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第一章
第六話 決戦の日…
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遂に…決戦の日になった。
実家の鍛治工房にいた時に比べて、刀も包丁も満足が行く出来には程遠かった。
玉鋼は完成はしたが、満足のいく物になる為に2週間費やした。
…が、純度が低くて胸を張れる物にはならなかった。
良質では無いが、粗悪品でも無い……至って普通な感じだった。
そして刀と包丁も、玉鋼で造った割には…満足の行く完成品には至らなかった。
「これ……勝ち目はあるのだろうか?」
全てが悲観的な状況だが、良い事もあった。
あるスキル回数が、3桁を越えた事だった。
玉鋼製作時に、眠気を飛ばす為にスキルについて色々考えていた。
すると、こんな事を思い付いたのだった。
それは、成長促進数○倍を使用して、成長促進数○倍を使うという方法に。
老神から聞いたのだが、成長促進数○倍がランクアップすると…?
確率が5000分の1という半分の確率になるという話だった。
そして、成長促進数○倍の使用MPは、僅か2ポイント。
2回使用しているので、合計4ポイントだが…?
眩暈を起こすまでのMP30以下になるには、合計で約17回使用できる。
俺はそれで使用をし続けていると、何回目だかは分からないが…17回を使用した後にステータスボードのスキルの回数欄を確認すると、成長促進数○倍の倍率が100回を発動していたみたいだった。
なのでその時の使用回数は、117回。
3桁を越すと、少し嬉しくなった。
だけど、次の残りのランクアップの回数は、9,883回…
成長促進数○倍のランクアップをする為の回数は、他のスキル回数に比べて破格だった。
「だけど現在の残りの使用回数は、後5,800回くらいなんだよな。」
1万分の1の確率の成長促進数○倍だったが、どこかで数千倍が連続で発動したみたいだった。
その為に、残りが5,800になったという訳だった。
そして更に、使ったMPを寝て回復すると…MAX MPが110に上がっていたのだった。
回復して、1じゃなくて本当に良かった。
なので現在の最大MPは、180になっていた。
そして俺は決めた!
他のスキルの成長は、この成長促進数○倍の確率を上げてから考えると。
そうすれば、ガンガンと使用回数が稼げる筈という事に…!
チートスキルの類は全く無いと思っていたが、まさかこんな抜け道があるとは思わなかった。
これもある意味、チートスキルと言っても過言では無い………と思わないとやっていられなかった。
「さて、決戦場に出向くとしますか!」
俺は、刀真打ちと包丁真打ちを持って、決戦場である工房街の中心の広場にやって来た。
そこには、審判役であるギムルテッドと、対戦相手のバルド兄弟、そして屈強な戦士に様な男がいた。
何故、こんな男がいるかと言うと?
刃当てのやり方は、冒険者ギルドの戦士が選ばれるという話だった。
冒険者ギルドの戦士なら、あらゆる武器に精通しているし、鍛治職人達もその技術は認めているという話だった。
「さて、これからバルド兄弟とテルヤ=ザイエンジの勝負を開始する。習わしにより、先行はバルド兄弟とする。」
ギムルテッドがそう宣言すると、バルド兄弟がグレートソードを冒険者ギルドの屈強な戦士に渡した。
そして俺は刀を鞘から抜いて、金床台にセットをした。
すると、周囲に居た観客達は一斉に笑い出した。
更に、バルド兄弟や冒険者ギルドの屈強な戦士も笑い出した。
「何だ貴様、散々我らの事を侮辱した癖に…造って来た物がそんなに薄い物だとわな!こんなんでは、もう勝負は見えているだろう。」
「そうだな、恥をかく前に…さっさと敗北を認めたらどうだ‼︎」
バルド兄弟は自分達に絶対的な自信を持っている様で、俺を小馬鹿にして笑って来た。
そして冒険者ギルドの屈強な戦士も…「触れた瞬間に、ポッキリ折れそうだ…」と揶揄して来た。
普段の俺なら、こんな挑発めいた言葉に反応をする事はないのだが?
