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第五章 動き出す…?

第八話 戦闘訓練(バトルロイヤルを期待していたんだけどねぇ?)

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 ある朝、僕は戦闘訓練と称して、バレサステップに全員を集めた。
 今後の八魔将対策という名目である。
 
 「はい、では戦闘訓練を開始致しますが、まず言っておきたい事があります。 僕は追跡者という立場で皆を捕まえに行きます。 君達は逃亡者として日没までに全員が捕まらない場合は僕の負けで、全員が捕まったら君達の負けという事になります。」
 「良く解らないな…? それのどこが戦闘訓練なんだ?」
 「ガイウスが言う事はもっともです。 追跡者から逃げる為の物ですが、逃げる際には技でも魔法でも好きに使って構いません。 そして勝者には賞品を、敗者には罰ゲームを用意してありますので本気で逃げて下さいね。」

 この戦闘訓練にあまり乗り気じゃない者達が多いので、発破を掛けよう。

 「君達が本気でやる気を出さないと、訓練にはなりません。 なので、本気になれる様にこちらに用意した物がありますが、その前に僕が勝利した際に振られる罰ゲームを想像してみて下さい。」

 皆は、僕が勝利した際の罰ゲームの内容を想像している。
 果たして、答え合わせでどんな表情を見せてくれるかな?

 「ハッキリ言いましょう! 君達が考えている罰ゲーム内容ですが僕は頭の中が読める訳ではないですが、想像している内容はハッキリ言って生温いです。 こちらに紙を用意しましたので、各自名前の書いてある紙を取って下さい。 まだ中身は見てはいけませんよ…」

 僕はそれぞれ名前の書いてある紙をテーブルの上に置いた。
 皆はそれぞれの名前の入った紙を手に取った。

 「なら、答え合わせをしましょう! 僕からの罰ゲームと紙に書かれている内容が一致もしくは、それより下かどうかです。 まぁ、上だと思いますが…では、開いて下さい!」

 皆は紙を広げて、罰ゲームの内容を見た。
 『『『『『『『『!?』』』』』』』』

 「どうでした? 僕の考えた罰ゲームと君達が僕を思って想像した罰ゲームは一致しましたか?」
 「ダン…貴様は本当に悪魔じゃないのか⁉」…とガイウス。
 「お前、これを本当に言わせる気か⁉」…と翔也。
 「私の考えている想像以上だったわ⁉」…とレイリア。
 「ダン、お前…過去のトラウマを掘り返す気か⁉」…と賢斗。
 「これを本気でやらないといけないの⁉」…と華奈。
 「ダンは本当に悪魔にゃー! あちきは生きていけないにゃ!」…とクリス。
 「ボクは、こんな格好をしたら恥ずかしくて死ぬかも…」…と飛鳥。
 「師匠…エッチです…」…とクリアベール。

 「何か勘違いしているかもしれませんので言っておきますが、日没までに1人でも捕まらなければ君達の勝ちで罰ゲームはありませんから。」
 「本当に逃げる時には全力を出しても構わないんだな?」
 「当然です! そうじゃないと訓練にはなりませんからね…殺す気でどうぞ!」
 「すまん、皆と少し作戦会議したいのだが良いか?」
 「どうぞ~!」

 ガイウスや翔也達は、輪になって作戦会議を始めた。
 まぁ、罰ゲームの内容からして本気になってくれたという事だと思う。

 「ダンのあの余裕のある態度が腹立つが、どうみたって奴の不利だろう?」
 「元いた世界に【鬼ごっこ】という遊びがあってな、逃げている者を鬼が追い掛けるという遊びがあるんだが、ダンは最強なんだよ。 知略を巡らせて逃亡しているのに、裏をかいて追い詰められるのだが、ここでは魔法も使えるから対抗出来る…と思いたいのだがな。」
 「単純に聞くけど、何が書いてあった? 内容からして皆同じ内容とは思えないのだが…?」

 皆は罰ゲームの内容を話した。
 内容によっては、話せない者もいるのでぼかして話した。

 「俺の罰ゲームはとにかく、屈辱という事でしかない‼」…とガイウス。
 「俺の内容も話せないが、この先のパーティが崩壊しかねない内容だ!」…と翔也。
 「私は闇魔法の実験台って書いてあった。」…とレイリア。
 「私の内容はね、女子にしか見せられない内容だから…」…と華奈。
 「ダン、最低!」
 「ダン、最悪⁉」
 「あちきの内容もレイリアと被っているにゃ!」…とクリス。
 「僕のは…」
 「あ、ガイウスと賢斗は同じ内容だけど、少し違うよ。」
 「「!?」」
 
 ガイウスと賢斗は、互いの紙を見せ合った。
 その内容に、2人は頭を抱えた。

 「賢斗のはまぁ、似合うから良いとして…俺のは最悪だぞ!…これ?」
 「ガイウスさん、喧嘩を売っているんですか?」
 「ボクのは、魔王を倒すまでビキニアーマー。」…と飛鳥。
 「私も飛鳥さんと一緒です。 旅が終わるまで魔法のビキニ」…とクリアベール。
 「ダン、素朴な質問なんだが良いか?」
 「どぞ!」
 「余裕綽々でやると言っていたが、開始直後に僕達が全員で本気で倒しに来るとか考えなかったのか?」
 「では、質問を質問で返すけど…賢斗、僕がそういう手を考えてないと思ったのかい? 僕には奥の手の【覚醒】があるんだけど、全員でも勝てると思う?(まぁ、今は使えないけど…)」
 「そうだった! ダンにはその能力があったんだよな…」
 「あの光り輝く姿か…」
 「あんなの出されたら、俺達にはどうする事も出来んぞ!」
 「光り輝く姿って、以前新聞に書いてあったあれか?」

