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2巻

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 第一章 すく~るらいふ?



 第ゼロ話 学園にて


 僕、リュカは学園のとある一室で、二人組の少年に鎖で拘束こうそくされていた。
 片方はやや太っていて、もう片方はひょろっとした体形だ。
 うん、あだ名は『小太り』と『ひょろひょろ』でいいな。

「学園に来て日の浅いお前が何故なぜ、シンシア様と親しくしている! れ馴れしいんだよ!!」

 そう言いながら小太りが、鉄のぼうを僕の顔面に向かって振るう。
 ……まあ、大したダメージはないんだけど。
 相手が屈強くっきょうな冒険者だったならそれなりのダメージになるのだろう。しかし彼は殴り合いの喧嘩けんかすらロクにやったことがなさそうだ。貴族の跡取りとかなのかな。
 なぐられても大して痛くない。
 母さんに巨大メイスで撲殺ぼくさつされた時の方が数百倍痛かった。

大怪我おおけがをさせるなよ! 死んだりしたら面倒だからな……」

 ひょろひょろの言葉に、小太りはうなずいてから、僕に言う。

「お前も妙な真似はしないことだな! この部屋には魔力を使えなくする結界を張っているんだ! 助けを求めようとしたって無駄さ!」

 結界ねぇ……?
 僕は思わず口元を緩める。
 だってこいつらが言っている結界は下級魔道士程度にしか通用しない、効力の低いものだから。
 僕は問題なく手の平に魔力を流せている。
 だが、を引き出すためにはわざと逃げずにやられるフリをしなければならないのだ。
 このままもう少し挑発し続けて、こいつらが学園で起こっているとある事件の犯人かどうか見極めてやる。

「ところでさ、シンシアちゃんって誰? クラスの誰に対しても同じように接していたし、そもそもまだ全員の名前を把握しているわけじゃないから、誰のことか全くわからないんだ」

 シンシアは同じクラスの、となりの席に座っている女生徒だ。流石さすがに覚えている。
 だが、あおるために嘘を吐いた形だ。

「シンシア様をちゃん付けだと!? あの方はこの学園一高貴な存在なんだぞ!」

 小太りは、わなわなと震えながら言う。
 ほほーん、これはそういうことか。
 僕はニヤニヤしながら返す。

「なんだ、れているのか? やめろよ……自分が声を掛けられないからってみにく嫉妬心しっとしんで他者に暴力を振るうなんて……モテないぞ!」
「減らず口を……」

 小太りは再度鉄の棒で僕を殴り、ひょろひょろは腹にりを入れてくる。
 全く痛くもかゆくもないけどね。
 情報を得られそうにないし、この茶番に付き合うのも面倒になってきた。

「いい加減、この拘束を解いてくれないか?」

 僕の言葉に、小太りは愉快ゆかいそうに返す。

「お前が今後、シンシア様に馴れ馴れしく声を掛けないと誓えば解いてやるさ!」
「いや、だから……僕のクラスのどの子がシンシアちゃんなんだよ?」
「シンシアちゃんじゃない! 様を忘れるな! お前のクラスで学園一高貴と言えば彼女しかいないだろ!」

 小太りがそう力説した。
 僕は首をかしげる。

「いや、全くわからん! 僕のクラスに、そんな目をく美少女なんていたっけ?」
「お前の隣に座っているじゃないか! これでわかったろ!」

 僕は頷く。

「あーあの子がシンシアちゃんっていうのか! ……っていうか、それほど目立つかな? 割と普通の子じゃない?」

 言いながら僕は、僕が生まれ育った魔境――ゴルディシア大陸のカナイ村について思い起こす。
 そこは、人口百人程度の小さな村で、近くには、かつて世界を征服しようと目論もくろんでいた大魔王サズンデスの居城がある。その大魔王討伐より百年近くっている今もなお、大魔王の瘴気しょうきがその地を汚染していて村の周囲には強力な魔物がうようよいる。
 カナイ村が他と比べて変わっているのはそれくらいかと思っていたが、ここにいる二人の基準で考えると、村の住民はみんな美形だったような気がする。
 だから、一般的に可愛いと呼ばれる子を見てもなんとも思わないのかもしれないな、なんて。
 彼らは怒り心頭といった様子で、剣を抜いた。
 ここまで来ると、穏便に済ませてやれないなぁ。

