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第三章 サーディリアン聖王国の章

第四話 3人の休日(結構色々なことが起きます。)

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 「いきなりで悪いんだけど、今日から3日間は休日にしようと思う。」
 「「はい?」」

 僕は宿屋で起きてばかりの2人にそう言った。
 色々とやる事があったし、いつも移動するときは3人だったので休みを切り出した。
 
 「何でまた? 依頼はどうするんだ??」
 「シルフィンダーの調整やら、食材の買い出しやら、スキルの確認やら…と色々やる事が多くてね。 昨日の依頼で結構稼げたし、3日くらいなら休んでも良いかと思ってさ。」
 「まぁ、そういう事なら俺は構わないが…」
 「私も問題ありません。」
 「では、そういう事で…」

 僕は部屋を出ようとしたら、レイリアに止められた。

 「ダンは今日はお買い物ですか?」
 「そうだね、ちょっと買いたい物もあるし。」
 「なら、私も着いて行っていいですか?」
 「別に構わないよ。」 
 「なら俺も…」
 「兄さんは来ないで!!」

 珍しい…?
 レイリアが感情的に反抗するなんて…

 「お前が心配だから着いていくだけで…」
 「だって兄さんがいると、服やアクセサリーを見ていると、お前には似合わないとか、そんな物はお前には必要ないとか…純粋に見るだけでも許してくれないんだもん!!」
 「ガイウス、シスコンは妹に嫌われるぞ! 僕にも妹がいて可愛がっていたが、シスコンと呼ばれるほど愛着や執着は無かったからな。」
 「くっ…!」

 僕に妹がいた事は正直覚えてないが、華奈から僕は面倒見の良いお兄ちゃんだったと聞かされていた。
 レイリアの実年齢はともかく、現在は13歳位という話だから妹が生きていれば同い年だっただろう。
 
 「まぁ、ガイウス…今日はレイリアの事は任せておいてくれ! レイリア、今日は僕が兄だ。 お兄ちゃんと呼んでも良いからね!」
 「は~い、ダンお兄ちゃん!」
 「ぐあああぁぁぁ! ダン、妹に何かあったら…」 
 「ガイウスにも話したと思おうけど、僕にも妹がいたから接し方は解るし、妹の…女性の扱いは君より上手いよ。」
 「きらわれ…きらら…きらわ…れれ…」

 …って、あれ?
 ガイウスがベッドに腰かけて白くなっていた。
 うん、放っておこう。

 「レイリア支度は大丈夫?」
 「大丈夫だよ、ダンお兄ちゃん!」

 お兄ちゃん…そう呼ばれると、中々破壊力があるな…!
 僕とレイリアは、手を繋いで部屋を出た。
 僕の用事的には大した物は無い。
 食材もそうだが、雑貨類も欲しい…。
 でも、今日はレイリアに付き合うと決めた。
 まずは服屋に行った。

 「こっちの青とこっちの赤…どっちが似合うかな?」
 「どっちも似合いそうな気がするけど、しいて言うなら青かな? レイリアの瞳の色と同じで青が似合うと思うよ!」

 結局、サイズが合わなかったので買う事は無かったけど、いざとなったら注文も出来るし…と思って店を出た。
 次に向かったのはアクセサリー屋だ。

 「うわぁぁぁ! 綺麗!」

 レイリアは目を輝かせながら、商品棚を見ていった。
 僕も商品を見ていくと色々なアクセサリーがあるけど、元いた世界の細やかな細工のアクセサリーに比べると大した細工はされていないように見えた。

 「この程度で良いなら、作れそうだな…」
 
 僕はそういうと、レイリアは期待の眼差しで僕を見た。
 代わりに店員には睨まれたけど…。
 
 「ダンお兄ちゃんはアクセサリーも作れるんだ?」
 「元いた世界で小物関係を作るバイトをしていたからね。 最初の頃はあまり売れなかったけど、凝ったデザインを作れる様になってからはバカ売れしたよ。」

 学校の外ではバイト三昧の日々だったが、学校の中だと時間が勿体なくて休み時間や授業中に関係なく隠れて小物を作っていた。
 あの頃は何でも作っていたな。
 ミサンガにビーズアクセサリーやフェルト人形、調理室のオーブンでシルバーアクセサリーなんかも作ったな。
 全ては金の為…生活費を稼ぐ為にだ!
 販売相手が生徒達だったので大した収入にはならなかったが、それでも飯代に困る事は無かったな。