 翔也だけが【覚醒】を見た事無いので、1人だけ疑問に思っていた。
 そこに賢斗とガイウスが説明した。

 「十六鬼影衆の8匹が融合した最強形態を、光を纏ったダンが1000の斬撃で塵に変えたんだよ。」
 「地竜を倒した時は、凄まじい魔力で地竜と背後にあった山の半分も消滅させた。」
 「・・・・・・・・・」
 《なぁ、シャンゼリオン…今の話が本当なら、俺に勝ち目があると思うか?》
 《無理でしょうね…そもそも翔也は、1匹でも十六鬼影衆を倒せる実力はあるの?》
 《戦った事は無いからわからんが、シャンゼリオンがいる時なら勝てたかもしれない。》
 《会話の最中に失礼するぞ! 翔也殿のスキルでは相手にもよるが、良くて互角…悪くて敗北だろうな。》
 《じゃあ、アトランティカ…俺はダンより弱いのか?》
 《こう言っては悪いが、今の翔也殿が相棒に勝てる要素があるとは思えない…》
 
 内緒の会話をしているみたいだから、会話には参加しないけど…
 聞こえているぞ、僕にも。

 「わかった、全力で逃げる事にしよう。」
 「言っておくけど、バレサステップ内ならどこに逃げても構わないからね。 そこから出たら即失格の罰ゲームという事で。」
 「ここは草原以外に森やダンジョンもあったな? ダンジョン内に入っても追えるのか?」
 「草原や森だってモンスターはいるよ! 僕の追跡を警戒しながらモンスターと戦えるのなら、好きにすれば良い。」
 「タッグやペアで挑んでも良いんだよな?」
 「どぞ! では、そろそろ開始するよ!」

 全員は、僕の周りに集まってスタンバイしていた。
 僕は最後にこう言った。

 「全員を捕まえて、罰ゲームを実行するよ! 拒否しても確実に実行するからね…楽しみだなぁ!」
 
 僕の発言に、誰一人として笑った者はいなかった。
 寧ろ真剣その物の表情で構えていた。
 僕はこの隙に、全員に無属性の極細の糸を付けた。
 
 『では皆が逃げる間に100を数えるから、数え終わったら空に向かって魔法で合図を出したら追跡開始だから、せいぜい遠くまで逃げておくれ…では、スタート‼』

 僕の合図に、皆は振り返る事が無く一斉に逃げ出した。
 何人かタッグを組んだ者がいるな…ガイウスと翔也と賢斗は1人か。
 飛鳥とクリアベールねぇ…珍しい組み合わせだ。
 華奈とクリスとレイリアが一緒だな。 
 僕の使えるスキルを確認すると、生活魔法と闇魔法と貫通魔法と無属性魔法と泡魔法とフェイクに植物成長と化粧か。
 球体魔法は使えないけど、球体解除は使えるんだな。
 あ、翔也に注意しておかないとな…!

 《翔也、念話の遮断くらい覚えておかないと…居場所バレバレだぞ!》
 《ダン⁉ お前の声がここまで届くのか⁉》
 《範囲をバレサステップ内に留めたのはそれが理由だよ。 それより外だと念話は使えないしね。》
 《シャンゼリオン、どうすれば念話を遮断出来る?》
 《落ち着いて翔也、今の貴方には無理だから…私が遮断しておきます。》

 シャンゼリオンと翔也の会話が聞こえなくなった。
 どうやら…遮断に成功したみたいだ。

 《相棒よ、優しさと思っての忠告だとは思うが…意地悪くないか?》
 《敵の中には、念話を拾える者もいる場合の忠告だよ。 十六鬼影衆の中にはたまたまいなかったけど、それ以上の奴等では使える者がいてもおかしくないだろ?》
 《なるほどな…》
 《さて、それよりも…》
 《どうした、相棒?》
 《何人が糸に気付くかな?》
 《それでか、全員の把握が出来る様になっているのは。 相棒の新たなスキルかと思ったぞ!》
 
 さて、そろそろ動き出すか!
 僕は空に閃光を放った。
 僕は無属性の糸を探り、最初のターゲットを決めた。
 
 「よし、飛鳥とクリアベールにしよう!」
 
 僕はフェイクでスミロドンディーガーに姿を変えて走り出した。
 僕のフェイクというスキルは、過去に一度接触した者であれば人でもモンスターでも変身可能なのだ。
 普通に走るより断然速い。
 僕は2人がいる場所の近くまで行くと、フェイクを解除した。
 
 「さて、どうするか…あ、いい事を思い付いた!」
 《どうせ、ロクでもない考えだろうな…》

 『飛鳥! ベル! 見付けたぞ‼』

 態と大声を出して2人を警戒させた。
 背の高い草に身を隠していても、その場所に動かずにいるのはバレている。
 かくれんぼじゃ無いんだから、警戒しながら動けよな…。
 僕はある者の姿にフェイクして近付いた。

 「いま、ダンの声がしたにゃ! この近くに来て居るにゃ!」
 「クリス姉さま! 良かった、師匠じゃなかった…」
 「クリスさんはどうしてここに?」
 「探知能力に長けたレイリアと私が一緒にいるよりも、飛鳥やベルと一緒の方が良いと考えたにゃ!」
 「それは心強いです! 背中合わせになって警戒しましょう!」
 「クリス姉さまが加わると、更に心強くなりますね! 3人で師匠を撃退…ん? ?」
 「背中ががら空きだよ、2人供…化粧メイク飛鳥にビキニアーマー! ベルに魔法のビキニ!」
 『『キャアァァァァァァ‼︎』』