「念のために聞くけど、その剣で僕をどうする気なのかな?」

 僕が尋ねると、小太りはドスのいた声で言う。

「お前はシンシア様と……そして我々を侮辱ぶじょくしすぎた! お前に制裁を加えてやる! お前が死んだら、死体は上手く処理してやるよ」

 なるほど、どうやら本気のようだ。
 想い人を『普通だ』って言っただけでここまでするとは、随分ずいぶん短気な奴らである。
 これ以上、情報を聞き出すこともできなそうだし……いや、それどころか何も情報を持っていなそうだな。
 ではこちらも反撃と行こうか……人を殺そうとするってことは、自分が殺される覚悟があるってことだもんね?

「なら僕も反撃させてもらうけど、良いかな?」

 僕は言う。
 その言葉を、ひょろひょろが鼻で笑った。

「拘束が解けるものならな! 言ったろ、この部屋では魔力は一切使えな……」

 僕は魔力を放出して、体を拘束している鎖を消滅させた。
 そして鉄の棒で殴られた顔をヒールで治してから、二人に話しかける。

「この程度の鎖なら、解こうと思えばいつでも解けたんだよね。人を殺そうとするくらいなんだから、自分が殺される覚悟もあるはずだよね? まぁ、殺しはしないけど許す気もないし……やみ魔法・[奈落ならく]!」

 僕が魔法を発動すると、二人は二つの小さな黒い玉に閉じ込められた。
 中にいる二人に聞こえるように、僕は説明してあげる。

「[奈落]は、闇の牢獄ろうごくを作り出す魔法でね……こちらからの声や音はそっちに聞こえるけど、そちら側からいくら叫んでもこっちには届かないようになっているんだ。まぁ、三日ぐらいしたら解放してあげるよ。それまでは、ここで反省するがいいさ」

 ちなみに[奈落]内の経過時間と、現実世界での経過時間のバランスは調整でき、現実世界での一日を、[奈落]内の百年にまで設定できる。しかも球体内では現実時間分しか年を取らない。
 そして、[奈落]内でどれだけの時間が経過したかは球体に記される。
 ただ、今回は便器の中に落とすだけで十分過ぎる制裁な気がするので、現実時間と[奈落]内の時間の流れは同じにしてある。
 僕は二つの小さな玉を拾い上げ、男子トイレに入って便器の中にそれらを放り投げた。
 学園のトイレは、み取り式だ。
 週に一度はスライムを放って溜まった便を回収するのだけど、回収日は昨日だったはず。だからそれより前に魔法が解除される設定にしておけば問題なかろう。
 僕が設定した解除の時間は三日後の昼間。
 解除された彼らがどんな反応をするのかと考えると、思わず笑ってしまいそうになる。
 失踪騒ぎにならないよう、後で学園長には伝えておかないとな。
 そう考えつつ、僕は大きく伸びをして呟く。

「潜入してまだ二日目だけど、まだ手掛かりはつかめないか……」

 僕は、これまでの道のりを思い起こす。



 第一話 リュカの旅とザッシュの旅(今回は二人の話です)


 僕はカナイ村を出て、冒険者になった。
 全く常識を知らず、実績もない新米冒険者である僕を仲間に入れてくれたのは、チーム【烈火れっかばたき】。
 そこで僕はサポーターとしてチームのために頑張っていたのだが……加入の二年後、リーダーであるザッシュに追放されてしまう。
 他のチームより待遇も良くなかったし、それなら心機一転、一人で頑張ろうと思って、ジョブ・オールラウンダーとしてソロ冒険者生活を始めた僕。
 しかし、冒険者として活動している中で気付いたのは、どうやら僕の能力は規格外らしいということだった。
 でもよくよく考えれば当然のことなのかも。だって僕の家族はその昔最強のチームとうたわれた【黄昏たそがれ夜明よあけ】のメンバーなんだから。そして、僕は家族にみっちりしごかれて育ってきたのだから……
 ともあれ、それからしばらく冒険者としていろんな依頼をこなす日々を送っていたんだけど、少しするとそれもマンネリ化してしまった。
 そこで僕は双子の妹であるリッカが聖女になるための儀式――『聖女候補せいじょこうほ巡礼旅じゅんれいたび』に挑もうとしていることを思い出した。
 巡礼旅は七か所のけがれた地を浄化することで達成できるのだが、その道中は大変過酷かこく。そのため冒険者が護衛につくことになっているのだ。
 僕はすぐリッカの元を訪れ、無事彼女の護衛になった。
 それから二人でハサミシュ村を浄化し、かつて【烈火の羽ばたき】で唯一僕に良くしてくれたガイアン、そして念話で喋れるタイニードラゴン・シドラも仲間に加えつつ次なる浄化へ向かったのだった。