今回だけは流石に頭に来て、言い返したのだった。
「何でも太けりゃ良いというわけではないだろ。お前等こそ、恥をかく前にさっさと敗北を認めたらどうだ?知っているか、敗北する奴ほど…饒舌に吠えるという話をな。」
「「あぁ!何だと⁉︎」」
バルド兄弟が叫び、周囲が静かになった。
それだけバルド兄弟の叫び声が、凄まじい音量だった。
「では、勝負を開始する。デグラッドよ、始めよ!」
ギムルテッドは、冒険者ギルドの屈強な戦士のデグラッドに声を掛けた。
すると、デグラッドはグレートソードを構えてから、1回転をしてから俺の刀に刃当てを行った。
周囲の観客達は、バルド兄弟の勝利を疑わなかった。
グレートソードの刀身が、宙を舞う迄は…
そしてグレートソードの刀身が地面に落ちると、ギムルテッドは勝負の終了を告げた。
「剣の勝負は………テルヤ=ザイエンジの勝利とする!」
俺は右手を高らかに上げた。
バルド兄弟と周囲の観客達は、驚きのあまり…目を見開いていた。
誰しもがバルド兄弟が勝利をすると思っていたからだった。
「だから言っただろ?太ければ良いというわけではないし、敗北する奴ほど饒舌に吠えると…」
…と、俺は偉そうな口調で言ったが…内心では結構ビクついていた。
今回の玉鋼の刀は、満足の行く完成品では無かったからだ。
「まだだ‼︎まだ、ナイフ勝負がある‼︎」
「知っているか、腕の良い職人というのは…現実を知り敗北を認めるという事だ。剣は負けたが、ナイフで勝利が得られると思ったのか?」
「な、ナイフなら…絶対に我等が勝利をする!」
俺はギムルテッドを見ると、ギムルテッドは小さく首を振った。
どうやらギムルテッドは、バルド兄弟の敗北を悟ったみたいだった。
「次はナイフ勝負と言いたい所だが、バルドよ、素直に敗北を認めた方がいいかもしれんぞ。」
「な!親方までそんな事を仰られるのか⁉︎」
「我等に敗北は有り得ない。良いから続けさせて下さい!」
「ワシは止めたからな、続けて…ナイフ勝負に移る。」
今度はテーブルを用意され、その上に金床をセットした。
俺はその金床台に包丁をセットすると、デグラッドはバルドのナイフを振り回して…俺の包丁に刃当てを行った。
すると、またもバルドのナイフの刀身が宙を舞い……地面に落ちると、ギムルテッドが勝利を告げた。
「ナイフ勝負は、勝者テルヤ=ザイエンジ!」
俺はナイフ勝負も勝利を収めた。
まぁ、刀の時点で…ナイフでは絶対に負けは無いと確信をしていたからだった。
すると、先程まで静かだった観客達の声が溜息混じりの声と、歓喜の声を上げている者達の声が聞こえて来た。
歓喜の声を上げた者達は、俺に賭けた者達なんだろうけど…倍率は幾つだったんだろうか?
俺はテーブルの上の金床台にセットした包丁を取り外した。
そしてギムルテッドの元に行くと、ギムルテッドは台に乗ってから俺の右腕を上げた。
「今回の勝負は、共にテルヤ=ザイエンジの勝利とする!それと敗北したバルド兄弟には、習わしにより街からの追放を言い渡……」
「ちょっと待て、別に追放する必要はない。俺が出ていくからな。」
「テルヤ、何を言っている?勝利者はこの街に留まって、工房での活動と販売の許可が下りるという…」
「ギムルテッド、この勝負は対等の筈だったよな?」
「無論だ。」
「なら何故、住人達はバルドを優遇し、俺は見下されなければならないんだ?」
「見下すとは?」
「俺が店に訪れると、一般の商品を隠して粗悪品ばかり売り付けられた。なので、勝利をしたからと言って、そんな奴等がいる街に留まりたいと思うか?」
俺がそう言うと、ギムルテッドは住人達を睨んだ。
住人達は、慌ててギムルテッドから視線を逸らしたのだった。
「それにしても、剣勝負の……テルヤが製作した刀というのは、本当に素晴らしいな!良く見せてはくれないか?」
俺は鞘から抜いてギムルテッドに渡した。
ギムルテッドは目を凝らして、刀身を見つめていた。
「まさか、刃当てを行ったというのに…欠けるどころか、キズすらないとは。本当にこれは鋼なのか⁉︎」
「鋼だよ。ただし、特別な製法で造られた…玉鋼という鋼だがな。」
「玉鋼………聞いた事がない名前だ。」
ギムルテッドは俺に刀を渡すと、次は包丁を見せてくれと頼んで来た。
俺は刀を鞘にしまい、包丁を渡した。
「これは……いや、これも玉鋼を使用して造った物なのか⁉︎」