 2人の服装をビキニアーマーと魔法のビキニに変えた。
 僕はフェイクを解除すると、持っていたスマホで2人のビキニ姿の写真を撮った。
 
 「何を撮っているのダン!」
 「師匠のフェイクに気付いた瞬間にやられた…」
 「そうそう、敵の中には仲間の姿を模して接近する事も想定しないとね。 仲間の姿を見て安心するのではなく、仕草や口調でもすぐにわかる様に訓練しないと、今回は触れられただけだけど、敵なら刃物で刺されていたかもしれないよ!」
 「それはわかったから、早く元の服装に戻して…」
 「師匠、この姿恥ずかしいです!」
 「何で? 戻す訳ないじゃん! 2人は捕虜として、開始位置の場所に小屋を作っておいたのでそこに入っていて貰います。 結界を張ってあるから安心してね。」
 「この格好で歩いて行くの⁉」
 「大丈夫だよ、皆以外に人はいないし…」
 「そういう問題じゃないよ! この格好が恥ずかしいの‼」
 「大丈夫だよ、ベルがいるじゃないか! なぁ、?」
 「アリスって…あ!」
 「では、ちゃんと小屋に大人しく入っていてね! 2人のちゃん…にょほほ。」
 「ダ~ン‼」
 
 僕はその場を素早く退散した。
 そして走りながら画像を見た。
 ベルが巨乳なのは知っていたけど、飛鳥も隠れ巨乳だったとは…?
 さて、ベルはアリス能力を使いこなせられるかな?
 次は誰を狙うかなぁ。
 厄介な相手だとガイウスだな、聴覚が優れているから近付いたらすぐに解るし、フェイクを使っても精霊の加護で見抜かれる危険性がある。
 翔也はアホだから、あの方法を使えばすぐに向こうから出てくるだろう…
 レイリアと華奈だけなら、そう手強くもないんだけど、クリスが一緒だと少し厄介だな。
 よし、賢斗を狙おう!
 僕は賢斗を捕らえる為に動き出した。

  「賢斗はこっちか…」
 
 僕は糸を辿って賢斗の方面に移動していた。
 賢斗なら意外と気付くかと思ったけど、糸に気付かないようではまだまだ。
 僕が賢斗の前に辿り着くと、賢斗はいるにはいたんだが…?

 「賢斗、何をやっているの?」
 「ダン相手に戦っても無駄だろうから、防御陣を展開しているんだよ。」
 「逃げないの?」
 「僕の体力では、ダンにはすぐに追い付かれそうだし…なら防御陣を展開して対抗しようと考えたんだよ。」
 
 僕は賢斗の防御陣を見回した。
 一見、完璧に思われた防御陣だったが、いくつか穴があった。

 「賢斗さぁ、これは戦闘訓練だと言ったじゃないか…防御してどうする?」
 「これも立派な戦術だよ。 それにダンは防御してはならないと言ってはいないじゃないか?」
 「賢斗さぁ、そんなに罰ゲームのゴスロリ衣装着るのが嫌なのか? 似合うのに。」
 「ダン、学園祭での事を僕は忘れてないぞ! 僕にゴスロリの衣装なんか着せやがって…」
 「あれの発案者は華奈だよ? 僕より賢斗が着るのが似合いそうだからと。」
 「ダン、何故身長が低いという言葉を強調した?」
 「ほら賢斗、防御陣を解いて戦おうよ!」
 「ダンの手に乗るか! 僕を挑発して自分の有利な状況に持ち込もうとしているんだろ?」
  
 なるほど、さすが賢斗だ。
 簡単には挑発には乗ってくれないか。

 「その防御陣は、そちらからは攻撃できないよね?」
 「あぁ、解かない限りはな…」
 「じゃあ、意地でも解かせよう。 フェイク・賢斗…化粧・ゴスロリ!」
 「!?」
 「ぼくぅのなまぇは~ななせけんとぉなの♡ ダンにべんきょ~でもかてなくて、けんとぉかなし~え~んえ~ん!」
 「やめろダン! 僕の姿と声で変な口調をするのはやめろ‼」
 「けんとぉくぅんがおこった~ぼきゅきょわ~い!」
 「僕の冷静さを欠く為の精神攻撃と来たか…全く卑怯な事は嫌な位に思い付くな!」
 
 僕は背後に置いてあったスマホの動画機能を停止した。

 「おい、ダン…いま、スマホをいじってなかったか?」
 「今のフェイク賢斗を動画に録画した。 賢斗が出てこないのなら、この動画を飛鳥や華奈に見せる‼」
 「ダン…冗談だよな?」
 「こんな面白い事に冗談を言わないといけないんだよ! では、皆に見せて来るよ! じゃね!」
 
 僕は後ろを向いて走りだそうとすると、賢斗は防御陣を解いた。
 僕はその瞬間を逃さずに、闇魔法の暗黒+闇鎖+吸引で賢斗を捕縛した。
 
 「駄目じゃないか賢斗、こんな解りやすい罠に引っ掛かっちゃ…」
 「防御陣を解かないでいると、ダンが皆に動画を見せると思っていたからな…」
 「え? 見せるよ。 当たり前じゃん!」
 「ダンって昔からそういう奴だったよな!」
 「そうだよ、知らなかったの?」
 「それにしても、さっきから魔法を発動しようとしても発動出来ないんだが、何をした?」
 「僕の闇魔法の暗黒は、闇魔法の威力上昇で…闇鎖は対象物の捕獲で、吸引は相手の魔力を吸い取る効果がある。」
 
