【完結】公爵令息は前世での関係は恋人同士だと告げて迫って来たけど、僕は男だよ?

アノマロカリス

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第四話 確認

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 僕は翌日、ロマンス小説の出版社である、アンジェリーナ商会を尋ねた。
 アンジェリーナ商会は、王都に本店がある商会で、その支店は全国にある。
 勿論、ロマンス小説を出している出版社はアンジェリーナ商会だけでは無いが、全国に出版されているロマンス小説の3分の2は、アンジェリーナ商会が仕切っているのだった。

 「初めまして、ファーランス伯爵家令息のカインと申します。 この度は面会を許可して頂き、有難う存じます。」
 「これは御丁寧にカイン卿、今日はどの様な御用で御座いましょうか?」

 僕と面会をしている女性は、ロマンス小説の編集を行なっている編集長のマテリア女史だった。

 「実は、先日の公爵家の婚約披露での話は御存知でしょうか?」
 「アベル公爵令息が婚約破棄を行い、男色の趣味を露わにしたという話ですよね?」

 「はい、その事なのですが… アベルは以前、元婚約者のマリア嬢から恋愛について学べと言われて、ロマンス小説を読み漁ったという話で…」
 「その事なら存じていますわ、スチュアート公爵家から我が商会に問い合わせがありまして、現段階で出版されている全種類のロマンス小説を屋敷に届けよ!という注文を戴きましたから。」

 「その中に、前世で平民の青年と貴族の令嬢が生まれ変わり、現世で出会うという様な内容の小説は有りませんでしたか?」
 「そうですね… 私の知る限り輪廻転生の話は幾つかありますが、平民の青年と貴族の令嬢というのはありません。 王子と平民に娘という設定が殆どですから。」

 だとすると、アベルの話していた内容は妄想では… いや、アンジェリーナ商会以外にも出版社はある。
 僕はマテリア女史に礼を言って、アンジェリーナ商会を後にした。
 次に向かった出版社は、ガーデニア商会だった。
 そこでも収穫は得られず、その他5件の出版社をあたったが収穫は無かった。
 この国にある出版社は全て回ったので、残りの出版社は他国にあるので手が出せなかった。
 だけど…もしかしたらと思い、黒貢堂という菓子屋の紅芋ケーキを購入して、クライネート侯爵家のマリアを訪ねた。

 案の定… マリアは荒れていた。
 部屋に入って僕の買って来たケーキを受け取ると、カロリーとかを一切気にせずに1ホールを完食してから2ホール目に手を出していた。
 念の為に3ホール買っておいて正解だった。
 食べ終わると、アベルの愚痴が始まり…
 怒って愚痴、泣いて愚痴、また怒って愚痴…
 愚痴を吐き出し終わったのは、空が赤く染まる頃だった。
 マリアは喋り疲れてお腹が空いたのか、3ホール目に手をつけていた。

 「マリアに聞きたいんだけど、マリアの持っているロマンス小説で前世は平民の青年と貴族の令嬢で、生まれ変わって現世で出会うという話は無かった?」
 「アベルの言っていた話ね… 残念だけど無いわ、そんな話。」

 「実は昨日僕は、その内容の夢を見たんだけど、僕は貴族の令嬢だったんだけど… 身に付けている物が…ドレスがね、100年程前の帝国のドレスに似ていてね。 名前は聞こえなかったけど、確かにアベルと言った内容の夢だった。」
 「なら、アベルの言った通りに貴方達は前世で恋人同士だったんじゃ無いの? おめでとう!」

 「でも、アベルの話で腑に落ちない点が1つあるんだ。」
 「何よ?」

 「アベルの話では、僕らは前世では恋人同士だと言った。 なら何故、前世での恋人の名前を言わないんだろうと…」
 「言われてみたらそうよね? 普通なら君は貴族令嬢の○○だったとか言うわよね?」

 「それでね、僕は帝国の何処の地域かわからないけど、訪ねてみようと思うんだ。」
 「急な話ね、何かあったの?」

 「昨日、僕が寝ている時にアベルが僕の部屋に侵入して来て、辱めを受けたんだけど…」
 「何をされたのよ?」

 「まぁ、それは置いといて、アベルが侵入してきた場所が謎なんだ。 玄関からは訪ねて来なかったと言うし、窓も鍵が掛かっていた。 メイド達が部屋を捜索したけど何も見付からなかったって。」
 「なら、家も決して安全では無いわね。 解ったわ、なら私も行くわ!」

 「駄目だよマリア… 帝国ではこの国の貴族位は意味が無い。 平民として扱われるんだよ!」
 「まっかせなさい! 普段から平民と接しているから、平民の心構えは出来ているわ!」

 僕とマリアは、互いの両親に事情を話して帝国に向けて旅立った。
 この国の間は馬車で移動する事にした。
 帝国まで10日程…
 カインとマリアにとっては、子供の頃以降の大冒険の予感がしていた。

 ………一方その頃………
 
 王宮内では大変な事が起きていた。
 アベルが好きな人と一緒になれないのであれば、爵位を捨てて平民になると言い出したのだ。
 セシル王もオルテガ卿も頭を悩ませた。
 アベルは本気だった…
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