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第三章

第二十一話 これって…小屋なの?・後編

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 俺には、厄介事を引き込む…呪いでもあるのだろうか?
 魔物と出遭うエンカウントが、著しく多い気がした。
 船に乗れば大ダコが現れたり、街道を歩いていれば相手の恐怖する姿の犬に遭うし、オークという豚に集団に出くわしたりと、厄介毎には事欠かなかった。
 でもまぁ、この程度なら特に問題を感じなかった。
 辺境の山が見えて来たと思っていたら、俺達の目の前にバカでかいドラゴン…の様な巨大なトカゲが現れるまでは。

 「兄貴が、逃げて下さい‼︎」
 「ズィガン、これはドラゴンなのか?」
 「ドラゴンといえば、それに近い魔獣ですね。コイツはアーマーリザードという魔獣で、硬い鱗に覆われていて…防御力の高さで言うなら、ロックゴーレムよりも遥かに硬質な鱗を持っていて、武器も一切効かないんです。」

 ズィガンとロンデルは、アーマーリザードの前に立ち塞がって、注意を向ける為に音を鳴らして呼び込んでいる。
 バンザとデリックスは、俺達や他の冒険者達や行商人の馬車を逃す為に誘導をしていた。

 「兄貴とは、ここでお別れです。ここは俺達が命を懸けてでも……絶対に阻止して見せますから‼︎」
 「ルーミィ、1人で馬車を操作して逃げれるか?」
 「テルヤさん、まさか…アーマーリザードに立ち向かうつもりですか⁉︎」
 「これからの生活上、ズィガン達を死なせるわけにはいかないんだよ。」

 俺は運転席をルーミィに変わると、俺はズィガン達に合流した。

 「兄貴…なんで‼︎」
 「お前達に死なれては困るんだよ。これから色々と仕事を頼んで、コキ使おうと考えていたんだから…」
 「兄貴、ズィガンの決意を…」
 「それにお前達だけだったら犬死にする可能性が大きいが、俺が加われば…幾らか生存率も上がるだろ?」

 …と言ってはみたものの、目の前にいるアーマーリザードは、今迄に戦って来た奴等と桁が違う。
 ズィガンはドラゴンでは無いと言っていたが、巨大なトカゲという意味では、ドラゴンと大差ない様に見える。
 まぁ、俺はまだ…この世界でドラゴンには会ってはいないがな。

 「オレ達が奴を引きつけますので、その隙に兄貴は…」
 「まだそんな事を言っているのか……いや、待てよ?ズィガン、精々派手な音を鳴らして引きつけておいてくれ。」
 「分かりました。」

 ズィガンのパーティーは、盾に剣を打ち付けながら走り出した。
 アーマーリザードは、その音に目線を向けて追い掛け始めた。
 俺はその隙に、アーマーリザードがズィガンに向かって通る道筋を予測した。
 すると、その道筋に高台があるので、俺はそこを目指して走ったのだった。

 「流石に、人の足と巨大生物の歩幅は違い過ぎるな…」

 アーマーリザードは、ズィガン達を狙って噛みつこうとしたが、ズィガン達はその場で散会して攻撃を躱した後に再び集まって逃げるという事を繰り返していた。
 俺はその隙に、高台によじ登って行く。

 「ズィガン達は、随分と連携を取れているな。流石にパーティーと呼べるだけの事は……ロンデル、左に躱せ‼︎」

 アーマーリザードも馬鹿ではなかった。
 ズィガン達の動きを読んで、そこに攻撃を加えようとしていた。
 幸い…ロンデルは、俺の声にいち早く気づいて攻撃を避ける事が出来た。
 …が、アーマーリザードは仕留められなかった事に悔しさを感じたのか、背後を振り向いてから俺を睨んだのだった。

 「これは、ちとまずいな。側面から狙おうと思っていたが、この状況だと正面から向かって来るか。」

 俺は覚悟を決めた。
 鞘から刀を抜いてから、深い呼吸を始めた。
 ロザリアの時に造った玉鋼の刀は、即興の玉鋼で造った未完成品だったな。
 タコ如きで刀身が砕けたし…船の鍛冶場で造った玉鋼の刀も、ロザリアで造った時の物に比べれば、幾らかマシになってはいるが完成品には程遠かった。
 それでも、ロザリアの時の刀に比べたら…強度は増していると思うが、アーマーリザードには荷が重いかもしれない。