「よし、これでこの土地の浄化は終了だね?」

 僕はリッカの方を振り返りながら言う。
 ここはサーディリアン聖王国領内の、トライヘリア港に程近い草原。
 ここが二番目に向かった不浄の地だったのだ。

「うん、これで二つ目の光を手に入れたわ!」

 リッカはペンダント型のアミュレットを掲げる。
 聖女のアミュレットには、七つの宝石が取り付けられている。
 これはそれぞれの土地の石を加工して作られたもので、土地を浄化すると光るようになるのだ。
 うち五つは光を失っているが、二つは光り輝いている。
 浄化が成功したあかしだ。
 ちなみに、浄化されていない土地の石はその土地に来るとにぶく光り、場所を示してくれるというコンパス的な役目も果たす。

「二ヶ月で、二か所を浄化できたのは上出来な気がするよ。他の聖女候補達は転移魔法が使えないから移動に時間が掛かるだろうし」

 僕がそう言うと、ガイアンが口を開く。

「だが、リュカ。サーディリアン聖王国には来たことがあったからよかったものの、他の大陸には行ったことないのだろう? となると俺達も船で渡る形になるのか?」
「その時は、僕が近くの大陸まで浮遊魔法で飛んで行ってから、戻ってきて転移魔法で移動……を繰り返すことになるかもね。転移魔法は行ったことのある場所に行くときにしか使えないから、少し面倒な移動法になるだろうけど」
「私とリュカぃは浮遊魔法で飛べるけど、ガイアンは浮遊魔法を使えないでしょ?」

 ガイアンは、そんなリッカの言葉に対して、得意げに指を左右に振って否定する。

「その点は心配いらん! 師匠直伝の気力気功術きりょくきこうじゅつを学んでいるので、浮遊術はマスターしている。多少遅れてもついていけるぞ!」

 ガイアンは体中の気を解放して、宙に浮いてみせた。
 僕とリッカは拍手する。
 もしかすると、これを見せたくて、移動手段に関する話を振ったのではないか、なんて思わなくもないが、これは自慢したくなるのもわかるくらい凄いことなのだ。

「凄いなガイアン、よくマスターしたね!」
「私やリュカ兄ぃも、浮遊術は一ヶ月ではマスターできなかったのに……」

 僕とリッカが口々に褒めるが、ガイアンはどうやら納得いっていないようだ。

「俺は……師匠から色々学んだが、結局マスターできたのは五つだけだった。もう少し自分のものにできると思ったんだが……!」

 しかし、それでも十分凄いことだ。何故なら――

「いや、僕は三年以上費やして、マスターできたのは気力を使った技術の中でも五十七個だったし」

 リッカも同意する。

「私は四十六個だった」

 ガイアンの師匠であり、僕とリッカの母方の祖父――かー祖父じいちゃんは、凄腕のトレジャーハンターだ。
 その活躍の大きな要因の一つとして、珍しい特殊スキルを数多く習得していたことが挙げられる。
 それらは体内のエネルギーを凝縮したもの――気力によって使える技術で、実用的なものからそうでないものまで幅広く、全部で百八個もあるのだ。
 難易度に差があるからいくつ習得できたかはあくまで指標の一つでしかないが、それでも一ヶ月で五つは驚異きょういのハイペースと言える。
 僕は、かー祖父ちゃんの修業を振り返り、思い出にひたろうと……浸ろうと……浸ろうと……
 駄目だ、辛い思い出しかない。
 横を見ると、リッカも顔を青くしていた。
 僕は言う。