「あぁ、そうだ。」
「何という事だ、ナイフに代わる切れ味の良い物が…この街で出回ったかも知れないというのに。」
「住民達からの嫌がらせがなければ、俺はこの街に留まって皆に行き渡る様に造ったかもしれないな。」
俺はそう言うと、ギムルテッドは包丁を返して来てから、ガックリと肩を落とした。
そんな姿を見た俺は、包丁を鞘に入れてギムルテッドに渡した。
「テルヤ、これは?」
「これはギムルテッドにやるよ。以前にあげた包丁と一緒に研究して、この街に包丁を広めてくれ。」
「い、良いのか‼︎」
「だが、製法に関しては教えないぞ。試行錯誤して製作してみろ。」
「感謝する。」
そして俺は、観客席にいたレフィアに包丁の影打ちの2本を渡した。
レフィアは、包丁を渡したあの日から…研ぎの発注には来なかった。
それだけ、簡素な作りとはいえ…この世界のナイフに比べて、性能が良かったのだろう。
「テルヤ様、宜しいのですか?」
「以前に渡した包丁の切れ味が悪くなった時の代わりに使ってくれ。玉鋼の包丁は、以前渡した鉄製の包丁に比べて…頻繁に研ぎは必要無いだろうが、研ぎが必要になったら、今度はギムルテッドに発注を掛けろ。」
「素晴らしい調理器具を、有り難う御座いました。」
俺がレフィアから去ると、レフィアの周りに主婦が集まっていた。
先程の勝負で見た者達は、包丁と呼ばれたナイフが如何に優れているかを目の当たりにしていたからだ。
だが、俺の元に来る者は居なかった。
観客達のは殆どは、俺に嫌がらせをして来た者達だったからだ。
「テルヤよ、お主はこれから何処に向かうんだ?」
「何処に行くかはまだ決まってない。ゆっくり旅をして、安住の地を見つけるとするさ。」
「そうか…」
俺は刀を腰に刺して、工房に戻って砥石を拝借してから、ロザリアの街を後にした。
次の行き先どころか、俺はこの世界を全く知らない。
今度は人が住んでいる場所から離れた…小屋での生活も良いかもしれないな。
そして、スローライフと洒落込みますか!
…と、テルヤは楽観的に考えていた。
移住する先を見つける前の旅が、過酷な旅になるとも知らずに。
~~~~~第一章・完~~~~~
~~~~~第二章に続く~~~~~
実家の鍛治工房にいた時に比べて、刀も包丁も満足が行く出来には程遠かった。
玉鋼は完成はしたが、満足のいく物になる為に2週間費やした。
…が、純度が低くて胸を張れる物にはならなかった。
良質では無いが、粗悪品でも無い……至って普通な感じだった。
そして刀と包丁も、玉鋼で造った割には…満足の行く完成品には至らなかった。
「これ……勝ち目はあるのだろうか?」
全てが悲観的な状況だが、良い事もあった。
あるスキル回数が、3桁を越えた事だった。
玉鋼製作時に、眠気を飛ばす為にスキルについて色々考えていた。
すると、こんな事を思い付いたのだった。
それは、成長促進数○倍を使用して、成長促進数○倍を使うという方法に。
老神から聞いたのだが、成長促進数○倍がランクアップすると…?
確率が5000分の1という半分の確率になるという話だった。
そして、成長促進数○倍の使用MPは、僅か2ポイント。
2回使用しているので、合計4ポイントだが…?
眩暈を起こすまでのMP30以下になるには、合計で約17回使用できる。
俺はそれで使用をし続けていると、何回目だかは分からないが…17回を使用した後にステータスボードのスキルの回数欄を確認すると、成長促進数○倍の倍率が100回を発動していたみたいだった。
なのでその時の使用回数は、117回。
3桁を越すと、少し嬉しくなった。
だけど、次の残りのランクアップの回数は、9,883回…
成長促進数○倍のランクアップをする為の回数は、他のスキル回数に比べて破格だった。
「だけど現在の残りの使用回数は、後5,800回くらいなんだよな。」
1万分の1の確率の成長促進数○倍だったが、どこかで数千倍が連続で発動したみたいだった。
その為に、残りが5,800になったという訳だった。
そして更に、使ったMPを寝て回復すると…MAX MPが110に上がっていたのだった。
回復して、1じゃなくて本当に良かった。
なので現在の最大MPは、180になっていた。
そして俺は決めた!
他のスキルの成長は、この成長促進数○倍の確率を上げてから考えると。
そうすれば、ガンガンと使用回数が稼げる筈という事に…!