 「さてと、極力は秘技や奥義無しで倒せれば良いんだがな。」

 俺が使う紅蓮院流は、通常技・秘技・奥義・秘奥義が存在する。
 通常技に関しては、特に身体に対する反動は来ない…が、秘技や奥義などは、重症に近い反動が来る恐れがある。
 紅蓮院の血筋の者達だと、身体に反動が来るという事はないらしいが…?
 門下生の場合は、秘技や奥義を使う際には…それなりのリスクを背負うから覚悟をしろと言われた。
 実際に俺も、そんな事はないだろう…なんて考えて、奥義を使用した事があったが…?
 利き腕の右腕に亀裂骨折が起きた事があってから、無闇に秘技や奥義を使う事は辞めた。
 …のだが、流石にこんなのが相手だと、そんな事は言ってられない。
 まぁ、命を失う事に比べたら…腕がどうなろうが安い物だと思う事にしよう。
 それにしても、神様はこの状況を見て………は、いないだろうな。
 神様達からすれば、メインの活躍を見るとしたら、勇者の方だろうし。
 与えられたスキルはしょぼいし、こんな試練じみた奴と戦わされるし、神様達は恐らく…俺にあまり期待をしていないんだろう。

 「兄貴、済まない‼︎…奴がこっちに見向きもしなくなった。」
 「仕方が無いさ、お前達はよくやった!俺が致命傷を与えてみるから、とどめは任せるぞ。」

 …と、カッコ良く言ってはみたが、実際に致命傷を与えられるかどうかなんて分からない。
 そうしている間にも、アーマーリザードは刻一刻とこちらに近付いてくる。
 俺は大きく息を吸ってから、少しずつ息を吐いて身体中に力を溜めていた。
 そして、アーマーリザードが数mの位置に来て、口を開けて俺を喰らいに掛かって来ていた。

 「紅蓮院流剣術、秘技……牙連双刃斬・顎‼︎」

 牙連双刃斬・顎は、上から袈裟斬りをしてから、返す刃で下から逆袈裟斬りをする技だ。
 袈裟斬り自体は難なく入るのだが、逆袈裟斬りの返しの時に肘と肩にかなり負担が来る。
 アーマーリザードは、俺の動きがない物だと思って喰らえると思っていたので、袈裟斬り時に左眼から鼻の付近を斬り込まれ、返す刃で顎から右眼を狙えると思っていた。
 だが、アーマーリザードも簡単にやらせてくれる訳ではなかった。
 技の発動で、右手の攻撃が来ているのに気付かずに……俺はかなりの距離を吹っ飛ばされて、岩に激突した。
 その際に、脇腹に嫌な音と起き上がろうとして身体に力を入れると、激しい痛みが身体全体に響いたのだった。
 
 「腕は……咄嗟に左腕で庇ったから、折れてはいないが違和感があるな。それよりも、アバラが数本やられたか。」

 アバラが折れているのならそれ程痛みは感じないが、身体全体に激しい痛みが広がる事を考えると、ヒビが入っているな。
 俺はアーマーリザードを見ると、中途半端に攻撃を入れたものだから……怒り狂って、こちらに向かって来ている。
 こんな状態では、すぐには動けない。
 俺は本当に覚悟を決めて言った。

 「今迄ありがとうな、ルーミィ、ズィガン、ロンデル、バンザ、デリックス…それとブルーボ………楽しかった。」

 俺は体勢を立て直してから刀を構えた。
 そして大きく呼吸をしたのだが、アバラのヒビが響いていて、上手く呼吸が出来なかった。
 だが、無理矢理にでも呼吸を再開して、身体中に力を溜めた。
 
 「師匠……言い付けを破ります!お許し下さい。」

 アーマーリザードの顔が今にも近付いてくる…俺は最後の力を振り絞って、大きく振り被った。
 もう、小細工的な技を放てる余裕も猶予もない。
 俺は奴の攻撃を受けつつ、この技に全てを賭けるつもりでいた。
 だけど………?

 「やめてーーーーー‼︎」

 声がした方に視線を向けると、ルーミィがこちらに向かって走って来ていた。
 俺は、最後まで約束を守る事が出来なかったと、心の中で詫びる事にした。
 だが、ルーミィは眼を開いて何やら呟いていると、次に身体中から光を放出した。
 その所為で、ルーミィが被っていた認識阻害用の帽子が脱げて、周囲にルーミィがハーフエルフという事が知れ渡ると思って焦った。

