辺境の鍛治職人は、契約期日迄に鍛治技術を極めたい。

アノマロカリス

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 ~~~~~魔王城グリガリアス~~~~~

 最終決戦場である魔王城内に、2つの影が激しい戦いを繰り広げていた。
 片方は魔王城グリガリアスの主人で、この世界で恐怖の対象と恐れられている魔王のディグスランゼス…
 もう片方は、地球の日本出身である…神から魔王を討伐する様に召喚された高校生で勇者のセイヤ=クジョウイン…
 戦いの感じは…勇者セイヤと魔王ディグスランゼスが、剣で激しい打ち合いを斬り合いをしていたのだった。
 2つの影は、魔法を使用する戦いはしていない。
 …というのも、勇者であるセイヤは魔法をあまり得意とはしていなかった為に、剣を使った戦いを得意としていた。
 …というか、そもそもセイヤは魔法がない世界の地球出身。
 生まれながらにこの世界で育っていたなら、魔法を使うという事も考えていただろう。
 魔王ディグスランゼスも初めこそは魔法を使用していたのだが、勇者セイヤの攻撃のあまりの手数に追い込みをかけられた為に、魔法を使っている余裕が無くて、剣で対抗をする他無かった。
 2つの影は、一度距離を取った。
 その理由は大技を使用する為に、距離を取ってから気を纏う為だった。

 「奥義…ウェポンブレイク‼︎」
 『破壊撃・アームズクラッシャー‼︎』

 2つの影がそれぞれ大技を使用して、互いの剣がぶつかり合う。
 名前の通り…2つの影は、このいつまでも終わらない互角の戦いに終止符を打つ為に、お互いの武器を破壊しようと大技を繰り出したのだが…?

 「何だ、この技で今迄に砕けなかった事はなかったのに……」
 『歴代の勇者に、神から与えられし聖剣を破壊する先代達の努力が無駄に…⁉︎』

 2つの影が打ち合った剣は、凄まじい音はするものの…どちらも、剣が砕ける破壊音は一切しなかった。
 それぞれの奥義が無駄だと感じた両者は、相手の武器を破壊する目的で再び激しい打ち合いを繰り広げるのだが…?
 打ち合いの音だけで、別に何処かが破損したという音は、一切聞こえなかった。
 
 「魔王ディグスランゼス、ちょっとタンマ!」
 『…良かろう、このまま戦い続けても…無駄に体力が削られるだけだしな。』

 両者は再び距離を取って、深呼吸をして息を整えた。
 そして勇者セイヤと魔王ディグスランゼスは、互いの剣を見つめ出した。

 『流石、神から与えられた聖剣というだけはあるな!』
 「あ…いや、この剣は神から与えられた聖剣ではない。見た目は似てはいるが、これはある人からから貰った剣で聖剣ではないんだ。それを言ったら、魔王が持つ魔剣も流石というべき……」
 『いや、この剣も魔剣ではない。魔剣を模した形だけの普通の剣なだけだ。』
 「…え?」

 勇者セイヤと魔王ディグスランゼスは、互いの剣を今一度見た。
 魔王の伝承では、神から与えられし伝承の聖剣は…オリハルコンを使用した青い刀身の剣と言われているが…?
 勇者セイヤの持つ剣は、青い刀身ではなくて銀色の刀身だった。
 そして魔王ディグスランゼスの魔剣も…形こそ歪な見た目だが、禍々しいオーラが纏われているということはなく、黒い刀身ではあるものの…普通の剣という感じだった。

 「こんな事を言っては何だけど…剣を見せて貰う事はできないか?」
 『余も同じ事を考えていた…』

 勇者セイヤと魔王ディグスランゼスは、互いの剣を地面に置いてからそれぞれの剣を取った。
 そして両者は、互いに鑑定魔法を使うのだが…?
 鑑定結果は………互いの表情を見ると、一目瞭然だった。
 両者とも、とても苦い顔をしていた。

 『なぁ、勇者…この剣の製作者は、ライゼン王国の辺境の山に住む…山小屋の男の作った物か?』
 「……それを知っているという事は、魔王はテルヤさんの事を知っているのか?」

 …そう、両者の剣の製作者は、同一人物が鍛えた剣だった。
 
 『あの男の作った剣なら納得だ、どおりでアームズクラッシャーが効かないはずだ。』
 「えぇ、テルヤさんの作った武器は…神様から与えられた聖剣より、性能は上でしたからね。特にこれと言って、特殊な素材で作られた訳ではないのに…」

 魔王ディグスランゼスは魔界の名工と呼ばれる者に、魔黒鉱石という魔界に伝えられた歴代の魔王が持つ魔剣に使用されていた物と同等の剣を与えられた。
 それは、勇者との最終決戦の為にあつらえられた物だった。
 それまでの繋ぎとして、刀匠テルヤが製作した剣を使っていたのだが…歴代の魔王が持つ事を許された魔剣を手にした事で、テルヤの製作した剣は不要となった。
 魔王ディグスランゼスは、歴代の魔王が持つ魔剣を手にした事で感動に打ちひしがれ…試し斬りをしてみたくなって、今迄使用していたテルヤの剣で試したのだったが…?
 魔剣の刀身がテルヤが製作した剣の刀身の刃に触れたと同時に…すっ飛んで行ったのだった。

