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第三章 サーディリアン聖王国の章
第十話 王妃殿下からの依頼。(醜い豚の討伐です。)
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~~~~~翌日~~~~~
僕とレイリアは、市場で買い物をしていた。
食材や薬品などを購入していた。
この先の旅に何があるから解らないからである。
準備は入念にしておくことにした。
「ダン、あそこの騎士様がダンを呼んでいるみたい。」
「僕? なんだろう?」
僕は騎士の元に行くと、騎士は城から僕を探しつけるように言われたらしい。
シルロンダーのお披露目は終わっているし、用事はもうないはずなのだが…?
でもまぁ、後1週間弱でカイナンの街を出る訳だし報告ついでに行ってみよう。
僕とレイリアは、一緒に王城に行った。
「良く来てくれたダン殿、実は本日呼んだのは妻がお願いがあると言ってきたので、ダン殿を頼れないかとお願いしたのだ。」
「ダン殿にお願いしたいというのは、実は…」
王妃陛下の話はこうだった。
テルシア王国でサーディリアン聖王国に嫁ぐ前に、トアルディア王女はとある平民の宝石細工師の女の子に惚れ込んだらしい。
彼女の作る宝石や装飾品は、決して派手な華やかさはない代わりに趣のある気品に溢れたものだったという。
以降、王妃陛下の身に着ける装飾品は彼女に発注して作って貰っているというものなのだ。
王女がこの国に嫁ぐと聞いた時に、その子も一緒に着いてきたという。
そして、カイナンの街で宝石加工や装飾品を作る日々を送っていたのだが、ここ最近とある貴族が難癖やケチをつけて商品登録前の品を金も払わずに奪い取って行くという話なのだ。
その他にも工房に無断で立ち入り、「これは質の悪い物だから、こんな物に金を払う必要はないだろう!」といって勝手に持って行くという。
返してほしくて話をすると、貴族を笠にして威張り散らすというものらしい。
「なるほど、クレーマーですか…身分を笠に着て性質が悪いな。」
「ダン殿、クレーマーとは?」
「ほんの些細な事を大きく騒ぎ立てて、その者の評判を落とすという行為を平然と行える人間の事です。 その者のミスや荒探し等をして自分を有利に立て、相手が折れるまで高圧的な態度で圧力を掛けるんです。」
「なるほど、そういう意味か…」
「ここ最近では、ほぼ毎日のように来ては装飾品を持って行ってしまうとか。」
「なら、その子を王宮に召し抱えたらどうですか?」
「いえ、いかに大国で王妃とはいっても、わたくしは嫁いで来た身です。 私情で召し抱える事が出来ませんの。 仮に召し抱えた場合、彼女は貴族ではなく平民なので貴族の目を付けられるような事は避けたいのです。 それに、彼女自身も街で生活する事を望んでおりましたので…」
「それだけ解っているのであれば、王国側から注意は出来ない…か。」
「ダン、どうして?」
「王族や貴族にはパワーバランスがあるんだよ。 国のトップが私情や感情で貴族を罰すると、今度は貴族側から反発を喰らう可能性があるんだ。 貴族の圧政に苦しむ平民を王族が救ったというなら反発も起きないだろうけど…」
「でも、商品を奪われているっていう話だけど、犯罪じゃないの?」
「あくまでも商品登録前の品だと、商品登録をされていなければ、奪われても罪には問えないんだよ。 本当に奪われたくなかったら、探されても見付からない場所に隠したりしてやり過ごすしかないだろうね。」
「なんか納得いかないね。」
「その通りの事なんだが、ダン殿は随分詳しいな。」
元いた世界では、商品登録されていようがされていまいが…窃盗は犯罪行為なのだが?
