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第一章 異世界召喚の章

第三話 腹が減った。(少しの間、監禁を喰らってましたので…)

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 「腹減ったな!」

 廊下を見てもメイドさんはいない。
 巡回中の騎士に会うくらいで、もう当直の騎士以外は就寝しているみたいだった。
 この城での食事は、自室にはない。
 国王と王女は別室だが、騎士や僕達も食堂で食べるのである。
 なんだけど、さすがにこの時間では食堂には誰もいないだろう…?
 僕の分が残っているかな?
 そう思って食堂の扉を開けるが、中は真っ暗。
 うん、そりゃそうだな。
 当然、僕の分の取り置きはしてくれなかった。
 腹が減っているのに、喰わないで寝るのは無理。
 空腹がだったけど、調理できるくらいの気力はあった。

 さーて、作りますか!
 テルセラ様の部屋に閉じ込められている時に暇だったので生活魔法で何の魔法が使えるかを確認していたので、料理作りに役に立たせてみましょう!
 壁にあるランプに火を灯しても良かったのだが、それでも少し薄暗いのでライトの魔法LEDを使った。
 食堂全体が眩しいくらいに明るくなった。
 普段がそれほど明るくないからね。
 食堂の中に窓は一切ない。
 厨房には換気用の窓はあるが、それほど大きな窓ではない。
 食堂内も蝋燭で均等な感覚で設置されている為に、外の中の明かりが無いと少し薄暗かった。

 僕はまず厨房に入る。
 食材を探すのだが…?
 見付かったものは、野菜が数種類と卵と鶏肉、豚肉と骨、小麦粉と大量の塩と調味料のいくつかだった。
 この世界の料理は、決して不味くはない…のだが、パンは硬くてスープは旨味がなく薄い塩味。
 焼いた肉は主に塩コショウのみのシンプルな味付けで、国王の料理にはソースも使用されていて味見をさせて貰ったらコクがなかった。
 この世界の料理を全て味わった訳ではないが、王国と呼ばれる国での王宮料理でこの程度なので、過度な期待は出来ないだろうと思った。
 
 さて、料理を開始する前に…数種類の野菜を水魔法で洗ってから、1つずつ端を包丁で切って味見をする。
 すると、頭の中に食べた物の詳細なデータが浮かんで来た。 
 野菜に関しては多少名前の違う物が混じってはいるが、基本は一緒だった。
 
 「この材料だとラーメンが作れるけど、材料的にあっさりとした塩ラーメンになるな。 出来れば味噌ラーメンが食べたいが、仕方ない味噌を作るか!」

 まず大小合わせた鍋を3つ用意する。
 そこに水魔法で鍋を満たしてから火魔法で強火にして温める。
 小さな鍋が沸騰して来たら、水洗いしておいた豆を投入してから色が変わるまで混ぜる。
 終わったら、豆をざるに移して風魔法で冷まし、その間にもう一度小さな鍋に水を入れて火に掛ける。
 冷まし終えた豆をクリーン魔法清潔魔法で綺麗にしたツボの中に入れ、小麦粉と大量の塩を入れる。
 本来なら米麹も欲しかったが、厨房にはないし、そもそもこの世界に米がある事すら解らない。
 小さな風魔法で具材を混ぜながら、闇魔法の発酵で腐らせる。
 沸騰した小鍋に鶏肉と豚肉と骨を入れて下処理をする。
 下処理が終わった肉と骨を大きな鍋に入れて、葱と人参と大蒜と玉葱を入れて煮込む。
 魔法の火力調整で、鍋の水はすぐに沸騰するが、この工程…結構面倒だな。

 次に、麺作りをする。
 ボウルに小麦粉と卵3個に水を加えて風魔法で混ぜる。
 ダマが無くなるくらいまで混ぜたら、クリーン魔法で綺麗にした調理台に小麦粉をまぶしてボウルから出す。
 風魔法で圧力とこねるを繰り返す。
 5分ほど繰り返していると、良い具合に仕上がったので、風魔法で中太麺になるくらいに細切りにしてまとめておく。
 
 煮込んでいたスープが良い具合になってきたので、アクを取りながら待つ。
 アクを取り除いたら、小さな竜巻型の風魔法で煮込んだスープを満遍なくかき混ぜる。
 その隙に発酵を掛けた豆を見ると、ペースト状になってきたので発酵をやめる。
 味見をすると少し物足りないが、味噌に仕上がっていた…凄いな、発酵魔法!
 