「今考えると、あの修業で何度か死んだことがあったな」

 リッカも言う。

「そうね、私もよ……」

 僕達は蘇生そせい魔法を使えば生き返ることができる。だが、それでも死ぬ時の恐怖や痛みを感じないようになるわけではないし、慣れもしない。
 だから、完全に家族のしごきはトラウマなのだ。
 それに対して、ガイアンが胸を張った。

「俺は死んだことはないぞ! 死にそうになったことは何度かあったがな!」

 僕は首を横に振る。

「それはガイアンが成人して体が出来上がってから修業したからだ。僕とリッカは、成人になる前の……それどころか十歳足らずの体が出来上がっていない時期に修業させられたんだ。そりゃ肉体が耐えられないよ」

 リッカもうんうんと頷いた。

「私も、リュカ兄ぃほどは死んでいないはずだけど、それでも魔法や気力の修業で死んだ回数は二桁に届いているわ。それに加えて、私の場合は聖女の試練で母さんからも手解てほどきを受けていたから、それを合わせると……」

 言葉をにごしてうつむくリッカ。
 どうやら母さんの手解きは相当苛烈かれつだったらしい。
 僕は母さんに撲殺されまくったことを思い出していた。
 聖女である母さんは僕とリッカを身籠みごもっている時に浄化を失敗してしまった。浄化できなかったそののろいは腹の中にいる僕達に向かい、聖力を纏っていたリッカは無事だったが僕は黒い魔力を纏って生まれたのだ。そのせいで僕は三歳になるまで命を落とし続け、その度に母さんに蘇生してもらっていた。
 それ以降も命こそ落とさなくなったが、黒い魔力は時折ふくれ上がる。そのまま放置すれば村全体を汚染しかねない上に、死でしか魔力を発散できないから、何度も殺されて蘇生されてを繰り返してきたのである。
 黒い魔力は聖女にしか見抜けないから……なんて言っていたけど、時折母さんは僕を殺すことでストレス発散していたんじゃないかと思わなくもない。
 すると、ガイアンが不思議そうに尋ねてくる。

「だが、リュカが気力を使っているところは見たことがないな? 魔法を使っているのは何度か見たが……」

 僕は説明する。

「自分が気力を覚えないと他人の気力は見えないんだよ。【烈火の羽ばたき】にいた時にも何度か使っていたんだ。ザッシュとウィズとチエの馬鹿どもに、普通じゃあり得ない重量の荷物を持たされた時に、気力を使って移動していた」

 リーダーのザッシュと、魔道士のウィズと治癒術士のチエ。あの三人は本当にたちが悪かった。
 ガイアンはポンと手を打つ。

「あぁ、あの二百キロくらいの荷物を背負わされた時か。よくついてこられると感心していたんだが、そういうことだったのか」

 そこで、リッカが口を挟む。

「リュカ兄ぃって、ひどいチームに入っていたんだね?」
「あぁ。今思い出しても腹が立つよ。大神殿で僕に絡んで来た男がいたろ? そいつがリーダーだったんだ」

 僕の言葉に、リッカは苦虫をつぶしたような表情になる。

「あぁ……あの時の、関わり合いになりたくないタイプの人ね」

 聖女の旅の護衛志望を集めていたサーディリアン聖王国内の大神殿で、僕はザッシュと偶然再会したのだ。
 あの時にザッシュはしつこく僕に絡んできていたから、リッカとしてもあまりいいイメージはないらしい。
 僕は呟く。

「そういえば、ザッシュは今どうしているんだろう?」

 リッカは半笑いで言う。

「アンティと一緒だったよね? あの子はプライドばかり高くて修業をよくサボっていたから、候補に選ばれた時は信じられなかったんだよね」
「そのアンティって、どんな子なの? 主に聖女としての能力の面で」
「アンティ……アントワネットは、感知能力に優れていて穢れをいち早く察知できる能力がある。だけど浄化する能力はそれほど高くなくて、穢れを発見できても浄化に手間取ると思うわ。ほら、試練の穢れ、結構浄化するの難しいし」