 賢斗は必死にもがいて鎖を解こうとしているけど、魔法も使えない賢斗にこの闇鎖は解ける訳がない。
 僕は賢斗の服に手を当てて、化粧・ゴスロリの衣装をした。

 「賢斗、ほい鏡。」
 「服だけじゃなくて、顔までメイクされてやがる!」
 「とっても可愛いよ、賢斗きゅん♡  では、開始位置までそのまま歩いて行ってね。 そこに結界を張ってある小屋があるから…」
 「ダン、これはどうやれば解ける?」
 「賢斗が魔法解除のディスペルを使えば、衣装は元に戻るよ。 今小屋には誰もいないから、1人でゆっくり模索すれば良いさ。」
 《相棒、小屋には飛鳥とベルがいるのではないのか?》
 《小屋に誰かいると解れば、賢斗は服を脱ぐ可能性があるだろ? それを阻止する為さ。》
 《全く、意地が悪いな相棒…》 

 賢斗は開始地点の小屋に向かって歩いて行った。
 そして、小屋の扉を開けると…
  
 「キャァァァァァ!」
 「うわぁぁぁぁぁ!」

 声だけだから想像でしかないが、恐らく賢斗は小屋に誰もいないと思って扉を開けたのだろう。
 そして中にいる飛鳥が声を上げたという事は、まだビキニアーマーのままなんだろうなぁ。
 その瞬間、見たかった。

 「さてお次は、誰を狙うかな?」

 僕は糸に探りを入れた。
 一番近いのは、クリスと華奈とレイリアか…
 少し離れてガイウスで、一番遠くにいるのが翔也だな。

 「よし、ガイウスを狙うか…それにしても、殺す気で向かって来いと言っているのに、これでは戦闘訓練にはならないな…」

 糸を辿ってガイウスのいる場所のすぐ近くまで来た。
 ガイウスだったら、この場所までくれば聞こえている筈だけど…?

 「ダン! やっぱり来たな‼」
 「次は、ガイウスを捕まえようかと思ってね…まぁ、この戦闘訓練で僕は全員を捕まえる気だったし、罰ゲームは実行してもらうつもりでね。」
 「俺のは、貴族の貴婦人のドレスを着てエルヴの集落に連れて行くとあったが…」
 「うん、絶対に実行するよ! バルバトスさんやレイヴンに自分の息子は女装癖があるという笑いをお届けに。」
 
 賢斗もそうだけど、ガイウスも挑発には乗りやすい。
 さて、今度こそ期待出来るかな?

 「貴様を殺すつもりで向かっても良いと言っていたよな?」
 「うん、無駄だと思うけど精一杯足掻いてみてよ。」

 ガイウスは槍を構えて向かって来た。
 そして、槍を振りかざすと僕に突きを入れて来た。
 《この動きは、落葉か…》
 突きをするつもりで反転して柄で攻撃する技なのだが、攻撃が来ると解っていれば躱すのは容易い。
 ガイウスは躱される事は前提で、次の動作に移った。
 《時雨、秋雨、落葉、炎刃か…まだまだ動きに無駄があるね…》
 ガイウスの攻撃を全て躱した。

 「くっ…何故当たらない⁉」
 「その技、誰が教えたと思っているんだい?」
 
 僕は無属性魔法で槍を持ったガイウスを作りだして、ガイウスに攻撃を仕掛けた。
 ガイウスは自分と戦うとは思っていなくて、動きに焦りが見えた。

 「ダン! 卑怯だぞ‼」
 「駄目だよガイウス…戦闘中に冷静さを掻いちゃ! それに戦いに卑怯何て言えるのは、未熟な証拠だ。」

 僕は無属性魔法のガイウスを操作して、時雨、秋雨、落葉、炎刃の順に攻撃をした。
 全ての攻撃を喰らったガイウスは、その場で倒れた。

 「どう? 自分の技を喰らった気分は? 敵の中には、自分の姿を模して襲ってくる奴だっているんだ、それに対処出来ないと死ぬのはガイウスになるよ。」
 「調子に乗るなよ、ダン‼」

 ガイウスは立ち上がり、無属性魔法のガイウスを破壊すると僕に槍を突き出してきた。
 僕はアトランティカを抜くと、ガイウスの懐にアクセルで飛び込んでから峰打ちをした。

 「ガイウスの弱点は、すぐに熱くなるところ…だよ。 本来のガイウスならこれ位躱せる筈なんだけどね?」
 「な…ぜ…俺の攻撃が…わかった?」
 「ガイウスさぁ、僕は恵まれたジョブもスキルも無いから、とにかく相手を観察して攻撃パターンを頭に叩き込むしかないんだよ。 それを生かしただけなんだけど、ガイウスは性能が良すぎる槍に頼り切っている戦いが中々抜けない様だね。 十六鬼影衆の奴等ならそれでも良かったけど、八魔将になるとそれだけでは本当に通用しなくなるよ…」
 「以前にダンに指摘されて直したつもりだったが、まだ俺は槍の性能に頼り切っていたのか⁉」
 「まぁ、それはそれ、これはこれなので…君の負けという事で、化粧・貴婦人のドレス。」
 「なんだこれは⁉」

 ガイウスの服をキラキラヒラヒラの貴婦人が好みそうなドレスに変えた。
 ガイウスは立ち上がり、自分の姿を見て焦っていた。

 「開始地点に小屋があるので、そこで賢斗がいるから…魔法解除をしてもらってね。 これは敗北の証だから脱いじゃ駄目だよ~」
 「くそぅ…次は負けないぞ‼」

 ガイウスは立ち上がり、歩きにくそうなヒールでぎこちなく歩いて行った。
 その後ろ姿を見て、僕は大爆笑をした。
 ガイウスは振り返り、僕を見て思いっ切り睨みつけた。