 次にレイリアが向かったのは、女性専用の防具屋だった。
 入り口の横には、ビキニアーマーが4点並んでいた。
 中には下着売り場もあるみたいで…

 「さすがに僕はここには入れないな…レイリア好きに見ておいで!」
 「うん!」

 そういって、レイリアは店の中に入って行った。
 僕は店の前のベンチに座っていると視線を感じた。
 女性専用の防具屋でしかも下着が売っている店の前で座っていたら、女性の視線が…と思って辺りを見ても、そんな感じではない。
 この視線はもっと別の物だった。
 はて? 恨まれるような事は…してないと思うけどな…?(あのフェンリル以外は)
 
 ~~~~~1時間経過~~~~~
 
 レイリアはまだ出てこない。
 僕は、さっきアクセサリー屋で言った発言のお詫びに拳大くらいの大きさの銀を買っておいたので、【創造作製】で頭にイメージした物を作りながらレイリアを待った。

 ~~~~~2時間経過~~~~~
 
 まだレイリアは出て来ない。
 そういえば昔に華奈の買い物に付き合わされた時も、下着売り場だけはやたら時間が長かった事を思い出した。
 アクセサリーはとっくに出来ている。
 まぁ、ガイウスと一緒だと気兼ねなく買い物は出来ないだろうからもう少し待ってみた。

 ~~~~~30分経過~~~~~
 
 レイリアは大量の袋を持って出てきた。
 僕はレイリアを連れて、路地に入るとレイリアの荷物を球体魔法で収納してレイリアに渡した。
 レイリアは大事そうにお財布に入れていた。

 「そろそろ食事と行きたい所だけど…」

 この世界の屋台の料理は、美味い店もあるけど、それほどでもない店もあり一種のギャンブルみたいな感じだった。
 
 「レイリアはまだお腹すいてない?」
 「大丈夫だよ!」

 僕はもうちょっと雑貨屋を回る事にした。
 すると道を間違えたのか?
 家を紹介する店や家具などを売っている店の通りに出た。
 ここには用がないな…と思っていたら、店先にフライパンや鍋が置いてある店があった。

 「あ、そっか…調理器具なら雑貨ではなく、家具屋に置いてあるのか!?」

 レイリアにお願いして中に入ってみた。
 フライパン、鍋、中華鍋?、包丁、食器…色々あるが、それよりも目に付いたもの、それは!!
 キッチンコンロとオーブンが一体化した、アンティークに近い調理台だった。
 店員の目を盗んで【舌鑑定】をすると、店の商品として長年置かれ続けているがしっかりとした作りの調理台と鑑定が出た。
 他にも新製品があったが、僕はこれが気に入った。
 値段を見ると…? 要相談と書かれていた。

 「店員さん、この調理台なんですが?」
 「はいはい、いらっしゃいませ! この調理台ですか?」
 「これいくらですか?」
 「お客様、これを買って戴けるのですか??」
 「なんか反応がおかしいな? しっかりした作りだし、これを気に入ったんですが、いくらですか?」
 「この調理台は、お店の創設からある物でして、当時は名のある名工が作り出した物として高値で販売していたのですが、時代の流れで新しい方が性能が良くてそちらを購入されるお客様が多くて、これは廃れていったのです。 なので、今月売れなかったら廃棄しようと思っていたのですが…」
 「勿体ない! ならこれ下さい! いくらですか?」
 「買って下さるのであれば、銀貨10枚で良いですよ!」
 「え? そんなに安いんですか?」
 「えぇ…売れれば良いくらいで展示していましたからね。 お買い上げしていただけるのであれば、もうその値段でお売り致します。 ついでに、この調理台とセットで売ろうとした鍋やフライパンもお付け致します。」

 あ…この世界の通貨の事を話していませんでしたね。
