上 下
19 / 35
第二章

第八話 孤児院運営開始(不安がないと言えば…いや、今の所は不安しか無い。)

しおりを挟む
 僕は翌日、サーディリアンの冒険者ギルドに顔を出した。
 昨日救った家族の元に返された以外の奴隷達がどうなったかが気になったからだ。
 僕はカウンターに行くと、昨日の件を聞いてみた。

 「昨日のあの子たちはどうなりましたか?」
 「彼女達はどうも口減らしをされた子供のようです。」
 
 口減らし…家族が増えて育てられなくなった子供を捨てる…だったかな?
 良くて奴隷として売られるが、悪いと山に置き去りにされて魔物の餌として扱われるという。
 僕等の元いた世界でも200年前くらいまではあったと歴史を学んだ事がある。
 そう考えると、孤児院の子供が欲しいという条件には当てはまるのだが…?
 執事とメイドがまだアレだからなぁ…?
 何事も初めてはあるし、とりあえず試しに連れ帰ってみるか。

 「彼女達なのですが、僕が引き取りたいと思うのですが良いですか?」
 「ダン様がですか? 何か宛はあるのでしょうか?」
 「実は僕はある場所に孤児院を設立したのですが、まだ子供達が居ないので引き取ろうかと考えたのです。」
 
 そして僕は、孤児院の規模や敷地の話をして、そこでやって貰う仕事内容も話した。
 受付嬢は頷いて聞いていた。

 「大変素晴らしい考えです! ただ遊ばしておくだけではなく、仕事を与えて報酬も与えようとは⁉」
 「ならば、彼女達は僕が預かっても大丈夫ですか?」
 「ぜひ、お願いします!」

 僕はしらばく待っていると、8人の年齢がバラバラの少女達がギルド職員に連れられてやって来た。
 僕は名を告げてから少女達を連れて街の外に行くと、移動魔法で孤児院の前に移動した。
 そして事前にバトラーには準備をしておくように言っておいた。
 孤児院の前に移動すると、バトラーとメイドの3人が孤児院の前に立っていた。
 バトラーは怖がらせない様に笑みを浮かべていた。

 「ここまでは良く出来ているが、若干不安があるな…」

 すると、その不安は的中した。
 バトラーはとんでもない事を口走ったのだ。

 「よく来たな人間ども! ここはデスブリンガー様が治める人間牧場だ! これからお前達は…ウゴォ‼︎」
 
 僕は剣の峰でバトラーをぶん殴った。
 そしてバトラーの胸倉を掴んで小声で言った。

 「お前…打ち合わせ通りに話をしろと言っただろ! それに僕の名前はここでは、デスブリンガーではなく、ダン・スーガーだと。」
 「すいません、どうしても人間を目の前にするとあのような口調に…」
 「バトラー…お前、解雇するぞ!」 
 「そ、それだけは御容赦を‼︎」

 僕は振り返ると、怯えている少女達に笑顔を作って声を掛けた。
 バトラーが凄んだ状態で威圧を放って接していた為に、子供達から恐怖の感情が伝わって来ていたからだった。
 
 「今のはこの執事の冗談だったみたいで、君達は心から歓迎します! この家を自分の家だと思って過ごしてね。」

 そして少女達を家の中に案内してから、それぞれの役割も告げた。
 少女達はまだ慣れていなかったのでぎこちなかったが、すぐに打ち解けようと努力をしていた。

 「お兄ちゃんの事は…何て呼べば良いのですか?」
 「僕? 僕の事は…そうだなぁ?」

 孤児院を経営しているという話をこの子達の前で話していた訳だから…
 孤児院なのだから、院長か?
 いや、この子達との心の距離を近付ける為なら院長だと少し硬いか?
 パパ…は無いな、この子達との年齢は1番上でも12歳くらいだと大して年も離れていないしなぁ?
 さっきの様に、お兄ちゃんとでも呼ばせるかねぇ?
 この子達に対して情などないが…心の距離を近付かせる為なら、別に構わないかな?
 それにしても…異世界の子供って発育が良い気がするな。
 顔は普通に可愛いし、体型だってそれなりに整っている。
 こんな子達が山の中に捨てられ…いや、売られたのか。
 あの屋敷の地下牢にいたという事は、奴隷商人の馬車を襲って連れて来させられたのか?
 そういえば、あの屋敷の倉庫には盗品がかなりあったからな。

 「僕の事は好きに呼んでくれたら良い…と言ったら、混乱するか? 統一させる為に………お兄ちゃんでも良いぞ。」
 「お兄ちゃん…」

 年が近いこの子達にそう呼ばれると、何か変な意識が芽生えそうになるな?
 僕にはそういった属性は無いと思っていたけど、同級生に妹やロリコン好きの気持ちが少し分かる気がする。
 …と、そんな事よりもこの子達に食事を与えないとな。
 僕はバトラーに命じて、少女達に食堂に案内した。
 そして料理をテーブルに並べていた…のだが?
 僕は小声で聞いてみた。
 
 「バトラー…言われた通りにちゃんと出来ているよな?」
 「お任せを…抜かりはございません!」

 そして少女達は料理を食べ始めた。
 口減らしで出される前に食事と言えば、野菜を煮込んだだけのスープだけだったらしい。
 パンなどの食事を与えられる事は稀で、酷い時は食事すら与えられない日もあったそうだ。
 まぁ、口減らしで…という事なら、生かす為に食事を与えられる事はないのか?
 …なので、出されているステーキや卵料理やパンは高級品なんだそうだ。
 これからはこの感じの料理が出されると聞くと、少女達は凄く喜んでいた。
 そしてバトラーを見ると、何やら呟いていた。

 「私の作った料理たちがどんどん消えていく…人間よ、このまま喰わせ続けて肥えたら今度はこちらが…」
 「お前…マジでそんな事を考えているのなら、ぶち殺すぞ!」

 僕はバトラーに向かって言った。
 バトラーはすぐに頭を下げて謝罪した。
 こうして前途多難な孤児院経営が始まった。
 この孤児院の僕が不在だった時の最高責任者がバトラーだからなぁ?
 今の所は大丈夫そうな気もするが油断は出来る状態ではない。
 僕は軌道に乗るまでの間、しばらく冒険者活動を控える事にした。
 ついでに、の管理も目が届きそうだしな。
 
 そして…軌道に乗って安心しきっていた時に、バトラーがまたやらかした。
 僕は頭を抱える事になったのだった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達より強いジョブを手に入れて無双する!

アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚。 ネット小説やファンタジー小説が好きな少年、洲河 慱(すが だん)。 いつもの様に幼馴染達と学校帰りに雑談をしていると突然魔法陣が現れて光に包まれて… 幼馴染達と一緒に救世主召喚でテルシア王国に召喚され、幼馴染達は【勇者】【賢者】【剣聖】【聖女】という素晴らしいジョブを手に入れたけど、僕はそれ以上のジョブと多彩なスキルを手に入れた。 王宮からは、過去の勇者パーティと同じジョブを持つ幼馴染達が世界を救うのが掟と言われた。 なら僕は、夢にまで見たこの異世界で好きに生きる事を選び、幼馴染達とは別に行動する事に決めた。 自分のジョブとスキルを駆使して無双する、魔物と魔法が存在する異世界ファンタジー。 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つ物なのかな?」で、慱が本来の力を手に入れた場合のもう1つのパラレルストーリー。 11月14日にHOT男性向け1位になりました。 応援、ありがとうございます!

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

処理中です...