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 第ゼロ話 旅立ち


 ゴルディシア大陸・カナイ村。
 この村は、人口百人程度の小さな村である。
 なぜ、そんなに人口が少ないのか……それはこの村の周辺に、かつて世界を征服しようと目論もくろんでいた大魔王サズンデスの居城があり、大魔王討伐より百年近く経っている今もなお、大魔王の瘴気しょうきがこの地を汚染していて村の周囲には強力な魔物がうようよといるからだ。
 だが、そこに住む数少ない住人達はその強力な魔物と渡り合える力を持っており、農業や畜産の邪魔になるからと討伐している。
 この物語はそんな魔境、カナイ村から始まる――


  ◇   ◇   ◇   ◇


 カナイ村の酒場で僕、リュカは、サイラス、キース、アレックスの三人と机を囲んでいる。
 僕ら四人は成人である十五歳を迎えたばかり。成人祝いに酒場で、人生初めての酒を飲もうと集まったわけだ。

「俺達も今日から成人、大人達の仲間入りだ!」

 グラスを掲げながらそう口にしたのはサイラス。
 その言葉に頷いて、アレックスとキースも口を開く。

「そう……今日から酒が飲める!」
「そして、明日にはリュカが村から旅立つ! さぁ、乾杯しようぜ!」

 そんな三人の言葉を受け、僕は胸がいっぱいになりながらもグラスを掲げる。

「皆……ありがとう!」

 四人はグラスを合わせた。

「「「「いついかなる時も、俺達の友情は変わらない! 遠く離れていても心は常に一緒だ!」」」」

 これは、村から去りゆく者に贈る言葉なのである。
 そして、僕らは酒を一気に飲み干したのだが……

「まっず……」
「にっが……」
「うぇっ……」
「おえっ……」

 言葉を発した順番は、サイラス、キース、アレックス、そして僕。言葉自体は四者四様だが、共通しているのは、初めて飲んだ酒の味が生涯忘れられないと思うほどに不味まずいと感じられたこと。

「おかしいぞ、村の大人達はいつも美味うまそうに飲んでいたのに……?」

 サイラスが首をかしげると、アレックスはそれに同意するように頷いた。

「今日も酒がうめぇ……ってよく言っているけど、こんなのが美味いのか?」
「成人したばかりの俺達には、まだ早いのかもしれないな……?」

 サイラスが不思議なものを見るような目つきでグラスを眺めながらそう言うと、キースも呟く。

「果実の味が薄くて、アルコールが強くて……酒ってこんな味なんだな」

 それを横目に僕は、無理にでも酒を味わっているフリをしていた。
 自分はこれから村を出るのだから、しっかりした大人にならねばならないからね。
 だが、本心は三人と変わらない。
 むしろ、料理を作る際に酒類は材料として使うので、味を確かめるために何度か味見していたから慣れたものだ……と思って酒を口にしたぶん、衝撃はひとしおだったとすら言える。
 そんな苦い体験を経て、落ち着いたタイミングでサイラスが遠い目をしながら口を開く。

「それにしても、リュカはこの村を出るのか……」
「寂しくなるな、俺達はいつも一緒にいたのにな……」
「魔物をとっ捕まえて解体してから売って小遣い稼ぎしたり、変異種を捕まえて喰ったり、リッカちゃんの風呂をのぞいて怒られたりと……」

 サイラスの言葉に続いて、キースとアレックスがそう懐古かいこするが……僕は思わず大きな声を出してしまう。

「ちょっと待て! 最後の話は知らないぞ? リッカの風呂を覗いただって……?」

 だってリッカは、僕の双子の妹だ。

「「あ、馬鹿!」」

 サイラスとキースが、慌ててアレックスの口をふさぐ。
 どうやら、僕の知らないところで三人は悪さをしていたんだな。
 だがそれを怒るほど、僕は子供ではない。

「まぁ、僕も男だから気持ちはわからないでもない。僕らと同世代の女の子なんてリッカくらいしかいないからね。それに僕がどうこうせずとも、みんなは俺の母さんか祖母ばあちゃんにボコられたんでしょ?」
「その後に家に帰ってから親父に殴られたな」
「俺は小遣いを慰謝料代わりに全部取られた」
「あの整った体形を見れたのは眼福がんぷくだったよ。アレのためなら小遣いを取られたことなんてなんてことないぜ」

