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第一章

第四話 製作期間にやる事…中編

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 ~~~~~あれから1週間~~~~~

 紆余曲折を重ねて、何とか完成した。
 …が、決して満足のいく物が完成した訳ではなかった。
 まさか、コークス製作に1週間も無駄にするとは思わなかった。
 日本人特有の完璧を求める性格が災いしているのが、原因の1つでもあるのだが…?
 工房内にあるこの炉が特殊過ぎたという事も、時間が掛かった原因でもある。
 
 「だってなぁ…実家で使っていた炉と何もかもが違うんだからな。」

 本来のコークス製作は、主に高炉で行う。
 だが、現在の日本では、溶鉱炉を使用して製作するのが一般的だ。
 この世界は中世の様な時代の物ばかりが溢れていると思ったが、目の前にある溶鉱炉の代わりのこの炉は……時代にそぐわない、かなり高性能な炉だった。
 その辺が、異世界と言うべきだろうか?
 溶鉱炉………程の性能は無いが、高炉に比べたら断然に有能な物だった。

 「考えてみたらそうか…魔王との決戦の際に、武器製作は要になるだろうから、炉も進化はするか…というか、炉が成長しないと精錬は難しいからなぁ。」

 皮肉な事だが、戦時中の武器開発が異常に進化が早いのも…激戦を繰り返していたからという話だしな。
 昔の日本は、攻撃手段が刀や槍だけだったのが…外国から技術を提供されて、銃や大砲が伝わった。
 その後になると、戦争には戦闘機や蒸気船などが伝わって製作され、更なる攻撃手段として、銃や大砲の進化を成し遂げたという。
 外国の技術をパクってはいたが、独自の技術で進化をさせたのは技術者の賜物という話だった。
 (※この物語の世界での話です。)

 「うちの実家にも、昔は反射炉の様な巨大な高炉があったが…現在では進化して、あんなに高い炉は必要無くなったからな。」(韮山反射炉辺りが有名ですね。)

 そして、実家の炉で製作していたコークスも材料が違っていた。
 コークスを制作するのに、コークスを材料に使っていたからだった。
 その為に、温度が上昇する事はあっても…下降する事はあまり無かったからだ。
 制作時間も十数時間を要するのが、十時間弱で完成していた。
 その頭でいたから、何でコークス製作如きに、こんなに時間が掛かるんだ?
 それを途中の過程で気付いたのだった。

 「ちょっと待てよ…?これだけ製作すれば、決して満足が行った物では無いが…コークスは問題無い。次の玉鋼製作も1度で完成する事はないだろうから、それも2週間は費やすと考えて………合計で3週間。更に、日本刀製作には約70時間掛かるとすると………いや、兄弟子に手伝って貰って70時間だから、1人だと1回で完成する事はないと仮定すると……完成する頃には、期間がギリか過ぎる可能性があるな。」

 前回も言ったが、今回のこの勝負の件は職人の街であるロザリア全体に伝わっている。
 ドワーフ族兄弟は、店を構えられる程に優れているのか…住民は全て味方をしてくれている。
 俺は新参者という事で、あまり歓迎はして貰ってない。
 それどころか食糧を買いに行くと、提示されている値段よりも倍の金額を要求される。
 そして歩いていると、デカい黒板に文字が書かれていた。
 今回の勝負を賭け事にしているみたいで…俺のオッズは相当低かった。

 「まぁ、賭ける奴がいないと…賭けは成立しないよな?」

 俺に賭けた奴は賭けを成立させる為か、勝てはしないと思って少量の金額しか無かった。
 俺はそれを見て、絶対に負けるものか!という…闘争心が芽生えたのだった。
 …と、意気込んだのは良いものの…実情はかなりヤバい。
 何か打開策を見付けないとなぁ…?
 そう思って、工房に戻ってから玉鋼製作の為に準備をしていると、扉がノックされる音がした。
 俺は扉を開けると、俺と同じ歳くらいの女性が立っていた。

 「あれ…ここはマイヤーズさんの工房ではないのですか?」
 「マイヤーズ…?」

 俺は総責任者のギムルテッドの話を思い出した。
 現在は旅に出ているこの工房の元の主人は、マイヤーズという研ぎ師だったという。
 研ぎ師マイヤーズは、他の工房で作られた刃物を専門に研ぐ研ぎ師だったという話だった。
 
 「前工房の…マイヤーズさんは、旅に出て行かれましてね…俺は総責任者のギムルテッドさんに、この工房を使っても良いと言われて…」
 「あぁ、バルド兄弟との勝負の…貴方だったんですね。」

 バルド兄弟………そういえば、あの工房の名前はバルド工房店っていう名前だったな。
 今の今迄忘れていた。

 「奥方がこの工房に来たという事は、研ぎの注文をしに来たという事ですか?」
 「えぇ、このナイフが切れなくなってしまった為に、また研ぎをお願いしたかったのですが…」

 そう言って奥方は、俺にナイフを渡して来た。
 そのナイフは、バルド兄弟の店で売られていた…出来の悪そうなナイフだった。
 
 「やはり…すぐに研ぎが必要になったか。まぁ、あんな出来損ないだったら仕方が無いだろうな。」
 「バルド兄弟のナイフが出来損ないですって?ギムルテッドさんの製作したナイフに比べれば、確かに性能は落ちますが…」
 「ふむ、ちょっと待っていて貰えます?」