貴族制度のあるこの世界では、基本的に平民は貴族には逆らえないのが当たり前なのである。
その為に商品登録をした物なら…という様な事を法律で定めたが、まぁ無視する輩も中にはいる。
レイリアは不服そうな顔をした。
気持ちはわかるのだが、こればかりは仕方がなかった。
「だから、王は国を動かして騎士団も派遣という事は出来ないんだ。 商品登録をされている物を奪って行ったのなら起訴も出来るだろうけど…」
「ならどうしたら良いの?」
「その為に僕らがいる。 冒険者という立場なら、国の騎士とは違って身動きがとりやすいから、最悪の場合は国から出れば問題は無い。 なので、レイリアは城を出たら、ガイウスとクリスに説明して呼んできてくれ。」
「わかったわ!」
「王妃陛下、その貴族というのはどの爵位の者ですか? 僕もAランクなので伯爵位と同じ地位ではありますが、相手が侯爵や公爵の上位貴族だった場合…って事はさすがにそれは無いか、王都の高級宝石店ならともかく、平民が経営する店で上位貴族がそんなセコイ真似していたら示しが付かなくなるでしょうしね。」
「その通りです。 男は男爵を名乗っていたそうです。」
「男爵ですか…国王陛下どうします? 徹底的に潰しますか?」
「ダン殿、君も笑みを浮かべた顔で恐ろしい事を口走るな…ただ、この場合はダン殿の判断に任せよう!」
「え? 良いんですか? 僕は権力を笠に着て威張っている奴を見たら、間違いなく潰しますよ。 生かしておいても泣く人が増えるなら、そんなクズは徹底的に追い詰めた方が簡単でしょう!」
「おいおい、穏便に頼むぞ!」
どの世界にもこういった悪党っているんだな。
僕も色んなバイトで培った経験の中には、本当に性質の悪いクレーマーが多かったので、それらの対処には自信がある。
「対策としては、僕が店員に成りすまして対処するというのが一番良い方向ですね。」
「それで、権力を笠に着てきたらどうするつもりだ?」
「適当にあしらって反省でもさせましょう! 僕なりの方法でね…くっくっく…」
「どうやって反省させるのかを聞くのは怖いが…頼むぞ!」
「ダン殿、彼女を宜しくお願い致しますね。」
「お任せ下さい! 向こうが圧力を掛けようものなら、複合統一魔法で死体が残らない様に消し炭にでもしてやりますので!」
僕は冗談で言ったつもりなのだが、国王陛下と王妃陛下は青ざめた表情をしていた。
僕とレイリアは城を出ると僕は店の方に、レイリアはガイウスとクリスを呼びに行った。
そして合流してから店の前に着いた…のだが?
「この店って、レイリアと休日に買い物に来たアクセサリー屋か…」
「ダンがこの程度なら作れそうだと軽んじた発言をして、店主さんから思いっ切り睨まれた場所ね!」
レイリアも良く覚えているな。
僕は中に入り、王妃陛下の依頼という事で店主に説明すると、億の扉から出て来た彼女を紹介された。
彼女の名はカルレットといい、ドワーフ族の少女だった。
髭が生えていないから…多分少女だとは思うけど?
「僕の名前は、ダン・スーガーと言います。 王妃陛下からカルレット様をお助けする様に参上いたしました。」
「トアルディア王妃様からですか? それは真にありがとうございます。 実はトアルディア王妃様に献上する品を作っていて佳境に追い込まれているのです。」
「その貴族にその装飾品は見付からなかったのですか?」
「見つかった事はあるのですが、完成品ではなかったので完成間近になるまで手を出さないでやると…。 これは王妃様に献上する品ですと伝えた事もありましたが高級宝石店ならともかく、こんな平民が開いている店で王妃に献上する品などある物か!! …と言われて…。」
「解りました、僕が店員に扮して対処します。 以前も、この手の客の対処は心得ていますので。」
「宜しくお願い致します。」
「あ、念の為に鍵を閉めておいてくださいね。」
カルレットは頷くと、ドアが閉まって鍵が掛かる音がした。
さてと…そろそろな時間に来ると言ってたな。
男爵か…どう料理してやるかね!
しばらくすると、扉が勢いよく開いて貴族らしい服装をした男が入ってきたので対処をした。
見た目は、長髪の栗毛で小太りのいかにも悪党貴族という成りをしていた。
こいつに遠慮する必要はないな…と思った。
「いらっしゃいませ、今日はどの様な品をお求めですか?」
「このような店に我に相応しい品があると思うか?」
「あ、それは大変申し訳ありませんでした。 でしたら、この道を真っ直ぐ行った所に貴族様に似合う宝石店がございますので、そちらへどうぞ。」