 サイラス、キース、アレックスがそれぞれ口にする。
 ……っていうか待てよ、整った体形って言ったよな?
 僕は単刀直入に聞いてみることにした。

「おい、それはいつの話だ?」
「「「リッカちゃんが旅立つ前日」」」
「つい半年前じゃないか!?」

 僕がそう言うと、三人は後頭部をポリポリと掻いた。
 ……こいつら、マジで反省していないな。
 リッカは母さんからの遺伝で、『聖力せいりょく』といういやしの力を持っている。
 その力を役立てるために、リッカは半年前にフレアニール大陸にあるサーディリアン聖王国の大神殿へと、聖女になるための修業に行ったのだ。
 その旅立ちの前日に覗きに行くなんて、普通に最低ではあるが……リッカがやたら上機嫌で旅立っていったので、まぁ僕があえて怒ることではあるまい。
 そんなことを考えていると、サイラスが突然手を挙げて言う。

「どれもこれもこの村で出会いがないことが原因だと思う! リュカが都会に行って冒険者で一山ひとやま当てたら、女の子を紹介してくれ!」
「紹介するのは良いけど、こんな危険な村にとつぎたいって子がいるかな? 冒険者として来て、腕をみがきたいとかならともかく……」

 僕がそう返すと、サイラスは少し考えた後に肩を落とした。

「やっぱりそうだよな……」

 その横でアレックスが元気な声を上げる。

「冒険者の女子か……可愛ければ良し!」

 こいつら……好き放題言ってくれるな。
 僕は冒険者になるのが目的で、遊びに行くわけではないんだぞ。
 そう思っていると、『冒険者』という言葉から僕の村を出る目的を思い出してくれたらしく、キースが言う。

「それにしても、リュカはあこがれの冒険者になるのか……」

 その言葉に、サイラスとアレックスもうんうんとうなずく。

「リュカの口癖だったもんな!」
「冒険者になって、いつかは英雄になる! ってな」

 だが、僕の本心は――

「それはもちろんそうなんだけど、早く家を出たい……いや、村を出たいっていうのもあった」
「「「あーーー」」」

 僕は村での過酷な日々を思い返す。
 僕は幼い頃から両親と祖父母達に育てられてきたんだけど……修業内容は悲惨ひさんとすら言えるものばかりだった。一歩間違えれば、軽く死んでいたくらいに。
 いや、実際には何度か死んでいて母さんの蘇生そせい魔法で生き返らされたからなんとかなっただけなんだけど。
 そんなことを思い出しつつ僕は立ち上がる。

「さてと、僕はそろそろ家に帰るよ」
「なんだ、もうかよ?」

 サイラスは不満げだが、それをキースとアレックスがなだめる。

「あまり無理をさせるなよ、リュカは明日早いんだろ?」
「そうだぞ! リュカ……頑張れよ!」

 僕達は再び乾杯してから、酒を一気に飲み干した。
 もっともその直後に、ベロを出しながら苦みに耐えることになったけれど。
 酒場を出た僕は、家までの道を歩いていた。
「次に帰ってくる時には、お酒が美味しいと思えるようになっていれば良いな」なんて考えながら。
 そうして五分ほどかけて家に戻ると、両親と祖父母達に気付かれないように部屋に入る。
 気付かれたら、どんな手荒てあらな歓迎をされるかわからないからね。


 翌朝、旅立ちの日。
 早く起きて支度したくを整えた僕は、リビングにいた家族に一人ひとり挨拶をすることにした。
 僕はまず、元聖女の母さんに頭を下げる。

「これまでお世話になりました! 立派な冒険者になってみせるよ!」

 すると、母さんは今にも泣きそうな顔をした。

「あぁリュカ! リッカに続いてリュカまで家を出るなんて……母さん悲しい!」
「安心してよ母さん! すぐには無理かもしれないけど、数年したら戻ってくるからさ!」
「本当!? 約束よ! 嘘ついたらギガントモーニングスターの餌食えじきにするからね」
「こわっ! 息子を殺す気かよ!」

