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第二章

第十話 旅のお約束…・前編

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 俺は現在、豪華客船…という程ではないが、割と大きな客船に乗っている。
 そして、何故俺が南東のレクシアード大陸を目指しているかというと?
 この世界の南の方面は、割と気温が高い土地で…季節によっては、灼熱の様な気候になる場所だそうだ。
 ただ、数十年に1回だけ…天候が乱れる時があって、その時には季節外れの大雪が降るという話だった。
 でも、その数十年が去年に起きたという事なので、次の数十年は大雪に見舞われる事は無いという話だった。

 「俺南国に行きたいのは、寒いのが大の苦手だからだ‼︎」

 鍛治職人で工房務めの俺は、寒さとは全く無縁と感じるくらいに、灼熱の温度の中で鍛治仕事をしている。
 俺は寒いのは滅法に弱いが、暑いのは…熱湯とかじゃなければ耐えられるのだ。
 だから、南東大陸のレクシアード大陸を目指しているのは、そういう理由があったからだ…というのと、宿に居た客からの情報を仕入れたというのもあった。
 
 「話を聞く限り、人気が高そうな南国リゾートという感じなので、人気が高いと思っていたが……それにしては、乗っている客員数が少ない感じがするんだが?」

 レクシアード大陸は、大変人気のある南国リゾートなのだが、そこに行くまでの航路が凄く不人気で…この時期はあまり船に乗る乗客は居なかった。
 その理由は、翌日になると分かるのだった。

 ~~~~~翌日~~~~~

 俺は衝撃で目を覚ますと、そこは床だった……って、床にこんな大きい突起物は無かったはずだが?
 …なんて思っていると、今度は床から落下してベッドに激しく直撃した。

 「いててて…一体何なんだ‼︎」

 先程まで床だと思っていたのは、実は天井だった。
 レクシアード大陸までの航路は、海が荒れると聞いていたが…?
 まさか、ここまで酷いとは思わなかった。

 「なら、何でベッドは…?」

 俺はベッドの下を見ると、ベッドは床とボルトで固定されていたのだった。
 だからベッドが飛んでいくということはなかった。
 更に、ベッドの横の壁にプレートが固定されていて…?

 【艦内放送の後は、ベッドに備え付けられているベルトを装着してお休みください。】

 …と、書かれていた。
 艦内放送って、そんな物が流れたっけ?
 俺は昨日の寝る前を思い出す。

 「確か昨日は、成長促進数○倍を成長させる為に…これからはどうせ寝るんだからと、MPの限界ギリギリまで使用して、気を失う様に意識を失ったんだっけ?」

 艦内放送が何時に流れていたか迄は、正直言って覚えてない。
 まぁ、俺が気絶した後に流れたんだろう。
 しかし、参ったな…これが後どれくらい続くんだ?
 俺はベッドに備え付けられているベルトを装着した。

 「しかし、帆船なら分かるが…客船で普通、ここまで激しく揺れるもんかね?」

 窓から外の様子を探ると、まるで海の中にいるみたいな感じだった。
 …って、どう考えてもおかしい。
 俺の部屋は、3階にある部屋だからだ。
 
 「まさか、沈んでいるんじゃ無いだろうな?」

 冗談で思った事が、実は当たっていたりしていた。
 現在、この客船は…巨大なクラーゴン(大ダコ)の腕が客船に絡み付いて、海に引き摺り込んでいるという放送が流れて来たのだった。
 更に、こんな放送が追加で流れて来た。

 「客室にいる冒険者様にも通達致します。このままでは、この客船はザザーザー…で、沈む可能性が有ります。展望フロアで対抗しますので、協力を要請致し……ザザーーー」

 これは…かなり深刻そうだな。
 だが、こうも揺れていると…通路に出ても、碌に進めないんじゃ無いか?
 それにしても、こう言った船旅のお約束は…普通は勇者とかに起きるんじゃ無いか?
 俺はレベルが上がっても、多少のステータスが上昇するくらいで、大幅にアップすることはないんだが…?
 以前に老神とこんな話をした。
 
 「この世界では、魔物を倒すとレベルが上がり…ステータスがアップするんじゃ。」
 「あぁ~~~、ゲームでよくある奴か。俺は勇者と関係ないが、それでも上がるのか?」
 「う………どうなんじゃろう?」

 老神は、異世界で八神とは別の神である時空神スヴァイトスを呼び出した。
 この時空神スヴァイトスは、この世界のレベルとステータスを管理する神だという。

 「…という訳なんじゃが、勇者や聖女という役割以外の異世界召喚で呼び出した異世界人は、レベルが上がった時にステータスがどう変化するのかを…」
 「ふむ、それは我にも分からんな。」

 時空神スヴァイトスは、俺に向けて杖を構えた。
 すると、杖の先から光の玉の様なものが出て…俺の身体の中に入って行った。
 