僕は貴族を店の外に押し出して、扉を閉めた。
すると、また扉が勢いよく開いた。
「貴様、ふざけているのか! 貴様では話にならん、店主を出せ!!」
「申し訳ありません、店主は職人と一緒に装飾品の完成に尽力しておりますので…」
「なら、待つか…ん? ここに良い物があるじゃないか、待っている間の手間賃としてこれは貰っておいてやる!」
「いえいえ、これは商品登録されている立派な品ですので、タダで持って行かれると困ります。」
「うるさい! 我を誰だと思っている!?」
「金も払わずに商品を物色し、店の中で騒ぎ立てる醜い体系をしている豚かと思いました。」
「我は、セコインダ男爵であるぞ! 平民よ、身分を弁えよ!」
「それは申し訳ありませんでした。 男爵様という身分の方が、平民の店で難癖をつけて平民でも買える金額の商品を黙って持って行こうとしたので、貴族らしい服装をした性質の悪い豚かと。」
この豚は僕を睨み付けるように威嚇していた。
…が、この程度の奴は元いた世界で何度も経験をしているので脅威には感じなかった。
「私の国の言葉に、こんなことわざがあります。【豚に真珠】といって、豚が宝石を持っていても意味をなさないという言葉です。 まさにお客様にピッタリのお言葉ですよね。」
「平民が貴族に逆らって無事に済むと思っているのか!!」
「貴方が本当に貴族なら、逆らったら無事に済むわけありませんよね? 貴方が本当に貴族ならという話ですが。」
「我が嘘を言っているとでも思うのか?」
「そんなもん当たり前じゃないですか! どこの世界に平民の店から金も払わずに商品を持って行こうとする真似をする人がいますか? 欲しければお金を払って下さいと言っているだけです。」
「だから、それはこれの質が悪いから金を払う必要が無いと…」
「それは誰が決めた話ですか? 質が良かろうが悪かろうが、貴方にそんな事を決める権利は無いはずですよ?」
「我にはな、物に対する鑑定眼があるんだよ。」
「なるほど、その腐った目でもここの商品は良く映るのですね。 御見それしました。」
「貴様、さっきから喧嘩売っているのか!?」
この豚に対しては、これ以上に何を言っても無駄の様だ。
だとしたら…そろそろ良いかな?
「はぁ、もう芝居は良いか。」
「何の話だ?」
「おい豚、今までの分と今回の分まで金を払えと言っているんだ! じゃないと、このまま拘束してキラーアントの巣に放り込むぞ!」
「貴様…オイ、入ってこい! この生意気な小僧に痛い目を遭わせてやれ!!」
セコインダ男爵の言葉に3人の男が入ってきた。
あれ? どの顔も見た事あるんだが…?
「コイツ等は我が金で雇った護衛のCランク冒険者だ! 貴様みたいな生意気な奴はコイツ等に半殺しにでも遭えば良い!」
「人を雇う金があるんだったら、こっちの商品くらい払える金くらいあるだろう?」
「うるさい! 早くコイツを殺るんだ!!」
「…という事らしいんだけど、君たちやる? やるのなら…入ってきて良いよ!」
ガイウスと赤い鎧を着たクリス、レイリアが入ってきた。
僕は威嚇の為に、巨大な炎の弓矢を出現した。
「僕達が相手になるけど、どうする?」
3人の男は無言で去って行った。
そして残った豚…。
「クリス、こいつって本当に貴族なのか?」
「確か…カスナンダ男爵の令息だったはずだ。」
あ、騎士モードに入っているな。
さすがクリス、元王国騎士だけあって貴族には詳しいな。
「ん?…ってことは、こいつは男爵ではないのか?」
「貴様、平民風情が男爵家に逆らうつもりか!!」
この豚は、まだ自分が優位に立っていると思っているな…?
僕はギルドカードを見せた。
「貴様も貴族の端くれなら、Aランクという意味は解るよな?」
「Aだからなんだというんだ!!」
「クリス、この豚の家は解る?」
「あぁ、無論だ。」
「さて、その前に…カルレットさん、出てきて平気だよ!」
カルレットは鍵を開けて出てきた。
セコインダ…豚をみて覚えた表情をしている。
「カルレットさん、この豚から何品盗られた?」
「全部で21点ですね。」
「おい、娘! あの装飾品は完成したのか!!」
「ちょっと黙れ、この豚!」
「グエッ…」
僕は豚の腹に蹴りを入れて黙らせた。
僕は財布から白金貨を1枚出すとカルレットに渡した。
「ダン様、この大金は一体!?」
「コイツに奪われた商品の代金ね。」
「多すぎます!」
「とっといて、商品の値段とコイツの迷惑料としてね。」
カルレットは頭を下げてお礼を言ってくれた。
さて、あとはこの豚の始末だが…?