 この世界の通貨は、銅貨・銀貨・金貨・白金貨とあり、銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚、金貨1000枚で白金貨1枚となります。
 ちなみに、銅貨1枚=100円となります。
 んで、更に…気になっている人がいるかはわかりませんが…?
 アルカディア王女がダンに追放される際に渡した金額は、白金貨5枚、金貨100枚、銀貨100枚、銅貨50枚でした。
 そして気になっている人いるかどうか…?
 今回の草原の調査の報酬は、本来なら金貨10枚でしたが、ヴォルガンの追加報酬で金貨18枚になりました。
 そしてくどい様ですが、更に言うと…?
 ダンは一人暮らしの際に節約家で必要以上の物は買わない主義でした。
 なので、大金を手に入ったからといって無駄遣いという概念は無いのです。

 「すいません、規則なのでギルドカードの提示をお願いします。」
 「はい、どうぞ!」
 「ダン・スーガー様…Aランクですか!? 失礼致しました! お返し致します!」
 
 僕はカードを受け取ると、お金を払った。
 
 「ダン様、こちらはどう致しますか? 配送なら別途で金額が掛かりますが…」
 「あ、それは大丈夫です!」

 僕は店員がいる前で球体魔法を使って、調理台を収納した。
 
 「さすがAランクの方ですね、珍しいスキルをお持ちの様で…」
 「うっかり見せてしまいましたが、内緒でお願いしますね!」
 「守秘義務がありますので、個人情報は漏らしません!」

 そう言って店員は挨拶をした。
 そして僕らは店を出た。
 これで、地べたに座りながら焚火で調理をするのから解放される!
 あれ、正直やりにくかったんだよね。

 僕とレイリアは、街から出た。
 レイリアの顔色が悪そうだったので、街の外に出てシルフィンダーに乗り、バレサ・ステップに向かった。
 本来なら近場でも良かったのだが、元々フェンリルがいた場所に他のモンスターがしばらく寄り付かないだろうと思ってこの場所に決めた。
 僕は空の球体を8個作ってレイリアに渡した。
 全て炎で良いの?と聞かれたので、4つの属性を2個ずつでお願いと言った。
 レイリアは全ての球体に魔法を込めると、顔が明るくなった。
 それにしても、レイリアの魔法玉はどんどん増えていくな。
 機会があったら使ってみるか。

 「さて、料理の前に…レイリア、最後にお風呂に入ったのはいつ?」
 「集落から出発する前が最後だね。」

 この世界の風呂は、主に王族や貴族や商人しか持ってない。
 宿屋でも井戸から組んだ水で体を拭くらいしか出来ないのである。
 生活魔法の土だが、正直言って土鍋や丼といった食器以外は作りようがなかったと思ったのだが、意外な使い道があった。

 まず、僕とレイリアから5m四方の高さ3mの土の壁を作る。
 その端の方に浴槽を作りだす。
 桶を3つと椅子と洗い場を作り、脱衣場とトイレくらいの大きさの部屋も作った。
 浴槽の中にお湯を入れてから、桶に泡魔法で作った泡を山盛りにする。
 扉はないけど天井は塞がずに、少しの空気穴を開けた。

 「レイリア、お風呂入って良いよ。 僕はこの部屋にいるから、ゆっくり入っておいで!」
 
 そういってタオルを渡した。
 僕は部屋に行こうとすると、レイリアに言われた。

 「ダンも一緒に入らない?」
 「いや、後で僕は入るから…」

 やめてくれ…冗談でもそんな事を言わないでくれ…!
 興味が無い訳ではないが、ガイウスにバレたら絶対に殺される!!
 僕の作った部屋には扉は無い。
 代わりに衝立の様な壁を作っていて、中の様子を見えないようにしている。
 でも、音は聞こえてくる。
 レイリアが服を脱いでいる音が…。
 そして浴槽の中から反響した音が聞こえると、僕はレイリアの脱いだ服にや下着に…顔を埋めたり、下着の匂いを…なんて事はない!
 クリーン魔法で綺麗にしておいた。