 『え………嘘だろ~⁉︎歴代の魔王が使ったという、最強で至高の一振りだというのに…』
 
 これには魔王ディグスランゼスも唖然とした。
 魔界ではオリハルコンと同等の最強の金属と謳われた魔剣が、たかが人間の…たかが鋼の金属で出来た性能の低い金属で作られた剣に負けたからだった。
 このままでは、勇者との戦いで遅れを取る可能性が出る。
 …そう感じた魔王ディグスランゼスは、再び魔界の名工にあの魔剣よりも強い剣を創り出せと命じた…のだが?
 当然だけど、魔界の名工もその理由を訪ねて来た。
 すると魔王ディグスランゼスは、テルヤの作った鋼の剣と魔剣を見せた。

 「な、なんですと…魔界最強金属が、たかが鋼如きに負けるとは⁉︎」
 『こういう理由なのでな、この魔剣より強い性能の物を創り出して欲しいのだ。』

 創り出しす事自体は可能と言われたが、勇者との決戦にとても間に合うとは思えないと返答された。
 なので、魔王ディグスランゼスは…仕方無く、テルヤが製作した剣を使わざる終えなかった。

 そして勇者セイヤも…神から聖剣を授けられた。
 その聖剣は、鍛治神のヘパイスディスがオリハルコンを使用して創り出されたという話だったのだが…?
 勇者セイヤは、神から授けられた聖剣とテルヤから貰った剣を見比べて、首を傾げていた。
 神から授けられた聖剣は、確かに聖剣と呼ぶに相応しく、青い刀身で聖なる光を放ってはいた。
 形も装飾が施されていて、聖剣と呼ぶには相応しい物なのだが…?
 テルヤが勇者セイヤの為に、全身全霊で鍛えられた剣に比べると…全く凄みを感じなかった。
 …かと言って、勇者セイヤは…魔王ディグスランゼスの様に魔剣で試し斬りを試す様な真似はしない。
 
 「この聖剣に使用されている金属は、ファンタジーではよくある金属のオリハルコンなんだけど…?手に馴染むかと言われると、そうでも無いんだよなぁ。」

 それもその筈、テルヤは勇者セイヤの手を見て、より使い易く製作された剣。
 神から授けられた聖剣は、使い手の事を全く考えてはいなくて…与えられた物を使い熟す様にという物だった。
 それなら、どちらが使い易いのかは一目瞭然だった。
 勇者セイヤは、最終決戦に用いる剣は…神から授けられた聖剣ではなく、日頃から使い慣れたテルヤの製作した剣で、魔王ディグスランゼスに挑んだのだった。

 『これでは、決着が付かんな。癪だが、剣の腕は互角で…武器は破壊不能。それどころか、今迄に何度も打ち合ってきているというのに、刃こぼれは愚か傷すら無いとなると…後はジリ貧の体力勝負となる訳なのだが…』
 「そこなんだけど、魔王ディグスランゼス…ここは一時休戦という事にしないか?」
 『それは余も考えていた。一時とは言わず、余の代では休戦としよう…再戦したところで決着がつくとも思えぬしな。』

 勇者セイヤと魔王ディグスランゼスは、休戦の書面を交わした。
 休戦の期日は、次の勇者が再び現れた時まで…と。
 この魔王…魔王ディグスランゼスとは、こういう形で話がついたのだった。
 勇者セイヤは、自国の王にその事を告げ…次の勇者が再び現れるまで平和が訪れたのだった。
 
 ~~~~~ライゼン王国の辺境の山小屋~~~~~

 王国から離れた周囲に人が住んでいない山小屋からその音が鳴り響いていた。
 それは、山小屋の中では金属を打つ作業が行われていた。

 「とりあえずはこんな物か…そろそろ今日は終わりにしよう。」
 「分かりました刀匠!」
 「では、食事は私がお作り致しますね。」
 「あぁ、頼む………と、そういえば、シャナルはどうした?」
 「そういえば見かけませんね、また屋根で日向ぼっこでもしているのかな?」

 男は小屋から外に出て、腰を抑えて背面伸びをしていた。
 そして切り株に座り、自作の煙草に火を付けてから吸い込んだ。

 「今日の出来は、満足のいく物に仕上がらなかったな…俺の残された時間は、あと…どれくらいの物なんだ?」

 男は再び煙草を吸い込むと、そっと煙を吐いた。
 
 男の名前は、テルヤ=ザイエンジ。
 この山小屋の主人で、男の事を知る者達からは…辺境の鍛治職人と呼ばれていた。
 年齢は30代そこそこで、数人の者達と暮らしている。
 一部の者達からは、凄腕の職人と呼ばれてはいるが…本人にその自覚はない。
 何故、この様な辺境に住まなくてはならないのかは、いずれ話すとしよう。
 今は残されている時間がどの程度なのかが、気になっている感じだった。

 これは、そんな刀匠テルヤの物語である。
 
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