「クリス、コイツの家に案内してくれ! ガイウス、嫌かもしれないがコイツを担いでくれ!」
「「あぁ」」
僕等は店を出て、市場を抜けていた。
その間、この豚が貴族を笠に着て他の店でも強奪していた事が解った。
僕は各店の被害状況を紙に纏めて見ていると、とんでもない程の金額に達していたのだった。
そしてカスナンダ男爵家に着くと豚を解放した。
「平民が貴族に逆らったらどうなるか解っているのだろうな! 父上を呼んで貴様を消してやる!!」
「はいはい、どうぞ~」
豚は豚小屋に…もとい、屋敷に入って行った。
僕はクリスに聞いた。
「あの豚の父親も、あの豚と同様なクズか?」
「いや、カスナンダ男爵は厳格で立派なお方だ。 どうしてあんな立派な方からあんなクズが生まれたのか…」
豚が親を連れてきた。
豚は父親の前でさらに威厳のある態度で僕に言ってきた。
「父上、この平民です。 この平民が我の邪魔をして、更に我に怪我までさせたのです!」
「今の話は本当か?」
「初めまして男爵様、僕はダン・スーガーと申します。」
「ダン・スーガー…ダン・スーガー…どこかで聞いた名だな…? ダン…!?」
男爵の顔が一瞬で青くなった。
この顔は解ったな…と解りやすい反応だった。
つい最近に子爵家をぶっ潰したのは、恐らくだが貴族内では伝わっているだろうからね。
「ダン殿、我が愚息が何か粗相をしたのでしょうか?」
「何をしているのですか、父上! 早くこの平民を罰してください!」
「まぁ、色々あるんですが…まず、この無知な豚に知識を教えた方が良いですよ。 Aランクの意味を知らずに平民だとか半殺しにするとか、好き放題言ってくれましたからね。」
「本当に申し訳ありませんでした!!!」
「その他にも、そこの豚は王妃陛下の友人が働いているお店で商品に難癖付けて強奪していったり、他の店でも貴族を笠に着て好き放題強奪していったそうです。」
「父上…早くコイツを黙らせてください! こんな奴、早く始末してくださいよ!!」
豚の言葉に、男爵は豚をボコボコに殴りつけた。
豚は訳が分からずに、泣いてやめる様に言っているが、男爵は暴行を止める気配がない。
「男爵様、おやめください。」
「すいません、愚息を甘やかしすぎました。」
「おい、豚…1つ教えておいてやる。 Aランクの中でも僕は特別な地位があり、伯爵位と同じ立場なんだよ。 男爵でもないただの令息が伯爵に向かって半殺しとか始末しろとか言ったらどうなるかぐらい馬鹿で無知な豚でも解るよな?」
「は…はく…はく…?」
「男爵様、この豚の処遇ですが…」
「はい、もう屋敷から出す事なく監禁致します。」
「いや、さすがにヌルいでしょ…」
「はっ?」
「あ、良い事思い付いた!」
「な…なんでしょうか?」
「鉱山内での強制労働にしましょう! この豚が店から強奪した分の支払いが全て完了するまでなので、いつになるかは分かりませんが…」
「それは容赦願いませんか?」
「では、店での弁償の金額を聞きますか?」
「はい…」
僕はここに来る前に事前に調査しておいた紙を捲りながら暗算した。
「各店で聞いた話によると、トータルで白金貨4枚と金貨788枚だそうです。 男爵さまでは無く、この豚に払えるのなら強制労働はやめますがいかがいたしますか?」
「・・・・・・・・」
「この豚の性根を叩き直す為と罪の重さを知る為に強制労働は良いと思うんですよ。 別に一生入る訳ではないんだし、この豚のやる気次第になりますが…」
「そうですね、親馬鹿で甘やかしてきましたが、丁度良いかもしれません。」
「強制労働なんていやだーーーー!!!」
豚は逃げようとしたが、ガイウスに蹴りを入れられて戻された。
さて、あの豚が出れるまでに何年…いや、何十年掛かるかねぇ…?
クリスが呼んだ警備隊に連行されて行った。
各店での弁償金は男爵から受け取り、自分で支払った白金貨を1枚だけ抜いて、残りを代わりに支払って行った。
こうして、王妃殿下からの依頼は完了した。
僕等は城に戻り、国王陛下と王妃陛下に依頼達成を報告した。
王妃殿下の首元を見ると、気品に溢れたネックレスが掛かっていた。
「此度のダン殿の報酬として、ギルドランクをSランクにし、報奨金を授ける!」
「大変ありがたいのですが…ギルドランクって、こんなに簡単に上げても平気なのですか?」
「今回はギルドからの依頼ではなく、国からの…王族からの依頼なのだ。 報酬が報奨金のみでは、こちらの気が済まん。」
「そういう事なら、ありがたくいただきます! あ、それと当初の目的を忘れていました。」
「うん? その目的とは?」
「あと6日で、僕らはカイナンから旅立ちます。」
「そうか…ダン殿が来てくれた数日間は非常に退屈しない日だった。 寂しくなるな…」
「また会いに来ます。 ラインハルト殿下との約束もありますし…」
「なら、君たちが旅立つ日に国を挙げて見送るとしよう!」
「あはははは…ありがとうございます!」
僕等は城を出た。
この時、僕は国王陛下の冗談だと思っていたのだったが…?