 「さて、面白い物が見れたな…」
 《相棒よ、さすがにガイウスが気の毒に思えてくるのだが…》
 「今回の戦闘訓練は、己の弱点を把握する為の物でもあるんだよ。 甘えは緩みに繋がるからね!」
 《その割には、相棒が楽しんでいる様にしか見えないのだが…》
 「それは勿論、僕は1人で向かって行くんだから、楽しみもないとね~」
 《相棒といると退屈はしないが、周りが段々気の毒になって行くな…》
 「さてと、次だけど…クリス達を狙うが、悪いが甘えや遊びはもう終わりにするよ。」
 《何をする気だ?》
 「クリスは問題ないけど、華奈とレイリアは危機感が足りないので全力で攻める!」
 《了解した、好きにやれ!》

 クリス達の糸を辿って、僕は近付いた。
 あの3人には、クリスとレイリアという探知に秀でている者がいるから、接近はバレている筈だ。
  
 『クリス! 華奈! レイリア! 見付けたぞ‼』

 僕の声に気付き、3人は構えた。
 僕は初手に無属性魔法で作りだしたハンドレットランス百本の騎士槍を放った。
 クリスは鎧を装備して盾を構えて防御した。
 レイリアと華奈もクリスの背後に隠れて凌いだ。

 「賢斗、お前の技を借りるぞ! 四属性合成術…マクスウェルブリッド‼」
 
 四属性の合成術で作りだした光の弾を、クリスの盾を目掛けて放った。
 さすがのクリスも、マクスウェルブリッドを正面から盾で受け止めようとしたが、威力はこちらが上で3人供吹き飛ばされた。
 続けて追撃に、無属性魔法で作りだしたサウザンドフェザー千本の羽を放った。

 「致命傷にはならないけど、避けないと痛いよ!」

 千本の羽が3人を襲った。
 クリスは盾と鎧で防いではいるが、華奈とレイリアは体に羽が刺さって痛みを訴えていた。
 すぐに2人は回復魔法を放って、自分の体を癒した。
 
 「3人供、反撃はしないのかな? ただそこでジッとしているだけなのかい?」
 「華奈! レイリア! ダンは本気にゃ! 抵抗しないとやられるだけにゃ‼」
 「私達を殺すつもりなの?」
 「華奈さん、全力で抵抗しましょう!」
 「そうそう、それで良いんだけど…接近されて対抗できるかな?」

 僕はアトランティカを抜いて、接近した。
 クリスが立ち塞がって来た。
 
 「ここより先には行かせないにゃ‼」
 
 クリスはギガンティックメイスを振り下ろしてきた。
 僕はアトランティカで受け流すと、詰め寄ろうとした…が、華奈のシャイニングスピアが降って来たのでバックして躱した。
 だが、レイリアの炎魔法を放って来た。
 無属性魔法の盾を斜めに構えて、炎魔法を上空にずらした。
 すると、炎魔法は爆発して周囲に爆風が巻き起こった。
 クリスは耐えていられたが、華奈とレイリアは体制を崩した。
 その瞬間に、闇鎖を展開して華奈とレイリアを捕縛した。

 「レイリアさぁ、ムキになって通常魔法を放ったらこうなるってわからないの? 魔力が高いんだから、通常魔法を気を付けないといけないって前に注意したでしょ?」
 「焦ってしまいました、華奈さんごめんなさい…」
 「失敗は誰にでもあるから、次から注意すれば大丈夫だよ。」
 「さて、残りはクリスだけど…」
 
 クリスは立ち上がって武器と盾を構えた。
 さて、クリスはどうでるかな?
 僕の背後には、華奈とレイリアが闇鎖で縛られている。

 「クリス、武装を解除しろ!」
 「ダン、何をふざけた事を言っているにゃ!」
 「二人がどうなっても良いのかな?」
 「ハッタリは、あちきには効かないにゃ!」
 「あっそう…」

 僕はアトランティカでレイリアの太ももを刺した。
 レイリアは呻き声を上げていた。

 「これでハッタリではないという事が解ったよね?」
 「くっ…ダン、仲間を傷つけても何とも思わないのかにゃ⁉」
 「早く武装を解除しろ! 次は仲間のどこを刺されたい?」

 僕はそう言って、華奈の肩を刺した。
 華奈は痛みで涙を流していた。
 正直言って…悪役のフリをして女の子を刺すのはあまり良い気分ではない。
 まぁ、この程度なら回復魔法で治るから大した致命傷にはならないのだが…?