 『大地の精霊に願い奉る、大地を司る精霊獣………ガイアタイタン、召喚‼︎』

 ルーミィがそう叫ぶと、アーマーリザードの真下にある地面が盛り上がり、そこからアーマーリザードと同等の大きさの巨人が現れたのだった。
 そしてルーミィが命じると、巨人はアーマーリザードの顔面を右フックで殴った後に、飛び上がってから全体重をを掛けたボディプレスを、アーマーリザードの背骨目掛けてお見舞いをした。
 だが、突然…その巨人は、透けた感じになって消えていった。
 ルーミィの方を見ると、地面に倒れて荒い呼吸をしていたのだった。

 「あんな小さい体で無理をしやがって、だが…ありがとうな!後は俺の役目だ。」

 アーマーリザードは、必死に起き上がろうと足掻いていた。
 だが、ボディプレスで背骨を怪我したのか、上手く起き上がれずにいた。
 俺はアーマーリザードに近付いて行き……頭の近くまで寄った。

 「これで最期だ!紅蓮院流剣術…奥義・残魔烈空斬‼︎」

 俺は飛び上がってから大きく振り被って、アーマーリザードの首を斬り落とした。
 …が、流石に奥義は無理が祟ったのか…刀身が砕け散った。
 それと同時に、全身に雷が広がる様な痛みが広がり……俺も意識を失う様に倒れたのだった。

 ~~~~~数十分後~~~~~

 俺は目を覚ますと、ルーミィが左手を握って泣いていた。
 別に俺は死んではいないのに、なんでこんな扱いをされているのかと思って身体を見ると、添え木を当てられて包帯が巻かれていた。
 だが、添え木が当てられて包帯に巻かれているのは、何も体だけという訳ではなく、右腕も同じ様にされていたのだった。

 「俺は……なんでこんな姿をしているんだ⁉︎」
 「兄貴、喋っても平気なんですか?」
 「あぁ、特に痛みを感じている訳ではないからな。」
 「それは、麻痺茸の所為ですね。麻痺で身体が痺れているので、痛みを感じていないんです。」
 「そうだよテルヤさん、麻痺が無かったら……多分、痛みで騒ぎまくってるよ。」

 俺はそう言われて身体を確かめようとして右腕を見た。
 右腕は、肘から下の関節が変な方向を向いていた。
 あぁ、これなら痛みで発狂してもおかしくは無いか。
 
 「兄貴、もう少しお待ち下さい。先程、避難させた行商人の護衛の冒険者の中に、ヒーラーがおりましたので、回復を頼もうと思っています。」
 「あぁ、それはありがたい…が、ブルーボ、上級ポーションを出してくれないか?」
 「テルヤ殿よ、上級ポーションとて…怪我が完治するという訳ではありませんよ。」
 「ある程度治れば、後は自然に治すさ。肉を喰って寝ていれば、身体は完治するさ!」

 …と、冗談を言ったつもりだったんだが、皆は呆れた顔をしていた。
 俺はアーマーリザードの方を見て思った。

 「なぁ、ズィガン…これって喰えるのか?」
 「まぁ、喰えますね。アーマーリザードは、美食家に人気な食材なんですが……討伐ランクが高過ぎて、騎士団が攻城兵器を用いて討伐するというくらいじゃないと、とてもじゃ無いですが倒せないんですよ。」
 「ふむ、なら……他の皆が来るまでに、このアーマーリザードを解体しておいてくれ。ズィガン達も疲れている所…申し訳無いが。」
 「いや、オレ達は疲れてはおりませんので、やらせて貰います!」

 ズィガン達は、アーマーリザードを解体する事にした。
 …が、あまりの大きさに人数が足りないみたいで戸惑っていると、行商人達が戻って来て、皆が加わって解体もスムーズに済む事が出来ていた。

 「兄貴、これだけの量をどうするんですか?」
 「半分はここに居る者達の今夜の宴会用にして、残りの半分は……行商人に渡そう。首を長くして待っている村人達にもお裾分けをしておきたいしな。今後はご近所さんになるかも知れないんだし。」
 「はぁ……兄貴って、本当に大物っすね。」
 「それで兄貴、ツノやウロコは如何するんですか?」
 「アーマーリザードの討伐証明部位はどこだ?」
 「一応……ツノですね。ただ、ウロコなどは防具に加工出来るので、高値で取り引きされます。」
 「ですが、この大きさですからね。空の荷馬車でも無い限り…運べる量では無いんですよ。」

 俺はブルーボに、マジックバッグを出す様に伝えると、ブルーボは自分の鞄からマジックバッグを2つ取り出した。
 俺はその2つをズィガンとロンデルに渡した。

 「兄貴……これは?」
 「マジックバッグだ。容量は荷馬車1台分くらいの…」
 「見れば分かります。」
 「これを渡すから、俺からの依頼で…採集や採掘品を回収するのに使ってくれ。」
 「「「「は?」」」」

 ズィガン達は、呆けた顔をした。
 普通はマジックバッグの様な高級品を、他人に渡したりしないからだ。

 「あの、兄貴……オレ達がそのままパクってバックれるとか、考えないんですか?」
 「そんな事を考えていたのか?」
 「いえ、あくまでも…です。それ位にマジックバッグは高級品なので…」
 「もしもそうなったら、俺の見る目がなかったと思って諦めるさ。」
 
 俺はそう言うと、ズィガンは首を横に振ってから…

 「いえ、兄貴に対してそんな事はしませんよ。ただ、人を平気で裏切る奴も居るという事を覚えておいてくださいという忠告です。」
 「分かった。」

 俺はそう返事をすると、ルーミィと行商人達はアーマーリザードの調理を始めた。
 ズィガン達は、マジックバッグにアーマーリザードのウロコを詰め込んでいた。
 全ての仕事が終わった後に、俺達はアーマーリザードを食べてみた。
 あの見た目から想像ができない位に、脂が乗っていて美味い肉だった。
 食感的には、アメリカのステーキみたいな噛みごたえのある肉という感じだった。
 …というか、トカゲの肉って初めて食べるが…?
 こんな味がするんだな。
 この日は、皆には酒が振る舞われたのだが…?
 俺は怪我の所為で、酒はお預けを喰らったのだった。

 そして翌日……
 とうとう俺達の旅が終わりを告げる事になった……というには気が早いか。
 行商人達が向かう村が見えたのだ。

 「村は見えたが、あそこまでが遠いんだよなぁ。」

 俺はヒーラーの回復魔法で、痛みはかなり引いた……が、怪我が完治した訳ではなかった。
 刀も無いし、再び造る時までに…完治していると良いんだがな。