僕とレイリアは、市場で買い物をしていた。
食材や薬品などを購入していた。
この先の旅に何があるから解らないからである。
準備は入念にしておくことにした。
「ダン、あそこの騎士様がダンを呼んでいるみたい。」
「僕? なんだろう?」
僕は騎士の元に行くと、騎士は城から僕を探しつけるように言われたらしい。
シルロンダーのお披露目は終わっているし、用事はもうないはずなのだが…?
でもまぁ、後1週間弱でカイナンの街を出る訳だし報告ついでに行ってみよう。
僕とレイリアは、一緒に王城に行った。
「良く来てくれたダン殿、実は本日呼んだのは妻がお願いがあると言ってきたので、ダン殿を頼れないかとお願いしたのだ。」
「ダン殿にお願いしたいというのは、実は…」
王妃陛下の話はこうだった。
テルシア王国でサーディリアン聖王国に嫁ぐ前に、トアルディア王女はとある平民の宝石細工師の女の子に惚れ込んだらしい。
彼女の作る宝石や装飾品は、決して派手な華やかさはない代わりに趣のある気品に溢れたものだったという。
以降、王妃陛下の身に着ける装飾品は彼女に発注して作って貰っているというものなのだ。
王女がこの国に嫁ぐと聞いた時に、その子も一緒に着いてきたという。
そして、カイナンの街で宝石加工や装飾品を作る日々を送っていたのだが、ここ最近とある貴族が難癖やケチをつけて商品登録前の品を金も払わずに奪い取って行くという話なのだ。
その他にも工房に無断で立ち入り、「これは質の悪い物だから、こんな物に金を払う必要はないだろう!」といって勝手に持って行くという。
返してほしくて話をすると、貴族を笠にして威張り散らすというものらしい。
「なるほど、クレーマーですか…身分を笠に着て性質が悪いな。」
「ダン殿、クレーマーとは?」
「ほんの些細な事を大きく騒ぎ立てて、その者の評判を落とすという行為を平然と行える人間の事です。 その者のミスや荒探し等をして自分を有利に立て、相手が折れるまで高圧的な態度で圧力を掛けるんです。」
「なるほど、そういう意味か…」
「ここ最近では、ほぼ毎日のように来ては装飾品を持って行ってしまうとか。」
「なら、その子を王宮に召し抱えたらどうですか?」
「いえ、いかに大国で王妃とはいっても、わたくしは嫁いで来た身です。 私情で召し抱える事が出来ませんの。 仮に召し抱えた場合、彼女は貴族ではなく平民なので貴族の目を付けられるような事は避けたいのです。 それに、彼女自身も街で生活する事を望んでおりましたので…」
「それだけ解っているのであれば、王国側から注意は出来ない…か。」
「ダン、どうして?」
「王族や貴族にはパワーバランスがあるんだよ。 国のトップが私情や感情で貴族を罰すると、今度は貴族側から反発を喰らう可能性があるんだ。 貴族の圧政に苦しむ平民を王族が救ったというなら反発も起きないだろうけど…」
「でも、商品を奪われているっていう話だけど、犯罪じゃないの?」
「あくまでも商品登録前の品だと、商品登録をされていなければ、奪われても罪には問えないんだよ。 本当に奪われたくなかったら、探されても見付からない場所に隠したりしてやり過ごすしかないだろうね。」
「なんか納得いかないね。」
「その通りの事なんだが、ダン殿は随分詳しいな。」
元いた世界では、商品登録されていようがされていまいが…窃盗は犯罪行為なのだが?