 「どうしたクリス、仲間が大事じゃないのか?」
 「くっ…ダン!」
 「あっそ、ならこうすれば気が変わるかな?」

 僕はアトランティカで、レイリアの体の薄皮を斬った。
 レイリアの体から血がしたたり落ちた。

 「やめるにゃ! 言う事を聞くにゃ!」
 
 クリスは武装を解除した。
 そこで3人の敗北宣言を聞いた僕は、闇鎖を解いた。
 華奈は自分の怪我を治すと、レイリアに駆け寄って怪我を回復した。
 その後に僕は華奈に頬を叩かれた。

 「戦闘訓練だからってやり過ぎよ‼」
 「お前達の考え方が甘いからこうなったんだよ! 人の所為にする前に、自分の甘さを痛感しろ!」

 僕はそういうと3人は落ち込んでいた。
 そして3人を開始地点の小屋に行くように命じると、僕は翔也の元に向かった。

 「こういう役は、二度とやりたくないな。」
 《まさか、仲間を刺すとは思ってなかったぞ!》
 「いや、あの位なら回復魔法で治せると思っていたから、大丈夫だとは思っていたんだけど…アトランティカもすまないな…」
 《いやまぁ、相棒の考えは何となく解っていたから…だが、あまり気分の良い物ではないな。》
 「さて、後は翔也だけだが…?」
 《翔也殿とシャンゼリオンがどう出るかだな…》

 僕は翔也の糸を辿って向かって行った。
 翔也の元に向かう最中に、アトランティカが声を掛けて来た。

 《やはり…あの3人に誤解を解いておいた方が良いのではないか?》
 「確かに説明不足だったのは認めるけど、それ位は自分達が判断出来ないと意味が無いんだよ。」
 《あの戦いでの最大の弱点は、クリスという事だよな?》
 「そうなるね…華奈とレイリアがクリスを当てにするのは別に悪い事ではないけど、頼り過ぎるというのも問題があるんだよ。 僕は初めに言ったよね? 殺す気で掛かって来いと…」
 《確かにそう言ってたな。 あの3人も相棒の事だから、行き過ぎた真似はしないと思っていたんだろう。》
 「今回は、クリスが封じられた時にどう対処するかを見たかったんだけど、思った通りに結果になったよ…」
 《敗因は2つ…クリスが止まった事とあの2人には接近されると攻撃手段がない事だな。》
 「無くは無いんだけど、レイリアの場合は普通に魔法を放つと威力が高すぎて周りを巻き込み兼ねない事。 華奈に関して言えば、攻撃魔法や回復魔法や防御魔法は優れているけど、接近された場合の対処法が無い事。」
 《武器で攻撃…は無謀か…》
 「最悪な場合はそれもありだけど、華奈は翔也達とのパーティでは後方での支援や攻撃や回復等を行っていたんだろう。 だから、自分が接近されるという事を考えてなかったんだろうね。」
 
 翔也も甘い考えは捨てて貰わないとな。
 翔也と飛鳥が倒されて接近されたら、賢斗と華奈がやられてパーティが全滅するぞ。

 「でも、一番はクリスだよ。 仲間を信じられていない事かな?」
 《ヒーラーが2人もいるのに、些細な怪我で動揺して動けなくなって言う事を聞くというのは、戦闘ではあってはならない事だ。 あの場合は仲間をいち早く助ける為に敵に突っ込んでこそ救う可能性があるというのに…》
 「僕は確かに華奈とレイリアを攻撃したよ…でもそれは致命傷を避けた攻撃だったのに、クリスは2人のヒーラーとしての能力を信じていないから負けを認めたのだろう。 負けを認めれば戦いは終わるとね…僕が敵の立場なら、皆殺しにしていただろう。」
 《考え方が甘いという事だな。》
 「だね、八魔将や四天王といった幹部クラスがそんなに甘い連中ではないだろうし、これは今後の戦闘訓練を見直さないと駄目かな? まぁ、別に非情になれ!…といっている訳じゃないんだし。」
 《む? この反応はシャンゼリオンだな…》

 僕は翔也を目視で捉えられる位置までいた。
 相手は勇者…今までの相手の様にはいかないだろう。

 「こういう事を聞くのは反則かもしれないけど、シャンゼリオンってどんな能力があるの?」
 《シャンゼリオンに限らず、聖剣とは元来…支援系の攻撃に適しているんだ。 勇者の術である天の属性とは相性が良くてな…ただ、今のシャンゼリオンにそこまでの力があるかどうか?》
 「アトランティカの初期状態みたいな感じ?」
 《いや、あそこまでは酷くないが、それでも本来の力の8分の1くらいしか効果は発揮出来ないだろう。》

 空を見ても、まだ日没まではかなり時間がある。
 悪いが翔也…殺す気でやるぞ‼
 翔也向こうも気付いたみたいだな…

 「手加減はする気は無いからね…いくよ、アトランティカ‼」
 《任せろ相棒!》

 《来るわよ、翔也!》
 「あぁ、行くぞシャンゼリオン‼」

 僕は翔也に向かって剣を振りかざした。
 翔也も同じモーションをとり…剣で打ち合った。
 僕はアクセルを発動させて翔也の背後から斬った…筈だったのだが、翔也もアクセルを発動していて僕の剣は空を斬った。
 翔也は距離を離すと、天の術の雷魔法を上空から放って来た。
 僕は無属性魔法で作りだした避雷針で地面に逃がした。
 