 リッカがこうして易々と浄化できているのは、巡礼に出る前に僕と村に戻ってきたえ直したからだろう。
 リッカの話を聞く限り、アントワネットは浄化を成功させられない可能性すらあるように思えた。

「なるほど、ザッシュはハズレを引いたのか……ざまぁないな!」

 僕はそう言って笑い、愉快な気持ちで宿への帰路につくのだった。


 ◆   ◆   ◆   ◆


 一方その頃、ザッシュはフレアニール大陸のサーディリアン聖王国からトライへリア港街に向かう間の小さな村で、二時間ほど前に浄化へと向かったアントワネットを待ちながら、溜息を吐いていた。
【烈火の羽ばたき】はリュカが抜けたことで凋落ちょうらくし、解散を余儀よぎなくされた。
 それからザッシュはメンバーと別れ、戦闘奴隷せんとうどれいを雇い、リュカを打倒するためのチーム【漆黒しっこく残響ざんきょう】を作る。
 そしてリュカと同じく聖女候補の巡礼旅に護衛として同行しているのだが……状況はかんばしいとは言えない。

「あの女、一体いつになったら浄化が終わるんだ!」

 ザッシュの吐き捨てるような言葉に答えたのは、ワイルドキャッツという種類の猫獣人ねこじゅうじんであるミーヤ。

「ちゃんとした環境で休んでいないから力が発揮はっきできないと言っていたにゃ!」
「どぎゃんこすえらがあさい、せんびゃうにくいなぐら!」

 バグレオンという種類の狼獣人おおかみじゅうじんであるグレンも口を開いたが、なまりが酷くザッシュには言っている内容がわからない。
 ザッシュはドワーフ族の女であるレグリーに向かって言う。

「通訳を頼む……」
「他の土地でも、あいつだけ宿に泊まらせてやったのに力を発揮できてないと言っていて困ったよな……だそうです」

 ザッシュは力なく首をたてに振る。

「確かに感知能力は高いのだろうが、今のところ一つも浄化できていないから、ただ移動し続けているだけだ……ここの穢れは今の私には浄化できないくらいに強いとかほざきやがって! 今回の穢れもはらえないとか言い出したら、いよいよ問題だぞ!」

 確かに、巡礼旅における浄化は一筋縄ひとすじなわではいかないと聞いたことはある。

(それにしたって、時間が掛かり過ぎる!)

 ザッシュは内心で苛立いらだちを爆発させる。
 しかし、それをどうにかみ込み、言う。

「穢れは村の一画にあるから護衛は付けなくても良いだろう。とりあえず俺達は、金をかせぐぞ!」

 レグリーは頷く。

「そうですね、あの女のせいで金がかかりますし……そうだ、いっそのこと彼女の家に資金提供をお願いしてみたらどうでしょうか? あれでも伯爵令嬢はくしゃくれいじょうですから、親に援助を取り付けるくらいできるんじゃないですか?」
「それはどうだろうな? レグリー、聖女候補が何故平民から多く選ばれるか知っているか?」

 レグリーは首を横に振った。
 ザッシュは説明する。

「死んでも替えがきくからだ。聖女になれるのは候補の中でもほんの一握り。大半は巡礼旅の途中で死んじまう。令嬢は政治の道具として有用だから、親は手放したがらない。何か特別な能力にひいでている者でもない限り好きに生きられないんだ。だから聖女候補が貴族から出るのは極めてまれだと言える」

 レグリーは疑問を抱いた。

「でも、アントワネットさんを見ていると、そんな能力があるようには思えませんが……」
「特別な才はないが、自由に生きたい。だから聖女候補になろうとしたんだろうな」

 その言葉に、レグリーは呟く。

「では、伯爵家に資金援助を頼むのは無理そうですね……」

 ザッシュは大きく息を吐いてから、腰を上げる。

「まぁ難しいだろう。まぁそんな不確実なものを当てにするより、当座の金を稼がなければならないってことだ。お前ら、行くぞ!」
「はい!」
「にゃ!」
「ゥダ!」

 レグリーとミーヤ、グレンも腰を上げた。
 こうしてザッシュ達は討伐の仕事をこなすため、村を出るのだった。


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