 そう言いながらも僕は母さんとハグして、向かい側にいる、錬金術れんきんじゅつ権威けんいである父さんの元に行った。

「父さんは、特にリュカのことは心配してない。だが、くれぐれも体だけは気を付けてな!」
「父さんも元気でね」

 僕は父さんとハグしてから、元剣聖けんせいである父方のおじいちゃん――とー祖父じいちゃんの元に行った。

「頼まれていたはがねの剣だ。偽装をほどこして見すぼらしい鉄の剣に見えるようにしておいた。それと、ミスリルの剣も渡しておくが……人前ではあまり使うなよ!」
「大丈夫だよ、鋼の剣だけで十分さ! とー祖父ちゃんもありがとう!」

 僕はとー祖父ちゃんとハグをしてから、大魔女と呼ばれた父方のおばあちゃん――とー祖母ちゃんの元に行った。

「良いかい、リュカ。初めっからチームに誘われることはないとは思うが、くれぐれも魔法を使う時は注意するんだよ! 特に収納魔法や転移魔法、浮遊魔法のたぐいと多属性魔法の同時発動や、複合統一魔法の類は使うんじゃないよ!」
「わかっているよ、魔法も極力使わないようにするよ」
「それと、念のためだが……一応このワンドも持っていきな! 性能は良い物だが、偽装を施しているから値打ち物には見えないさね」

 僕はワンドを受け取ると、とー祖母ちゃんをハグしてから、母方のおじいちゃん――かー祖父ちゃんの元に行った。
 かー祖父ちゃんはトレジャーハンターだけど、何かくれるのかな……?

「他の二人が物を渡していると、ワシまで何かを渡さないといけない流れになっているが、ワシは渡せるような物は持っていないのでこれを渡しておく。困ったら使え!」
「これは……お金?」
「本当に困ったら使えよ。まぁ……お前の場合は、リッカと違って無駄遣いをするようなことはないと思うが……ともかく必要な時期が来るまでは収納魔法に入れておけ!」

 収納魔法とは、生物以外の物……金品をはじめ食材や素材などを時を止めた状態で保存出来る魔法のこと。これを使えば長期保存――どころか永久保存も可能である。容量もかなりあるしね。

「ありがとう」

 お礼を言うと、かー祖父ちゃんにハグされた。体中の骨が悲鳴を上げるくらいの力がこもっていた。
 そして高名な魔道具制作者である母方のおばあちゃん――かー祖母ちゃんの元に行った。

「私は……これだよ! 万能ツールのまどうくん三号」
「あ、完成していたんだ?」
「針ほどの細い物から、大木のような太い物まで好きに加工出来る魔道具だよ!」
「これは嬉しい! 大切に使うよ!」

 僕はかー祖母ちゃんをハグした。
 そして離れると、僕は皆に手を振って家を後にした。
 村の入り口に向かって歩いていると、幼馴染や村中の人達が別れの挨拶をしてくれた。
 僕は皆に見送られながら、村を出た。

「よーし……行くか! 高速移動魔法[アクセラレーション]、軽量化魔法[フライトレーション]、回復補助魔法[リジェネート]!」

 僕は三重魔法を掛けてから走り出した。


 走り続けて、一番近くの冒険者ギルドがある街――カイナートに到着する頃には夕方になっていた。

「確か……青い屋根の大きな建物……あった!」

 僕は冒険者ギルドの門を開けて、中に入った。
 入ってすぐに冒険者の待合所があり、右側にはクエストボード。奥にはカウンターがあり、その横に階段があった。
 僕はカウンターに歩いていき、受付のお姉さんに尋ねた。

「冒険者登録をしたいのですが……」
「あ、はい! こちらで冒険者登録が出来ますよ。その前にまず試験を受けてもらう必要があります。今からでも、日を改めて受けていただいても構いませんが、いかがいたしますか?」
「では、今からお願いします!」
「では、こちらの用紙に記入をお願いします」

 僕は受付のお姉さんから渡された用紙に必要事項を記入していく。

「名前、リュカ・ハーサフェイ。年齢十五歳。ジョブ……ジョブ……」

 そういえば、僕のジョブって何だろう? 剣が使えるから剣士? 魔法が使えるから魔道士? 斥候せっこう? アイテム士? 錬金術師? ヒーラー?
 どのジョブの役割でもまだまだ未熟ではあるが、かじってはいるから悩んでしまう。
 どうすれば良いかと悩んでいたら、お姉さんが教えてくれた。

「ジョブに関しては、最初から特定のジョブを持っている人は少ないので、これから何になりたいかを書いておけば良いですよ」
「ありがとうございます! 何になりたいか……僕は、『オールラウンダー』になりたいっと」