 ~~~~~15分後~~~~~

 レイリアは風呂から出ると、肌も白く髪も艶々していた。
 あの泡魔法、頑固な汚れも落ちると書いてあったが落ちすぎだろうと思った。
 交代して僕も入ろうとすると、地面が泡が残っていた。
 排水溝を作り忘れていたので、闇魔法の吸引で亜空間に吸い込んだ。
 それから風呂に入ると、クリーンの魔法を自分に掛けるのとは違いさっぱりした。
 
 その後…
 土壁を壊してから、料理を用意して2人で食べた。
 あの調理台はやっぱ需要が高いと思った。
 そして街に帰り宿屋の部屋に行くと…?
 ガイウスが引き攣った笑顔で迎えてくれた。
 ガイウスは僕とレイリアを見て、妙に綺麗になっている事に気付いて質問してきたが、何も答えずに僕らはベッドに入った。
 迂闊な事を言えば、すぐにバレるからだ。
 まぁ、バレてもやましい事は無かったけどね…。
 こうして、休日の1日目は終わった。

 ~~~~~休日2日目~~~~~

 いつも通り、レイリアに空の球体を渡して魔力注入。
 それが終わると、ガイウスはレイリアを連れて、エルヴ族の店に行った。
 エルヴ族の店…ガイウスに聞いたら、武器や防具、装飾品や薬品等を販売している万屋という話だったが今度行ってみるか。
 僕は宿屋から出ると、鋭い視線を感じた。
 僕に気配察知スキルなんていう物は無い。
 だけど、明らかに遠くからの視線を感じた。
 おかしいなぁ…?
 僕は誰かに恨まれるような事は…オークウッドとフェンリル以外に居ないと思うんだけど…?
 市場で食材を買っている時も、アクセサリー屋で昨日作ったアクセサリーを売った時も、背後からの視線を感じた。
 
 「襲ってくる気配がないという事は、人目を気にしているからかな?」

 僕は噴水にある場所に腰を下ろして、ギルドカードを確認する。
 闇魔法の暗転の欄をみると…【暗転】3m四方の一体を光すら当たらない位に暗闇にします。
 なるほどね…。
 最初は昼間に寝る時に暗くなると便利かなぁ~位に思ったけど、使い方によっては罠を張れるな。
 こうしている時も視線は感じる…が、なら誘ってやろう。

 建物の路地を曲がり、もう1つ曲がり行き止まりを確認した後、地面に3mの幅と広さ、深さ10mの穴を貫通魔法で開けて、その上に暗転を使って穴を隠した。
 この暗転という魔法は、自分より目の前に暗闇を作る為、自分からは暗闇の中は見えないみたいだ。
 さて…誰が掛かるのだろうか?
 すると複数の声が聞こえて来た。

 「こっちへ行ったぞ! この路地を曲がって…うわぁぁぁぁ!」

 1人落ちていった。
 続いて…?

 「どうした何か返事しろ! くっ…暗いな…うわぁぁぁぁぁ!」
 「「「どうした? 何があ…うわぁぁぁぁ!」」」

 いやぁ、どんどん罠に掛かる掛かる。
 視線は1人だけだと思っていたけど、こんなにも居たのか…。
 しばらく待ってみたが、他にはいないらしい。
 暗転を解除すると、穴の中から声が聞こえてきた。
 この暗転という闇魔法は、光だけではなく音も吸収するみたいだな。
 穴の中はどうなっているかと思って覗いてみるが、10mの深さでは途中から姿が見えない。
 少し深すぎたかな?
 
 「おーい、君たち~…僕を狙う理由は何か教えてくれないかな?」
 「・・・・・・・」
 「おや、だんまりですか? 理由を教えてくれたら出してあげますよ~」
 「・・・・・・・」
 「そういう態度を取りますか…仕方ありませんね。 重水…」

 重水は別に攻撃に使っている訳ではない。
 普通に穴に水を入れているだけだ。 
 なので、攻撃魔法とは認識されていないのだ。

 「水が入ってきたから浮いて上まで行けるなんて考えないで下さいね。 この水は重水です、もがけばもがくほど沈んでいきますので、穴の中間位まで水位が上がれば貴方達は溺れ死にます。 どうですか?」
 「・・・・・・・」

 これでも喋らないか…?
 決して素人の集団ではないのかな?

 「わかりました。 僕も別に人殺しはしたくありませんので、方法を変えます。」
 「・・・・・・・」

 重水を解除すると、穴の中の重水も消え去った。
 以前、テルシア王国から持ってきた調味料のハバネの実とネロの実、ジョロキの実を粉末にして穴に向かって大量に振りまいた。
 穴の下から咳き込む声が聞こえてきた。
 
 「どうですか~? お話ししてくれたら辞めますけど?」
 「・・ゴホ・・・ゴホッ・・ゲホゲホ・・・」

 これでも駄目か…。
 なら、もっとひどい事をして口を割らせよう。
 テルシア王国から持ってきた、ワインビネガーをさらに闇魔法の熟成で限界まで熟成する。
 すると、ちょっと香っただけで咳き込むような酢に出来上がる。
 それを穴に流し込むと、先程とは比べ物にならない程の咳き込む声がした。
 
 「どうですか? お話をする気になりましたか?」
 「・・・ゲッホゲホ・・・ゴホッゲホ・・・・」
 「これでも駄目ですか? なら仕方ありませんね…もっと酷い目に遭わせるしかないですね。 ケーケッケッケッケ…!」

 テルシア王国からいつか使うかもしれないと思っていた堆肥の肥料が入った玉を用意し、玉に発酵魔法を放っていく…すると玉の中の堆肥が黒から茶色に変化して、ドロドロになった。
 玉を穴に投げ込んでから球体解除をすると、熟成され過ぎたワインビネガーと混ざり、地獄の様な臭いに進化した。
 
 *堆肥や肥料は、酢を掛けると更に発酵します。 臭いがきつくなる上に近所から苦情が来るので出来ればやめましょう。

 臭いが僕の方まで上がってきたので、近くにある廃材を【創造作製】で大きな木の板を作り、穴に蓋をした。
 このまま臭いが漏れたら、通報しかれないと思ったからだ。
 