 「えーっと、今のは?」
 「これで、レベルが上がったはずだ。ステータスボードと叫んでみろ。」

 俺は言われた通りに叫ぶと、俺のステータスが表示された。
 すると、両脇に老神と時空神スヴァイトスが、俺のステータスを覗き込んだ。

 「今の光は、レベルを1つだけ上げるものだったんだが……戦闘系じゃないと、ステータスはレベルアップ時に大して上がらんな。」
 「そうじゃな、1しか上がっておらん。」
 「もしかして俺は、大器晩成型か?最初は乏しくて、後から……」
 「いや、それはないな。何処までレベルが上がっても、こんな感じだろう。」

 俺はその言葉を聴いて、愕然としてしまった。
 この世界に異世界召喚されて呼び出された、勇者や聖女といった類なら…爆発的なステータス上昇と新たな何かを覚えるらしいんだが…?
 俺はレベルが上がってもステータスは碌に上昇せず、新たな何かを覚えることもないという。
 いや、分かっていたよ………でも、少しくらい夢をみても良いじゃないか!
 鍛治士が呼ばれたけど、実はチート持………いや、虚しくなるからやめよう。

 ………こんな感じで、こういったイベント事は…勇者が旅をしている時の大量経験値入手のイベントだろう。
 そんなイベントが、なぜ俺の身に起きる⁉︎
 俺は通路や階段を経て、屋上の展望フロアに着いた。
 すると目の前に…巨大な赤いタコの足が絡み付いていた。
 
 「確かにこんなのが絡み付いていたら、客船だって無事には済まないだろう……って、他の乗客は居ないのか?」

 俺は辺りを見渡したが、他の乗客や冒険者の姿は見当たらなかった。
 まさか逃げ……いや、船旅用の護衛の冒険者もいるよな?
 
 「まさか、この状況に対処していた護衛の冒険者は、真っ先にやられたからの救援放送だったのか?」

 周りを見ても人影がないところを見ると、その通りだろう。
 それに、この時期は潮の流れがとても激しいという事で、乗客の数も普段に比べると格段に少ないという話だった。

 「これって………協力者は居るのか?」

 幾ら待っていても現れる気配は無い。
 …となると、俺が対処をしなければならないということか。
 まぁ、目の前に居るのがクラーケンじゃ無いのなら、大して問題はない。
 タコの足は足全体が筋肉の塊だが、イカと違って…足が切れても生え変わるという特異体質だ。
 その為に、任意で足を切り離すという事が出来る。
 任意で切り離せる足は、途中から使い物にならないと、任意で切り離せられる事があるという話なので…?
 俺のやる事は、別に足を切り飛ばす必要は無く、足の半分以上を使い物にならない様に損傷させれば良いだけだった。

 「…とは言ってもなぁ、足の太さが巨木の様な太さなんだが…?」

 まぁ、大型客船に巻き付けられるほどの足が、細い訳が無い。
 この足に半分以上を使い物に損傷って、かなり無茶過ぎる。
 
 「足の太さが右に行くにつれて太くなっている訳だから、この先が頭か。だとすると、頭は…海の中か!」

 このクラーゴンは船底に張り付いてから、足を伸ばして船を海に引き込もうとしている。
 まぁ、巨大な物を襲うのに、弱点である頭は晒さないか。
 タコの足は、イカの足と違って…足全体に神経を張り巡らせているわけでは無いので、その足を傷付けると…他の足の応援をする為に呼び寄せるという事はない。
 それ位に、タコとイカの足は性能が違うのだ。

 「この足を使い物にならない様に損傷するって…かなり骨が折れそうだな。だが、このまま放置していると、船が海に中に引き摺り込まれるしな。」

 やはり、幾ら待っても…誰かが助けに来てくれる様子は無かった。
 俺は密かに期待をしていた。
 もしかしたら、俺と同じ世界から異世界召喚されたこの地域担当の勇者が騒ぎを聞き付けて助けに来てくれるかも…と。
 だが、そんな事も無かったところを見ると勇者に与えられたチートスキルは、魔王専用であって、そこまでの性能は無いんだろう。

 「現実逃避していても仕方が無いか、久々にアレをやってみるか…?」

 俺は靴を脱いで裸足になってから、クラーゴンの足の前で足を踏ん張った。
 そして身を低く構えて、以前に習っていた居合道の技を放つ事にした。

 「紅蓮院流抜刀術………水麒水月斬‼︎」

 鞘から抜いた刀を逆風から唐竹に向かって斬り上げた。
 すると、この太さで筋肉の塊かと思われたクラーゴンの足が、呆気なく斬り飛ばす事に成功したのだった。

 「あれ?意外に脆いのか、この足……」

 技の効果も影響しているかもしれないが、だからと言って…こんなにあっさりと斬り飛ばせるとなると、このクラーゴンの足は…思った程の筋肉質というわけでは無いらしい。
 …とは言っても、まだ1本目。
 他の足もやらないと行けないよな…?
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