 記入した用紙をお姉さんに渡した。

「リュカ・ハーサフェイ様、年齢十五、ジョブはオールラウンダー、と。頑張ってくださいね!」
「ありがとうございます!」
「では、早速さっそく試験を受けていただきますので、ついてきてください!」

 僕はお姉さんの後ろをついて、カウンターの脇の道を進んでいく。


 抜けた先は、訓練場になっていた。

「俺が試験官のマードックだ! よく来たな、ひよっこ!」

 マードックさんは筋骨隆々きんこつりゅうりゅうで、いかにも強そうな感じ。でも、にかっとした笑顔はとてもさわやかで、いい人そう。

「よろしくお願いします!」
「うむ。では早速剣術から試験を行う! そこの木刀を持ってかかってこい!」

 僕は木刀を手に取って、構えた。
 すると、マードックさんは笑顔で言う。

「遠慮はいらねぇぞ! 本気でかかってこい!」
「本気で……ですか?」
「なんだぁ~? ひよっこの癖に俺が怪我けがしないように手加減しようとしているのか? 要らぬ心配だ。本気でかかってこい!」
「では、行きます!」
「おぅ、来い!」
「[剣王けんおう真空斬しんくうざん]」

 僕は横一文字の斬撃ざんげきを飛ばした。

「へ?」

 マードックさんは頓狂とんきょうな声を上げたものの、飛び跳ねてかわす。
 僕の斬撃は、マードックさんの後ろの壁に大きなあとを残した。
 マードックさんは、冷や汗をかいている。
 僕は、もう一度構えた。

「躱されてしまいましたか……では、次は連撃で――」
「ちょちょちょ、ちょっと待てぃ!」

 僕の言葉は、マードックさんの焦ったような声にさえぎられる。

「はい? なんですか?」

 僕が聞くと、マードックさんは神妙な顔で聞いてくる。

「今のは剣聖の技だろう? 誰に習った?」
「父方の祖父に習いましたが……」
「お前の祖父は剣聖なのか? 名は?」
「ジェスター・ハーサフェイ」
「は、はぁ!? 本当に剣聖じゃないか! どうりで――」
「では、次行きますね! [剣王祖乃太刀けんおうそのたち裂空破斬れっくうはざん――」
「まてぃ! 合格だ! 合格でいいから、次の試験に進んでくれ!」

 そして、マードックさんは僕を次の部屋へと案内してくれた。
 マードックさん、青い顔をしていたけど大丈夫かな……?
 そんなことを考えながらも次の部屋に入る。


 部屋の中には、的当まとあて用の人形が五体並んでいた。
 そして別の試験官が話しかけてくる。

「私はトパーズ。魔法適性の試験官です。貴方あなたに魔法の適性があるか見ますので、貴方が使える中で最高の魔法を放ってください」
「最高の魔法……ですか?」

 困ったな、どうしよう。ここは冒険者登録の試験場なわけだし、生半可なまはんかな魔法ではいけないってことだよね? なるべく力を抑えろって言われているから、本気は出したくないんだけど……
 僕が悩んでいると、マードックさんがトパーズさんに耳打ちをしていた。
 多分たぶんさっきの試験について報告しているのだろう。
 しかし、それを聞いたトパーズさんは冗談を耳にした時のように鼻で笑うと、僕に言ってきた。

「ファイアボールでも撃てればおんです。やりますか? それとも出来ないんですか?」
「やりますが……本気でやっても良いのですか?」
「お好きにどうぞ~」

 トパーズさんは手をひらひらさせながらそう言った。
 実力を測るための試験なんだから、本気でやらないと駄目だよね?
 僕は両のてのひらを上に向ける。

「右手から炎……左手から雷……」
「え? 多属性魔法の同時発動……!?」

 トパーズさんの驚いた声に対して、マードックさんがやれやれとばかりに言う。

「だから言ったろ! そいつはヤベーって……」
「二つ合わせて、複合統一魔法[フレイムスタンアロー]!」

 僕が炎と雷をまとった矢を作り出すと、トパーズさんはわなわなと震える。

「ふ……複合統一魔法……そんなのって……っていうかやめて! そんな魔法を放ったら訓練場が壊れるわ!」
「本気でやっていいって言われたからやろうと思ったんだけど……」