チートスキルの類は全く無いと思っていたが、まさかこんな抜け道があるとは思わなかった。
これもある意味、チートスキルと言っても過言では無い………と思わないとやっていられなかった。
「さて、決戦場に出向くとしますか!」
俺は、刀真打ちと包丁真打ちを持って、決戦場である工房街の中心の広場にやって来た。
そこには、審判役であるギムルテッドと、対戦相手のバルド兄弟、そして屈強な戦士に様な男がいた。
何故、こんな男がいるかと言うと?
刃当てのやり方は、冒険者ギルドの戦士が選ばれるという話だった。
冒険者ギルドの戦士なら、あらゆる武器に精通しているし、鍛治職人達もその技術は認めているという話だった。
「さて、これからバルド兄弟とテルヤ=ザイエンジの勝負を開始する。習わしにより、先行はバルド兄弟とする。」
ギムルテッドがそう宣言すると、バルド兄弟がグレートソードを冒険者ギルドの屈強な戦士に渡した。
そして俺は刀を鞘から抜いて、金床台にセットをした。
すると、周囲に居た観客達は一斉に笑い出した。
更に、バルド兄弟や冒険者ギルドの屈強な戦士も笑い出した。
「何だ貴様、散々我らの事を侮辱した癖に…造って来た物がそんなに薄い物だとわな!こんなんでは、もう勝負は見えているだろう。」
「そうだな、恥をかく前に…さっさと敗北を認めたらどうだ‼︎」
バルド兄弟は自分達に絶対的な自信を持っている様で、俺を小馬鹿にして笑って来た。
そして冒険者ギルドの屈強な戦士も…「触れた瞬間に、ポッキリ折れそうだ…」と揶揄して来た。
普段の俺なら、こんな挑発めいた言葉に反応をする事はないのだが?
今回だけは流石に頭に来て、言い返したのだった。
「何でも太けりゃ良いというわけではないだろ。お前等こそ、恥をかく前にさっさと敗北を認めたらどうだ?知っているか、敗北する奴ほど…饒舌に吠えるという話をな。」
「「あぁ!何だと⁉︎」」
バルド兄弟が叫び、周囲が静かになった。
それだけバルド兄弟の叫び声が、凄まじい音量だった。
「では、勝負を開始する。デグラッドよ、始めよ!」
ギムルテッドは、冒険者ギルドの屈強な戦士のデグラッドに声を掛けた。
すると、デグラッドはグレートソードを構えてから、1回転をしてから俺の刀に刃当てを行った。
周囲の観客達は、バルド兄弟の勝利を疑わなかった。
グレートソードの刀身が、宙を舞う迄は…
そしてグレートソードの刀身が地面に落ちると、ギムルテッドは勝負の終了を告げた。
「剣の勝負は………テルヤ=ザイエンジの勝利とする!」
俺は右手を高らかに上げた。
バルド兄弟と周囲の観客達は、驚きのあまり…目を見開いていた。
誰しもがバルド兄弟が勝利をすると思っていたからだった。
「だから言っただろ?太ければ良いというわけではないし、敗北する奴ほど饒舌に吠えると…」
…と、俺は偉そうな口調で言ったが…内心では結構ビクついていた。
今回の玉鋼の刀は、満足の行く完成品では無かったからだ。
「まだだ‼︎まだ、ナイフ勝負がある‼︎」
「知っているか、腕の良い職人というのは…現実を知り敗北を認めるという事だ。剣は負けたが、ナイフで勝利が得られると思ったのか?」
「な、ナイフなら…絶対に我等が勝利をする!」
俺はギムルテッドを見ると、ギムルテッドは小さく首を振った。
どうやらギムルテッドは、バルド兄弟の敗北を悟ったみたいだった。
「次はナイフ勝負と言いたい所だが、バルドよ、素直に敗北を認めた方がいいかもしれんぞ。」
「な!親方までそんな事を仰られるのか⁉︎」
「我等に敗北は有り得ない。良いから続けさせて下さい!」
「ワシは止めたからな、続けて…ナイフ勝負に移る。」
今度はテーブルを用意され、その上に金床をセットした。
俺はその金床台に包丁をセットすると、デグラッドはバルドのナイフを振り回して…俺の包丁に刃当てを行った。
すると、またもバルドのナイフの刀身が宙を舞い……地面に落ちると、ギムルテッドが勝利を告げた。
「ナイフ勝負は、勝者テルヤ=ザイエンジ!」
俺はナイフ勝負も勝利を収めた。
まぁ、刀の時点で…ナイフでは絶対に負けは無いと確信をしていたからだった。
すると、先程まで静かだった観客達の声が溜息混じりの声と、歓喜の声を上げている者達の声が聞こえて来た。
歓喜の声を上げた者達は、俺に賭けた者達なんだろうけど…倍率は幾つだったんだろうか?