貴族制度のあるこの世界では、基本的に平民は貴族には逆らえないのが当たり前なのである。
その為に商品登録をした物なら…という様な事を法律で定めたが、まぁ無視する輩も中にはいる。
レイリアは不服そうな顔をした。
気持ちはわかるのだが、こればかりは仕方がなかった。
「だから、王は国を動かして騎士団も派遣という事は出来ないんだ。 商品登録をされている物を奪って行ったのなら起訴も出来るだろうけど…」
「ならどうしたら良いの?」
「その為に僕らがいる。 冒険者という立場なら、国の騎士とは違って身動きがとりやすいから、最悪の場合は国から出れば問題は無い。 なので、レイリアは城を出たら、ガイウスとクリスに説明して呼んできてくれ。」
「わかったわ!」
「王妃陛下、その貴族というのはどの爵位の者ですか? 僕もAランクなので伯爵位と同じ地位ではありますが、相手が侯爵や公爵の上位貴族だった場合…って事はさすがにそれは無いか、王都の高級宝石店ならともかく、平民が経営する店で上位貴族がそんなセコイ真似していたら示しが付かなくなるでしょうしね。」
「その通りです。 男は男爵を名乗っていたそうです。」
「男爵ですか…国王陛下どうします? 徹底的に潰しますか?」
「ダン殿、君も笑みを浮かべた顔で恐ろしい事を口走るな…ただ、この場合はダン殿の判断に任せよう!」
「え? 良いんですか? 僕は権力を笠に着て威張っている奴を見たら、間違いなく潰しますよ。 生かしておいても泣く人が増えるなら、そんなクズは徹底的に追い詰めた方が簡単でしょう!」
「おいおい、穏便に頼むぞ!」
どの世界にもこういった悪党っているんだな。
僕も色んなバイトで培った経験の中には、本当に性質の悪いクレーマーが多かったので、それらの対処には自信がある。
「対策としては、僕が店員に成りすまして対処するというのが一番良い方向ですね。」
「それで、権力を笠に着てきたらどうするつもりだ?」
「適当にあしらって反省でもさせましょう! 僕なりの方法でね…くっくっく…」
「どうやって反省させるのかを聞くのは怖いが…頼むぞ!」
「ダン殿、彼女を宜しくお願い致しますね。」
「お任せ下さい! 向こうが圧力を掛けようものなら、複合統一魔法で死体が残らない様に消し炭にでもしてやりますので!」
僕は冗談で言ったつもりなのだが、国王陛下と王妃陛下は青ざめた表情をしていた。
僕とレイリアは城を出ると僕は店の方に、レイリアはガイウスとクリスを呼びに行った。
そして合流してから店の前に着いた…のだが?
「この店って、レイリアと休日に買い物に来たアクセサリー屋か…」
「ダンがこの程度なら作れそうだと軽んじた発言をして、店主さんから思いっ切り睨まれた場所ね!」
レイリアも良く覚えているな。
僕は中に入り、王妃陛下の依頼という事で店主に説明すると、億の扉から出て来た彼女を紹介された。
彼女の名はカルレットといい、ドワーフ族の少女だった。
髭が生えていないから…多分少女だとは思うけど?
「僕の名前は、ダン・スーガーと言います。 王妃陛下からカルレット様をお助けする様に参上いたしました。」
「トアルディア王妃様からですか? それは真にありがとうございます。 実はトアルディア王妃様に献上する品を作っていて佳境に追い込まれているのです。」
「その貴族にその装飾品は見付からなかったのですか?」
「見つかった事はあるのですが、完成品ではなかったので完成間近になるまで手を出さないでやると…。 これは王妃様に献上する品ですと伝えた事もありましたが高級宝石店ならともかく、こんな平民が開いている店で王妃に献上する品などある物か!! …と言われて…。」
「解りました、僕が店員に扮して対処します。 以前も、この手の客の対処は心得ていますので。」
「宜しくお願い致します。」
「あ、念の為に鍵を閉めておいてくださいね。」
カルレットは頷くと、ドアが閉まって鍵が掛かる音がした。
さてと…そろそろな時間に来ると言ってたな。
男爵か…どう料理してやるかね!
しばらくすると、扉が勢いよく開いて貴族らしい服装をした男が入ってきたので対処をした。
見た目は、長髪の栗毛で小太りのいかにも悪党貴族という成りをしていた。
こいつに遠慮する必要はないな…と思った。
「いらっしゃいませ、今日はどの様な品をお求めですか?」
「このような店に我に相応しい品があると思うか?」
「あ、それは大変申し訳ありませんでした。 でしたら、この道を真っ直ぐ行った所に貴族様に似合う宝石店がございますので、そちらへどうぞ。」
僕は貴族を店の外に押し出して、扉を閉めた。
すると、また扉が勢いよく開いた。
「貴様、ふざけているのか! 貴様では話にならん、店主を出せ!!」
「申し訳ありません、店主は職人と一緒に装飾品の完成に尽力しておりますので…」
「なら、待つか…ん? ここに良い物があるじゃないか、待っている間の手間賃としてこれは貰っておいてやる!」
「いえいえ、これは商品登録されている立派な品ですので、タダで持って行かれると困ります。」
「うるさい! 我を誰だと思っている!?」
「金も払わずに商品を物色し、店の中で騒ぎ立てる醜い体系をしている豚かと思いました。」
「我は、セコインダ男爵であるぞ! 平民よ、身分を弁えよ!」
「それは申し訳ありませんでした。 男爵様という身分の方が、平民の店で難癖をつけて平民でも買える金額の商品を黙って持って行こうとしたので、貴族らしい服装をした性質の悪い豚かと。」
この豚は僕を睨み付けるように威嚇していた。
…が、この程度の奴は元いた世界で何度も経験をしているので脅威には感じなかった。
「私の国の言葉に、こんなことわざがあります。【豚に真珠】といって、豚が宝石を持っていても意味をなさないという言葉です。 まさにお客様にピッタリのお言葉ですよね。」
「平民が貴族に逆らって無事に済むと思っているのか!!」
「貴方が本当に貴族なら、逆らったら無事に済むわけありませんよね? 貴方が本当に貴族ならという話ですが。」
「我が嘘を言っているとでも思うのか?」
「そんなもん当たり前じゃないですか! どこの世界に平民の店から金も払わずに商品を持って行こうとする真似をする人がいますか? 欲しければお金を払って下さいと言っているだけです。」
「だから、それはこれの質が悪いから金を払う必要が無いと…」
「それは誰が決めた話ですか? 質が良かろうが悪かろうが、貴方にそんな事を決める権利は無いはずですよ?」
「我にはな、物に対する鑑定眼があるんだよ。」
「なるほど、その腐った目でもここの商品は良く映るのですね。 御見それしました。」
「貴様、さっきから喧嘩売っているのか!?」
この豚に対しては、これ以上に何を言っても無駄の様だ。
だとしたら…そろそろ良いかな?