 「今のは小手調べかな? それとも本気でこれか?」
 「小手調べに決まっているだろ!」

 僕は闇鎖を発動した。
 だが…翔也に届く前に光魔法で闇鎖を消し去られた。
 
 「やっぱ、闇と光じゃ相性は悪いか…なら!」

 僕はマクスウェルブリッドを放った。
 翔也は、マクスウェルブリッドを斬った。
 
 「おいおい、あれ斬れるのかよ?」
 「今のは賢斗の合成術だよな? 何故ダンが使える⁉」
 「さぁ、何故でしょう?」

 僕は泡魔法を放った。
 翔也にこの魔法を見せた事が無いから、翔也は戸惑うはず…?
 その隙に翔也の足元に貫通魔法で穴を開けた。
 
 「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
 「前ばっか見ているからそういう目に遭うんだよ。」

 僕は穴に向かって重水を放った。
 翔也は穴の底から天の術の雷魔法を放った。
 …が、僕は無属性魔法の壁を作り、穴の中に雷魔法を落とした。
 
 「ギャアアアアアア‼」
 「見えない敵に向かって雷魔法なんて放つからこうなるんだよ。 翔也は僕に勝ちたくないのかい?」
 「勝ちたいに決まっているだろ! あんな罰ゲームの内容を実行しないといけないなんて、俺のパーティを破滅させる気か⁉」
 《そういえば、翔也の罰ゲームの内容とはなんなのだ?》
 「あぁ、翔也が華奈に向かって…お前の料理はクソ不味いから2度と作るな‼…と。」
 《そりゃ、パーティが破滅するわな…》
 「ダン! お前が言えるなら言ってみろ!」
 「やだよ! さっきもあんな事をしたのに、華奈に余計に嫌われるから…」
 《兄さん、ダン殿は華奈さんに何をしたの?》
 《相棒は、戦いの厳しさを教える為に華奈を刺したんだ。》
  
 翔也はアクセルで壁を走って穴から脱出した。
 翔也はかなり怒っている様子だった。

 「華奈を刺したって本当か⁉」
 「あぁ、本当だよ。」

 翔也は力任せに剣を振って来た。
 僕は翔也の剣を受け流した。

 「見損なったぞダン! 訓練とはいえ華奈を刺すなんて⁉」
 「翔也、お前がそうやって過保護にするから今回の様な事が起きたんだ!」
 「だからといって、許せる事と許されない事の区別位出来ないのか⁉ 華奈は…俺達は幼馴染だろ?」
 「だから何だよ? 非情な敵が出てきても、翔也は女の子相手に何て事をするんだ⁉…とでも叫ぶつもりか? お前がそんな甘い考えだから華奈は成長しなかったんだよ‼」
 
 僕は翔也の剣を払うと、足払いをして翔也を倒してから右肩を刺した。
 翔也は声を出さずに剣を掴んで抜こうとしていた。
 僕はそのまま翔也の腹に蹴りを入れて、剣を手から離すと左肩も刺してから足でシャンゼリオンを蹴っ飛ばした。
 
 「翔也はさぁ、何を相手に戦おうとしているんだ? 言っておくが今迄の敵は甘い相手だったが、八魔将以降の敵はそんなに甘くないよ! なのに、甘い事をばっかり言っている翔也に正直反吐が出る!」
 「くっ…何だと⁉」
 
 翔也の腹を力の限り蹴って、シャンゼリオンから遠ざけた。
 僕はシャンゼリオンを拾って問い掛けた。

 「シャンゼリオン、翔也はもうこの通りだよ。 こんな弱い男はさっさと見限って僕と契約しないか?」
 《翔也は先代の勇者の孝也と違って軟弱な男みたいだし、ダン殿が魔王を倒すというのであれば力を貸すのはやぶさかではないわ!》
 「な…何だと⁉」
 《アトランティカ、君の妹は演技上手いねぇ…》
 《いや、あれは本気で言っている節があるぞ…翔也殿はどうでるかな?》
 
 翔也の性格上、ここで引き下がる様な真似は絶対にしない…と思うが、この顔つきだと怪しいな…?
 僕はシャンゼリオンで翔也の右胸を刺した。
 剣は背中をまで達していた。
 翔也は叫び声を上げて、涙を流していた。
 
 「どうだい翔也? 自分の剣に刺される気分は…って、翔也まさか…泣いているのかい?」
 「ぐ…あぁぁぁ……!」
 
 あ、これは本当に駄目だな…。
 仕方ない、これはあまりやりたくはなかったがこの手を使うか。

 「そういえば華奈も剣で刺した時に涙を流していたな…翔也がここで諦めるというのなら、お前を殺して他の3人も後を追わせてやるよ。 魔王は僕のパーティが倒してあげるから、安心して死ぬがいい…」
 
 僕はシャンゼリオンを翔也の体から引き抜くと心臓目掛けて刺そうとした。
 だが、翔也がシャンゼリオンの刀身を掴むと気合を込めて立ち上がった。
 翔也は右手に放った天の術の光を胸に当てると体の傷が塞がり、僕の【覚醒】と同じ様に光を纏った姿になった。

 「これがテルシア王国の文献にあった光を纏った勇者の姿か…」
 《相棒の【覚醒】の状態に似ているな…》
 「問題は、初見で使いこなせるかどうかだが…?」
 《相棒、来るぞ!》

 翔也は剣を構えて向かって来た。
 明らかに今迄のスピードより遥かに速かった。
 僕は翔也の剣を受け流そうとしたが、そのまま吹っ飛ばされた。
 翔也はそれでも構わずに剣の連撃をしてきた。
 動き速いのだが、攻撃がワンパターンだった。

 《アトランティカ、翔也の奴…怒りで自我を無くしているんじゃないか?》
 《だろうな…先程からワンパターンな攻撃ばかりで魔法は一切使っていないからな。》
 《呼びかけても応答がありません。 ダン殿、止めて下さい。》

 止めて下さい…と簡単に言うが、勢いがあり過ぎて近寄れないのが現状だった。
 僕は翔也から距離を開いて、足元に樹魔法を使ってから植物成長で翔也を縛った。
 そしてすぐに闇鎖で翔也を拘束してから、無属性魔法の壁で囲い込んだ。
 翔也は雄叫びを上げると、力任せにシャンゼリオンを振るって、拘束を解いてから壁を破壊した。

