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バックれ計画実行の章

第五十九話

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 『我が名はグラシャラボレアス!強き魔力の波動を確かめるべくこの地に参った‼︎』

 私は魔笛を使用した。

 大型の魔獣で…ドラゴンやベヒーモス辺りが来れば良いなぁ~なんて思っていたら、体長4m位の人型の…いえ、恐らくは伝承の聖女時代に登場した魔族の様な姿をしていた。

 体は黒く二本の角が生えていて、髪と髭が炎の様に燃えている巨人だった。

 明らかにドラゴンやベヒーモスとは強さの桁が違うと感じていた。

 まさか…魔王を呼び出した訳じゃないよね?

 歴戦の猛者である神殿騎士の4人を見ると固まって動けずにいた。

 シーダとディーナは、グレシャラボレアスの姿を見て震えている感じだった。

 それ程までにグレシャラボレアスの発している殺気が凄まじかった。

 グラシャラボレアスはアルファ達を見た後に私に目を向けた。

 『貴様は…エルレインの意志を継ぐ者か?』

 エルレインとは伝承の聖女様の…先代の聖女で勇者と共に魔王を倒した名前である。

 (別に今のいままで伝承の聖女の名前が決まっていなかった訳ではない。)

 「いえ、違います。私は故郷に帰る為にこの方達に護衛を任せていただけです。」

 神殿騎士の4人達は殺気を向けられて動けずにいたけど、私には向けられていなかったので普通に話す事ができた。

 『嘘を申すな!その姿はエルレインとウリ2つ…ではないな、エルレインに比べたら…ちんちくりんでスタイルが子供並みだ!』

 「悪かったわね、子供並みで!どうせ私は年相応には見られないわよ‼︎」

 『だが…エルレインに比べると貴様は都合が良い!』

 「何よ、私に手を出す気なの?あなたってロリコンなの?」

 『そういう意味で言った訳じゃない!魔力だけは高そうだが…まだ成長途中で勇者も見出せていない状態の貴様なら、我でも始末出来ると思っただけだ‼︎』

 グラシャラボレアスの狙いは私だったのね?

 魔笛は使用すると魔笛によって呼び出された者は従うという話だったけど…どう見ても魔王かその配下クラスだと、どう考えても従わらせる自信は無い。

 それにコレはある意味チャンスでもある。

 私だけを始末すれば、4人には手を出さないでくれる…と思う。

 此処で私を含めた5人が全滅をすると、神殿関係者が確認の為に捜索する可能性がある。

 私だけが上手く逃げ延びても…捜索されて見つかったら厄介な事が起きそうだ。

 だけど私だけ始末されて4人が生き残れば、私が死んだ事を証明して神殿に報告される。

 まぁもっとも…私は此処で死ぬ気は全く無いんだけどね。

 「狙いは私だけ?4人には手を出さないと約束出来る?」

 『あぁ…約束しよう!ただし…貴様を始末した後に余計な手出しをして来なければの話だがな!』

 私は4人に笑顔を向けた後に、余計な行動をしない様に魔獣をも微動だに出来ない拘束魔法を施した。

 4人は覚悟をしている私に対して必死に何かを叫ぼうとしているが、グラシャラボレアスの殺気の所為で声が出なかった。

 「痛いのは嫌なので…一瞬で始末して貰えないかな?流石に食べられるとかだと遠慮をしたいんだけど…」

 『誰が貴様なんか喰うか!我が炎で一瞬で塵に変えてくれる‼︎』

 「塵に変えられるのもちょっと…少し火力を抑えてミディアムくらいにしてくれないかな?」

 『注文が多いな貴様!だがその覚悟に免じて、命を奪うだけでどこまで出来るが分からんが遺体は残してやろう…』

 私は跪いてから天に祈る仕草をして目を閉じた。

 グラシャラボレアスは私に向けて炎を放って来た。

 私はその炎を浴びて…法衣が燃えてから皮膚が溶けて、全身が黒焦げの状態になっていった。

 そして無惨にも黒焦げの遺体が横たわると、グラシャラボレアスは高笑いをしながら去って行った。

 私が死んだ事により、4人の拘束が解けると…4人は私の遺体の前に駆け寄ってから泣き崩れていた。

 しばらくの間はそこで動けずに時が過ぎてから、私の遺体を布に包んで馬車の中に運ぶとその場所から去って行った。

 「やっと彼等は去って行きましたね、マスターもう大丈夫です。」

 「あ~長かった、さっさと立ち去ってくれないかと待っていたのに…」

 私はテルミガンから開放されて背伸び運動をした。

 テルミガンの中は意外に狭くて、体を縮こませていたので長時間中にいるにはかなりキツかった。

 「申し訳ありませんねマスター、ワタシは形が小さいと収納スペースも小さいので…」

 「あまり大きいと一緒に拾われて持って行かれたかもしれないからちょうど良かったよ。コレで私は死んだ事になっているから自由だ~~~‼︎」

 さて…説明が必要だと思うので話しましょう。

 グラシャラボレアスの炎を浴びる瞬間に、私と以前作っておいた私のホムンクルスと交代した。

 私の収納魔法は生物は入らない…が、テルミガンの収納は生きている者でも関係無しに入る事が出来る。

 私はホムンクルスと交代した際に、テルミガンから外の様子を眺めていた。

 その時のテルミガンは、草むらにジッと動かないでいた虫の姿をしていた。

 これで以前に身に付けていたイヤリングとかだったりすると…形見として拾われたかも知れなかったので、ホムンクルスと交代した際にイヤリングから虫の姿に変更したのだった。

 まぁ、何はともあれ…私は死んだ事になっているので捜索も追ってを差し向けられる事はない。

 この時代では蘇生魔法も存在しないので、生き返らせられるという心配も無い。

 「ただ…ディスペルを掛けられたらアウトですけどね。ですが流石に…遺体にディスペルをかけようとする者は居ないでしょう。」

 「一般の人の話ならともかく、神殿騎士が目撃しているから疑うことは無いと思うしね。」

 私は法衣を脱いでから、以前パクった平民の服に着替えた。

 法衣はそのまま火魔法で証拠隠滅する為に燃やして塵に変えた。

 「さてと、街に戻ってから阻止されたブルステーキを食べるとしますか!」

 「その前にマスター、お金はあるんですか?」

 「あ…お金無いや。」

 「まずは街から離れた場所で拠点を作ってから、ポーションでも作って店に売りましょう。そしてそのお金でステーキリベンジをはらしませんか?」

 「そうね!テルミガンの言うとおりにしましょうか。」

 私とテルミガンは街から少し離れた森に向かっていた。

 そして…全てが終結したと思っていたのだけど、アルファ達が神殿に帰還した時にまさかディスペルを掛けた者がいるとは思わずに存在がバレる事になるとは…?
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