「はぁ、もう芝居は良いか。」
「何の話だ?」
「おい豚、今までの分と今回の分まで金を払えと言っているんだ! じゃないと、このまま拘束してキラーアントの巣に放り込むぞ!」
「貴様…オイ、入ってこい! この生意気な小僧に痛い目を遭わせてやれ!!」
セコインダ男爵の言葉に3人の男が入ってきた。
あれ? どの顔も見た事あるんだが…?
「コイツ等は我が金で雇った護衛のCランク冒険者だ! 貴様みたいな生意気な奴はコイツ等に半殺しにでも遭えば良い!」
「人を雇う金があるんだったら、こっちの商品くらい払える金くらいあるだろう?」
「うるさい! 早くコイツを殺るんだ!!」
「…という事らしいんだけど、君たちやる? やるのなら…入ってきて良いよ!」
ガイウスと赤い鎧を着たクリス、レイリアが入ってきた。
僕は威嚇の為に、巨大な炎の弓矢を出現した。
「僕達が相手になるけど、どうする?」
3人の男は無言で去って行った。
そして残った豚…。
「クリス、こいつって本当に貴族なのか?」
「確か…カスナンダ男爵の令息だったはずだ。」
あ、騎士モードに入っているな。
さすがクリス、元王国騎士だけあって貴族には詳しいな。
「ん?…ってことは、こいつは男爵ではないのか?」
「貴様、平民風情が男爵家に逆らうつもりか!!」
この豚は、まだ自分が優位に立っていると思っているな…?
僕はギルドカードを見せた。
「貴様も貴族の端くれなら、Aランクという意味は解るよな?」
「Aだからなんだというんだ!!」
「クリス、この豚の家は解る?」
「あぁ、無論だ。」
「さて、その前に…カルレットさん、出てきて平気だよ!」
カルレットは鍵を開けて出てきた。
セコインダ…豚をみて覚えた表情をしている。
「カルレットさん、この豚から何品盗られた?」
「全部で21点ですね。」
「おい、娘! あの装飾品は完成したのか!!」
「ちょっと黙れ、この豚!」
「グエッ…」
僕は豚の腹に蹴りを入れて黙らせた。
僕は財布から白金貨を1枚出すとカルレットに渡した。
「ダン様、この大金は一体!?」
「コイツに奪われた商品の代金ね。」
「多すぎます!」
「とっといて、商品の値段とコイツの迷惑料としてね。」
カルレットは頭を下げてお礼を言ってくれた。
さて、あとはこの豚の始末だが…?