 これで最後の工程だ…かれこれ2時間は経過していた。
 大きな鍋に麺を投入して泳がせる。
 丼…はないから、丼みたいな深めの皿を用意する。
 そこに味噌を入れてから、スープを入れる。
 んで、煮込んでいた肉を取り出したのだが…?
 あ、紐で縛るの忘れていた!
 …と思っていたが、煮崩れしていなかった。
 肩ロースみたいな弾力を感じた。
 泳がしていた麺を1本取り弾力を確かめる。
 よし、そろそろだな…この瞬間にモヤッシーを入れて少し泳がせてから、麺と一緒にすくい上げる。
 湯切りした後に、麺を投入してモヤッシーを乗せ、刻んだネーギを入れてから、分厚く切ったチャーシューを3枚乗せる。
 やっと完成! 異世界食材で作った味噌ラーメン‼
 食べる前に香辛料を振りかけて…
 
 「いっただきまーす!」
 
 スプーンでスープを口に入れる…濃厚な味噌の香りと肉と野菜で溶け込んだ甘みのあるまろやかさ、旨味が体全体に行き渡った。
 麺はどうだろうか…?
 先程作った箸で麺をすする…
 つるっと口の中に入り、噛むごとにもちっとした触感と歯ごたえのある弾力…飲み込んだ時の喉越し感、元いた世界でも何回も作ったラーメンだったが、異世界で作ったラーメンは今までに比べて最高な物に仕上がっていた。
 …と感じたのは、異世界に来てから碌な物を食べてなかったからそう思えたのだろう。
 その後、無我夢中で食べている最中に、後ろから声がした。

 「救世主様、何を食べているのですか?」
 
 後ろを振り向くと、料理長が寝間着の姿で立っていた。
 あ…そういえば、料理長の部屋って厨房の隣の部屋だったな?
 さすがにラーメンの強い香りが部屋の中まで入っていったか。

 「異世界の料理、ラーメンを作って食べてました。」
 「異なる世界の料理ですと⁉」
 「食べたいんですか?」
 「戴けるのですか⁉」

 とりあえず、僕が食べ終わるのを待ってもらった。
 その間に横で羨ましそうに見ていた料理長のおかげで食べにくかった。
 そして、食べ終わって余韻に浸る間もなく料理長の分のラーメンを作り…料理長が食べだすと、涙を流しながら麺を啜っていた。
 あー…このパターンだと、作り方を教えてくれとか言われそうだな…?
 正直、腹が満たされたのでもう眠い。
 料理長が食べ終わると案の定、僕に質問してきたので…?

 「あそこの大鍋の中にラーメンの命とも呼べるスープがある。 仮にも料理人を名乗るなら、人に聞かずにあの鍋を見よ!」

 すると料理長は厨房にダッシュした。
 僕はこの隙に食堂を出た。
 なんで料理長にああ言ったか…ぶっちゃけ、説明が面倒だったからである。
 僕は自室に入ると、ベッドにダイブした。