 ~~~~~2時間後~~~~~

 蓋の木の板をどかすと、臭いは気化されたのか大分マシになった。
 穴の中はどうなっているか…?
 あ、そうだった!
 照明使えば良かったんだ!
 照明を使って中を覗くと、黒装束に身を包んだ3人が倒れていて、2人は耐えていた。
 
 「いい加減、話してくれませんか? 僕にも用事があるので、あまり貴方達に付き合っている時間は無いのですが…?」
 「・・・・・・・・」
 「まさか、これで終わりだと思っていませんか?…そうですか、なら仕方がありませんね。 良心が痛みますが最終手段を使いますか…本当に良いんですか? 下手すると再起不能になりますよ!」
 「・・・!?・・・」

 球体解除である玉を解除すると、タルが5つ出てきた。
 この中身は、エルヴ族特産の川魚の…異世界版シュールストレミングスです。
 エルヴ族の中で僕の調理法が広まってから、これは不要だという事で餞別に貰ったのですが、一生封印かと思っていたのに、まさか使い道が来るとは思わなかった。
 蓋を開けると、思わず吐き気がする位の凄まじい異臭を放っている。
 
 「これは洒落にならない位の代物です。 本当にやりますよ? 今までの事を考えれば、これが脅しではない事くらい貴方達にはわかりますよね?」
 「・・・・・・・・」
 「あ、そうですか…ならば味わっていただきましょう!」
 
 僕はタルの中身を全て穴にぶちまけてから、タルも穴に落とした。
 
 「僕は用事がありますのでこのまま去りますが、そのタルとチームワークがあればこの穴から出られるはずですので頑張ってみて下さい。」
 
 僕はそういうと、その場を離れた。
 正直いうと用事はただの口実である。
 臭いが地上まで迫ってきているので、いち早く退散したかっただけである。

 「さてと、2時間も無駄にしてしまったな。 シルフィンダーの調整をするか…」

 カイナンの街を出て、シルフィンダーを出してからバレサ・ステップに向かった。
 あそこならモンスターもまだいないはずだし、人目を気にせずにゆっくりと整備が出来ると思った。
 ……が、草原の中心に植物型の大型モンスターがいた。
 大きな口があり、数十本の触手がウネウネと蠢いていた。
 そして、そこから襲われ逃げているパーティ…ザッコスさんか…。
 良く絡まれるな、あのパーティ…?
 僕は植物型の大型モンスターに向かって走った。
 
 「ザッコスさん達、こっちに走って!!」
 
 僕はレイリアが入れてくれた炎の玉を10個取り出して…名前、なんてしよう…?
 ザッコスのパーティが僕の脇を通り過ぎると、「皆伏せて!」と叫んだ。
 そして、植物型の大型モンスターに玉を10個投げつけてから球体解除をすると同時に…

 「喰らえ! エンシェントフレア!!」

 …と叫ぶと、1つの玉が誘爆を呼んで次々と破裂していき、植物型の大型モンスターは消滅した。
 消滅はしたのだが…?
 辺り一面が焼け野原…というより草木が無くなり、地面がガラス化していた。
 調子に乗って10個はさすがに威力がデカすぎたか…反省。

 「やっぱ、ダンさんぱねぇっす! Aランクは伊達じゃないっすね!!」
 
 ほとんどレイリアのお陰なのに、僕だけ褒められてなんだか後ろめたい気分になった。
 これだけの爆音が轟けば、近付いてくるモンスターもいないだろう…?
 ザッコス達はお礼を言って立ち去って行ったので、僕はシルフィンダーの整備を行った。
 それから20分間、整備をしてみたが破損しているパーツは見当たらなかった。
 さすがハルモニアだと思った。
 帰りにシルフィンダーで街道を走っていると、目の前にザッコス達が街に向かって歩いていた。
 知らない仲じゃないし、乗せてあげるか。
 そう思って、僕はサッコス達の横で止まった。

 「ザッコスさん達、良かったら乗ってく? 街まで送るから。」

 ザッコス達は、シルフィンダーを見て目を丸くしている。

 「馬を使わない乗り物のシルフィンダー。 街まで10分位で着くよ。」
 「さすがにそんなに早くは着きませんよ。 馬車でも3時間くらいは掛かるのに。」
 「馬もないのにねぇ…?」
 