「クリス、コイツの家に案内してくれ! ガイウス、嫌かもしれないがコイツを担いでくれ!」
「「あぁ」」
僕等は店を出て、市場を抜けていた。
その間、この豚が貴族を笠に着て他の店でも強奪していた事が解った。
僕は各店の被害状況を紙に纏めて見ていると、とんでもない程の金額に達していたのだった。
そしてカスナンダ男爵家に着くと豚を解放した。
「平民が貴族に逆らったらどうなるか解っているのだろうな! 父上を呼んで貴様を消してやる!!」
「はいはい、どうぞ~」
豚は豚小屋に…もとい、屋敷に入って行った。
僕はクリスに聞いた。
「あの豚の父親も、あの豚と同様なクズか?」
「いや、カスナンダ男爵は厳格で立派なお方だ。 どうしてあんな立派な方からあんなクズが生まれたのか…」
豚が親を連れてきた。
豚は父親の前でさらに威厳のある態度で僕に言ってきた。
「父上、この平民です。 この平民が我の邪魔をして、更に我に怪我までさせたのです!」
「今の話は本当か?」
「初めまして男爵様、僕はダン・スーガーと申します。」
「ダン・スーガー…ダン・スーガー…どこかで聞いた名だな…? ダン…!?」
男爵の顔が一瞬で青くなった。
この顔は解ったな…と解りやすい反応だった。
つい最近に子爵家をぶっ潰したのは、恐らくだが貴族内では伝わっているだろうからね。
「ダン殿、我が愚息が何か粗相をしたのでしょうか?」
「何をしているのですか、父上! 早くこの平民を罰してください!」
「まぁ、色々あるんですが…まず、この無知な豚に知識を教えた方が良いですよ。 Aランクの意味を知らずに平民だとか半殺しにするとか、好き放題言ってくれましたからね。」
「本当に申し訳ありませんでした!!!」
「その他にも、そこの豚は王妃陛下の友人が働いているお店で商品に難癖付けて強奪していったり、他の店でも貴族を笠に着て好き放題強奪していったそうです。」
「父上…早くコイツを黙らせてください! こんな奴、早く始末してくださいよ!!」
豚の言葉に、男爵は豚をボコボコに殴りつけた。
豚は訳が分からずに、泣いてやめる様に言っているが、男爵は暴行を止める気配がない。
「男爵様、おやめください。」
「すいません、愚息を甘やかしすぎました。」
「おい、豚…1つ教えておいてやる。 Aランクの中でも僕は特別な地位があり、伯爵位と同じ立場なんだよ。 男爵でもないただの令息が伯爵に向かって半殺しとか始末しろとか言ったらどうなるかぐらい馬鹿で無知な豚でも解るよな?」
「は…はく…はく…?」
「男爵様、この豚の処遇ですが…」
「はい、もう屋敷から出す事なく監禁致します。」
「いや、さすがにヌルいでしょ…」
「はっ?」
「あ、良い事思い付いた!」
「な…なんでしょうか?」
「鉱山内での強制労働にしましょう! この豚が店から強奪した分の支払いが全て完了するまでなので、いつになるかは分かりませんが…」
「それは容赦願いませんか?」
「では、店での弁償の金額を聞きますか?」
「はい…」
僕はここに来る前に事前に調査しておいた紙を捲りながら暗算した。
「各店で聞いた話によると、トータルで白金貨4枚と金貨788枚だそうです。 男爵さまでは無く、この豚に払えるのなら強制労働はやめますがいかがいたしますか?」
「・・・・・・・・」
「この豚の性根を叩き直す為と罪の重さを知る為に強制労働は良いと思うんですよ。 別に一生入る訳ではないんだし、この豚のやる気次第になりますが…」
「そうですね、親馬鹿で甘やかしてきましたが、丁度良いかもしれません。」
「強制労働なんていやだーーーー!!!」
豚は逃げようとしたが、ガイウスに蹴りを入れられて戻された。
さて、あの豚が出れるまでに何年…いや、何十年掛かるかねぇ…?
クリスが呼んだ警備隊に連行されて行った。
各店での弁償金は男爵から受け取り、自分で支払った白金貨を1枚だけ抜いて、残りを代わりに支払って行った。
こうして、王妃殿下からの依頼は完了した。
僕等は城に戻り、国王陛下と王妃陛下に依頼達成を報告した。
王妃殿下の首元を見ると、気品に溢れたネックレスが掛かっていた。
「此度のダン殿の報酬として、ギルドランクをSランクにし、報奨金を授ける!」
「大変ありがたいのですが…ギルドランクって、こんなに簡単に上げても平気なのですか?」
「今回はギルドからの依頼ではなく、国からの…王族からの依頼なのだ。 報酬が報奨金のみでは、こちらの気が済まん。」
「そういう事なら、ありがたくいただきます! あ、それと当初の目的を忘れていました。」
「うん? その目的とは?」
「あと6日で、僕らはカイナンから旅立ちます。」
「そうか…ダン殿が来てくれた数日間は非常に退屈しない日だった。 寂しくなるな…」
「また会いに来ます。 ラインハルト殿下との約束もありますし…」
「なら、君たちが旅立つ日に国を挙げて見送るとしよう!」
「あはははは…ありがとうございます!」
僕等は城を出た。
この時、僕は国王陛下の冗談だと思っていたのだったが…?
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