 俺は工房内の資材や道具を見渡した。
 鉄鉱石は、勝負用に十分過ぎる量が確保してある。
 製作に必要な道具も揃っている…って、研ぎ師の工房だったらそれなりに道具が揃っていないとおかしいわな。
 だから、道具が揃い過ぎていたのか。
 ただし、冷水用のバケツが無かったが。
 勝負方法は、鋼を使用した剣とナイフという話だが、この奥方に作るとしたら…鉄鉱石でも十分だろう。

 「その出来損無いのナイフよりも、良い刃物を打ってやろうか?使用するのは、食材を切る為の物だろ?」
 「はい、そうなのですが…」
 「簡素な物だが、その出来損無いのナイフよりは性能の高い物が作れるぞ。半日程待たせてしまう事になるが、それでも良ければ…」
 「構いません、夕飯の支度をするには時間がありますから…」

 異世界では、食事は1日2食という事らしい。
 なのでまだ朝の10時位だと、昼食を摂る事がないので…夕飯の支度迄には半日程の時間があるのだった。

 「まぁ、包丁とは言っても…普通は半日では完成しないんだが、あの出来損ない程度のナイフで良いのなら、半日もあれば十分か…奥方、また半日後に来てくれないか?」
 「えーっと、このナイフを研ぐのに…そんなに時間が掛かるのですか?」
 「そのナイフも一応研いでやるが、そのナイフよりも切れ味の良い包……ナイフを作っておこうと思う。まぁ、奥方が欲しいと思うならだが…」
 「それは、幾らくらいしますか?」
 「この街では初めて作るものだし、今回は値段はタダで良い。どうする?」
 「それなら、是非お願い致します。」
 
 そう言って、奥方は帰って行くと…俺は早速、包丁造りに取り掛かった。
 炉に石炭を入れてから、少量のコークスを入れて火を入れる。
 そして、ふいごで温度を上昇してから鉄鉱石を入れる。
 鉄鉱石が溶け出すまでには時間があるので、改めて奥方から渡されたナイフを見るが…?
 
 「見れば見るほど、見事な迄の出来損無いだな。良くもこんな物を、恥ずかしげも無く売りに出せた物だな?」

 包丁の代わりに使用する用途にしても、鍛治職人ならもう少しまともな物を造るぞ。
 もしかして、ドワーフ族というのは…切れ味より、頑丈さを優先するのか?
 それなら、このナイフが出来損無いという理由も頷ける。
 それにしても、半日で包丁を完成させる…か。
 本来なら、包丁が完成するには月を要するんだが…それは大量発注の場合だからな。
 日本の包丁と同じ物なら、普通は半日では終わらんが…別に妥協をする訳では無い。
 高級店に並ぶ程のスペックを求められるなら、半日ではとても無理だが…あの出来損無いのナイフと同等の物なら、1日もあれば事が足りる。

 「まぁ、包丁造りの修業って、3年以上も同じ物を造り続けていたからな。」

 なので、高級店に並ぶ程のスペックを求められる包丁なら別だが、一般的な低価格の包丁ならそんなに時間は掛からないのである。
 これに関しては、親方である親父と兄弟子には認めて貰っている。
 まぁ、3年間で1000本近い包丁を作っていれば、名工レベルとは行かなくても…それなりの物は完成するわな。
 俺は溶けた鉄鉱石をやっとこで掴んだ時に、ふと思った。

 「まさか準備期間の1ヶ月というのは、製作もだが…商売をさせて金を稼がせるという目的もあるのか?」

 普通に考えれば勝負だからと言っても、店を閉めて集中する訳では無い。
 多少の蓄えがあっても、資金が底を尽きたら、勝負云々の話は危なくなって来る。
 …という事は、これはギムルテッドの思いやりなんだろうか?
 それとも、俺はそんなに金が無いと思われているのか?
 この世界で引っ越しをする場合、かなりの資金を投じるという。
 なので、他国から引っ越しをする場合…船や馬車を使用したりすると、それ相応の金額が掛かるという訳だ。
 
 「俺の所持金は、現在は金貨99枚と銀貨84枚あるが…それをギムルテッドには公表してないしな。」

 まぁ、良い。
 とりあえずは、奥方の包丁を製作するか。
 俺はやっとこを左手に持ち、金床の上に溶けた鉄鉱石を置いて、右手のハンマーで打ち始めた。

 ~~~~~4時間後~~~~~

 形を整えた鉄鉱石を冷水に漬けて、急速に冷やした。
 この世界では、打ち終わった物を冷水につけるという真似はせずに、自然に熱を飛ばす為に放置をするらしい。
 俺の場合は、昔ながらの鍛治の方法で行っている為に、この方法を用いるのだった。
 
 「よし、ひび割れている箇所は………無いな。」

 それ位までに折り返しを繰り返していたので、ヒビ割れは起こらない。
 まぁ、油断をしていれば簡単にヒビが入るが。

 「後の工程は、研ぎなんだが…流石は元は研ぎ師の工房だけあって、砥石が半端じゃ無い数があるな?」

 マイヤーズが何の目的の旅に出て行ったのかは分からない。
 職人ともなれば、旅先で資金に困った時は己の技術で路銀を稼ぐと思うんだが?
 これらの道具を置いて行ったという事は、旅の目的は新たな砥石探しなんだろうか?
 まぁ、これに関しては…良くは分からない。
 ギムルテッドも、マイヤーズは旅に出て行ったとしか聞いていないからな。
 目的までは聞いていなかった。

 俺は1番荒い砥石を手に取ってから水に漬けた。
 そして俺は、形を整えた鉄鉱石で出来た包丁の原型を研ぎ始めたのだった。

 ~~~~~後編に続く~~~~~
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