 ザッコス達を後部座席に乗せてあげると、シルフィンダーを走らせた。
 少し調子に乗って速度300㎞くらいで飛ばすと、後ろから悲鳴が聞こえてきた。
 街の近くで止まると、6分くらいの時間で済んだ。
 後ろを見ると、ザッコス以外は気絶をしていた。
 
 「ザッコスさん達、くれぐれも内緒でお願いしますね!」

 ザッコスは無言でコクコクと頷いていた。
 そう言って僕は街を目指して歩いていると、後ろから嘔吐をしている音が聞こえた。
 だからか、返事が出来なくて頷いていたのは。
 こうして、今日の休日もこれで終わりになった。
 あ、そういえば忘れてたけど、アイツらどうなっただろう?

 ~~~~~裏路地の穴の場所~~~~~

 臭いが元で通報されて、街の警備隊が穴に行くと、穴の中から声がしてロープで救助された。
 その後、事情聴取の為に警備隊事務所に連行されて行ったが、臭いが酷過ぎて、水を掛けられても、生活魔法のクリーンでも臭いが取れず5人は項垂れていた。
 そして、5人はダンに復讐しようと誓ったのである。
 …で、結局、コイツ等は何者なのか?
 次回、コイツ等の正体が!?

 ~~~~~3日目~~~~~

 この世界にも貴族はいます。
 結構勘違いされている方もいらっしゃいますので、爵位の説明をします。(知っていたらごめんね)
 五爵…もしくは、五等爵とも呼ばれ、公・侯・伯・子・男の事を差します。
 一番下が男爵→子爵→伯爵→侯爵→公爵→大公→王(もしくは親王)→国王となっております。
 国によっては、男爵の下に騎士爵という爵位を持つ貴族もいます。
 王と国王は同じ者と思う方もいらっしゃいますが、実は違います。
 王は、主に王子や皇子を差します。
 なので、国王より下の立場です。

 そして別件に、この世界のギルドランクも貴族と同等に扱われます。
 Aランクは伯爵位と同等であり、Sランクは侯爵位と同等で、SSランクは公爵位と同等になります。
 ならBランクは子爵になる…という訳ではありません。
 あくまでも貴族位が与えられるのはAランク以上になっています。
 ただし、全てのAランクが伯爵の爵位を手に入れられる訳でもありません。
 どういう仕組みになっているのかは分かりませんが、伯爵の爵位を手に入れられるAランクは特別な条件がある様です。
 他で選ばれる基準が分かりませんが、僕の場合は異世界人だからなのかな?
 それで、なんでこんな話をしたかというと…?
 昨日、罠に嵌めて酷い目に遭わせた5人の代理の執事服を着た男が、僕が宿を出た瞬間に接触してきたからである。
 
 「昨日は大変申し訳ありませんでした。 貴方様を丁重にお迎えする為に5人を差し向けたのですが。」
 「あいつらはそれでタイミングを窺っていたのか! 睨み付ける様な視線を向けられていたから何事かと思いましたよ。」
 「それに関しては本当に大変申し訳なく思っております。 それで今回はあの者に変わり私が参った次第です。 それで我が主が冒険者様にお話があるようなので、一緒に来て頂けると助かるのですが…」
 「やなこった!」

 僕は誘いを断って、市場の方に向かって行った。
 今日こそ市場で食料品を買い込む為に色々見て回りたいからだ。
 この2日間…初日はレイリアの買い物に付き合ったから別に良いのだが、2日目は3時間くらいアイツ等に時間を潰されたし、今日こそは!と意気込んでいるのに、訳の分からない奴の用事で時間を潰されたくなかった。

 「あの…どうしても我が主が冒険者様にお話があるのでお呼びせよ…と。」
 「その我が主って誰?」
 「それはこの場でお話しする事を許されておりません。」
 「誰だか話せない、話せないけど呼んで来いと言われて行く人いないでしょ? 僕の事を馬鹿だと思ってませんか?」
 「それは申し訳ありませんでした。 ですが、我が主がどうしても冒険者様を呼んで来いと仰っていて、このままだと私が叱られてしまいますので、何卒宜しくお願い致します。」 
 「別に貴方が叱られようとも、僕は別に痛くも痒くもないので嫌です。では!」

 僕は速足で歩いて引き離そうとした。
 だが、その男は着いてこようとする。

 「あのさ、本当にこっちも用事があるんだけど。 そちら主が何処の誰だか知らないけど、こっちの要件を無視してまで行く必要ありますか?」
 「どうしても呼んで来いとしか言われてなくて…」
 「はぁ、ちょっと待ってて。 そこの路地で用を足すから、ここで待っててね。」
 「逃げないでくださいね!」

 僕は素早く路地に入ると、昨日と同じ穴を作り暗転を発動した。
 そしてしばらく待つと、帰って来るのが遅いと感じたのか先程の男がこちらに来た。
 後は、穴に落ちるのを待つと…?

