷に帰って頂戴。 そしてくれぐれもアベルには見付かっても話さないようにね。」

 マリアはそう命じると、馬車は来た道を戻るように帰って行った。
 カインとマリアは、国境に向かって歩き出した。
 
 国境に着くと、たくさんの人が並んでいた。
 主に商人で、その他には貴族が数人と平民が数人いた。
 カインとマリアは列に並んで順番を待った。

 ………1時間半後………

 やっと順番が来て、手続きをした。

 「帝国には何の用で?」
 「僕は…」
 「私達姉弟は、帝国に住む親戚を訪ねて来たんです。 王国ではもう住む場所が無くなったので。」
 「それにしては、肌が綺麗だな?」
 「僕は病弱で家からあまり出る事が無くて、姉は家の中で出来る仕事で生活してきたので。」
 「帝国に住む親戚に会いに来たとはいえ、格式高い帝国に入るのに汚れたままの格好では失礼に当たると思いまして。」

 検査官は、カインとマリアを良く見てから、中に通した。
 国境を抜けると、帝国と国境を行き来する荷馬車があったので、それに乗って帝国に向かった。
 
 帝国内に入ると、そこは王国とは全く違う建築様式で、石を主に使われた建物が多かった。
 その為に堅固なイメージが強く、あっちこっちに騎士や兵士が立っていた。
 カインは、この時間から土地勘が無い場所での行動は危険と感じ、近くの雑貨屋で帝国領内の地図を購入してから、止まる場所を兵士に聞いた。
 そして、宿に着くと部屋に案内された。
 そこは、ベッドが2つとトイレしかない部屋だった。

 「マリア、やっぱり同じ部屋というのはまずい気がするよ。」
 「私達は姉弟としてここに来ているのに、いまさら情けない事を言わないの! 何日ここにいるかも解らないのに、節約出来る事は節約しなくちゃ!」

 カインは、そんなマリアを見て逞しいと思った。
 そして、部屋の中で地図を確認して、その日は寝た。

 ………ファーランス伯爵家では………

 アベルがカインを訪ねて、ファーランス家に来ていた。
  
 「お主はアベル卿か… 昨日の今日で良く顔を出せたな。」
 「ハイウィンド伯爵、カインは居られますか?」
 「カインなら今朝早く、アーベント皇国に旅立ったよ。 叔母の元に向かっている最中だ。」
 「アーベント皇国ですか? 何故急にその様な場所に…?」
 「ここにいたら、アベル卿に襲われると言って避難する為だ。 まぁ、こっちにいつ帰って来るかは解らんが、少なくとも10年は帰っては来ないと言っていたな。」
 
 アベルはファーランス伯爵家を離れ、公爵家に帰ってから支度をして、アーベント皇国に旅立った。
 アーベント皇国は、帝国とは真逆の場所にある国で、船を使わないと行けない国だった。
 ハイウィンド伯爵は、事前にカインと打ち合わせて、アベルが訪ねてきたら帝国には近付けない様に打ち合わせをしたのだった。
 
 「アベル卿もせっかちだな… 叔母がアーベント皇国のどこに住んでいるかも聞かずに飛び出して行きおった。 まぁ、叔母が住んでいる場所は帝国領の中で、アーベント皇国には親戚はおろか、血筋の者なんて1人もいないがな…」

 ハイウィンド伯爵は笑みを浮かべると、屋敷に入って行った。
 そしてこの男は、船のある港町にも既に連絡を入れていた。
 カイン・ファーランスは、船で旅立ったと。

 アベルは、見当違いな場所でカインを探す為に旅立っていったのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

お約束の異世界転生。計画通りに婚約破棄されたので去ります──って、なぜ付いてくる!?

リオール
恋愛
ご都合主義設定。細かい事を気にしない方向けのお話です。 5話完結。 念押ししときますが、細かい事は気にしないで下さい。

【完結】愛していないと王子が言った

miniko
恋愛
王子の婚約者であるリリアナは、大好きな彼が「リリアナの事など愛していない」と言っているのを、偶然立ち聞きしてしまう。 「こんな気持ちになるならば、恋など知りたくはなかったのに・・・」 ショックを受けたリリアナは、王子と距離を置こうとするのだが、なかなか上手くいかず・・・。 ※合わない場合はそっ閉じお願いします。 ※感想欄、ネタバレ有りの振り分けをしていないので、本編未読の方は自己責任で閲覧お願いします。

嫁ぎ先(予定)で虐げられている前世持ちの小国王女はやり返すことにした

基本二度寝
恋愛
小国王女のベスフェエラには前世の記憶があった。 その記憶が役立つ事はなかったけれど、考え方は王族としてはかなり柔軟であった。 身分の低い者を見下すこともしない。 母国では国民に人気のあった王女だった。 しかし、嫁ぎ先のこの国に嫁入りの準備期間としてやって来てから散々嫌がらせを受けた。 小国からやってきた王女を見下していた。 極めつけが、周辺諸国の要人を招待した夜会の日。 ベスフィエラに用意されたドレスはなかった。 いや、侍女は『そこにある』のだという。 なにもかけられていないハンガーを指差して。 ニヤニヤと笑う侍女を見て、ベスフィエラはカチンと来た。 「へぇ、あぁそう」 夜会に出席させたくない、王妃の嫌がらせだ。 今までなら大人しくしていたが、もう我慢を止めることにした。

婚約破棄されたので、契約不履行により、秘密を明かします

tartan321
恋愛
婚約はある種の口止めだった。 だが、その婚約が破棄されてしまった以上、効力はない。しかも、婚約者は、悪役令嬢のスーザンだったのだ。 「へへへ、全部話しちゃいますか!!!」 悪役令嬢っぷりを発揮します!!!

え?私、悪役令嬢だったんですか?まったく知りませんでした。

ゆずこしょう
恋愛
貴族院を歩いていると最近、遠くからひそひそ話す声が聞こえる。 ーーー「あの方が、まさか教科書を隠すなんて...」 ーーー「あの方が、ドロシー様のドレスを切り裂いたそうよ。」 ーーー「あの方が、足を引っかけたんですって。」 聞こえてくる声は今日もあの方のお話。 「あの方は今日も暇なのねぇ」そう思いながら今日も勉学、執務をこなすパトリシア・ジェード(16) 自分が噂のネタになっているなんてことは全く気付かず今日もいつも通りの生活をおくる。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

妹のことを長年、放置していた両親があっさりと勘当したことには理由があったようですが、両親の思惑とは違う方に進んだようです

珠宮さくら
恋愛
シェイラは、妹のわがままに振り回される日々を送っていた。そんな妹を長年、放置していた両親があっさりと妹を勘当したことを不思議に思っていたら、ちゃんと理由があったようだ。 ※全3話。

処理中です...