 「拘束は無意味か…」
 《どうするんだ相棒?》
 「純粋に魔法をぶつけてみる!」

 僕はハンドレットランスを放った。
 翔也の両腕両足に突き刺さり動きを止めるとすぐに、暗黒+闇鎖+吸引で魔力を吸引した。
 それでも拘束を解こうと暴れだした。
 僕は翔也の背後に回り、アトランティカで翔也の頭を峰打ちにした。
 だが、大したダメージは与えられず…翔也は鎖を引き千切ってから剣を構えて向かって来た。

 「やばいな…挑発し過ぎたか。 だが、このままだと…?」
 《あぁ、体力がなくなるまで向かってくるぞ!》
 「アトランティカ、次元斬…やるよ!」
 《今の翔也殿なら耐えられる…かもしれんな!》

 僕は翔也から距離を取ってアトランティカを構えた。
 僕の手から刀身に魔力を流すと、アトランティカの刀身が闇の光を放った。
 翔也は剣を振りかざして向かって来た!
 僕はその攻撃を躱してから、翔也に次元斬を放った。
 翔也は体に強い衝撃を受けると、内側から爆発する様な衝撃波が全身に響いて行って倒れた。
 そして翔也に纏われていた光が消えた。

 「次元斬…成功したが、腕が上がらない。」
 《次元斬は腕を犠牲にして放つ大技だからな、だから【覚醒】以外での使用は控えろといった意味が分かっただろう?》
 「ノーマル状態で使うとこうなるのか…それにしても流石の翔也はもう動かないよな?」
 《はい、翔也は意識を失いました。 ダン殿ありがとうございます!》
 「礼を言われる様な事はしてないよ、次元斬は本来…仲間に使用してはならない技だしね。 今回の場合は仕方ないとしても…」
 
 僕はその場でしゃがみ込んだ。
 さすがに魔法連発と武技は体に堪えて動けない。
 空を見ると赤みが差してきた。
 僕は空に向かって戦闘訓練終了の合図を放った。
 そして翔也を連れて小屋に帰ると…
 
 「これで戦闘訓練は終了だ。 皆は残念だったね…だけど、これからの課題が解ったと思うから、今よりももっと強くなれるかもね。」
 《そういえば相棒、クリスと華奈とレイリアの罰ゲームの内容はどういう物なんだ?》
 「あぁ…クリスとレイリアは闇魔法の触手の実験台で、華奈は皆の前で体重計に乗って体重を暴露されてから、メジャーで服の下のスリーサイズを測られるという物だ。」
 《触手って…十六鬼影衆のコケットにやったあれか?》
 《ダン殿…女性に対してそれを行うのは、いくら罰ゲームでも酷過ぎます。 同じ女性としてそれはどうかと思います‼》
 「いやいや、やらないって…あぁでも言わないと本気でやってくれないと思ったから罰ゲームという企画を思い付いて発表しただけで、実行しようだなんて全く思ってなかったよ。 ただ…温い戦いをしようとしていたら実行しようと思っていただけで。」
 《やる気満々じゃないか、相棒…》

 気絶している翔也の横で剣2本と会話をしていると、ガイウス達がこちらにやって来た…んだけど…?
 
 「ガイウスも賢斗も飛鳥もベルも…その服を気に入ったのか?」
 「「「「そんな訳ないだろ‼」」」」
 
 ガイウスは貴婦人のドレス、賢斗はゴスロリ、飛鳥はビキニアーマー、クリアベールは魔法のビキニのままだった。
 
 「どういう訳か、この服が脱げないんだよ⁉」
 「ディスペルも効果なしだった!」
 「アリスの能力でも上に何かを羽織ろうとすると弾かれるの⁉」
 「おかしいな…化粧にそんな能力はないけどなぁ?」

 僕はギルドカードを確認した。
 
 【化粧】レベル10
 服や髪などを自由に変える事が出来るスキル。
 解除を行わない限り元に戻る事は無い。 
 一度化粧で変化した物は、如何なる魔法も受け付ける事は無い。
 重ね着は無効。

 「えーっと…解除!」

 解除の効果により、ガイウスと賢斗と飛鳥とクリアベールの服が元に戻った。
 その後、4人からはえらい剣幕で怒られた。
 そうしている間に、華奈が翔也の傷を癒していて、翔也も目を覚ました。
 あんな事があった所為か、華奈もレイリアも僕の元には来ようともしなかった。

 「今回の戦闘訓練はこれにて終了です! お疲れさまでした。 勝者は僕ですが、罰ゲームは実行する気はありません。 あぁでも言わないと、皆が本気でやってくれないと思っての冗談です。 今回の戦闘訓練で自分の弱点や補わなければならない箇所が見えてきたと思います。 これは期間を設けて何回か実行したいと思いますので、次こそは本気でお手合わせをお願いします。 んでは、解散!」
 
 皆は街の方に向かって歩いて行った。
 僕も負傷していたが誰も回復魔法をしてくれず、声すら掛けてくる人がいなかった。
 
 「僕もやり過ぎだとは思ったけどさ、ここまで露骨に無視しなくても良いんじゃないだろうか…?」
 《まぁ、今日だけは仕方がないだろう。 明日には皆も元に戻っている事だろうよ。》
 「あ、やばい…」
 《どうした、相棒?》
 「右腕に全く力が入らない…」
 《相棒、回復魔法はどうした?》
 「ペナルティで使えない…」
 《あと何日だ?》
 「あと2日かな? 仕方ない、街に帰るのは諦めて今日はここで過ごそう。」
 
 僕は土壁を作って、いつかの風呂の小屋を作った。
 風呂の時と違いそこまで大きい物は作れなかったが、寝るには充分だった。
 その日はそこで寝て明日に備えた。
 
 だが、次元斬の影響は当分続くのだった…
 

 
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