 僕は[フレイムスタンアロー]を解除した。
 すると、トパーズさんが僕に近づいてくる。

「多属性魔法の同時発動や複合統一魔法なんて高等技術、誰に習ったのよ?」
「父方の祖母ですが……」
「貴方のあばあさんって何者なの?」
「魔女のカーディナル・ハーサフェイです」
「やっぱりか……ハーサフェイと聞いてもしかしたらとは思ったんだけど……」

 トパーズさんはそこで言葉を切ると、虚空こくうに語りかけた。

「妖精さん、今日も可愛いわね。うふふふふ……うふふふふ!」
「現実逃避するなぁーーー」

 トパーズさんは、マードックさんに頬を叩かれると我に返った。
 そして僕は、合格をもらった。


「本来なら三つの試験を合格すればクリアなんだが、もうクリアで良いんじゃないか?」
「そうねぇ……もう結果は目に見えているし」

 そうマードックさんとトパーズさんが話していると、次の部屋へと続く扉の方から声がする。

「困るなぁ、僕の試験を飛ばそうと言うのかい?」

 見ると、白衣を着た研究員らしき男の人が立っていた。

「僕の名はターレント! 僕の試験は一味違う! ポーションを作製出来るかが合格の基準だ! 冒険者たる者、低級のポーションくらい作れないとやっていけないからね。ここにある材料でポーションを作るんだ!」
「ポーションじゃないと駄目ですか?」

 僕が尋ねると、ターレントさんは怪訝けげんそうな顔をする。

「駄目ではないが、何を作るつもりだい? まぁ、回復効果さえあれば好きな物を作ってくれて構わないよ」
「わかりました! それではちゃちゃっと作っちゃいますね! ……[魔導錬成まどうれんせい]!」

 ポーションは本来薬草と水で作るのだが、普通に作るとなると薬草をつぶしたり煮たりと時間がかかる。そのため、魔法によって物体同士を合成する魔導錬成を使って七種類の薬草を合成した。

「出来ました、エリキシル薬剤です」
「エリキシル薬剤って、いわゆるエリクサーのことだよね? いやいやいや、まさかまさか……」

 ターレントさんはそう言うと、死にかけている魚にエリキシル薬剤を一滴垂らした。
 すると、死にかけの魚は嘘のように元気になり、飛び跳ねながら水槽に戻っていった。
 ターレントさんは地面に座り込んで天井を見上げる。

「空が青いなぁ……」
「落ち着け! お前の見ているのは天井で、しかも真っ白だ!」
「それに今は夕方よ! たとえ本当に見えたとしても赤いはずよ!」

 ターレントさんは、マードックさんとトパーズさんの二人にどこか的外れなツッコミと共に揺さぶられて、我に返った。そして僕に尋ねてくる。

「魔導錬成を使っていたけど、誰に習ったんだい?」
「僕の父に……」
「こいつの家名は、ハーサフェイだとよ」
「祖父がジェスターで、祖母がカーディナルだって」
「ということは、君のお父さんって、錬金術の権威であるジーニアス・ハーサフェイ?」
「そうです。よく父の名をご存知でしたね?」

 僕の言葉を聞いたターレントさんは、少し沈黙して、しゅたっと手を挙げた。

「僕は研究者辞めます!」
「いや、その前に合格か否かを伝えてやれ!」

 マードックさんがツッコむ。
 するとターレントさんは目をいた。

「そんなもん、合格に決まっているだろ! ポーションを作れと材料を渡したらエリクサーを作ったんだぞ! そんな奴を不合格に出来るか!」

 こうして僕は、三人から合格をもらったのだった。

「おめでとう! これで君は冒険者の一員だ!」
「応援しなくても、すぐに上位ランクになりそうね」
「よし、仕事は終わりだ! 二人とも、飲みに行こう……僕のおごりだ!」

 マードックさんとトパーズさんとターレントさんがそれぞれ言う。
 そして彼らは、受付の方へ戻っていった。
 僕も三人の後についていき、受付のお姉さんに合格通知を渡した。

「はい、三人から合格通知をいただきました!」
「はい、お疲れ様です。では、こちらがリュカ様のギルドカードになります」
「ありがとうございます!」

 僕はギルドカードを受け取る。記載された冒険者ランクはもちろん最低のFランクだ。
 その後、冒険者の注意事項や禁止事項等を聞いて、手続きは終わった。


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