俺はテーブルの上の金床台にセットした包丁を取り外した。
そしてギムルテッドの元に行くと、ギムルテッドは台に乗ってから俺の右腕を上げた。
「今回の勝負は、共にテルヤ=ザイエンジの勝利とする!それと敗北したバルド兄弟には、習わしにより街からの追放を言い渡……」
「ちょっと待て、別に追放する必要はない。俺が出ていくからな。」
「テルヤ、何を言っている?勝利者はこの街に留まって、工房での活動と販売の許可が下りるという…」
「ギムルテッド、この勝負は対等の筈だったよな?」
「無論だ。」
「なら何故、住人達はバルドを優遇し、俺は見下されなければならないんだ?」
「見下すとは?」
「俺が店に訪れると、一般の商品を隠して粗悪品ばかり売り付けられた。なので、勝利をしたからと言って、そんな奴等がいる街に留まりたいと思うか?」
俺がそう言うと、ギムルテッドは住人達を睨んだ。
住人達は、慌ててギムルテッドから視線を逸らしたのだった。
「それにしても、剣勝負の……テルヤが製作した刀というのは、本当に素晴らしいな!良く見せてはくれないか?」
俺は鞘から抜いてギムルテッドに渡した。
ギムルテッドは目を凝らして、刀身を見つめていた。
「まさか、刃当てを行ったというのに…欠けるどころか、キズすらないとは。本当にこれは鋼なのか⁉︎」
「鋼だよ。ただし、特別な製法で造られた…玉鋼という鋼だがな。」
「玉鋼………聞いた事がない名前だ。」
ギムルテッドは俺に刀を渡すと、次は包丁を見せてくれと頼んで来た。
俺は刀を鞘にしまい、包丁を渡した。
「これは……いや、これも玉鋼を使用して造った物なのか⁉︎」
「あぁ、そうだ。」
「何という事だ、ナイフに代わる切れ味の良い物が…この街で出回ったかも知れないというのに。」
「住民達からの嫌がらせがなければ、俺はこの街に留まって皆に行き渡る様に造ったかもしれないな。」
俺はそう言うと、ギムルテッドは包丁を返して来てから、ガックリと肩を落とした。
そんな姿を見た俺は、包丁を鞘に入れてギムルテッドに渡した。
「テルヤ、これは?」
「これはギムルテッドにやるよ。以前にあげた包丁と一緒に研究して、この街に包丁を広めてくれ。」
「い、良いのか‼︎」
「だが、製法に関しては教えないぞ。試行錯誤して製作してみろ。」
「感謝する。」
そして俺は、観客席にいたレフィアに包丁の影打ちの2本を渡した。
レフィアは、包丁を渡したあの日から…研ぎの発注には来なかった。
それだけ、簡素な作りとはいえ…この世界のナイフに比べて、性能が良かったのだろう。
「テルヤ様、宜しいのですか?」
「以前に渡した包丁の切れ味が悪くなった時の代わりに使ってくれ。玉鋼の包丁は、以前渡した鉄製の包丁に比べて…頻繁に研ぎは必要無いだろうが、研ぎが必要になったら、今度はギムルテッドに発注を掛けろ。」
「素晴らしい調理器具を、有り難う御座いました。」
俺がレフィアから去ると、レフィアの周りに主婦が集まっていた。
先程の勝負で見た者達は、包丁と呼ばれたナイフが如何に優れているかを目の当たりにしていたからだ。
だが、俺の元に来る者は居なかった。
観客達のは殆どは、俺に嫌がらせをして来た者達だったからだ。
「テルヤよ、お主はこれから何処に向かうんだ?」
「何処に行くかはまだ決まってない。ゆっくり旅をして、安住の地を見つけるとするさ。」
「そうか…」
俺は刀を腰に刺して、工房に戻って砥石を拝借してから、ロザリアの街を後にした。
次の行き先どころか、俺はこの世界を全く知らない。
今度は人が住んでいる場所から離れた…小屋での生活も良いかもしれないな。
そして、スローライフと洒落込みますか!
…と、テルヤは楽観的に考えていた。
移住する先を見つける前の旅が、過酷な旅になるとも知らずに。
~~~~~第一章・完~~~~~
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