 「うわぁぁぁぁぁ!」

 必要なかったな。
 では、暗転だけ解除して行くか…。
 
 「じゃあ、僕は行くから…いずれ誰かが助けてくれると思うからそれまで待っててね。」
 
 穴の中から声は聞こえない…。
 まぁ、放っておこう。
 僕は市場に向かって行った。

 店で色々見ながら買っていると、先程の男が現れた。
 意外と早く出られたんだな…。
 さすがにお怒りの様だ。
 僕はその場を素早く離れて、路地に入ると泡魔法で縦横3mくらいの泡の壁を作った。
 そして、勿論穴も作った。
 男は泡を掻き分けて進んできた。
 そして僕の姿を見ると、向かってきたが穴に気付かずにまた落ちていった。

 「もう、いい加減しつこいよ。 そこで大人しくしてて。」

 こうして僕は買い物に戻った。
 調味料の屋台の品物を見ていた。
 様々な調味料があるので、味見をしたりして気に入ったのを購入した。
 次の店に行こうと…あ、また来た。
 さすがに路地に誘って穴に落とすのは無理か。
 このしつこさには関心する反面、正直うっとおしくなってきた。
 
 「はいはい、解ったよ! 僕の降参だ、どこにでも行くよ、案内して。」
 
 男はホッとした表情をした。
 「では、コチラです…」と言ってきたので、着いて行った。
 東の街イースタルの繁華街を抜けて、北の街ノーチスの貴族街に足を入れた。
 貴族街をさらに進んでいくと、割と大きい屋敷が見えてきた。
 その屋敷の敷地に入ると、扉を開けて案内された。

 「ようこそ来てくれたな冒険者よ!」
 
 誰だコイツ?
 こんな奴に会った記憶はないんだが?

 「間所で会ったであろう! 覚えているか?」
 「覚えてません。 では、用事がありますのでこれで…」

 僕は立ち去ろうとしたが、門番に止められた。
 後ろから声が掛かった。

 「回りくどい言い方をするのはもう無しだ! あの馬を使わない乗り物を寄越せ!!」
 「あぁ!?」

 この男の発言に怒りを覚えた。
 シルフィンダーを寄越せだと!?
 
 「平民でたかが冒険者風情が過ぎた物だろう。 私が使ってやるから早く寄越すんだ!!」
 「ふざけているのか、貴様…? 呼び出された挙句、横暴な態度で言ってきやがって何様のつもりだ!!」
 「よく聞け平民、私はバグズダー子爵…貴族だよ。わかったか平民!」
 「バカスターか、なるほど! だからさっきから話が通じないのか。」
 「バカだと…平民、あまり私を怒らせるなよ!」
 「知った事か、僕は帰る…どけ!」

 僕は門番に言ったが、扉の前で槍を構えていた。
 なるほど…やる気みたいだね。
 僕は球体解除をすると、デカ包丁を出現させて構えた。
 
 「うちの門番は、冒険者ランクがCランクだ。 普通の冒険者風情が勝てると思うなよ!」
 「へぇ…Cか。」

 門番目掛けてデカ包丁を振り回した。
 門番の槍を真っ二つに切り裂くと、門番は吹っ飛んだ。
 
 「だからどけと言ったんだ。」
 「馬鹿な! たかが冒険者になりたてがCランクを…?」
 
 なるほど、冒険者になりたてだと思われていた訳か。
 こうまで知名度が低いと泣けてくるな。
 僕はデカ包丁で扉を切り裂くと、そのまま出ていこうとした。

 「待て貴様! このまま帰れると思っているのか!?」
 「いい加減、最後の休日を潰されるのは正直ウンザリしているんだ。 僕は帰る!」
 「おい、こいつを逃がすな!」
 
 庭に出た僕は、周りを大勢に囲まれた。
 
 「逃げられると思うなよ、平民! ここにいるのは私が金で雇ったCランクとDランクの冒険者だ。 貴様風情に勝てると思うなよ! 死にたくなければ、その剣と馬を使わない乗り物を寄越せ!」
 「さすがに冒険者ギルドの仲間には手を出す訳には…ん?」