 翌日、目が覚めるとギルドカードが光っていた。
 確認したら、スキルが増えていた。
 内容を確認すると、アレは生活魔法のスキルではなかった。

 【舌鑑定Lv1】
 舌に触れた物の詳細がわかるスキルです。
 生物鑑定も出来なくはないのですが、心臓に近い部分を舐める事で、より詳細な情報が手に入ります。
 戦闘で役に立たせるには、かなりのリスクを伴います。
 《あー…人には使えないなぁ…これ。 っていうか、普通に鑑定で良いのでは?》

 ~~~~~翌日~~~~~

 ギルドカードを見て、1つ思う。
 スキルが1つ増えていて【5つ】→【6つ】になっていた。
 僕のスキルが【5つ】も今までにないという事なのに。
 これ…公表すると面倒な事になりそうだな…?
 とりあえず、黙っていることにしようと思うのだが、それにしてもこんなに簡単にスキルって手に入るものなのか?
 これが【ジョブ】特性の【器用貧乏】なのだろうか?
 僕のジョブの能力が良く解らなかった。

 「それにしても、ロクなスキルを覚えないな…。 それにステータスのアンノウンって…?」

 他の4人のステータスを見ると、数字で表れていた。
 個々に能力の変化はあるけど、ジョブに合ったステータスだったと思う。
 しかしアンノウンねぇ…?
 元いた世界に自分の能力が数値で見られるような事はなかったが、それでも自分の…いや、この異世界でモンスターや【魔王】の軍勢と戦わなければならないのなら、自分の能力は確認したいものだ。
 それによって、対策が行えるからね。
 ちなみに、この世界の経験値表示は冒険者ギルドのみの確認になっており、ギルドカードには表示されないという。
 このギルドカードは変なところ高性能であり、変なところで低性能なのである。
 まぁ、良いや…!
 とりあえず、腹が減ったので食堂に行こう…。
 僕は食堂に向かった。

 食堂に着くと、扉の前で何か大騒ぎになっていた。
 騎士達からは、「料理の質が上がった!」とか、「今まで食べていたのは何だったんだ?」とか…僕は中に入ると、料理長が僕を見つけて駆け寄ってきた。

 「先生! お待ちしておりました!!」

 料理長の声に、食事をしていた騎士達は一斉に僕を見た。
 せ…先生? 一体何で僕は先生なんて呼ばれているんだろう?
 料理長が持ってきた料理が僕の前に並んでいた。
 僕はスープを口につけると、昨日作ったラーメンスープと同じ味がした。
 周りを見ると、皆同じスープを口にしていた。
 おかしいな? 昨日のラーメンスープは全員に振舞える量はなかったはず…?
 という事は、僕の作ったスープを再現できたのか!
 さすが料理長と言われるだけはあると思った。

 *この世界での調理法を全て見た訳ではないが、見た限りでは焼くと煮るくらいしかない。
 元いた世界での調理法は、焼く・煮る・蒸す・揚げる・炒める・炙る・燻す・茹でる等…
 他にも調理法はあるかもしれないが、基本的な物はこんな感じである。

 「先生! 味はどうですか? 先生の作ったスープに近い物が出来たと思うのですが…」
 「とりあえず先生は辞めて下さい。 でも、あのスープを見ただけで良くここまで再現できましたね?」
 「は! あの後に先生のスープを味見して具材を確認し、試行錯誤を繰り返してこの味に辿り着きました!」
 「だから、先生はやめ…もう良いや。」

 僕は頭を抱えて諦めた。
 僕は元いた世界で料理人だった訳ではない。
 両親が早くに他界した為に料理は作らなきゃいけなかったし、中学から知り合いのお店で料理を習いながら作っていたとか、アルバイトからの経験で培われた物なのである。
 僕は料理を食べた後にこの場を立ち去ろうとした。
 しかし、料理長に回り込まれてしまった…!
 料理長は目を輝かせてこちらをみる…!
 僕は観念して、元いた世界の調理法の知る限りの事を話した。
 そして、いつの間にか…厨房の中にいた料理人も参加してメモを取っている。
 僕は面倒だと思いつつも、3時間話をしていた。
 やっと解放された時には、昼過ぎになっていた。  

 「さて、皆に何か変化はあったかな?」

 僕は翔也達の様子を見る為に、城の中を彷徨っていた。
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