 ~~~~~その頃、神界では~~~~~

 神界では、大変な事が起きていた。
 ライゼン王国内の火山にいる魔王ドライゼンの幹部にドラゴンに、地球から勇者として召喚された高校生の1人の…水洗寺すいせんじ 聖琉せいりゅうが幹部にドラゴンに敗北をしたのだった。
 幸い…敗北しただけで、殺された訳ではなかった。
 だが、敗北をする際に恐怖心も植え付けられたみたいで…?
 それ以降は、戦う事自体を怖がってしまい、戦意喪失になってしまったのだった。
 戦えない者をいつまでも置いておくわけにはいかないと思った神達は、至急…その水洗寺聖琉を日本に送還したのだった。
 だが、日本に送還された勇者は、彼だけでは無かった。
 別にもう1人…魔王との戦いで敗北をし、殺された者もいたのだった。
 その者は、こちらの事情で呼び出してしまった為に、送還はそのまま返した訳ではなく、蘇生させて送還させた。
 残りの勇者は3人。
 この時代の神達は、今までに召喚した勇者達の弱体化に頭を悩ませていた。

 「残りの3人は、大丈夫なんでしょうね?」
 「残った彼等は、中々に責任感も強いですし、芯も強いので問題は無いかと。」
 「残りの勇者達で頑張ってもらうしか無いですね、ですが…如何しましょう?」
 「あ~~~ちょっと良いかのぅ?」

 悩んでいる神達に老神は話した。

 「たった今、在園寺瑛夜君がアーマーリザードを倒したぞい。」
 「在園路……爺のお気に入りの方ですよね?それにしても、アーマーリザードですか…」
 「アーマーリザードは、グリーンドラゴンに匹敵する強さを誇るのに……確かこの彼は、勇者達の様なスキルは与えられておりませんよね?」
 「勇者達の様なスキルが無くて、アレを倒せるだなんて…」

 以前の老神では無いが、ここまで多い勇者の敗北を考えると…?
 自分達も人選を間違えたのでは無いかと、思い始めるのだった。

 「サテラート、送還した勇者の力……その一旦を、在園路瑛夜君に貸す事は出来んかのぅ?」
 「そうですね、今となっては勇者も不在ですし……力を貸す事はやぶさかではありません。」

 男神サテラートは、自分のスキルを下界にいるテルヤに届けたのだった。
 こうして、テルヤは新しいスキルを得る事に成功した。
 そのスキルは、使用回数がMAX状態のスキルなのだが、攻撃に関する物ではなかった。

 果たしてテルヤは、一体何のスキルを与えられたのだろうか?
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