 面子を見ていると、良く知った顔を見掛けた。
 
 「ザッコスさん、用心棒やっていたんだ?」
 「ダンさん…子爵様の屋敷で何を?」
 「ザッコスを知っているみたいだな、平民の初心者冒険者! 貴様と違ってザッコスはDランクの冒険者だ。」
 「ザッコスさんは、このバカスターと知り合いなの?」
 「オレは元々男爵家の3男なんですよ。 子爵様とは子供の頃からの知り合いで…」
 「おい、平民! 私を無視するな!」
 「他の面子は知らない人ばかりだな? 初めて会う人たちかな?」
 「かもですね、子爵様の用心棒は長期で行うので、ダンさんとは今日が初見かもしれません。」
 「貴様たち、知り合いなのか?」  
 「バカスターさっきから五月蠅い! ちと黙ってろ!」
 「ダンさん子爵様を…って、当たり前かダンさんなら立場が…」
 「おい、平民…貴様を殺して奪っても良いんだぞ!」

 ザッコスは僕の背後に来た。
 
 「ダンさん、皆にダンさんのギルドカードを見せてあげて下さい。」
 「これで良いのかな?」

 僕はバカスター以外の皆に見える様にギルドカードを見せた。
 冒険者の皆は、その場で武器を降ろした。
 一人だけ状況が解らないバカスターは何をしている?とか怒鳴っていた。

 「俺らも子爵様に雇われた身だがよ、上位ランカーに喧嘩を吹っかける様な真似は出来ねえよ!」
 「何を馬鹿な! この平民風情の冒険者がどうしたというのだ!?」
 
 バカスターは僕の前に行き、ギルドカードを見た。
 そこにはAランクと書かれていて、バカスターは腰を抜かした。

 「ダンさん、知っていましたか? Aランクの冒険者の中で特定の者には貴族位の立場が与えられるという言事を。」
 「うん、説明で聞いた。 確か伯爵位だっけ?」
 「そうです、なのでバクスター子爵はダン様には逆らえないのです。」
 「なるほどね、貴族って正直良く解らないけど、これどうなるの?」
 「ダンさんの権限で子爵様を地位の剥奪とお取り潰しが可能になります。」 
 「だとさ、どうしてほしい? バカスター君?」
 「お許し下さい、何でもしますからお取り潰しだけは!!」 
 「それは都合が良すぎないかな? 確か君は、平民とか…冒険者風情とか…死にたくなければ差し出せとか…好き放題言っていたよね?」
 「あ…それは…その…」
 「ザッコスさん、こういう場合は不敬罪とかになるのかな?」
 「そうですね、上位貴族に暴言を吐いたので報告されればお取り潰しになるかと…。」
 「ザッコスさん、この子爵は領地はあるの?」
 「子爵様の領地は今ないですね。 随分前に祖父の侯爵様に領地経営が上手く行かなくて没収されましたから。」
 「なるほど、それでも貴族を続けられるという事は、何かしらの資金があるという事か。」
 「おい、バカスター…金庫に案内しろ!」
 「え…いや、それだけは!!」
 「あんた、さっき何でもすると言っていたよね? それとも国に報告して取り潰しになった方が良いの?」
 「あ、はい。 解りました。 案内します。」

 金庫室に案内されると、大量の金貨が入った袋があった。
 それを持って僕は庭に出た。
 
 「ここにいる冒険者の皆、子爵の依頼は失敗になったけど、これは僕からの報酬として受け取ってね。 ちゃんと人数分に分けてあげてね、ザッコスさん。」
 「あ、はい、解りました。」
 「あの、私は一体どうしたら良いのでしょうか?」
 「取り潰しはしない代わりに、1から働けば良い。 人間死ぬ気になれば何でも出来るよ。」
 「しかし…金が無くてどうすれば良いのか…」
 「屋敷は残してあるんだ、住む分なら問題がないだろ? それに腹減れば庭の草でも喰って、喉が渇けば噴水の水でも飲んでろ!」
 「え…いや、それは…!」
 「じゃあ、僕は帰るから…ザッコスさん、後は任せるね!」
 「あ、はい。 お疲れ様です!」
 
 他の冒険者の皆も臨時収入を手に入れて喜んでいた。
 屋敷の門を出ると、空が赤く染まりかけていた。
 今日も余計な事で1日が潰れてしまった…。
 戻って、バカスターをぶん殴ってこようかな?
 なんてな、格好も着かないしこれで良いか。
 そういえば、ガイウスとレイリアは今日は何をしていたんだろう…?
 帰り際に気になったダンだった。

 そしてこのバグズダー子爵は…『魔鏡育ち~』に出て来るリュカを嫌悪するザッシュの先祖である。
 本当にこの一族は碌な奴がいないな。
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